【NEWS】キヤノン EOS C300開発陣 インタビュー
2012.1.31 UP
EOS C300
2011年のInter BEE ブース
ブースにおけるCINEMA EOS SYSTEMの展示
EFレンズの展示
■新たな潮流を牽引するデジタルシネマカメラ
InterBEE2011会場でも大きな話題となったキヤノンの新たなデジタルシネマカメラのラインナップ『CINEMA EOS SYSTEM』。これまでの業務用デジタルビデオカメラの基本的機能に加えて、フィルムカメラからの遺伝子を受け継ぐ高いポテンシャル、そしてこれまでビデオカメラでは無し得なかった、ハイダイナミックレンジな撮影がCanon Logを本体内に搭載したことで実現したことは、これからの映像制作を大きく変える革命的なカメラと言える。
新しい潮流を牽引するデジタルシネマカメラとして注目を集めている。このキヤノン EOS C300/C300PLを生み出した開発陣の方々に、今回の開発についてお話を伺った。(聞き手:DVJ BUZZ TV 編成局長 石川幸宏)
(インタビュー)
キヤノン株式会社
イメージコミュニケーション事業本部 DCP第二開発センター
恩田能成 氏
飯島龍之介 氏
瓜阪真也 氏
放送機器事業部
飯島邦明 氏
—CINEMA EOS SYSTEMプロジェクトの立ち上がりの経緯について
恩田「EOS 5D markⅡが出てEOS MOVIEの価値が認められ始めた頃に、社内でも被写界深度の浅いこれまでにない映像が話題になっていることに注目が集まっていました。しかし我々ビデオの開発陣としては、ローリングシャッター歪みなど、改善すべき点があるという問題意識は当然ありました。それと同時期にアメリカの販売会社であるキヤノンUSAから、EOS MOVIEと業務用ビデオカメラの良い所を合わせた新しいカメラが欲しいという提案があり、丁度我々も考えていた所だったので、それでは一緒にやろうということで、このプロジェクトが立ち上がりました。それが、およそ2年前です。」
—CINEMA EOS SYSTEMの開発で苦労された点は?
恩田氏「企画としては、一眼レフカメラからビデオ、放送用レンズまで、関連部門が非常に多岐にわたったので、それを取りまとめるのが大変でした。またこれまでは開発前に外部の意見をヒアリングするということは無かったので、初めての開発方法でもありました。」
飯島龍之介氏「当社の中では、スチルカメラ、ビデオ、レンズの各開発事業部が縦割りで構成されているのですが、CINEMA EOS SYSTEMはその全ての部門に渡った複合商品ですので、事業部を超えた各部門を調整しながらの開発が大変でした。また開発の前に業界の方を集めて意見を聞いて作ったということはこれまで前例がありませんので、そうした意見を反映すると各部門からこの機能を追加して欲しい、この機能だけは入れて欲しいなどの要望が出てきますが、それをうまくバランスを取って行く作業は大変でしたね。」
瓜阪氏「私は画質の設計が担当でここの苦労も多々ありましたが、特に映画というジャンルに向けた製品ではあるものの、当社の中には、これまで映画という分野へ向けた専門的な知識を持った専門の部門は無かったので、そういう中で仕様を決めて行くのがかなり大変でした。シネマカメラを作りましょうと決まったときに、これまでのビデオ画質の追求とは違って映画の画質って何?というところから始まって、そこは全くの未知数だったので非常に苦労しました。キヤノンUSAからの助力もありましたが、国内の多くの映像制作者やクリエイターなど外部の専門家の方にもお話をお聞きして、機能や操作感などをリサーチさせて頂きました。画質に関しては、話をうかがった方の専門分野や好みの違いなどもあり、どこに狙いを定めるか内部でも議論を重ねました。またレンズなどの他の部門の性能を活かす画質設計という点でも非常に苦労しました。」
飯島邦明氏「私はレンズのマーケティングを担当しましたが、放送機器部門だけは大判センサーが出てくる以前から、2/3インチ(B4マウント)の世界で映画の世界でも他社のシネマカメラに付くようなレンズ開発を進めていたので経験はあったのですが、今回は本格的な映画向けのレンズ開発という事で再度徹底的なヒアリングを行いました。放送用と映画用では大きさ自体もかなり違いますし、もちろん性能も異なる部分が多いので苦労しました。これまでB4マウントのレンズでドキュメンタリー等を撮影されていたお客様も、これからは大判センサー搭載のカメラがあれば、こちらを選ばれる方もいらっしゃると思いますので、今後もユーザーニーズに応えられる製品開発をしていきたいです。光学性能的にはこれまでのノウハウもありますので、十分市場にも受け入れられる製品をご提供できると考えています。InterBEE2011でのユーザーの方からもかなり良い反応を頂いている様です。」
飯島龍之介氏「この製品に限っては、いままでの既存の製品とは違って全くのゼロベースから開発がスタートした製品なのです。ですのでこれまでの製品に付いていたこの機能やこのスイッチを継承しようということはなく、どうあるべきかを優先に開発が進められました。例えばスタート/ストップボタンがフル装備ですと4カ所に付いていることになりますが、こうした設計はどういうポジショニングで撮影したらどうなるといったことを考慮した配置です。こうした設計思想は新しい試みでした。どこに何が必要なのか、これまでの製品に捉われず、必須と考える機能の搭載を前提に多くの関連スタッフの合意を得て、このスタイルに落ち着きました。ボディデザインに関しては、デザイナーが3つぐらいのモックを持って来て、その中の一つがいまのEOS C300ですが、スタッフが最初の段階でほぼ全員一致でこのデザインを気に入りました。」
—EOS MOVIEとの違いとCanon Logについて
瓜阪氏「EOS 5D markⅡが動画機能部分で成功し、EOS MOVIEは世界中で受け入れられましたが、色々とお話を伺ってみるとかなりハデな画作りで、それがシネマカメラとして最適なものかというと、実はそうではなく不満も多く、映画関係者にとってすべて受け入れられているわけではありませんでした。しかしEOS 5D markⅡの功績もすでにあるのでこれを無視する訳にもいかず、またそれを目指すのも違うので、このバランスをどう設計するのかが難しかったです。Canon Logに関しては、まずフィルムっぽいカメラを作りたいということで、フィルムの広いラティチュードをデジタルで実現したいというところから始まって、(映画製作の)ワークフローという部分ではフィルムとの親和性という部分を考えたときに、やはりLogだろうということになりました。日本市場ではLogはあまり浸透していませんでしたが、アメリカに行くとLogという言葉は当たり前に出てきます。最初は純粋なLogではなくて、Logのようなものを目指した時期もあったのですが、開発の中で様々なカラーグレーディングを試す中で、ここはちゃんとしたLogでないとそこは成り立たないな、という結論に達したのです。当初予想していたよりも多くの開発時間がかかりました。」
—EOS C300の今後
恩田氏「このCINEMA EOS SYSTEMの立ち上げによって、各製品開発部門を渡った横軸の広がりと、高い付加価値を目指す高性能、高品位な製品という縦軸の広がりを進めて行くということを、先日のハリウッドでの発表でも明言していますので、これからはこれまでの製品作りと違ってさらに広い分野に通用する製品作りをしていくことになると思います。お陰さまで発表から1ヶ月、非常にEOS C300の評判は良いのですが、このカメラを使って頂けるお客様は、スペックだけを見て購入されるようなユーザー層ではありませんので、やはり今後は実際のカメラを見て、テストしてみてから判断されると思います。年明けから順次世界各地でのテストも行われると思います。」
瓜阪氏「苦労が多かった話が多いですが(笑)、実は最初の1発目の映像で感動できたのは、このEOS C300が初めてでした。このことで開発スタッフのモチベーションが一気に上がったこともあって、それは我々にとって非常に喜ばしいことであり、最終的にここまでの製品が完成出来た一番の理由はそこだったと思っています。」
EOS C300
2011年のInter BEE ブース
ブースにおけるCINEMA EOS SYSTEMの展示
EFレンズの展示