私が見た"NAB SHOW 2015"における技術動向(その3、コンテンツ制作編)
2015.5.7 UP
写2:IPによる4Kライブ中継を公開(パナソニック)
写3:多種多彩な4K制作機器を出展(朋栄)
写4:リアルタイム8K/60pも可能になったPablo Rio(クオンテル)
写5:大きなテーマになっているHDR映像表示(ドルビー)
(その1)のNAB全体概要、(その2)のカメラ編に続き、(その3)では高精細度化するコンテンツにあわせ、高品質で効率的なファイルベース化が進み、さらに今後のメディア環境を見据え進展しつつあるIP化している制作系およびそれに見合う高品質のモニター、ディスプレイの技術動向について紹介してみたい。
ソニーは、XAVCフォーマットによるファイルベース化を進めておりパートナーが世界に広がっている。これまで機器,システム間の接続、外部への配信はSDIベースで組まれているが、高精細度化が進むとデータ量は大きくなり、4K/60p信号を伝送するには3G SDI 4本が必要で、制作環境構築にはケーブル数が膨大になり、煩雑で手間や経費もかさむ。SDIケーブルを光ケーブルに置き換えIP伝送すればメリットが大きいと言うことで、近い将来を見据え「IPライブプロダクション」システムを提唱している。IP化によりシステムがコンパクトになるだけでなく、クラウドの利用により局外リソースとの連携も進む。このようなファイル化、IP化のコンセプトに添う多様なカメラ、スイッチャーやアーカイブ用ディスクシステムなどが出展されていた。一方、高精細度映像を表示するディスプレイについては、2台の4K SXRDプロジェクターの映像をエッジブレンディングで繋ぎ8K×2Kの大画面ワイド映像を表示していたが、コンサートやスポーツなどのイベント中継、テーマパークや博物館などでの高度な映像利用法として期待される。また映像モニターコーナーには、フル4K有機ELパネルを搭載した30””型マスターモニターが展示されていたが、DCI-P3とITU-R BT2020色域に対応し忠実正確な色再現が得られると共に最近大きなテーマになっているHDR(High Dynamic Range)表示もされていた。
パナソニックは制作系ラインナップ拡充に向け、多彩な4Kカメラやスイッチャー、映像モニターを出展していた。3G/4K対応の2M/Eライブスイッチャーを使いHarrison NJ.と会場をIPで繋ぎライブ中継をし、またAVCカメラレコーダのネットワーク機能を活かし放送局業務を効率化するクラウドネットワークサービスの”P2 Cast”も公開していた。さらに4K VaricamワークフローではAvidによる編集、Film Lightのカラーグレーディング・フィニッシングシステムを使ったカラー調整の実演もしていた。4K制作をサポートするモニターとして、10bit階調と広視野角のIPSパネルを搭載しフル4K/QFHDの解像度とDCI-P3色域をクリアする31”型LCDリファレンスモニターを出展していた。フォーカスチェック機能が搭載されており、4K撮影現場でピント位置が確認でき、画面中央、周囲を4倍に拡大表示しフォーカス合せを支援する。3G HD-SDI×4、 HDMIに対応し、4K解像度を活かし画面を4分割しHD映像と同時に波形やベクトル表示なども可能である。
アストロデザインは、4KをHD放送でも使う技術として4Kカメラ映像からリアルタイムで2K映像を切り出し、回転させたり画ブレを補正するExtraction/Down Converterを展示していた。また4K制作現場で有効な、各種フォーマットやフレーム数、色信号を変換する機能を持つ4Kインターフェースと、BT.2020に対応し信号波形や色度図などと4K映像が同じ画面内に表示できる波形モニター、さらにHD/4Kインサータなどを出展していた。朋栄は次世代の制作、配信系を支える多種多彩な4K機器を出展していた。スイッチャー系では4K対応で最大48入力/18出力まで拡張可能な2M/Eモデルと、8K/4K/HD/SDに標準対応し最大64入力×64出力マトリックス構成可能なルーティングスイッチャーを出展した。高度、多様化するコンテンツ制作に応えるプロセス系については、4Kカラーコレや3G-SDI相互レベル変換などが可能なプロセッサー、4K対応のフレームレートコンバータ、HD映像をリアルタイムで4Kに変換できる超解像付きアップコンバータを展示していた。さらにDG式SHV信号が出力でき、BT.2020とBT.709が選択でき59.94/50Hzの切り替えも可能な8K/4K/HD信号発生器も展示されていた。IP関連では、IPエンコーダ/デコーダおよび4K/HEVCの最新製品、TS/TS over IP信号に対応するチェンジオーバースイッチャーも公開していた。
グラスバレーも今後の制作や配信系の流れである IP化を視野に入れた4Kトータルワークフローを出展していた。モジュラー式プロセスエンジンを採用した3G対応スイッチャーは、M/E列を2分割して利用可能なダブルテイクやキーチェーン、トランジションなどの連動機能を使うことで4K制作にも対応するようになった。既存のルーティングスイッチャーにIPベースのI/Oモジュールを追加し、ベースバンドからIPへ段階的移行を可能にするソリューションも提案していた。またファイルベースのリプレイシステム”K2 Dyno”はハイフレームレートの4K/UHD、6倍速ウルトラスローも可能になった。ブラックマジックのハイエンドスイッチャーはクロマキーやワイプ、DVEなど多彩なイフェクト、高品質のトランジッションがリアルタイムで4K60p対応可能になった。放送用SSDレコーダも12G-SDIおよびHDMI 2.0インターフェースにより1本のケーブルで4K/60pが収録・再生できるようになった。その他にも6G SDI、HDMI、アナログ系にも対応しU HDワークフローへの移行を支援する各種コンバータ、波形や4K映像信号チェックをできる測定器なども展示されていた。
昨年Snellと合併したクオンテルは、これまでで最大規模となる合同のブースで両社の製品を展示していた。高品質カラー&フィニッシングシステム”Pablo Rio”は機能アップされリアルタイムでの8K/60pによる加工処理が可能になった。世の中で8K編集システムはいまだ未成熟だが、今後の8K放送開始に向け本格的システム構築が進んで行くことを期待したい。スポーツ&ハイライトシステム”Live Touch”は機能アップし、プレイリストを再生する際イベント間でトランジッションが追加でき一層クリエイティブ性が向上した。またインフラがSDIからIPへと移行する状況に応え、スイッチング、プロセッシング、送出まで含むトータルのIPシステムを提案し、さらにハイブリッドシステムによりIP化へ移行する方法も提案していた。オートデスクはメディア&エンターテインメントの最新ソリューションを実演、公開していた。最新バージョンのVFXソフトウエア”Flame Premium 2016”は新しいツールを採用し、ワークフローの連携性も向上し、かつインタラクティブなパフォーマンスの向上が図られた。プロジェクト管理ツール”Shotgun”とCGツールを組み合わせ、巧妙、華麗な実演が公開されていた。Adobeは、簡単に色調補正ができるようになったカラーパネル、不要なカットを除いてスムースなシークエンス編集可能なMorph Cut機能などを搭載し、4K制作機能も強化された”Premiere Pro CC”を公開していた。Vizrtは4K対応のレンダリングエンジン”Viz Engine”を活用し、世界中のスポーツ番組などで多用されている”Live Sports Enhancement”、”Sports Interactive”、”Sports Analysys”などで効果的映像を見せていた。
最近映像分野にも参入している音響業界の老舗Dolbyは、最近最先端テクノロジーとして注目されているHDRに関し”Dolby Vision”を展示した。(その2)で触れた最近の各社の高画質カメラで撮影された非圧縮映像は、元来、広色域でダイナミックレンジも広いが、現状ではポスプロや記録、配信などの行程を経るごとに、色情報やダイナミックレンジが制限されている。素材マスターに近い輝度、コントラスト、ダイナミックレンジをディスプレイで再現表示できるように開発されたのがDolby Visionである。昨年のCESやIBCなどで発表され、急速に注目度が高まっている。Dolby Visionはフレームレートや解像度についての制約はなく4KでもHDでも対応でき、色域については次世代規格のBT.2020以上をカバーできる。その実現にはコンテンツ制作、配信、表示各段階での対応が必要となる。ブースではHDR映像と従来のままの映像の比較をしていたがその差は歴然としていた。今回、池上通信機、Thomson、Evertz など他社のブースでもDolby Vision対応の映像表示が使われていた。それとは別の動きとして、ソニーやキヤノン、JVCケンウッドやSGOにおいても独自のHDRを試行する展示が行われていた。
写2:IPによる4Kライブ中継を公開(パナソニック)
写3:多種多彩な4K制作機器を出展(朋栄)
写4:リアルタイム8K/60pも可能になったPablo Rio(クオンテル)
写5:大きなテーマになっているHDR映像表示(ドルビー)