【インタビュー】映画『メン・イン・ブラック3』VFX担当者に聞く(1)リアルでコミカルなCGエイリアンたち
2012.6.8 UP
(写真2)ケン・ハーン(Ken Hahn)氏
(写真3)スペンサー・クック(Spencer Cook)氏
(写真4,5)手の平の中からエイリアンが出現するシーン
(写真6)ボリスのズボンにまとわりつくエイリアン
■10年の歳月を経て蘇る「MIB」大幅にビジュアルがパワーアップ
VFXを駆使したコメディ映画の傑作「MIB」(メン・イン・ブラック)シリーズが、10年という歳月を経てスクリーンに戻ってきた。最新作『メン イン ブラック3』(2012年)では、エージェント“J”と“K”のスーパー・コンビの歴史を感じさせる味わい深いストーリーとともに、これまで以上に多彩なエイリアンとの時空を越えた戦いが繰り広げられ、ビジュアルも大幅にパワーアップしている。
ここではそのビジュアルの魅力を支えたVFXの全貌を、本作品のVFXを担当したソニー・ピクチャーズ・イメージワークス社(Sony Pictures Imageworks)のデジタル・エフェクト・スーパーバイザーであるケン・ハーン氏(Ken Hahn)とアニメーション・スーパーバイザーであるスペンサー・クック氏(Spencer Cook)氏に語ってもらった。
(倉地紀子)
■パイプラインに数々の新ツールを追加
「メン イン ブラック3」のデジタル・エフェクト・スーパーバイザーをつとめたケン・ハーン氏は、同映画のVFXの特徴を「物量の多さと表現の多様性」であったと話す。
今回は前2作品でおなじみのエイリアンに加え、実にバリエーション豊かなエイリアンが数多く登場している。これらは、すべてCGで作られており、同時にエージェント“J”や“K”のような主役クラスの実写キャラクターまでも頻繁にCGで置き換えられている。ストーリーの要となる”乗り物“や、このシリーズの名物ともなっている、現存しないニューヨークの光景もCGで作成する必要があった。
CGによるエフェクトも、自然現象に関連したものから”時空を越える“といったバーチャルなコンセプトを象徴するようなものまで様々だ。スケールも、シーンの臨場感を高めるためのきめ細かいものからアポロ・ロケットの噴射のような大規模なものまで広範囲にわたっていた。
本作品ではさらに、これらのCGを活用したVFXショットが実写ショットの合間を縫うようにして挿入されるケースが非常に多かったという。そのため、モデルの動き、ライティング、質感にいたるまで、高度なリアリズムが必要とされた。
クオリティを犠牲にすることなく、複雑で膨大な量のCGを制作するのは並々ならぬことだ。そのために、これまで用いられてきた自社のパイプラインに、数多くの新たなツールが導入された。新たなツールを大規模な映画プロジェクトに導入することは、通常、差し控える傾向が多い。それは、新しいツールには不確定な要素の多いからであり、そういう点からも、今回の試みがチャレンジ精神に富んだものであったことがうかがえる。
今回新たに導入された数々のツールは、いずれも高度なシミュレーション技術をベースにしたものであった。ハーン氏は、今回のプロジェクトによって、映画VFXにおいて、いかにシミュレーションツールが重要か、制作スタッフ一同が再認識することになったと話す。
中でも、CGキャラクターの作成は、シミュレーション技術を導入することが極めて難しい領域だ。アニメーション・スーパーバイザーのスペンサー・クック氏は「今回、あえてシミュレーション的な色合いの濃いツールの数々を積極的に導入しようと試みた」と言う。
■滑稽さとリアルさを両立
エイリアンのCGはいずれも、動物や人間のリファレンス映像をもとにしたキーフレーム・アニメーションを作成している。主役クラスのキャラクター「ボリス」(Boris)が操る小さなイタチ(weasel)のようなエイリアンや、巨大な魚のエイリアン(Giant Alien Fish)はその代表例だ。
イタチは模型と併用されている。模型のエイリアンを担当した特殊メイクの巨匠リック・ベイカー氏が作成したマケット(雛形の模型)がベースとなった。魚のエイリアンに関しては、イメージワークス社がデザイン面からCG作成にいたるまですべてを担当した。
クック氏によると、これらのアニメーション作成で難しかったのは、コメディ映画ならではの“滑稽”さと、キャラクターの動きのリアルさを両立させようとした点だ。監督はこれらのエイリアンを実写の俳優と同じ位置付けで捉えており、「滑稽に見えるかどうかは観客の感じ方次第」という考え方であった。当初は、イメージワーク社のアニメーターらは、コメディ映画ということを意識して滑稽さを誇張しすぎたアニメーションを作成しがちであったそうだが、監督はそれを見て滑稽さを和らげるように要請したという。
結果的には、それによって、本質的に滑稽なはずの仕事を大真面目で行っているエイリアンの姿は一層滑稽に見えるようになったそうで、監督の指摘は実に的を射ていたといえそうだ。
(写真解説)
(写真1)映画「メン・イン・ブラック3」全国絶賛上映中
(c)2012 Columbia TriStar Marketing Group, Inc. All Rights Reserved.
配給:東宝東和
(写真2)ソニー・ピクチャーズ・イメージワークス社(Sony Pictures Imageworks)のデジタル・エフェクト・スーパーバイザー ケン・ハーン氏(Ken Hahn)
(写真3)ソニー・ピクチャーズ・イメージワークス社(Sony Pictures Imageworks)のアニメーション・スーパーバイザー スペンサー・クック氏(Spencer Cook)氏
(写真4ー6)
ボリス(Boris)の操る小さなイタチのようなエイリアン(Weasel)は、代表的なCGエイリアン。リック・ベイカー氏(Rick Baker)の作成したマケット(雛形の模型)をベースにしてCGモデルが作成された。CGキャラクターの作成は、Maya(モデリング, アニメーション)、ZBrush(モデルの細部の作成)、Mari(テクスチャの作成)、Arnold(レンダリング)、Katana(ライティング)、Arnold(レンダリング)、Nuke(合成)を用いておこなわれた。
(写真4)では、手の平の中の棘とエイリアンがCG、(写真5)ではエイリアンだけではなくボリスの手もCGで置き換えられている。(写真6)ではエイリアン、ボリスのズボン、ボリスの足を括り付けている金具とチェーンがCGで作成されている。
(続く)
(写真2)ケン・ハーン(Ken Hahn)氏
(写真3)スペンサー・クック(Spencer Cook)氏
(写真4,5)手の平の中からエイリアンが出現するシーン
(写真6)ボリスのズボンにまとわりつくエイリアン