私が見た"NAB SHOW 2014"における技術動向(その3、コンテンツ制作編)
2014.5.2 UP
IPTVライブプロダクションの実演公開(ソニー)
Intelと連携したEOS C500 Rawデータ制作環境(キヤノン)
4K対応可能になったサーバ系(グラスバレー)
一層効率的高度になったPablo Rio(クォンテル)
(その1)のNAB全体概要、(その2)のカメラ編に続き今回はファイルベース化、ネットワーク化が進み高機能になっているコンテンツ制作系の技術動向について紹介してみたい。
ソニーは、XAVCフォーマットによる制作をさらに促進し、進展する4Kへの対応も加速すべく、制作関連の機器ラインアップ、ソリューションの充実、整備を進めている。増大する映像素材に応えアーカイブ、光ディスクシステムの機能をアップし、昨今のトレンドのクラウド活用によるメディアサービスや従来から提唱している効率的制作ソリューションのメディアバックボーンの実演もしていた。さらに、高精細度化によりデータ量が大きくなる制作環境に備え、信号伝送をSDIからIP化していく「IPライブプロダクション」を提案していた。4K制作環境を構築するにはSDIケーブル数が膨大、煩雑に、AVルーターの数も多くなり経費もかさむ。SDIケーブルを光ケーブルに置き換えれば距離の制限もなくメリットが大きい。新開発のSDI/IP双方向コンバータボードを組み込んだ信号処理ユニットを使い、4Kライブ映像・音声・制御信号を伝送する実演をしていた(写1)。いずれは各機器にIPモジュールを内蔵し、機器間を直接IPで繋ぐ環境にする計画だそうだ。
パナソニックはAVC-Ultra 4K編集システムなどを公開していた。注目機は新製品の2M/Eライブスイッチャーで、HD/SDマルチフォーマットに対応し、SDI×32系統とDVI×2入力、SDI×16出力の豊富な機能を装備、多彩なトランジッション効果可能なDVEを搭載し、高機能、性能のわりにコンパクトなモデルだ。
キヤノンは4KカメラEOS C500とIntelを連携しPCベースで再生表示可能となった4K Rawデータの制作環境の実演(写2)、4Kライブブロードキャストや4K静止画応用などを公開していた。またブース内の一郭にEducation Stageを設け、第一線で活躍するディレクターやクリエイターなどによるEOSシリーズなど同社の製品を巧みに使うコンテンツ制作の公開セミナーを実施し来場者の人気を集めていた。
超高精細映像で高い実績を持つアストロデザインは、撮影から記録、表示まで実機で構成した8Kトータルシステムを公開していた。8KDG式CUBEカメラ、8K 非圧縮SSDレコーダ、光伝送送受信装置、8K/4K映像モニターなどである。また8K映像から4KやHDへの抜き取り変換するExtraction/Down Converter、ワークフローの中で使われる高機能の4K対応測定器や波形モニターも展示していた。さらにインターフェース系として3G/HD-SDI、HDMI(Ver.2.0、4K/60p 4:2:0)対応し各種フォーマットやフレーム数、色信号を変換する機能を有するコンバータ、8K⇔4Kクロスコンバータ、8K/4K/HDカラースペースコンバータなどと多彩である。4K/8K制作環境が充実されつつあることを実感させてくれた。
メインテーマに"FOR A for a 4K Future"を掲げる朋栄も多種多彩な機器で構成する4K制作環境を公開していた(タイトルバック写真)。注目は高速度カメラFT-oneと連携し4K映像から任意のエリアを切り出しHDとして出力する”ZE-one”システムで、スロー映像を再生しながら複数のキーポイントに対して任意の倍率、サイズで切り出すことができ、ズームインしながらスロー再生など動きのあるズーム効果が実現でき、スポーツ中継などで従来とは違う映像表現が得られソチオリンピックでも使われたようだ。その他、HD映像を時空間で処理しリアルタイムに4Kに変換する超解像アップコンバータ、5系統のアップ/ダウン/クロスコンバータを1Uの筐体に実装し、FS機能、カラーコレクト機能を搭載したマルチプロセッサー、低価格ながら動き補正機能も装備したHD/SDフレームレートコンバータ、カメラのパンやチルトにかかわらず画振れを電気的に補正するHD/SDスタビライザー、12色を軸としたパラメータを調整し緻密な補正ができるHD/SD高機能カラーコレクターなど多彩である。さらに4K/HD/SD/アナログ/PC信号が混在可能で68 入力8出力の4K対応マルチビュワ、従来からのHANABIシリーズスイッチャーに加え、リンク機能により4K/8K信号切替えにも対応するルーティングスイッチャー、2Uの筐体内に多チャンネルの入出力/コーデック、高速ストレージを搭載した省スペースと高機能、高性能を実現したマルチチャンネルクリップサーバ、Adobe Premiere Proプラグインフレームレートコンバータ、1台でLTOテープへの運用が可能なインジェスト/アーカイブ用機種にAvid DNXHDコーデックを搭載した参考出品のビデオレコーダ、ビデオI/Oが不要なファイルベース素材管理用に小型、低価格化したLTOサーバなど多種多彩な機器が展示されていた。
グラスバレーは4K対応をメインに多彩な制作システム、ソリューションを公開していた。回線収録や送出、リプレイなどで使われており、バージョンアップによりAVC-LongGや4Kにも対応するようになったマルチコーデック・フォーマット対応のビデオサーバ”K2 Summit 3G”(写3)、スポーツ番組のスロー、ハイライト送出用コントロールシステムでネットワークシェリング機能が追加され4Kリプレイも可能になった"K2 Dyno"、そして機能拡張され操作性に優れた統合型ライブプロダクションセンター”GV Director”などの実演が行われていた。ニュースコーナーでは映像制作ワークフローと素材の管理をより効率化し、クラウドにも対応する次世代のアセットマネジメントシステム、最新CPUへの最適化・高速化されたデコードエンジン、64-bitネイティブによる豊富なメモリ空間への対応などにより4K編集も可能になった”EDIUS Pro7”の実演に加え、4Kにも対応可能なスイッチャーフレームも展示されていた。
ブラックマジックも制作系を支援する多種多様な機器を展示していた。昨年、4K対応としてデビューし評判になったATEMスイッチャー1M/Eモデルの上位機種”2M/E Production Studio”がU HD/HD/SD対応になり4Kコンテンツ制作を加速することになった。最先端の6G SDIおよび4K HDMI入力を搭載し、2系統のマルチビュー出力を持ち2台のスクリーンで最大16台のカメラ入力をモニターできる。SD~U HDまでの解像度で、クロマキーやワイプ、DVEなど多彩なイフェクト、高品質のトランジッションにリアルタイムに対応する放送品質のライブプロダクションスイッチャーである。その他、SD/HD/U HDまでの映像のキャプチャーと再生可能なSSDレコーダ”Hyper Deck Studio Pro”、また12G SDIにも対応するスタンダードコンバータ、6G SDI/HDMI/アナログ系にも対応しU HDワークフローへの移行を支援する各種コンバータ、波形や4K映像信号チェックをできる測定器など多彩な機器が展示されていた。展示されていた機器、システムは高機能・高性能ながらいずれも驚くような低価格だ。
世界のコンテンツ制作系をリードしてきた御三家はいずれも大画面を使い華麗なプレゼンテーションをし人気を集めていた。クォンテルは超高精細度時代にあわせ4K/8K対応機種の実用化を進めているが、今回、機能向上した素材共有ワークフロー”Genetic Engineering 2”と連携し、高度な4K作業が複数の編集室、プロジェクト、クライアント間で並行処理できるようになった”Pablo Rio 4K”を公開した(写4)。コンテンツ制作効率、システムの稼働率が向上し経済性も改善される。またAvidとの連携も強化され、スローモーション、トラッキングなどの機能が改善された。その他ニュースやスポーツ放送用ファイルベースワークフロー”Enterprise sQ”、インターネットを使用し遠隔地サーバにアクセスしコンテンツ閲覧や編集可能な”QTube”の実演もやっていた。オートデスクはVFX システム”Autodesk FlamePremium”と映像編集フィニッシングソフトウェア”Autodesk Smoke” の最新情報の解説と第1線で活躍しているアーティストやクリエイターによる実際の作品を使った事例紹介をしていた。アビッドは”Avid Everywhere”を掲げ、メディアコンポーザーを活用し世界のどこからでもメディアやプロジェクトにアクセスし、素材を共有しつつ編集、制作するクラウドベースの制作環境のソリューションを提案していた。その他、メディアアセットマネージメントの製品やソリューションの紹介、業界全体にわたるメタデータの標準化の提唱もしていた。
映像技術ジャーナリストPh.D.石田武久
IPTVライブプロダクションの実演公開(ソニー)
Intelと連携したEOS C500 Rawデータ制作環境(キヤノン)
4K対応可能になったサーバ系(グラスバレー)
一層効率的高度になったPablo Rio(クォンテル)