【NEWS】日本レコード協会が新年賀詞交歓会 「定額制配信の拡大で、音楽の視聴スタイルが"所有"から"利用"へ」
2016.1.5 UP
斉藤会長
中岡文化庁次長
野村萬氏
国内音楽産業規模と音楽削除要請実績
■「世界の音楽産業、定額制配信がパッケージを上回る時代に」
日本レコード協会は1月5日、ホテルニューオータニで新年賀詞交歓会を開催した。
最初に同協会の斉藤 正明会長(JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント 代表取締役社長)が新年のあいさつに登壇し、「日本レコード協会は昭和17年に設立され、今年で74歳を迎える」として、関係者の協力に謝辞を述べた。続いて、例年行われている業界動向についての報告を実施。まず全体傾向として、「昨年の世界のレコード産業は、1−6月の集計では配信55対パッケージ45ということで、いよいよ定額制配信がパッケージを上回るという状態になった」と指摘。
■配信、パッケージともに好調な日本の音楽産業
「日本の音楽産業においても、音楽配信は好調だ。昨年相次いでスタートした定額制音楽配信サービスが業界でも話題となった。有料音楽配信実績は昨年10月末時点で前年比106%。一昨年も105%の伸びがあり、連続のプラス成長となっている。一方、世界一のパッケージ市場である日本のパッケージ販売は、昨年11月末時点で前年比98%と、一昨年の数値にあと一息で追いつくところ。12月には各社が音楽ビデオを中心に強力な商品がたくさん出たので、一昨年並みまで回復するだろうといわれている。従って、パッケージと配信を足すと、前年を上回る実績になったのではないか」と述べた。
■TPP協定大筋合意を追い風に
続いて、TPP協定の大筋合意による著作権法改正の動向について話題を転じ、「早ければ通常国会で著作権法の改正がなされる見通し」とし、「レコード会社に関係するテーマとして、レコード保護期間が発行後50年から70年に延長となることを挙げ、「我々は古いカタログ、コンテンツをたくさん持っているので、この機会を充分に利用して活性化を図っていきたい」とした。また、同じくTPP協定による著作権法改正の一環として、「配信音源の二次使用に対する使用料請求権付与」を挙げた。これは従来、二次使用に対する使用料の請求は、CDなどの有体物に限られていたが、配信音源も対象とするとするもの。
斉藤会長は「これから放送局のみなさんとどのような運用を行っていくかを、今年のテーマの一つとして取り組んでいく」と述べ、「いずれにしても一日も早いTPP協定の批准と発行を心待ちにしている」と結んだ。
■違法音楽配信対策が奏功し「削除要請件数」が大幅減少
続いて、協会の事業を紹介。
最初に掲げたのが、同協会が「最大の取り組み」と位置づけている「違法音楽配信対策」だ。2013年4月に違法音楽対策の専任組織として、著作権保護促進センター(CPPC)を協会内に設置。約10人のスタッフが連日、削除要請を実施しているという。今年度の削除要請件数について「大幅に減少した」とし、一昨年度、早期の削除要請を徹底し、また、違法ファイルの拡散防止に務めてきたこと、常習的な違法アップローダーへの対策を強化してきたことなどを挙げ「違法音楽配信に対する、こうしたさまざまな取り組みが成果として出てきたのではないか」と述べた。しかし「違法配信は依然として後を絶たない」としながら「削除要請を地道に続けるとともに、著作権の啓発、刑事摘発など、いろいろな手段を使いながら、粘り強く、違法音楽配信への取り組みを進めていきたい」と意欲を示した。
■著作権啓発映像が音楽教育の副教材に
続く事業紹介では、「著作権の啓発活動」を挙げ、昨年で2年目になる明治学院大学での寄付講座「クリエイティブビジネスと著作権」を紹介した。これは、講師としてコンテンツ制作者を招き、コンテンツビジネスへの関心や知的財産、著作権制度の重要性を紹介するもの。1回の講座で500人が受講する人気の高い講座であるという。協会の事業としてこのほか「中高生の職場訪問」を実施している。2014年度は全国で717校8568人の学生を受けいれ、著作権や音楽産業に対する理解を深める活動をしているという。2015年度もほぼ同規模の活動をしている。その際の教材映像として著作権の大切さや業界で働く若手のインタビューなどを収録した「著作権啓発映像」を昨年リニューアルした。来年春に改訂予定の音楽副教材に採用されるという。
■レコード寄贈事業、100万枚を超える実績
また、今年度で53回を数える「レコード寄贈事業」にも言及。1963年から実施し、100万枚を超えるレコード、CDを寄贈してきたという。今年度は280カ所、8560枚のCDを寄贈。東日本大震災により音楽資料が不足している岩手、宮城、福島の図書館75カ所へのCDの寄贈も実施している。
■行政と連携した業界活性化策
また、需要拡大策として、CDパッケージ商品が80%を超える世界でも類を見ないパッケージ文化の魅力を訴求するための活動として、ミュージック・ジャケット大賞の授与や、ミュージック・ジャケット・ギャラリー(展示会)の実施、さらにはCDショップ大賞への協賛などを展開している。
日本音楽の海外プロモーション事業の移管として、音楽イベント「J Music Lab」を展開。過去2年間、インドネシアのジャカルタで実施し、今年度は昨年11月にタイで、1月には台湾で開催する予定という。「政府や関係機関との関係を強化・連携し、地道に活動を続けることで、点から線へ、そして面へとなるようにしたい。」と意欲を示した。また、政府のCool Japan戦略における「放送番組の海外展開」において、番組内で使用されているレコードの権利処理についても「協会として積極的に支援し、海外に番組がどんどん出て行くような環境整備に協力している」と述べた。
■2月11日、若手アーティストのイベント「Coming Next 2016」を開催
最後に、昨年から開始した催しとして、ジャンルやレーベルを超えた次世代を担う18組の若手アーティストが集結するイベント「Coming Next 2016」(2016年2月11日、NHKホール)を紹介。「個々の会社の使命ではあるが、協会としても後押しをし、業界全体で盛り上げていきたい」と述べた。
斉藤会長は、最後に「昨年は定額制配信がヒット・ランキングに登場し、音楽の視聴スタイルが"所有"から"利用"という形へどれだけ進行するのか関心が寄せられている。ともかく根本は、私たちの生活に寄り添える身近な存在である音楽がますます磨きをかけ、良い音楽が広がることにつきる。今後とも、時代と音楽がより身近になるヒット作りに励んでいきたい」と締めくくった。
■中岡司 文化庁次長「オリンピック・パラリンピックは、文化・芸術は発展の好機」
文化庁次長 中岡司氏が登壇し、公務で出席できなかった馳浩文部科学大臣の代読として、次のように来賓祝辞を述べた。
「文化の祭典でもある2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催を控え、我が国の文化・芸術は発展の好機を迎えている。中でも音楽は私たち一人一人の生活を明るい笑顔で満たし、実りある社会をつくり出すために欠かせない。人生にさまざまな彩りや潤いを与えてくれる。成熟社会となった我が国において、そのような音楽をはじめとする文化・芸術が果たす役割は、ますます大きくなっている。また、昨年10月に大筋合意となったTPP協定では、著作権やレコードの保護期間を延長することが盛り込まれている。文科省では文化審議会において、同協定の内容に対応するための検討をすすめている。日本レコード協会においては、音楽文化を牽引する団体として、心豊かで活力ある社会を築いていくために引き続き尽力してもらいたい」
■野村萬 芸団協会長「音楽業界の尽力に期待」
壇上では続いて、恒例の鏡割りが関係業界団体の代表や国会議員らによって執り行われ、乾杯の発声には、日本芸能実演家団体協議会の会長で能楽師の野村萬氏が指名を受け、以下のようにあいさつをした。
「音楽ビジネスの多様化による苦労の続く昨今と拝察する。昨年はEUとの協定でレコード演奏権の創設について、日本レコード協会とともに歩みを進めた。ぜひ、TPP協定を追い風にしつつ、来るべき2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、音楽業界のみなさんが私たちの先頭に立って尽力してくれることを期待している」
斉藤会長
中岡文化庁次長
野村萬氏
国内音楽産業規模と音楽削除要請実績