【コラム】Inter BEE 2014報告(2)拡がりを見せる符号化方式 映像・オーディオ伝送に多彩な選択肢
2014.12.12 UP
エクスプローラは、超小型ライブ伝送装置を出展した
テクノマセマティカルはHEVCのデコーダIPをFPGAに実装して4K映像を見せていた
intoPIXは、超低遅延で軽量の圧縮方式「TICO」のソフトウェアデコードを実演した
フラウンフォーファー研究機構/IIS部門は、MPEG-Hなどの新しいCODEC技術を持ち込んだ
4Kが当然の感となったInter BEE 2014は、より美しい映像への道を開いた記念すべき祭典となった。同時に、伝送や配信に欠かせない高能率符号化(圧縮)技術も厚みを増してきた。昨年、国際標準化されたHEVC/H.265(以下、HEVC)に加えて、既存のMPEG-4 AVC/H.264(以下、AVC/H.264)の拡がり、加えて独自方式の発展など、符号化技術にも厚みが見えた。オーディオの符号化も新世代方式が現れている。高精細なAVへの要求は高いが、伝送路の制約から符号化効率を高めるしか需要に応える道はない。圧縮技術は、ますます拡がりを見せるだろう。
(映像新聞 論説委員/日本大学 生産工学部 講師 杉沼浩司)
■AVCは汎用品へ
日本の地上デジタル放送および衛星デジタル放送にはMPEG-2が使用されている。これで、HD画像を15Mbpsから20Mbps程度に圧縮している。MPEG-2は、1993年に国際標準化されたもので、20年以上前の技術である。MPEG-2によるエンコードの改良は続けられ、最新のエンコーダでは10Mbps以下に圧縮したHD画像も十分な画質を持つようになった。
2003年には「MPEG-2の半分のビットレートで同画質」をうたったAVC/H.264が標準化された。ブルーレイディスクでは、この圧縮方式が最もよく用いられており、インターネットの世界でも普及している。標準化がなされた当初は、「複雑すぎてハードへの実装は無理」ともいわれていたが、今では専用LSIどころかIPコア(LSIの回路設計情報)まで流通している。もはや、AVC/H.264は、単一のLSIで処理するのではなく、システムLSIの一周辺機能が担当するレベルとなった。
同様な進展が、HEVCにも期待できる。HEVCの処理は、AVC/H.264の10倍の複雑さともいわれ、エンコーダ、デコーダの開発に多くの時間と費用を要するとされている。今年は、これまでのHEVCのソフトウェア実装に加えて、FPGAに実装した事例も増えてきた。海外では、エンコーダおよびデコーダのLSI開発も精力的に行われており、間もなくHEVCもチップに載る時代が来るとみられる。
■ハガキサイズ伝送器
エクスプローラは、設置面積がハガキ大よりも小さな、超小型ライブ伝送装置「EHH-6321E/D」を出展した。フジテレビジョンの協力で開発されたこの伝送装置は、HDMI端子からの入力をAVC/H.264にエンコードする装置と、同サイズでデコードする装置の2台で一組となる。民生用カムコーダなど、HDMI端子しか持たない機器と接続して、手軽に映像・音響伝送を行うことを目指している。ビットレートは、64Kbpsから3Mbpsの範囲が使え、携帯型衛星通信サービスB−GANなどでの利用にも対応する。伝送路はIPが想定されており、エンコード結果はイーサネットに出力される。
受信は、デコード用の伝送装置「EHH-6321-D」をPCに接続し、専用ソフトで管理する。PC1台で16台のデコーダを接続できる。
この伝送装置にも、同社がこれまでの機器に実装してきたレート制御機能(NHKの協力で開発)が搭載されている。回線状況の変化に適応的に対応できる。また、この伝送装置は電池駆動も可能で、電源の制約が大きい事態に対応している。小型カメラとIP回線さえあれば、簡単に中継を実施できる。
■低遅延と高精細
同社は、HEVCによる4KCODEC機器および、HD用HEVC低遅延CODEC機器も出展した。4K機は、メニーコア(10以上のコアを持つ形式)型プロセッサによるソフトウェア処理である。これで、メインプロファイル/レベル5.1を処理する。
低遅延CODEC装置は、HD伝送用でメイン10プロファイル/レベル5.1に対応する。遅延時間100ミリ秒以下を達成している。従来品の遅延時間が300ミリ秒であるから、大幅な遅延削減を実現している。この装置はFPGAで実装された。
■TMCはIP開発
テクノマセマティカルは、HEVC(4K60P)デコーダのIPコアを開発し、動作をデモした。米ザイリンクス社のキンテックス7(XC7K325T)にデコーダ用IPを展開している。市販の一部のHEVC機器は、HEVCの標準化作業の際にテスト用ツールとして公開されたリファレンス・ソフトウェア(HM)を移植して使用している。しかし、HMはあくまでも原理検証用であり実用的なものではない。そこで、アルゴリズムから独自に研究してIPコアを開発することがなされている。独フラウンフォーファー研究機構IIS部門(FhG/IIS)は、昨年1080@30P用デコーダIPを開発し、150MHz動作のFPGAに実装した。テクノマセマティカルも同様にアルゴリズムを独自開発した。同社は、メイン10プロファイルにて4K@60Pを実現している。
今後は、エンコーダの開発が行われる。同社は、本年中に4Kエンコーダを開発するほか、来年には8Kエンコーダを開発するとしている。
■独自方式も登場
配信用の標準化された方式に加えて、機器内や機器間といった場面での利用を指向した独自の圧縮方式も登場した。ベルギーのintoPIXは、超低遅延で視覚上無損失(ビジュアリー・ロスレス)の独自方式「ティコ」を出展した。4分の1程度への圧縮を、数ライン(走査線数本)以内の固定遅延で行う。遅延量は、利用者が指定できる。小規模のFPGAに実装でき、外部メモリも不要であるため、伝送路のコストを抑えたい分野に向く。なお、デモではノートPCにてデコードして4K動画を表示する様子が示された。
■新世代オーディオ
オーディオ用符号化も進化を続けている。FhG/IISは、次世代の放送用オーディオ符号化方式MPEG-Hとデジタルラジオ向け符号化方式xHE-AACをデモした。MPEG-Hは、3Dオーディオ対応の立体音場を再現する方式だ。一方、xHE-AACは、音声にも音響にも使える万能の圧縮方式で、12Kbpsという低レートでステレオを実現する。
他に、同機構はモバイル機器向けサラウンド技術「CINGO」もデモし、ヘッドフォン利用でありながら多方向に音源がある感覚を作り出せることを示していた。
今回のInter BEEでは、用途別に多くの圧縮技術、符号化機器が出展された。HEVCの実装はまだ続くため、今後より豊かな商品構成が期待できる。また、独自方式もFPGA利用で活躍の機会が拡がった。適材適所が進みそうだ。
エクスプローラは、超小型ライブ伝送装置を出展した
テクノマセマティカルはHEVCのデコーダIPをFPGAに実装して4K映像を見せていた
intoPIXは、超低遅延で軽量の圧縮方式「TICO」のソフトウェアデコードを実演した
フラウンフォーファー研究機構/IIS部門は、MPEG-Hなどの新しいCODEC技術を持ち込んだ