【SIGGRAPH ASIA】3Dプリンターのデータ形成手法で新境地 PIXARは「RenderMan」の最新機能を紹介 展示会ではアジアのプロダクションが勢揃い

2012.12.6 UP

シンガポールEXPOセンターのホール2とMAXアトリアが会場
プロダクション中心の展示フロアには多くの学生が詰めかけた

プロダクション中心の展示フロアには多くの学生が詰めかけた

独フラウンフォーファー研究所はシンガポールの大学と共同研究

独フラウンフォーファー研究所はシンガポールの大学と共同研究

英社製リアルタイム・レイトレーシングボード

英社製リアルタイム・レイトレーシングボード

米Khronos Groupは、最終日に説明会DevUを開催

米Khronos Groupは、最終日に説明会DevUを開催

 コンピュータグラフィックスの学会・展示会SIGGRAPHの冬季アジア大会「SIGGRAPH ASIA 2012」(主催=米ACM SIGGRAPH)がシンガポールにて11月28日より12月1日まで開催された。参加人数は4,250名で昨年の7,000名から大幅な減少となった。展示はプロダクション中心で、地元シンガポールや香港、中国本土のプロダクションが自社のアピールに余念がなかった。米PIXAR ANIMATION STUDIOと米NVIDIAは、会場内の小ホールで自社技術の詳細を解説するイベント(Tech Talk)を行いブースは開設しなかった。論文は、82本が発表された。夏の大会と変わらぬ高いレベルの発表が相次いだ。新しい分野としては、3Dプリンター用のデータ構築方法があった。SIGGRAPHの取組が、いよいよリアルの世界にも伸びてきている。
(日本大学 生産工学部 講師/映像新聞 論説委員 杉沼浩司)

■NVIDIAのTech Talkが人気集める
 SIGGRAH ASIAが、2008年の第1回SIGGRAH ASIAの開催地で再び開催された。展示会場は、アジア地域のプロダクションばかりとなり、コンテンツの大会かと見まごうばかりであった。一方、論文発表は82本がなされ、採録率も20%強と一流のレベルを維持しており、CGにまだまだ多くの研究課題があることを示していた。論文発表などのテクニカルプログラムには、約600人(推定)が参加しており、学会としては十分に盛況だった。問題は、展示会の人気といえる。
 SIGGRAH ASIAは今回で5回目を迎える。これまでも展示会はの出展企業が、プロダクション中心になり、CGツールやハードウェアメーカーの出展が薄い傾向にあることが指摘されていた。今年はそれが顕著で、ハードウェアとしては英Imagination Technologiesが目立った程度である。同社は、リアルタイム・レイトレーシングボードを出展していた(写真 上から4番目)。米NVIDIAはブースは置かず、ミーティング・ルームにおけるTech Talkを開催し、同社の技術の応用事例を精力的に公開した。OpenGLなどの標準化を行っている米Khronos Groupは、12月1日に恒例の「Tech U」を開催し、APIの最新情報提供を行った。Khronosは、昨年のSIGGRAH ASIAでは最大のブースを開設していたが、今年はブースは持たず、NVIDIA同様にミーティング・ルームを利用している。
 ソフトウェアでは、米Side Effects Software社が統合CG制作環境「Houdini」を大きくデモしていた。また、パイプライン管理ソフトウェア大手の米Shotgun Softwareがブースを開いていた。プロダクションでは、Lucasfilm Singaporeと米Academy of Art Universityが大きなブースを持った以外は、小規模の小間によるアジアのプロダクションが並んだ。SIGGRAH ASIAのスポンサーでもある米PIXAR ANIMATION STUDIOは、ミーティング・ルームでTech Talkを連日実施した。
 学術機関では、地元シンガポールの国立研究機関The Agency for Science, Technology and Research (A*STAR)、米Carnegie Mellon大学、独フラウンフォーファー研究所などが参加していた。
 このように、今回の展示フロアは技術を見せる場所ではなく、プロダクションが自社の存在をアピールし、同時にリクルート活動を行う場所となっていた。SIGGRAH ASIAは新技術に触れられる場所ではなく、プロデューサがプロダクションを探す場所となったようだ。

■進化するPIXAR RenderMan
 PIXARのTech Talkは毎日2回、1時間ずつ開催され、同社のレンダリングソフトウェア「RenderMan」の最新機能が紹介された。PIXARのRenderManは1984年に同社の前身であるLucasfilmコンピュータグラフィックス部門によって発表されたグラフィックス・アーキテクチャ「REYES(レイズ)」を基本にしている。
 このREYESは発展を続けており、レイ・トレーシング法やグローバル・イルミネーションの導入がなされてきた。今回のTech Talkは、クリス・フォード氏(RenderManビジネス事業部長)が担当した。同社の劇場公開作品で使われてきた技術の変遷を交えながら、最新のRenderManに導入されている技術を解説した。
 ここでは「ブリンの法則」(CG研究者のジェームズ・ブリン (James F. Blinn) 博士が見つけた法則:CGプロダクションの作品制作では、CPU性能が上がろうとも1枚あたりのレンダリング時間は変わらない)を紹介しつつ、同社のレンダリングが1フレームあたり5〜10時間を行き来している様子も紹介された。各作品で使われた特徴的な技術が語られ、いかにレンダリングするかが実例と共に紹介された。
 最新作の映画「BRAVE」(邦題:メリダとおそろしの森)では毛髪および毛糸の描画が膨大になっているが、これらについても解説がなされた。なお、BRAVEではレンダリングに1フレームあたり10.5時間を要しているという。
 PIXARのTech Talkには、開場前から長い行列ができ、関心の高さをうかがわせた。会場は毎回満員となっていた。

■3Dプリンターのデータ形成で新境地
 論文発表は、今年も非常に高いレベルのものが並んだ。SIGGRAH ASIAの論文選定プロセスは、SIGGRAPHのそれと同じである。また、TOG(年4回発行される米ACM SIGGRAPHの論文誌)からも5本の論文が今回発表されている。
 この大会で現れた新たな傾向は、3Dプリンターに関連したデータ形成であった。小型の3Dプリンターでは制作できない形状を小部品ごとに自動的に分割する方法は、金型の分割とは異なる要求事項があり、従来、理論では対応していなかった。
 今回発表した米プリンストン大学のグループは、新しい道筋を切り開いたようだ。一方、英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのグループは、連接部分を持った模型を3Dプリンターで作成する理論を構築した。CADデータの単純な変形ではなく、連接部分の設定に強度や変形方向に関して種々の配慮がなされている。
 3Dプリンター関連で最も印象深かったのは、テルアビブ大学(イスラエル)と南洋理工大学(シンガポール)が共同で研究した、ブロックを組み合わせる細工を創る理論である。部材を組み合わせるが、外せるのは一つだけである。そして、これを外せばすべて分解できる、という構造を持っている。この個々のブロックを3Dプリンターで作るというのである。細工の作り方を数学的に定義することで、これまでの勘と経験に基づく手法では実現不可能だった極めて大規模(35×35)な細工を実現した。
 発表されたそれぞれの研究は、単に3Dプリンターを使うのではなく、従来不可能だったことを解決する理論を提示したところに大きな価値がある。

■E Techに停滞感
 テクノロジとアートの境界線でアイデアを競うエマージングテクノロジ(E Tech)は、日本の大学からの出展が多かった。しかし、多くが安易な組み合わせに過ぎず、その意義が継承される種類のものではなかった。技術的新規性は無いが「ちょっと面白い」程度の展示が、特にSIGGRAH ASIAでは増えている。この「ウケ狙い」的出展が、E Techに停滞感をもたらしている。論文を通すほどの能力は無いが、既存物の組み合わせでウケを狙うという安易な作りでは、やがてCGの世界から淘汰されてゆくだろう。

プロダクション中心の展示フロアには多くの学生が詰めかけた

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独フラウンフォーファー研究所はシンガポールの大学と共同研究

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英社製リアルタイム・レイトレーシングボード

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米Khronos Groupは、最終日に説明会DevUを開催

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#interbee2019

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