【Inter BEE 2018】INTER BEE IGNITIONセッション「高臨場感時代の音と映像の表現手法の再定義」高精細な映像・音が可能にする"体験の演出"で求めらる制作手法の見直し

2018.11.6 UP

大黒氏「映像も音も、立体的な表現ができるようになると新たなエンターテインメントが生まれる」

大黒氏「映像も音も、立体的な表現ができるようになると新たなエンターテインメントが生まれる」

水野氏「自らが物語の中に入る体験をしてもらいたかった」

水野氏「自らが物語の中に入る体験をしてもらいたかった」

森氏「VRは、劇場という空間で一体感を感じてもらおうとするミュージカルと共通しているものがある」

森氏「VRは、劇場という空間で一体感を感じてもらおうとするミュージカルと共通しているものがある」

会話に熱が入る打合せ

会話に熱が入る打合せ

 映像、メディアのデバイスや表現技術が進化していく中で、エンターテインメントのさまざまなシーンで革新が起きている。クリエイターや演出家が音や映像をよりリアルに伝えることができるツールを手にしたことで、表現や演出を、より高い臨場感で提供できるようになった。それは単なるリアリティではなく、メッセージが込められた臨場感であり、作り手が伝えたい感情や感覚を体験するという異次元のエンターテインメントなのかもしれない。

 そうした新たなエンターテインメントが生み出される一方、既存のメディアであるテレビが、より高精細になり高い臨場感が感じられるようになることで、これまでとは違った体験をテレビ視聴でできるようになる。そうした高臨場感を生かした演出のためには、従来の制作手法を見直す必要も出てくるかもしれない。

 「高臨場感時代の音と映像の表現手法の再定義」を企画した江口氏は、セッションのねらいを次のように話す。
 「技術の進化で8K高精細映像や22.2チャンネルなどが実現し、映像や音のリアリティが増していくと、映像を見ていてこれまでにないリアリティを感じる。そうなると、今度は、カット編集でカメラ位置が変わると、あたかもそこに瞬間的に移動したように感じ、頭の中が混乱する感覚が生じることがある。リアリティが増すことで、これまでの映像コンテンツ制作の手法を見直す必要が出ているのではないか」(江口氏)

 本セッションでは、高い臨場感を体験させる、新しいエンターテインメントを手掛けた当事者の方々を登壇者として迎え、それぞれの作品における演出のねらいや技術面、あるいはそれ以外の面での工夫・苦労などについて聞き、高臨場感を生み出すメディアの作品制作におけるヒントを探る。

■世界で初の商用化 43.4ch立体音響 Sound Dome
 昨年11月、開業5周年となる東京スカイツリーでリニューアルオープンした「コニカミノルタプラネタリウム“天空” in東京スカイツリータウン」に、新たなデジタルプラネタリウムシステムとともに導入された43.4ch立体音響「Sound Dome」システム。

 ドームの裏側や床下に43個のスピーカーを配置して構築した音響システムにより通常のサラウンドよりもリアルで高い臨場感を実現している。これはドイツのミュージアム・ラボラトリーZKMで研究されている3D音場システム「Sound Dome」をベースにした専用ソフトウェアでコントロールし、ドーム内で音像を前後左右や上下に動かしたり、回転が可能。さらに演奏している各楽器を、ドーム内の特定の空間に置いて演奏しているかのように音を配置することができるという。

 Sound Domeシステムに対応した番組「フランス 星めぐりの空で」の楽曲を作曲し、また音楽監督として、Sound Domeシステムを駆使したサウンドデザインを手掛けたのが大黒淳一氏だ。大黒氏は幼少の頃から作曲を始め、国内のコンテストで全国グランプリを受賞する。 ’06年にベルリンへ渡り、CM等の商業音楽、音響空間設計、さらには現代美術の分野でも、サウンドアート作品を発表するなど幅広い音楽活動を展開。北京オリンピックや上海万博のプロジェクトでは音楽制作を担当している。

■大黒氏「ドームで360度立体視、立体音響を」
 今回のプロジェクトについて大黒氏は「Sound Domeを商業的に使用したのは、実は今回の"天空"が世界で初めての試みだった。 Sound Domeシステムは、音だけで引力を感じるような、体が引っ張られるような体験も作り出せるなど、音は視覚以上の感覚をもたらすことができる。プラネタリウムは、実際の空間の中に音と映像が360度の範囲で表現できる。技術的な試みとともに、没入感をどうすれば楽しめるかといった演出的な面でも、貴重な機会だった」と話す。また、今回のプロジェクトは大黒氏がドームにおける映像・音楽表現の最終ゴールへ向けたスタート地点だと位置づける。

 「ドーム内は実際の世界とは違う空間。イメージとしては、ドームの中が360度3Dのディスプレーになって、立体的な表現ができるようになったときに、音も立体的な形で自然に感じられるものになると新たなエンターテインメントが生まれると考えている。今回の試みは、その第一段階。これからまだまだやっていかないといけないことがある」(大黒氏)

■ミュージカルとVRを一体化「LITTLE PRINCE ALPHA」 
 今年8月4、5日の二日間、東京・お台場の日本科学未来館で開催した「LITTLE PRINCE ALPHA」(リトルプリンスアルファ)は、サン=デグジュペリの童話「星の王子さま」を原作にしたミュージカル。舞台で展開する劇の最中、観客にVRのHMDを装着させると、そこからはVR空間における映像の中で物語が展開される。そしてまた、HMDをはずし、舞台の演技に移行する。HMDを装着しているときは、観客は物語の中の飛行士の立場の主観映像を体験することになり、王子から直接話しかけられる。

また、音響システムにより、迫力のある、高臨場感の環境音を感じることができる。このほかにも、IoT技術を用いた専用のネットワークLEDライトが、物語と連動した光を発するなど、新技術を演出に取り入れている。
 HMDならではの主観映像と音響による体験と、身近で役者が繰り広げるファンタジーの舞台が一体となって展開される。

■水野氏「VRで物語の中に入る体験を」
 本セッションでは、VR企画を担当したアルファコード 代表取締役社長 CEOの水野拓宏氏と、実際に舞台で主演した音楽座ミュージカルの俳優でプロデューサーの森彩香氏が登壇する。
 アルファコードは、VR撮影・VRサービスのインフラ提供や、ネットワークコンテンツの企画・研究・開発及びコンサルテーションを行う会社。代表取締役社長 CEOの水野拓宏氏は、ドワンゴで数々のゲームタイトルのネットワーク設計・システム設計を担当した後、同社でシステムアーキテクトとして数百万人規模のWebサービスのシステム設計を行った実績を持つ。2006年には独立行政法人情報処理推進機構(IPA)により天才プログラマー/スーパークリエータに認定される。2017年からアルファコード代表取締役社長CEOを務める。2017年、2018年に、インプレスR&Dの「インターネット白書」にVRに関する寄稿をしている。

 「VRには、体験できるメディアとしての可能性がある。その可能性を探る中で、VRミュージカル リトルプリンスに携わることになった。私がやりたかったのは、体験そのもの。観客として劇場で観るのではなく、自らが物語の中に入る体験をしてもらいたかった。方法としては、ほんとうにリアルな状況を作り出す方法と、もう一つは 現実とは違うけど、人間がリアルに感じるものをつくるという方法。後者はあまりやられていないが、そのほうが、荒唐無稽な物語でも、自分自身に起きた体験として感じることができるのではないかと考え、その方向を探った」(水野氏)
 
■森氏「物語の中の一体感は、ミュージカルとの共通点」
 実際に舞台で主演した音楽座ミュージカルの俳優でプロデューサーの森彩香氏は、今回の舞台について次のように話す。
 「HMDで映像を見ているときにそれと連動した風や音を感じると、普段は意識していないのにすごくリアリティを感じる。感性がすごく研ぎ澄まされるということにびっくりした。舞台は観る人と観られる人という関係性にあるが、VRでは、誰もが主体になれる。自分がその物語の中に存在していられるということを感じられる。ミュージカルが、劇場という空間で一体感を感じてもらおうとするのと共通しているものがある」

【セッション概要】 高臨場感時代の音と映像の表現手法の再定義
■開催場所:展示ホール6 INTER BEE IGNITION内オープンステージ
■開催日時:11月16日(金) 13:00~14:30
■パネリスト
○水野 拓宏 氏(株式会社アルファコード 代表取締役社長 CEO)
○森 彩香 氏(音楽座ミュージカル 俳優/プロデューサー)
○大黒 淳一 氏(サウンド・アーキテクト/作曲家)
■モデレータ
○江口 靖二 氏(一般社団法人デジタルサイネージコンソーシアム 合同会社江口靖二事務所)

大黒氏「映像も音も、立体的な表現ができるようになると新たなエンターテインメントが生まれる」

大黒氏「映像も音も、立体的な表現ができるようになると新たなエンターテインメントが生まれる」

水野氏「自らが物語の中に入る体験をしてもらいたかった」

水野氏「自らが物語の中に入る体験をしてもらいたかった」

森氏「VRは、劇場という空間で一体感を感じてもらおうとするミュージカルと共通しているものがある」

森氏「VRは、劇場という空間で一体感を感じてもらおうとするミュージカルと共通しているものがある」

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#interbee2019

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