【コラム】CES速報 米DISHネットワークが4K放送開始 PinP機能も提供 OTT事業にも参入へ 4Kテレビの出荷急拡大 2015年は2330万台に
2015.1.8 UP
家電市場予測を発表するCEAのスティーブ・コーニッグ氏
IoTデバイスのオープン化を宣言したサムスン電子のBK・ユン家電部門長
サムスン電子の展示の中心は改良された4KLCD受像機だった
昨年のサムスン電子に続き、LG電子も8Kを出展した
家電の祭典として知られるインターナショナルCES(以下、CES=主催:米CEA)が1月4日から9日(展示会は6日から9日)まで、米ラスベガス(ネバダ州)のラスベガス・コンベンションセンターを中心に開催された。今年の目玉は、ウェアラブルとIoTとの前評判であったが、蓋を開けてみれば4K有機EL、8KLCDなど高解像度指向の製品・技術が多数発表された。とりわけ大きな話題となったのは、米国の衛星放送大手であるディッシュ・ネットワークによるOTT(オーバー・ザ・トップ)への進出である。(上写真は、OTT参入で気勢を上げるディッシュ・ネットワークのジョー・クレイトン社長兼CEO)
(映像新聞 論説委員/日本大学生産工学部 講師 杉沼浩司)
■4K、シェア急拡大へ
1月6日から展示会が始まったCESは、15万人以上の来場者を得るとみられている。出展企業・団体は3600を数え、過去最高となった。会場は、ラスベガス・コンベンションセンター地域を「テック・イースト」、サンズ・エキスポセンター地域を「テック・ウエスト」、アリア・ホテル地域を「Cスペース」とする3地域体制である。テック・イーストは、家電、自動車など、テック・ウエストは家電に加えて、3Dプリント関連、ウェアラブルなど、そしてCスペースはコンテンツ関連となっている。主催するCEAによれば、過去最大規模という。
展示会は6日から始まるが、報道関係者及びアナリスト向けの説明会や新製品発表は4日から始まった。世界の市場状況について説明したCEAにスティーブ・コーニッグ氏によれば、2014年のデジタル家電市場は、1%の伸びを見せ1兆240億ドルの規模だった。テレビの市場規模(台数)は2億4700万台で微増。この傾向は続き今年は2億5100万台(2%増)へ増加するとされ、微増が続くと予想された。注目の4Kは、CEAと共同で調査を行ったGfKは、2014年の出荷台数は930万台と見積り、今年を2330万台と見ている。同社は、調査会社としては控えめな予測を出しており、中には3200万台との予測もある。なお、米国内の販売台数は、今年は400万台とされている。過半数の57%に相当する1330万台が中国での販売とみられている。なお、米国の40型以上のテレビ販売で見ると、400万台とは20%を占めることを意味する。
■ディッシュが4K開始
このように4Kテレビは、市場の中で確固たる地位を得始めた。呼応するかの如く、コンテンツ供給も本格的に始まる。
5日に行われた記者会見で衛星放送会社である米ディッシュ・ネットワーク(以下、ディッシュ)は、今夏から4K放送を開始することを明らかにした。4K対応のSTBは、HD画像同士をピクチャー・イン・ピクチャー(PiP)する機能も持ち、複数チャンネルを同一画面で同時に視聴することを可能とする。同社のビベック・ケムカ常務は「スポーツファンに最適な機能」としている。米国では、DirecTVも間もなく4K衛星放送サービスを開始するとされており、今年は衛星放送が充実することになりそうだ。
■自らOTTに進出
同社の社長兼CEO(最高経営責任者)であるジョー・クレイトン氏は、記者会見で衝撃の発表を行った。この1月より同社がOTT事業を開始するというのだ。OTTとは、米国生まれの用語とされ、「ケーブル事業者を介さずに、(事業者が運営するインターネット接続サービスを使って)番組を視聴する」ことを意味していた。インターネットを介して、従来コンテンツを支配していた事業者の頭越しに受信することから「頭越し」を意味する言葉で呼ばれている。
同社のOTT事業は「Sling Television」と命名され、Sling TV社が事業を担当する。同社のCEOであるロジャー・リンチ氏は「月額20ドルで、ネット経由の番組視聴」を実現するとしている。長期契約の必要はない。ESPN、CNN、TNT、DisneyChannelなど13チャンネルがあり1月末よりサービスが始まる。受信は、iOS、Androidの各デバイスやXbox Oneといったゲーム機、LG電子及びサムスン電子製のスマートTV、Amazo、Google、Rokuのデバイス、そしてWindowsやMacといったPCで行える。ケーブルに加入して来なかった層の取り込みを狙っているが、この層は拡大を続けている。ケーブルカット層とともに、取り込みを狙っている。
■有機ELに明暗
放送サービス側で4Kへの取り組みが加速されているが、受像機側での取り組みはまちまちだった。
韓国のLG電子は、4K有機EL受像機に本腰を入れた。今年は55型から77型まで7機種が用意された。製品開発責任者のティム・アレッシ氏は「アフォーダブル(お手頃)モデルだ」として、低価格化が始まったことを示唆した。また、有機ELの製造設備に6億ドルを投じて、工場を拡張するとした。
一方、サムスン電子は有機ELについては沈黙を守った。代わって「S’UHD」と称する4K受像機向け高画質化技術で広色域、高輝度、高コントラストを実現したとした。ただし、記者会見では具体的な技術内容は明かされなかった。展示ブースでの説明では、バックライトを直下型とし、縁から照らしていた昨年のモデルでは実現不可能だった局所輝度変調(ローカル・ディミング)を可能とした。また、バックライト用LEDには量子ドットを用いて、色域拡大を行ったものである。なお、日本メーカーは昨年のモデルまでに同様な技術を導入している。
■IoTに乗るサムスン
CESにおける今年の流行はIoT(インターネット・オブ・シングス:モノのインターネット)である。5日晩に行われたサムスン電子・家電部門長(プレジデント)兼CEOのBK・ユン氏の基調講演は、まさにこの流れを採り入れたものであった。
ユン氏は、IoT時代には、デバイス、センサへのアクセスが開放(オープン化)される必要があることを強調した。そして、5年以内にサムスン電子の全製品をオープン化することを約束した。
しかし、この約束に拍手で反応したのは、約2600名収容の会場のほぼ半分を埋めた会場前方に着席しているサムスン電子の関係者であった。一般の聴衆が馴染んでいるサムスン電子の製品は、スマートフォンであり、スマートTVである。これらは、既に「つながって」いる装置である。一般の人々にとって、サムスン電子の製品がオープン化されることのメリットが伝わらなかったようだ。
ユン氏の講演は、観念的な正論であり、誰が異論を唱えないものだろう。しかし、これはサムスン電子の事業による経験からから導かれたものであるとは感じられなかった。今回は、同社の製品、技術は全くと言って良いほど登場せず、デモも行われなかった。基調講演で語った内容と、事業の関連性が全く感じられない。講演で語られたIoTの実現例は、家電制御のシナリオなど、業界で遙か昔から何度も語られて来たものであった。その一方で、実現可能性が疑問視されている歩行中の脳波取得を実現例として挙げるなど、空想の域を出ない論も見られた。事業との関連性を想起させられない基調講演で、聴衆の共感を得られたであろうか。
家電市場予測を発表するCEAのスティーブ・コーニッグ氏
IoTデバイスのオープン化を宣言したサムスン電子のBK・ユン家電部門長
サムスン電子の展示の中心は改良された4KLCD受像機だった
昨年のサムスン電子に続き、LG電子も8Kを出展した