私が見た"NAB SHOW 2016"動向(その1、概要・全体状況編)
2016.5.9 UP
写1:ソニーのプレスコンファレンスにて
写2:グラスバレーのプレスコンファレンスにて
写3:日本企業ブースが集中するセントラルホールの景観
写4:8K試験放送に備えたNHKブース状況
オランダ、アムステルダムで開かれるIBC、中国北京でのBIRTV、そして11月に日本の幕張メッセで開催されるInter BEE。世界の放送機器展の中で最大規模、来場者数を誇る”NAB SHOW 2016”が、例年より1週間遅れの4月16日から21日まで、カジノと観光、コンベンションが同居する街ラスベガスで開催された。世界のあちらこちらでテロが頻発し、経済環境は不透明な状況下にあり、幾分懸念もあったが、世界の166ヶ国から1700を越える企業・団体が出展し、10万3千人を越える来場者を迎え大盛況だった。日本出発前、九州熊本を大地震が遅い、成田出立時にはあいにくの季節はずれの台風のような大風に見舞われ出先をくじかれた。トランジットのためロサンジェルスに遅れて着いたが、予想していた通りの厳しい入国審査と荷物検査に手間取り、広い空港内を荷物を抱えての駆け足移動はシルバーにはいささかしんどかった。でも、後日聞いたところでは、この時、ラスベガス行きの便に間に合わず、サンフランシスコやフェニックスに廻されたり、ロスから深夜バスで砂漠を突っ切りラスベガス入りした人もいたようで、それに比べれば私はラッキーだった。
土曜日、夜遅くのホテルチェックインだったが、翌朝は時差ぼけというか歳のせいか早々に目が覚めたので、朝からカジノを楽しむ大勢の観光客を尻目に、ホテル隣接のモノレールに乗り、早速NAB会場のLVCCに出かけた。わずか10分ほどでLVCC駅に到着。地上高いところにある駅舎から見ると、広大な駐車場の向こうに”Westgate” ホテル(旧称ラスベガスヒルトン)をバックに、LVCCのノースホールが、その右手に広大なセントラルホールが、そして一番右手に2階建てのサウスホールが連なっている。何度もNABに通い見慣れた景観だが、これから始まる強行軍の取材に身が引き締まる思いだった。まずはレジストレーションで登録を済ませ、ノースホール2階にあるプレスルームに顔を出した。日曜午前というのに、既にかなりの数のメディア関係者が備え付けや持参のパソコンを使い仕事をしていた。日本からの顔見知りも見かけたので、モーニングコーヒーを飲みつつ早速情報交換をした。
今日は、明日からの展示会を前に、多くの出展企業がLVCC内のミーティングルームや市内のホテルなどで、自社出展物のPRや経営戦略などを披露するプレスコンファレンスが行われる。会見場所は市内に点在し、あちらこちら移動するのは大変だったが、今年のNAB動向を知る格好の場なので、時間の許す限り幾つか廻ることにした。各社とも自社経営陣だけでなくそれぞれのパートナー企業や機器ユーザーのアーテイストなども交え、大型映像も使い、巧みで魅力ある演出でプレゼンテーションしていた。どこもかなり大勢のメディア関係者を集めていたが、時間帯と場所によっては軽食やアルコールもふるまわれ、エンターテインメント的要素も盛りこんであり、日本での記者発表とはかなり雰囲気が違っている。NABは放送業界最大のイベントでもあり、ビジネスとしての展開は目指しているのはもちろんだが、それを盛り上げるためにもお祭りのひとつとして楽しんでいる感もあった。やはり欧米人の国民性の違いもあるのかな。
今回、出席したプレスコンファレンスの中で注目されたポイントは、4Kのさらなる進展と、その動きに今後大いに関係するIP化の行方である。中でも興味を引いたのは、世界の放送、映像メディア業界を主導する立場にあるソニーとグラスバレーが、どちらも4Kをメインにする機器、システムのPRはする一方で、それと密接に関係しこれまで独自に進めてきたIP化の戦略において、連携する方向、動きが出てきたことである。ソニーはこれまで提唱しているNMI(Network Media Interface)によるIP化へのシステム開発を進め賛同社もかなり増えつつあると語っていた。一方、グラスバレーは、これまで”Grass To Grass IP”を掲げ、IP制御ソフトGV ConvergentによるEnd to EndのトータルIP化を提唱し、こちらも賛同社を集めていると言っていた。その両社がIP化をよりスムースに促進するため、SMPTEの標準化の動きとあいまって、両者とも事業者団体”AIMS”アライアンスに賛同する姿勢を見せていたことは大いに注目された。その後、展示会場を廻ってみて、欧米、日本やアジアの大中小多くの企業がIP化への流れに賛同し、いたるところでAIMSのロゴマークを目にし、これからの放送業界の大きな流れを実感することになった。
この日は夜遅くまで多くの企業が市内のあちらこちらでコンファレンスを開いており、それぞれ話題生もあったが、ここでは筆者にとっては始めて足を踏み入れた超豪華ホテルWynnで開催されていたShowStopperの”Official Press Preview Ivent”について触れておきたい。これは翌日からの一般公開展示に先立ち、ERICSSON、DJI、HP、Imagine Product、G-Technologyなど多くの企業が、ミニブースで自社製品を展示するプレイベントである。夜の時間帯だけに、各社の展示エリアの中央スペースにはドリンクと軽食コーナーが設けられ、メディア関係だけでなく大勢の企業関係者も参集し、熱心なデモと共に活発な交流が行われていた。
展示会初日の朝9時からは、ノースホールに隣接する”Westgate”ホテルの Paradise Ballroomにてオープニングセレモニーが開催された。就任7年目になるGordon Smith NAB会長は放送業界の現状、課題と今後の展望について語り、Disney/ABC TVグループの Ben Sherwood会長のキーノート講演が、続いてABC NewsのWoodruff記者がNAB Awardを受賞した。オープニングセレモニーは例年、著名人が登場し人気イベントにもなっており、以前キャメロン監督や名喜劇俳優Jerry Lewisなどが参加した時など立ち見の人も溢れ、彼らが登壇すると皆立ち上がり声援がわき起こったこともあった。それに比べると、今回はやや地味な演出でちょっと空席もあり、盛り上がりがやや少なかったなとの印象を受けた。同じ日の夜、ノースホールのミーティングルームで、Inter BEE主催による交流会が初めて開催されたが、日本からのメディア関係者、出展企業関係者など大勢が参集し、活発な交流が行われていた。
展示会場の状況と今回の技術動向の概略について簡単に紹介しておきたい。展示会場のLVCCはノース、セントラル、サウス(2階建て)の広大な3つのホールからなり、幕張メッセなどに比べると広い敷地に広がり、大きなホールの随所に散らばる各社ブースを見て廻るのは、相当の時間と体力を要し、シニアにとってはかなり難行苦行だが、最新技術を目にし、多くの人達に会えることはこの上ない楽しいことである。
最も広いセントラルホール中央部の眺望の開けた地の利の良いエリアには、世界の放送・映像業界をリードしているキヤノンとパナソニックの大規模なブースを囲むように、日立国際電気、朋栄、JVCケンウッド、リーダー電子など日本企業のブースが軒を連ね、今年の大きなトレンドの4KやIP化に向けた多彩な展示をしていた。やや中央よりに富士フイルム、池上通信機、昭特製作所などがブースを構え、多種多彩な制作機器を展示していた。一番奥の東側コーナーには今回もソニーが場内随一の広大なブースを構え、カメラから制作系など多種多彩な機器、システムを展示していた。その近辺にはアストロデザインや日本コントロールシステムが4K/8K機器を展示し注目を集めていた。
横長長大で上下2フロアから成るサウスホールには、昨年BeldenブランドになったGrass Valley と最近世界市場で高い実績を上げているBlackmagic Designが例年よりも広いブースを構え、どちらも先進的でインパクトのある展示をしていた。その右手には、コンテンツ制作系の老舗で新組織となったSAM(旧クオンテル)やデジタルシネマで急成長しているRed Digital、業界に各種機器を提供しているAJAなどが、またNECは最新の4K/8Kコーデック機器を出展し注目されていた。同ホール2階ではAvidとHarmonicがU HDワークフローなどを公開し、Dolbyが評判のHDR技術を公開し、NTTグループが最新の符号化・配信技術を公開し高い評価を受けていた。同ホール東側奥にはFuture Parkが開設され、その中でNHKは今年から始まる8K試験放送に向け開発を進めている8K機器を展示し、リオオリンピックで活躍する8K中継車も公開していた。8Kシアターでは最新コンテンツが大画面スクリーンに上映され大勢の見学者を集めていた。
今年の技術動向を概観すると、4Kシステム関連に加え、例年より多く見られた8K関連、世界的な映像トレンドになっているHDR映像、急速に進展が進むIP化関連、展開が広がっているドローン技術などであるが、次号以降で、順次紹介して行きたい。
写1:ソニーのプレスコンファレンスにて
写2:グラスバレーのプレスコンファレンスにて
写3:日本企業ブースが集中するセントラルホールの景観
写4:8K試験放送に備えたNHKブース状況