【レポート】マイクロソフトの基礎研究拠点 「マイクロソフト・リサーチ・アジア(MSRA)」(北京)訪問レポート(1)
2012.3.23 UP
画像2:MRSAの二つのビルをつなぐ通路
画像3:ショールームの展示技術の一つ
画像4:優れた大学が集まるMRSA周辺地域
画像5:MSRAの談話室件ミーティング・ルーム
■2011年に新ビルに移転 研究体制の新たな方向性を模索
マイクロソフトは、1990年代初頭からコンピューター・サイエンスおよびソフトウエア・エンジニアリングの基礎研究からその応用に至るまでをカバーする研究所を世界各地に設立しはじめた。現在、世界6箇所(米国3, 英国1, 中国1, インド1)に存在するマイクロソフト・リサーチ(MSR)と呼ばれるラボラトリーがこれにあたる。米国リッチモンド(1991)、英国ケンブリッジ(1997)に続き、1998年、中国の北京に創設されたのが、アジアにおける基礎研究の拠点、マイクロソフト・リサーチ・アジア(MSRA)だった。
企業のラボラトリーは、製品に直接反映される「技術開発」に重点がおかれる場合が多いが、MSRAの場合には設立当初から基礎研究が重要視されており、組織を統括する立場にある人材の多くも世界的な研究者で占められている。
そして、このようなMSRAの特徴を生かして、映像業界の人々に間にその存在が知れわたることになったのが、同研究所のグラフィックス・グループの活躍だ。
構成メンバーの数は10人を少し越えるほどと決して多くはないものの、国内外の大学とのコラボレーションを深め、21世紀に入ると毎年のようにSIGGRAPHで複数の論文を発表するようになる。平均して毎年数本ものSIGGRAPH論文を輩出することは、それまでは米国の大学や企業のラボラトリー以外にはありえなかった。数の多さのみならず論文の質も高く、特にテクスチャやイメージベーストの考え方を活用したフォトリアリスティック・レンダリングおよびリアルタイム・レンダリングの分野においては世界最高峰の研究成果を出している。
およそアジアからこれだけの規模の研究成果を生み出す組織があらわれたということは、グラフィックスの歴史の上でも非常に画期的な出来事であったといえるのだ。
MSRAは2011年に入り、新たなビルに移り、同時に組織の見直しや新たな研究の方向性の模索を開始した。今回はその新居地を訪問し、現地の研究者らに、MSRAの現在の活動および将来的な展望を紹介してもらった。その内容を数回にわたり紹介していく。(倉地紀子)
■マン・マシン・インタフェースの可能性を紹介するショールーム
MSRAの新ビルは、北京の中心部から少し離れたところに位置している。距離的には中心部から車で20分ほどのところのようだが、現在の北京はラッシュアワーでなくても大変な車の渋滞に巻き込まれることが多く、下手をすると40分から一時間ほどもかかる。地下鉄の駅がすぐ近くにあるので、これを利用したほうがあきらかに便はよさそうだ。
移転前のビルもほぼ同じところにある。現在は他のIT企業が入っている。この地帯には北京で最も名高い優秀な大学が集中しており、地の利を生かして大学とのコラボレーションがしやすそうだ。
大きな道路を隔てて2つの高層ビルを結んだMSRAの新居は、新たなビルが次々に建築されつつあるこの一帯の中でも、ひときわ“近代的”な面持ちを誇っている。海外からの来客も強く意識しているようで、内装には東洋的なデザインが凝らされている部分も多い。
一階はMSRAで展開中のさまざまなプロジェクトの概要を紹介するショールームになっている。ここで紹介されているプロジェクトは、基礎研究のプロジェクトというよりは、マイクロソフトの製品として商品化される一歩手前の実用的なプロジェクトがほとんど。視覚・聴覚・触覚などを用いた人間とマシンとの新たなコミュニケーションの可能性を示唆するもので占められている。
階上には個々の部門のラボラトリーが存在するが、リラクゼーション施設も充実している。スポーツ施設としては、やはり“卓球”に人気があるようだ。“禅室”という、おそらくはここでしかお目にかかられない施設があるのにも驚かされた。
誕生して一年と経過していないゆえに、まだ若干スペースをもてあましているという感もぬぐいきれないが、名実ともに北京をそして中国を代表する最先端ITラボラトリーとしての誇りに満ちた表情には、今後の発展にかける情熱とその潜在性の大きさが感じられた。
(画像説明)
画像1、2:2011年に移転したMSRAの新ビル
MSRAの新居にあたる建物は、大通りを挟んだ17階(building1)と14階(building2)の2つのビルを結んだ構造で、MSRAの各部門のラボラトリーはbuilding 2の12-14階に入っている。
画像3:ショールームの展示技術
ビルの一階は、MSRAが手がけているプロジェクトで開発されたさまざまな技術を披露するショールームとなっている。写真は、一見中国古来の一枚の絵画だが、ユーザーが絵画から少し離れたところから絵画の中の任意の部分を手で押し広げるように指示を与えると、無制限に高い解像度にまで拡大できる。
翻訳関係の技術にも力が入れられている。この他に音声による通訳のシステムも展示されていた。時代の流れに後押しされるモバイル関係の技術開発にも手抜きはない。この方面の研究を専門におこなっているグループもある。
画像4:優れた大学が集まるMRSA周辺地域
MSRAの所在地の近くには、北京で指折りの優秀な大学(得に理工系)が集中している地区(画像の中で木立の奥に見えているのがこの地区)があり、大学との共同研究を押し進める上で、これは地の利ともなっている。
画像5:MSRAの談話室件ミーティング・ルーム
実り多い研究開発に欠かせないのが豊かな“発想”。MSRA内部には談話室兼ミーティング・ルームのような自由な空間が数多くあり、若手の研究者が自らのアイデアを練ったりそれを他の研究者に見せて意見を交換している光景がみられた。
卓球などのスポーツ施設など、リラクゼーション施設も充実している。
画像2:MRSAの二つのビルをつなぐ通路
画像3:ショールームの展示技術の一つ
画像4:優れた大学が集まるMRSA周辺地域
画像5:MSRAの談話室件ミーティング・ルーム