私が見たInter BEE 2012(その1)全体状況、特別企画・イベント概要
2012.11.21 UP
映像シンポジウム「神秘的で美しい宇宙を体感」の情景
IPDCフォーラムシンポジウムの情景
民放技術報告会(特別企画)の情景
アジアコンテンツフォーラムの情景
北米の“NAB"、欧州の"IBC"と並ぶ世界の放送関連3大コンベンションのひとつである"Inter BEE"は、今回48回目を迎え11月14日から16日まで幕張メッセで盛況に開催された。昨年7月に続き、今年3月、東日本大震災により延期されていた被災3県のデジタル化移行により、わが国のテレビ放送は半世紀以上にわたり続いてきたアナログ方式に別れを告げ、完全にデジタル化された。本格的デジタル時代到来を機に「放送と通信の連携・融合」が一層進み、テレビ放送の視聴態様・環境は大きく変わり多様化している。今大会では「グローバルで進展するメディアのデジタルイノベーション」を謳い、最先端の放送・映像機器、音響機器、照明機器、IPTV、モバイルTVやクロスメディア・ソーシャルメディアなど多種多様な機器やシステムの出展、ソリューションの提案がなされていた。世界経済状況の悪化、日・中・韓の国際状況の変化などによる影響が懸念されたが、出展数は過去最多の871(海外から491)社・団体、来場者数は31,857(海外から750)人といずれも昨年実績を上回り、広大なスペースの展示会場や各種イベント会場はいずれも大変な盛況さだった。
今年8月、超高精細映像の4K、8K(スーパーハイビジョンSHV)がITUの場にて国際規格として承認され、総務省による「放送サービスの高度化に関する検討会」が設置され11月には活動を開始し国の施策として4K/8K超高精細放送・映像時代が本格的に進展することになった。そのような状況を反映し今回のInter BEEにおいても、特別講演でSHVが取り上げられ、多くのブースで4K/8K関連の出展物が数多く見られ見学者の高い関心を集めていた。また世界的にスマートフォンやタブレットなどマルチスクリーン向けサービスが進む状況を反映し、それらをテーにした講演やセミナーなどが多くの聴講者を集め、会場でもモバイル端末を活用する多種多様な機器・システムの展示が数多く見られた。このように今回のInter BEEはまさに本格的デジタル時代に向け、これからのテレビ放送・映像メディアの進展を感じさせる大会だった。
初日朝、恒例のオープニング・セレモニーがメインエントランスロビーにて開催され、主催の電子情報技術産業協会(JEITA)、後援の総務省や経済産業省からの来賓挨拶とテープカットが行われ、デジタル完全移行後初となる”Inter BEE 2012”は始まった。恒例となっていたNHK技師長と民放連会長の挨拶は、今回は時と場を変え、出展企業関係者、シンポジウム・セミナーなどの講演者、メディア関係者などが多数参加した初日夕刻開催のレセプションで行われ、これからの放送メディアの展開などについての期待と抱負について語っていた。
毎年行われている特別講演は国内外の映像・音響分野で活躍する第一人者をプレゼンターに迎え国際会議場で開催された。ハリー・ポッターなど数々のハリウッド作品を手掛けるイギリスのVFXスタジオのゾウイー女史から”The Vision of Double Negative Singapore”のアクティビティについて、NHK技術研究所菅原研究主幹から”Super Hi-Vision in London”と題し、ロンドンオリンピックの際行われたSHV国際伝送とパブリックビュー、今後の放送計画に向けた展開などについて講演が行われた。他にも3件の講演が行われていたが、本格的デジタル時代の到来を迎え、これからの放送・映像・音響・メディアの行く末、展望を探るべく熱心な聴講者が参集していた。
例年人気イベントの映像シンポジウム、音響シンポジウムは、国際会議場で開催され有料ながら大勢の聴講者が参加した。映像シンポジウムでは「神秘的で美しい宇宙を体感~高臨場感映像テクノロジーの進化~」と言うタイトルで、為ヶ谷女子美大教授とNHKアートの国重氏の司会・進行のもと、NASAの宇宙映像システムや、JPL(ジェット推進研究所)が取り組む火星探査機から送られてくる画像データの映像化など最新宇宙映像テクノロジーが紹介された。またNHK番組「宇宙の渚」で使われた超高感度HVカメラやCGによる高精細映像も公開された。宇宙に関するコンテンツ制作を支える最先端技術を知ると共に大画面で見た迫力ある火星地表の映像など、まるで宇宙にいるような臨場感を味わうことができた。また音響シンポジウムでは「大規模スポーツの音声構築」をテーマに、スポーツ中継の音声スペシャリストを一堂に集め、最新情報の紹介やディスカッションが行なわれた。
これからのメディア展開に重要な要素である「放送と通信を連携・融合する放送サービス」の発展を目指し、民間主導で精力的に活動しているIPDC(IP Data Cast)フォーラムは、今回「世界におけるセカンドスクリーン動向とIPDC展開の可能性」をテーマに国際会議場にてシンポジウムを開催した。時代の潮流を反映し大勢の熱心な聴講者を集め会場は満席になっていた。また展示会場のクロスメディアゾーンでは「IPDCが実現するマルチスクリーン型テレビ」を掲げ、タブレットなどセカンドスクリーン向けに動画サービスするデモンストレーションやフジテレビからWEB連携のアプリケーションなど多彩な展示が行われていた。
放送機器展開設の前年に始まりインタービー誕生のトリガーになった「民放技術報告会」は、年々充実を重ね今回49回目を迎えた。今年も3日間にわたって国際会議場で開催され、キー局、地域ローカル局の中堅、若手技術者達による本格的デジタル時代に相応しい有意な発表講演が行われていた。回線・伝送部門、情報・ネットワーク部門、画像技術、制作・送出技術部門、データ放送・デジタルサービスなどテーマ毎に9セッションに別れ、「ワークフロー改善を目指したファイルベースシステムの構築」、「放送と連携したデジタルサイネージの開発」など昨年より多い70件の報告が行われた。2日目午後には特別企画として「放送と通信の連携は新風を巻き起こすか?~ポストデジタル次の一手~」と題したパネルシンポジウムが行われた。日本テレビ放送網の一本氏をコーディネータに、キー局や新設のmmbi、FM東京、アスキーなど第一線で活躍する専門家がパネラーとして、地デジ化完了後の「次の一手」を探るべく今後の技術動向やサービス展開などについて報告と議論が行われた。今トレンドのホットなテーマだけに座りきれない大勢の聴講者が参加していた。
放送業界や映像・音響業界で働く次世代を担う若手や学生向けに、第一線で活躍する講師陣が現場で役立つ基礎的知識やノウハウを伝授する「チュートリアル・セッション」は5年目を迎え恒例行事として定着してきた。映像セッションでは「最新デジタル機器を駆使した映像表現、撮影技法」と「ドキュメンタリー~大震災から1年半、伝え続けると言うこと~」の2テーマについて、音響セッションでは「携帯端末を利用した音響制作・計測アプリの最新動向」および「ファイルベースの音響・映像制作」について、具体的で実践的な講義があり有料講座ながら大勢の聴講者を集めていた。
Inter BEEとしては特異なコンテンツ関係イベントとして、第8ホールのクロスメディアシアターでは今年も"Asia Contents Forum"(アジア10地域が参加する映像コンテストTBS Digi Con6の特別協力)が開かれていた。大画面による優秀作品の紹介や映画「My Girl」で上海国際映画祭最優秀監督賞のタイのアディソーン監督や日本のゲーム界のトップクリエイターなどによるパネルディスカッション、今年リニューアルなった東京駅を舞台に行われた「プロジェクションマッピングが誘う映像の未来型」の制作談や今後の展開について(NHKエンタープライズ)、劇場作品「宇宙兄弟」のメイキング映像の公開(オムニバスジャパン)などが行われていた。普段接する機会が少ないアジア各国の作品やコンテンツ制作の舞台裏などを見る貴重な機会で、大勢の聴講者を集めていた。
映像技術ジャーナリスト(学術博士) 石田武久
映像シンポジウム「神秘的で美しい宇宙を体感」の情景
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民放技術報告会(特別企画)の情景
アジアコンテンツフォーラムの情景