私が見た"IBC 2015"動向(その1)
2015.9.24 UP
写2:がらりと雰囲気、レイアウトが変わったSAM(旧Quantel)ブース情景
写3:多くのブースで見られた注目テーマのHDR(NHK)
写4:今回、トレンドになっているコンパクトな4Kカメラ(ソニー)
写5:マルチフォーマットに対応可能なポータブル8Kカメラ(池上通信機)
観測史上初と言われた記録的な猛暑だった東京から直行便で約12時間、北海に面したオランダの首都アムステルダムは小雨模様で晩秋の肌寒さが感じられる日々だった。4月米国ラスベガスで開催されるNAB、11月幕張で開かれるInter BEEと並び、世界3大放送機器展であるIBC2015は9月10日から15日まで開催された。円安の影響で航空運賃は割高となり、ホテルは秋の観光シーズンとも重なる上、IBCには世界中から大勢の関係者、見学者が来るため、地の利が良く安いホテルを見つけるのは難しかった。どちらもネットにより手頃の便と宿を確保した。今回、世界160ヶ国以上の1700社・団体から出展があり、来場者は昨年をやや上回る55128人を数えた。会場内を廻ってみた印象では、日本からの展示関係、メディア関係、見学者は少ないように感じた。
展示会場はNABやInter BEEのように大きなホールに集約されておらず、大中小規模の14ものホールが通路や渡り廊下、階段を介して複雑に入り組んでおり、その上、今年は新施設のAmtriumも開設され(タイトル写真右手)、各ホールに分散する展示ブースやコンファレンス会場を重いカメラとショルダーを抱えつつ廻る取材は、かなり時間と体力も要した。しかし、成長、変革が目覚しい最新放送・映像技術に直接接し、それらを使ったコンテンツやサービスを体感し、ハイネッケンビールのジョッキを交わしつつ多くの人達と交流できたことは有意義でもあり楽しい日々だった。
コンベンション会場内外の壁面の大きな広告は、例年に比べ日本企業より欧米系や豪州企業の看板が目立っていたが、日本企業の出展状況は、幾つかの常連が出展をとり止めた社もあったが、概ね、ブースの規模や展示レイアウトは例年通りだった。御三家ともいえるソニーは第12ホール全面を使い、パナソニックは第9ホールに、キヤノンは第11ホールにてそれぞれ広大な展示ブースを設け、NTTグループは第2ホールにて世界に冠たる符号化や配信・伝送関連技術を、日立国際電気や池上通信機、JVCは第11ホールにて最新の4K/8Kカメラなどを、フジフイルムは4K対応の多彩なレンズ系や記録メディアを、朋栄は第2ホールにて4KやIP制作環境に備えた多彩な機器を、NECは第8ホールにて符号化関連技術やデジタル放送機器などを展示し、わが国が世界に誇る放送・映像メディアをリードする最先端技術を公開し大勢の見学者を集めていた。また本ページの主催元のInter BEE協会は、第6ホールの一郭で中国のBIRTV、韓国のKOBA、ロシアのCSTBなどと共に、今年51周年を迎えるInterBEE2015に向けたプロモーション活動をやっていた。
IBC主流の欧米系企業ブースの中には、最近の企業合従・連衡により名称やブランド名が変わり、レイアウトや雰囲気ががらりと変わったところも多かった。昨年、HARISSから企業名を変えたImagineは、新装成ったAmtriumに単独で広大なブースを設け、自社や連携企業の製品やシステムを展示し、さらにLiveShowと銘打ったコンファレンスやプレゼンテーションを大々的に行い大勢の聴講者を集めていた。昨年Snellを吸収合併したQuantelは企業名をSAM(Snell Advanced Media)と変え、ブースの雰囲気やプレゼンテーションの仕方もまったく違っていた(写2)。長年放送業界で親しまれてきたQuantelと言うブランド名が消えたのは一抹の寂しさを感じたが、さらに大きく成長・発展することを期待したい。これまでも何度か社名を変えてきたGrassValleyは、昨年、BELDEN Brand傘下になったことを受け、従来とひと味変わった雰囲気の大きなブースで、派手めなパフォーマンスと共に多種多彩な機器、ソリューションを公開し大勢の見学者を集めていた。
近未来の技術を集中して公開するFuture Zone では、NHKが2020年東京オリンピックを目標に着々と準備を進めている8Kシステムと最近のSHVコンテンツを公開し、BBC R&D、Thomson、Disney、NTT 未来研究所、ETRI(韓国電子通信院)などが特徴的な最先端技術を公開していた。
今回の技術動向の注目点を上げると、最大のテーマは昨年に続き超高精細映像U HDである。世界的にはまだHDTVが主流の国が多いとは言え、欧米や日韓中などで4Kが急速に進展していることを反映し、制作系、ディスプレイ、配信系などなどの機器やシステムはHDのみならず4K対応になっている感があった。8KについてはNHKのみならず数は少ないながら8Kを視野に入れた展示物も見られた。今回大きく注目を集めていたのは、解像度や画素数だけでなくダイナミックレンジの広いHDR映像である。恒例のコンファレンスのAdvanced in TechnologyセッションでもHDRが大きく取り上げられ、展示会場でもDVB(欧州放送コンソーシアム)、NHK、ドルビー、ソニーなど多くのブースでHDR映像が公開されていた(写3)。もちろん撮影・制作系、配信系で進展するIP化も注目のテーマで、多くの企業から多種多彩な技術やソリューションが公開されていた。さらに最近話題になっているドローンについても、屋外の特設会場での実演だけでなく多くのブースで実機が展示されいずこも人気スポットになっていた。
以下、注目された出展物について、本稿と次号の2回にわたり順次概略を紹介してみたい。
カメラ系については、昨今、イメージセンサーの高精細度化により4K化が急速に進んでいる。従来は映画やCM、大型番組制作などに使う高機能、高価格の大型モデルが主流だったが、最近では4K制作環境を拡大し4K市場の拡張を目指し、通常の放送番組やイベントなどでも手軽に使える高性能だが小型・コンパクトで低価格の機種開発が進んでおり、今回も各社から様々な機種が出展されていた。ソニーは従来のハイエンド”F65”や”F55”から、スポーツや音楽ライブ制作に適したコンパクトな4K/HDカメラ”HDC-4300”、さらにより小型軽量でスポーツ中継などに適した4Kメモリーカムコーダ”PXW-FS5” (写4)などをメインに展示していた。キヤノンはハイエンドの”EOS C500”から、従来HD対応だったモデルを大幅に機能、性能アップし4K対応にした”C300 MarkII”をメインに、またより小型ながら高機能、高品質でENGやイベントなどに適する”XF-205”や小型軽量の4Kカムコーダ”XC10”などを展示し、パナソニックは高性能機”Varicam 35”に加え、主力機種としてレンズ一体ハンドヘルド型4Kカムコーダ”AG-DVX200”などを展示していた。
池上通信機はHDカメラの操作性と運用性を継承し2/3”CMOS、B4マウントでスポーツ中継やスタジオ運用に適した4Kカメラと、スーパー35mmサイズ3300万画素DG方式CMOS単板、PLレンズマウントのポータブル型でCCUと光ファイバーで接続し8K/4K/2K出力が可能な8Kカメラ”SHK-810”を初出展した(写5)。一方、日立国際電気も新開発の2/3”MOS、B4マウントの採用でHD制作と同等の操作性の4Kカメラ”SK-UHD4000”と、2.5"3300万画素単板CMOSを搭載したハンディタイプの8Kカメラ”SK-UHD8060”も初出展した。ドッカブル構造で、小形のカメラヘッドは光伝送アダプタやSSD RAW収録ユニットと組み合わせ様々な運用形態がとれる。
JVC Kenwoodは今春発売されたコンパクトな業務用の4Kカムコーダ”GY-LS300”や機動性の高いヘッド分離型”GW-SP100”を展示し、Blackmagic Designは廉価ながら高解像度の”URSA 4.6K”に加え、一層小型で安価な”URSA mini 4K”や”Micro Studio 4K”を出展し評判になっていた。また世界的に業界に小型のコンバーターやI/Oを提供しているAJAは人間工学に基づき快適性と利便性を重視し設計された小型軽量の4Kカメラ”CION”を初出展していた。デジタルシネマ分野で高い実績を持つARRIは、ハイエンドの”ALEXA 65”や従来モデルを改良した”ALEXA SXT”に加え、放送用も視野に入れた小型でヘッド分離型モデル”Alexa mini”も出展していた。
(その2)では引き続き他の出展物について概略紹介したい。
写2:がらりと雰囲気、レイアウトが変わったSAM(旧Quantel)ブース情景
写3:多くのブースで見られた注目テーマのHDR(NHK)
写4:今回、トレンドになっているコンパクトな4Kカメラ(ソニー)
写5:マルチフォーマットに対応可能なポータブル8Kカメラ(池上通信機)