私が見た"Inter BEE 2015"動向(その3)ディスプレイ・コンテンツ制作系
2015.12.7 UP
写1:超ワイド8K 2KLEDディスプレイ(アストロデザイン)
写2:パブリックビューイング8KLCDディスプレイ(NHK、シャープ)
写3:4K HDRワークフロー後のHDRとSDRの画質比較(キヤノン)
写4:”Pablo Rio ”による8K/60pワークフローの実演(Quantel)
(その1)では全体概要とコンファレンスについて、(その2)では多種多彩な4K/8Kカメラなどについて紹介した。(その3)では高画質化する大画面ディスプレイとファイルベース化、IP化が進むコンテンツ制作系について概要を紹介したい。
今回、場内随所で、デジタルサイネージ、スポーツ中継のパブリックビューイングなどに適いそうな高画質の大画面ディスプレイが多数目についた。ソニーはブース正面に350インチ位の画素ピッチが細かく高密度の4K対応LEDディスプレイを設置し、東京湾の夜景や夕暮れの富士山など最近トレンドのHDR(High Dynamic Range)映像を映していた。大型映像で実績高いヒビノは画素ピッチが1.6mm、画面サイズ6.5×3.65m、4K、60p対応の大画面LEDディスプレイ”Chroma Vision”により夕暮れの湖畔の景観などを公開し、共信コミュニケーションは1.5mmピッチ、260インチサイズの4K対応LEDディスプレイ(米Silicon Core製)を使い田園風景の空撮映像を映していた。アストロデザインは画素ピッチ1.2mm、画素数7440×1860、画面サイズが9.6m×2.4mの超ワイド大画面LEDディスプレイ(中国AOTO製)を設置し、Video Wall Processorにより画面合成、Dot/Lineを調整し全体で8K2K相当のワイドの臨場感ある迫力ある映像を映していた。また世界市場で実績を上げている中国のCREATE LEDは、中央部の340”は画素ピッチ1.9mmの4K、周辺部は2.6mmピッチで、合わせて400インチサイズの超大型LEDディスプレイで周囲を圧倒していた。夕闇迫る海岸情景など臨場感ある映像を上映していたが、近くで見ても画素構造があまり気にならなかった。
次世代モデルを謳った大画面用投射型ディスプレイも登場し注目を集めていた。ひとつはキヤノンの4KDLPプロジェクターで、同社が長年培った光学、画像処理技術を結集し、反射型LCOSを採用し画素数はフル4Kを上回る4096×2400、小型軽量ながら5000lmと高輝度、投射レンズは収差、歪が無く、TBSで放送中の世界遺産などの明るく鮮明な素晴らしい映像を上映していた。もうひとつはパナソニックの4K+(画素数5120×3200)対応の3チップDLP プロジェクターで、光源に半導体レーザーを採用し高輝度、高コントラスト比を実現し、高速フレーム補間により滑らかな動画が再生できる。レーザー光源搭載により、小型軽量で寿命は長く長時間連続運転も可能で運用性が良くランニングコストも軽減されるそうだ。
直視型大画面LCDモデルも多彩だった。シャープの家庭用の8Kテレビも想定した85"サイズの8K液晶ディスプレイは、エントランスロビーでNHKのSHVコンテンツのパブリックビューイング用に使われ大勢の来場者を魅了していた。さらに同機はアストロデザインやSnell Advanced Mediaブースなどで8Kシステムの映像表示用にも使われていた。またパナソニックは4K対応の98”型 LCDディスプレイを展示していたが、高輝度500cd/m2、コントラスト比1300:1で、駅や空港、商業施設などパブリックスペースでの使用を想定し表面に衝撃に強い保護ガラスを添付してある。アズラボは2Kパネルを目地がほとんど目立たないように16面組み合わせたマルチによる8K大画面ディスプレイと、4Kパネルを16枚使った16Kディスプレイを公開していた。NHKメディアテクノロジーは4Kモニターを4セット使った16Kディスプレイを使い、様々な8Kコンテンツを並列に表示したり、16Kタイムラプス映像を全面に表示したりと超高精細コンテンツの可能性に挑戦していた。
コンテンツ制作や送出用の中、小型のマスターモニターやピクチャーモニターは、HD/4K/8K対応、有機ELタイプやLCDモデルと多種多彩で、それぞれ各社で使われていたがこれらについては別稿に廻したい。
ここまで見てきたように、今、放送・通信メディアを巡る状況は大きく変わりつつあり、それにあわせコンテンツ制作系も高画質化、ファイルベース、IP化に向けかじを切っている。高画質化については4K、8Kに象徴される高解像度、高精細度化はもちろんだが、最近は空間的情報量の増加だけでなく、時間的情報量の増大すなわちHFR(High Frame Rate)や広色域(BT.709からBT.2020など)による色情報の拡張、HDR
(High Dynamic Range)と呼ばれる輝度やコントラストレンジの拡大が大きなテーマになっている。もうひとつの技術的流れは従来のベースバンドのビデオ信号からファイルベースのデータ化であり、さらにシステム規模が軽減でき柔軟性があり信頼性高いIP化への流れである。
ソニーは従来から4K HDRの制作系をさらに機能アップし、明暗差が大きくしかもリアルタイム性が求められるスポーツ中継などにおいて、ミドルレンジのポータブルカメラで撮影し、迅速な映像処理で対応できるワークフローを公開していた。IP化に対しては、インフラを従来のSDI系からIPネットワークに切り替えシステム全体を一元管理する効率的で付加価値高い”IP Live Production System”を提案し、それに添ったスイッチャーやサーバーなどで構成されるワークフローを公開していた。パナソニックは4K、HDRに応えるカメラやモニターなどと共に、IP化を指向する展示もしていた。低遅延で同期性がある12G SDIでの伝送と柔軟で信頼性高いIPを両立し他社製品との相互運用性も実現する”Video over IP”によるソリューションを提案していた。またクラウドネットワークを活用し、P2システムによるハイライト編集やニュース制作業務の効率を高める"P2 Cast"やLiveUとの連携なども公開していた。キヤノンも前述のEOSカメラで撮影したダイナミックレンジの広い映像をSGOの高機能カラーグレーディングシステムMistikaで処理し、HDRとSDRの映像を24"型リファレンスモニターで比較表示し、4K HDR対策のセミナーも開き大勢の関心を集めていた。
クォンテルから社名を変えたSAM(Snell Advanced Media)は、広色域のRec.2020とトレンドのHDRに対応し、リアルタイムに高度な8K/60pによる編集、加工が可能になった最新バージョン”Pablo Rio 8K”による実演をしていた。またファイルベースソリューションとして、3G SDI対応の高画質フレームレートの変換ソフトウェア”Alchemist XF”とインジェストから編集、トランスコードやマルチプラットフォームへの出力まで素材を管理できるソリューション”Momentum”、さらにIPやSDIによる伝送系で自動的に信号の整合性をチェックする“Media Biometrics“を展示していた。グラスバレーはベースバンド技術とIT技術を融合し、カメラからスイッチャー、IPゲートウェイなどの制作・送出系で使われる機器類をIP接続するトータルソリューション”Glass to Glass IP solution”を提案していた。アビッドは進展する4K、IP化に対応するソリューションとして、4K/60p対応編集系”Meida Composer”とメディア共有ストレージ”ISIS 1000”やインターフェース”Artist DNxIO”を組み合わせたコストパフォーマンスに優れたターンキーシステムの実演、さらに在宅や支局でのIPベースによるNews Workflow向けリモート編集システムなどを公開していた。
池上通信機は報道支援システムと連携し、独自開発の収録制御、素材管理、送出制御の各アプリケーションを使用することで、編集ワークフローにおける煩雑な作業を軽減し効率的な運用ができるファイルベースのトータルソリューション”iSTEP+”を公開していた。朋栄はライブプロダクションで活躍する各種ベースバンド機器、制作ワークフローを支えるファイルベース機器、これからの制作環境に欠かせないIP機器、各種4K/8K対応製品群など多種多彩な機器を出展していた。BT.709からBT.2020への色域変換機能が追加され、リアルタイムに時空間補間により画素単位で超解像化するHD<-4Kアップコンバーター、さらにファイルベースソリューションとして柔軟なユーザー管理とメタデータにより素材管理し高速ファイル伝送機能も有しクラウド運用も可能な管理システム”MediaConcierge.3”、またファイルベースと親和性高いコーデックでIP伝送可能で、ストリームを再生しつつ再圧縮せずにMXFファイル化するファイルベース連携IP伝送装置などである。
写1:超ワイド8K 2KLEDディスプレイ(アストロデザイン)
写2:パブリックビューイング8KLCDディスプレイ(NHK、シャープ)
写3:4K HDRワークフロー後のHDRとSDRの画質比較(キヤノン)
写4:”Pablo Rio ”による8K/60pワークフローの実演(Quantel)