【Inter BEE 2018】5Gが生み出す映像と通信の新しい関係、大手3キャリアがInter BEEで解説
2019.3.5 UP
NTTドコモ 5Gイノベーション推進室 担当部長 奥村幸彦氏
KDDI 技術統括本部 モバイル技術本部 シニアディレクター 松永彰氏
ソフトバンク 先端技術開発本部 岡廻隆生氏
5Gの通信により、野球場でもほとんど遅延がなく、好みのカメラの映像を選んで視聴できるという
さまざまなところで「5G」の文字を目にすることが多くなった。5Gは第5世代移動通信システムを指す言葉で、現行のLTE(4G)の次の移動通信を担う。「超高速大容量」「超低遅延」「多端末接続」などの特徴を持ち、これまでのLTEでは実現不可能だった通信の多様な使い方を現実のものにすると考えられている。国内でも2019年にはプレサービスが始まる5Gは、映像・コンテンツ業界に対してどのようなインパクトがあるのか。
2月25日から28日まで、スペインで開催するMobile World Congressでは、世界の通信事業者が集まり、5GやAI、IoTなどをテーマにしたセッション、展示が開催された。これに先立つ昨年11月に開催したInter BEE 2018の基調講演「5Gセッション2018」では、5Gの現状と今後について通信事業者3社から解説があり、現在日本で進められている企業との実験の実例が具体的に紹介された。一つの特徴は、3社とも「パートナー企業との共同開発」に力を入れている点にある。
講演は、5Gがコンテンツビジネスにどのような可能性をもたらすのかについて、さまざまな実験や事例を示しながら、コンテンツ開発者にとっての新しいビジネスの方向性を示唆する講演として貴重な機会であった。5Gが本格化する2019年新年度を迎えるにあたり、講演の内容を紹介する。
■10年ごとの進化、多様な利用へ向かう移動通信
「モバイル通信は10年ごとに大きな進化をしている。現在の4Gの次に来るのが5Gだ」。最初に登壇したNTTドコモ 5Gイノベーション推進室 主幹技師の奥村幸彦氏は、移動通信システムの「世代=G(ジェネレーション)」の説明から講演を切り出した。「現在のNTTドコモのLTE(LTE-Advanced、世代は4G)では最大988Mbpsのサービスを提供していて、この25年ですでに40万倍に速度が向上している。5Gではさらに高速性を高め、ピーク速度で20Gbpsを実現していく」(奥村氏)と5Gの高速性を説明する。NTTドコモではコネクテッドカーの実験で、時速30kmで11Gbps、時速100kmで8Gbpsを達成。新幹線の速度に近い時速約290kmで、1.1Gbpsの通信と、異なる基地局に通信を受け渡すハンドオーバーにも成功しているという。
しかし、5Gで実現を目指しているのは、高速広帯域な通信だけではない。奥村氏は「情報のスムーズな伝送を実現するための低遅延性能では無線区間の遅延を1ミリ秒以下に、IoT(モノのインターネット)などで多数の端末の接続を可能にするために4Gに比べて約100倍の端末の接続を可能にする」と語る。これら3つの特徴をもって、新しい価値を提供し、社会課題の解決につなげたいとの考えだ。すでに、4K映像を使った遠隔診断や、低遅延性能と高精細映像の伝送能力を生かした建設機械のリアルタイム遠隔操作など、多くの実証実験をパートナー企業と進めている。
■5Gが社会課題解決や企業の価値向上のインフラに
KDDI 技術統括本部 モバイル技術本部 シニアディレクターの松永彰氏は、新しい「技術」である5Gは、利用者の体験の変化を提供すると指摘する。「KDDIでは、5Gにより実現する世界でワクワク体験を提供していきたい。そこで実現を目指す体験を4つに分類している。1つが労働人口の減少や地域格差拡大など社会課題の解決に5Gの通信を生かすこと。遠隔地から建設機械を操作したり、ドローンやIoTを活用したりして、労働力不足への対応が可能になる。2つ目が地域の課題解決と地方創生。いまは、5Gなどの技術を使って4Kの高精細映像を伝送して酒造りの工程を遠隔監視するような地域活性化の実験を行っている」。
松永氏が3つ目に掲げたのが新たな体験価値の提供である。5Gが中心的な役割を果たし、ワクワクするような新しい体験を提供するというものだ。高速大容量の通信で映像技術の活用の幅を広げたり、低遅延性能を生かした新しいロボット体験を提供したり、スタジアムエンターテインメントの可能性を高めたりと、さまざまな分野で実証を積み重ねているという。4つ目は企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現で、パートナー企業やアイデアを持つスタートアップ企業と共同の取り組みを進めている。
「3Gは電話、音声のネットワーク。4Gは、スマホ向けのデータネットワーク。5Gはサービスを提供するネットワークになると考えている」と語るのは、ソフトバンク 先端技術開発本部の岡廻隆生氏。「人からモノへと対象が広がり、スマホ向けのネットワークから、さらに高度な社会インフラになる」。一方で、5Gでは利用する周波数が高くなる。今まであまり使われていなかった帯域で広い帯域を使えるのだが、経験が少ないだけに多くの検証が必要になる。「そのための検証をフィールドトライルとして2年ほど前から、実際の街中などで実施してきている」岡廻氏)という。
当初の移動局(=端末)は、ワンボックスカーにいっぱいになるほどの機器が必要だったが、端末はどんどん小型化がすすむ。2018年度には東京の典型的な市街地である港区の大門エリアに5G基地局を3つ設置し、複数基地局でエリアをカバーするフィールドトライルを実施した。ハンドオーバーの検証のほか、スループットはダウンリンクで2Gbps、アップリンクで360Mbpsと、高速な伝送を確認した。「ソフトバンクの5Gはすでに技術的な準備ができており、いまは社会課題や産業にどのように役立てるかについて検証している。自動車向けの5Gでは、V2X(自動車とさまざまなものの通信)の実証や、トラックの隊列走行を5Gで制御する実験などから成果を得ている。IoTに向けては4Gでサービスを提供しているが、高速道路などのインフラの監視やスマートオフィスの実現などに向けた取り組みも進めている」(岡廻氏)という。
■スポーツ観戦から仮想体験まで映像表現を5Gが変える
5Gの超高速、超低遅延の性能は、映像を取り扱うアプリケーションにも大きな変化をもたらす。基礎的な実験の段階だが、NTTドコモでは「時速200kmで走行する車両から、5Gで4Kハイフレームレートの映像をアップリンクすることに成功した」(奥村氏)という。これは、高速に移動するレーシングカーや新幹線などからの高精細映像のライブビューイングがリアルタイムで実現することにつながり、映像の活用の幅が広がることになる。実際にNTTドコモでは、5Gの高速性を生かしてどの程度の映像伝送が可能になるかを実験したところ、8K映像を12チャンネルまで同時に伝送できることを確認しているという。「無線レイヤーだけでなくアプリケーションレイヤーでも誤り訂正を行うことで、モバイル環境でも8K映像を同時に多チャンネル伝送できることを実証した」(奥村氏)。
さらに、マルチチャンネル映像やIoTを組み合わせた新しいスポーツ観戦のスタイルの提案も行っている。奥村氏は「フジテレビと共同で、5GとAR(拡張現実)を組み合わせた仮想ジオラマスポーツ観戦ソリューションの『ジオスタ』を開発した。サーキットで自動車レースを観戦するアプリケーションでは、サーキットの全体の映像やドライバーンの視点映像などを利用者が好みで選んで表示させながら、マシンの速度やエンジン回転数、ウエアラブル生体センサー『Hitoe』を使ったドライバーのリアルタイムの筋肉情報などIoT情報をARで表示させる。スポーツバーなどで提供することを想定した新しいエンターテインメントの姿を体感してほしい」と語る。5Gの高速性や低遅延性、多数のIoTデバイスの接続といった3つの要素を活用することを想定したソリューションだ。
KDDIも高速性、低遅延を核として、映像技術への5Gの適用の実験を行っている。その1つがテレイグジスタンスと呼ぶ技術。遠隔からロボットを操作して、利用者はあたかもロボットがある場に存在するかのように見たり触ったりの体験を得ることができる。「テレイグジスタンス向けのロボットを開発する企業のテレイグジスタンスと共同で、プロトタイプを開発し、2018年9月には体験イベントを実施した。小笠原にいるロボットを遠隔地から操作することで、小笠原にいるような新しい体験を提供できた」(松永氏)。高精細な映像の伝送と、低遅延での触覚などのデータの伝送により、リアルな仮想体験ができる新しい体験型コンテンツが生み出せるというわけだ。
もう少し現実的なソリューションとしては、スタジアムエンターテインメントへの5Gの活用がある。KDDIでは沖縄セルラースタジアム那覇に5Gのエリアを構築。実際に16台の4Kカメラをスタジアムに配置し、50台のタブレット型5G端末に異なる映像コンテンツを配信する実験を行った。28GHzという高い周波数を使う帯域を使ったものだ。松永氏は「2018年6月には、一歩進めた実験としてプロ野球の公式戦で複数のタブレットに自由視点映像を表示させる検証も行った。タブレットでしてしたアングルの映像を作り出して、タブレットごとに送信する。5Gの通信により、ほとんど遅延がなく好みのカメラの映像を選んで視聴できた。スポーツ観戦に大きな可能性が示されたと考えている」と語る。
この他にも映像と5Gの連携によるチャレンジを続けている。伊藤園レディスゴルフトーナメントでは5Gで4Kスーパースローのリアルタイム中継を実施し、アップリンクの高速性を生かした映像表現の可能性を示した。また、ドローンから5Gを使ってリアルタイムで4K映像を送ることで、空中からの今の映像を楽しむようなコンテンツの実証も行っている。
■5Gの性能向上だけでなくエンドツーエンドの性能向上が不可欠
一方、ソフトバンクの岡廻氏は、5Gの性能を生かした映像表現やエンターテインメントについての可能性を認めた上で、現状の課題を指摘する。「ソフトバンクでは、お台場のラボの一部を改良して、お客さまの企業が5Gを体験できるスタジオを用意している。共創につなげる取り組みだ。そうした中で、例えば360度カメラを5Gネットワークにつないで、VR(仮想現実)のコンテンツを送信するといったことも可能になる。HDMIや同軸ケーブルを5Gに置き換えれば高精細映像が伝送できるのだが、これを離れた2地点で実用化するとなると問題が出てくる。一番言いたかったのは、この課題についてだ」。
岡廻氏の説明はこうだ。例えば4Kの映像伝送を5Gで行うとする。4K映像のデータを5Gのネットワークを経由して伝送し、別の地点で4K映像を再生するというものだ。5Gのネットワークは10Gbpsの伝送を1ミリ秒の遅延で行う性能を持っているとする。4Kカメラは12Gbpsのデータを生み出すため、5Gのネットワークを通すにはデータ圧縮用のコーデックが必要になる。「1ミリ秒の遅延の5Gは通常のケーブルと変わらないように感じるかもしれないが、圧縮のためのコーデックは現状では100ミリ秒程度の遅延がある。5Gそのものの性能は高くても、エンドツーエンドで見るとコーデックなどのデータ処理の遅延が大きく影響し、低遅延にできない。エンドツーエンドで本当に低遅延になっているかを、検証していかないといけない」(岡廻氏)。
こうしたエンドツーエンドの性能評価は、5Gの性能を活用して新しい映像表現を実現しようとするときに必要不可欠な視点になる。ソフトバンクでは、そのためにはエッジやコアのアーキテクチャが大事であり、同社が出資しているARMやNVIDIAのプロセッサーの性能を活用してほしいという。通信インフラの提供にとどまらないソフトバンクグループのエコシステムを活用することで、エンドツーエンドのソリューションの最適化を支援するというストーリーである。
今後の5Gを活用したソリューションについては、3社とも「パートナー企業との共同開発」に力を入れている。5Gの実力を知り、まだ見ぬ新しい映像表現へのチャレンジを推進するならば、3社が提供する5Gソリューション共創のパートナープログラムに参加してみることが近道だろう。2019年にプレサービス、2020年に本格サービスが始まる5Gが持つ底力は、少しでも早く体験しておくことが将来の映像・コンテンツビジネスのタネになっていきそうだ。
【Inter BEE 2019 出展募集を開始】
音と映像と通信のプロフェッショナル展「Inter BEE 2019(インタービー2019)」が、11月13日(水)から15日(金)までの3日間、幕張メッセ(千葉市美浜区)で開催する。3月1日(金)から出展申込の受付を開始。一次申込締切は5月31日(金)、二次申込締切は6月28日(金)となる。
NTTドコモ 5Gイノベーション推進室 担当部長 奥村幸彦氏
KDDI 技術統括本部 モバイル技術本部 シニアディレクター 松永彰氏
ソフトバンク 先端技術開発本部 岡廻隆生氏
5Gの通信により、野球場でもほとんど遅延がなく、好みのカメラの映像を選んで視聴できるという