【INTER BEE IGNITIONセッション報告(3)】Mogura VRの久保田編集長が「渡邊課」の渡邊氏、eje代表の三代氏にVR映像の可能性を聞く 体験を共有する新たな映像の可能性
2017.3.23 UP
左から久保田氏、渡邊氏、三代氏
IGNITIONの会場。セッションスペースを中心にさまざまなVR関連の出展ブースが注目を集めた
INTER BEE IGNITIONのセッション「VRで映像は進化するのか? 視聴から"体験"へ 先駆者が語るVR」が18日の13:00から開催された。1日12-13件ものVR関連情報を発信するウェブメディア 「Mogura VR」の編集長の久保田瞬氏がモデレータとして進行を務め、パネリストには、 全天球映像作家 「渡邊課」の渡邊徹氏、eje 代表取締役の三代千晶氏が登壇した。Mogura VRの久保田編集長は、もともと映像業界で仕事していた二人がVRと出会う経緯や、これまでVRコンテンツを数多く制作してきた中で、通常の映像制作との大きな違いについて聞いた。また、そうした現場で日々制作をしている二人が感じる、これからのVRの可能性について聞いている。比較的、ゲームやアニメとの親和性が高いと見られがちであったVRであるが、映像制作の視点からのコメントや意見には、制作時のリアルな意見を数多く聞くことができ、具体的な事例からさまざまな潜在的可能性を感じることができた。
■渡邊氏 デートスタイルから水中全天球映像まで多彩なVRコンテンツを制作
渡邊氏は当初、全天球をつかったPR映像の制作で、VRを用いたプレゼンをしたことがVR制作を始めるきっかけと説明。現在では、全天球の映像企画、撮影、編集を自ら手掛け、Youtubeでも作品を載せているという。デートスタイルのコンテンツや、水中全天球映像。音楽ものライブの制作、MVの制作・監督など実績を重ねている。
VR映像の特徴について渡邊氏は、「体験」に特化している点だという。「最終的にVR作品でどういう体験をしてもらいたいかというイメージから逆算して、物語や企画、VR空間のデザインをしていく」と話す。
■三代氏 日本が世界に誇れる文化財をVRで伝えたい
三代氏はフォトグラファーとして広告関係の仕事をする中で、QuickTime VRに出会い、業務に取り込んでいったことがVRとの出会いという。その後、2004年にejeを設立し、クリエイティブコンテンツの企画・制作などを手掛ける中で、VRを企業に提案し、数多くの実績を重ねている。大阪市の景観や水中撮影によるVRなど、多様なジャンルのVR実写コンテンツを手掛ける中で、「日本が世界に誇れる無形・有形の文化財をVRで伝えたい」という思いが芽生えてきたという。
■VRを福祉に活用する世界的なムーブメント「VR 4 good」
ejeでは、国内初のVRポータル、VR CRUISEをリリースしている。ジャンルを絞らず、ニュース、スポーツ、アーチストライブなど幅広い。「VRは、まだまだ全然知られていない。どうやって見たら良いのかも分からない。優れたクリエイターが良いコンテンツを作っても見せる機会がない。VRを手軽に体験できる場が必要なのではないか」と考え、VRに触れられる機会を増やそうと、ロケーションVRというVR体験スペースの設置をネットカフェやカラオケ、商業施設などに働きかけている。無料のコンテンツのほか、人気映画のVR作品を体験できるコンテンツなどを有料課金で提供しているという。また、VR 4 goodと呼ぶ世界的なムーブメントに触れ、ejeもまた、体の不自由な子供に動物園の動物とのふれあいを体験してもらうなど、VRを福祉に用いる運動にも参加していると説明した。
■渡邊氏「VRはそれぞれの視点で同じ場を共有できるメディア」
VRがこれまでのメディアとの違いについて、久保田氏が問いかけると、渡邊氏は次のように話した。
「映画や写真は、誰かの視点を追体験している形だが、VRは実際に視聴する人自身がまさに体験してる。映像自体は、その人の頭の動きに依存しているため、誰かの視点を見ているというものと大きく異なる」という。また、複数の参加者がそれぞれの視点で同じ場を共有できるという点もVRの特徴だと話す。
■三代氏「全部映るというのも一つの価値。企画・演出でそれをどうつかうか」
三代氏は、VRでは隠せないという点が、報道やニュースからすると、現場をあますところなく見せることができるという利点として捉えられているという。「全部映るというのも一つの価値なので、それを企画につかうか。演出的には、見る人が迷子にならないようにすることが必要。
商業映像の場合、すべてが見えてしまうから大変な部分があるが、企業ベースの仕事の場合、見せたくないところがたくさんある場合、VRとしての意味はない。住宅や美術館など、360度視野を使うことで最大限の効果があるところは撮るべき。
■三代氏「置いてきぼりの映像を避けるための演出の緩急が必要」
ストーリーテリング、展開については、「演劇に近い緩急がないと、おいてきぼりの映像になる。自分は蚊帳の外で客観的に見ているだけになりがち。物語が展開しても、その中で感情的なレスポンシブ、リアクションをどうつくってあげるかが重要になる」(三代氏)。
三代氏は「たとえ仮想としても、 自分が誰かがはっきりしているという設定が大事。 デートはわかりやすい。まわりにイケメンが来てストーリーが展開していく。感情を感じるのに、音を駆使している。ささやかれて、ぞくっとするとか、見つめられて照れるというのは、テレビにはない。VRならではの、まさに"体験"だ。演出の中でうまく使うことで、参加者の感情を高めていく」
■渡邊氏「あらかじめ視聴状態を想定した視点の位置・高さ設定が重要」
カメラの位置について、渡邊氏は「見る側の姿勢や高さに合わせることも必要。立ってみるのか、座ってみるかで映像の作り方も変わってくる。視点の高さを想定しておかないと、体験が異質なものになる」
三代氏は「センターに置くと、情景や距離が等倍になるので、面白く見えない。どちらかに寄せて見せている。また、最終的に視聴するデバイスによっても違うので、撮影したら実際に視聴するデバイスですぐに確認している」
逆に、こういう表現はVRではまずいというのは何かという質問に対して、二人とも動きの激しいものは避けていると話した。
「悪い体験をしてしまうと、二度とデバイスをつけなくなると思うので、酔いには気をつけている。演出的には、多少は動きのある映像も必要と思っている。程度を注意している」という。
■音や振動、傾きなどを加え、新たな体験型エンターテインメントへ
今後の展開として、渡邊氏は、VR映像表現に加えて、体に振動や傾きなどを感じさせる体験を加えるコンテンツづくりを進めているという。振動や傾きを感じる椅子「MX4D」によって、体験が3倍にも4倍にもかわってきて、アトラクションとして成立するという。それをどれだけお手軽に提供できるかが鍵。
三代氏は、「やりたいことはいっぱいある」と前置きしながら、「11/23にガンダムのVRを公開した。そのときに、ガンダム専門のSE会社の協力を得たが、すばらしい音の作り方をしていた。音をもっと効果的に用いるコンテンツをつくっていきたい」と述べた。
【INTER BEE IGNITION】
VR、ARや360度映像、ホログラム映像、プロジェクションマッピングから、4K/8Kパブリックビューイング、ライブビューイングなどのライブエンターテインメントに至るまでの最新映像技術が集結したイベントINTER BEE IGNITION。展示会場内に特設エリアを設け、各分野で活躍するゲストを招いたセッションとともに、関連企業からの出展ブースを設けた。VRコンテンツの制作会社や機材などが出展されたほか、NHK放送技術研究所によるAR技術を用いた未来のテレビ番組の出展などもあり、多くの来場者が訪れた。
今年、11月15日(水)から17日(金)までの3日間、幕張メッセで開催するInter BEE 2017でも開催する。
左から久保田氏、渡邊氏、三代氏
IGNITIONの会場。セッションスペースを中心にさまざまなVR関連の出展ブースが注目を集めた