私が見た"NAB Show 2015"における技術動向(その4)配信、符号化技術編
2015.5.11 UP
写2:多種多彩なIP関連技術が公開されていたImagineブース
写3:最近のメディア環境に応える各種デバイスを出展したDekTec
写4:測定器も4K対応へ(リーダー電子)
写5:例年以上の注目を集めたNHKの8Kシステム
3回にわたり全体概要、高性能化目覚ましいカメラ、ファイルベース・IP化が進む制作系について見てきた。最終回の(その4)では、配信・伝送技術、あらゆる分野のベースを支えている符号化技術、そして次世代技術を公開したFuture ParkでのNHKの8Kシステムについて紹介したい。
NTTグループは多種多彩な伝送・配信、符号化技術を公開した。2020年の東京オリンピックに向けて、世界各地でスポーツの感動を共有する「イマーシブテレプレゼンス”Kirari”」を提案していた。その時には4K・8K放送の進展により、テレビやパブリックビューイングで、スポーツの感動を共有すると予想されるが、従来技術だけでは臨場感に限界がある。そこで次世代コーデックや高臨場感メディア同期技術などを組み合わせ、映像・音声だけでなく周囲の空間や環境の情報も伝送し、立体的に再現するのだそうだ。今回、1チップLSI搭載の4K/60p/4:2:2対応のH.265/HEVCリアルタイムエンコーダと4Kシミュレーション映像を公開していたが、マルチチップによりリアルタイムに8K/60pにも対応できる。また高性能誤り訂正技術を搭載したIPゲートウエイは、従来技術に比べ格段にエラー訂正性能が高く、IPネットワーク系で伝送する際パケットロスがあっても伝送品質を高く保つことができ、両方式による伝送比較が公開されていた(タイトル写真1)。HEVC main 422 10 プロファイル、60pに対応するデコーダは動きの速いスポーツ映像に最適でパブリックビューイング、素材伝送、伝送信号のモニタリングに幅広く利用できる。DVB-ASI入力、3G-SDI出力によるHEVC 422 10bit 4K60p リアルタイムデコード映像を表示していた。さらに新たなトランスポートに関し、従来のMPEG2-TSでは対応できなった柔軟なメディア間の同期および多重化が可能で、信頼性が高く、U HDの配信サービスを実現するMMT&HEVC技術も公開されていた。
NECはNTTと共同開発し、現在4K試験放送で使われているHEVC 4K/60pリアルタイムエンコーダと大容量のメディアデータ用アーカイブストレージを展示していた。東芝は小型筐体ながら4エンコーダを搭載し最大10 TSが入力可能なISDB-T用の符号化/多重化装置と、広帯域で効率性が高くテレビ送信機に使うパワーアンプを展示していた。
新装成ったImagine はIP時代に応える様々なソリューションを展示していた(写2)。マルチスクリーン配信において重要なメディアフォーマット変換を分散処理することで大量に高速、正確に行えるFile Managerを公開していた。4K/HEVC/MPEG-Dashに対応しワークフローの自動化や効率化を実現できるそうだ。またIPTV、OTT サービス、モバイルなどマルチスクリーンに向けライブや配信にとって最適な多入力・多出力でハイプロファイル対応のライブエンコーダも展示していた。Harmonicは放送、通信、ケーブル、サテライトなどマルチスクリーン環境において、コンテンツ制作や配信に関する多種多彩な出展をしていた。多様な機能、柔軟な運用性と広範な拡張性を持つバーチャル環境でのアーキテクチャー、ソフトベースのメディアサーバとフルフレームのU HDエンコーダを持つプラットフォームによる4Kワークフロー、コストと効率性が良いクラウドリソースを活用するファイルトランスコード、ATSC放送用のMPEG2/AVC SD/HDエンコーディング技術など多彩なソリューションを公開していた。Thomson Video Networkは、OTTやマルチスクリーン放送を含むデジタル放送プラットフォーム構築をサポートする映像配信ソリューションや、複数エンコード処理機能を持ちマルチスクリーン向け配信分野で実績ある“ViBE”シリーズによる4Kエンコーディング、HEVCコーデック関連のデモをしていた。
DekTecは最近のメディア状況に応える様々なデバイスを展示していたが(写3)、ペンライトのようなUSB3.0モジュレータはコンパクトサイズながら地上波、CATV、衛星波(DVB-S、ISDB-S)と世界の主要な放送方式に対応する信号発生器で、次世代4K放送の技術要件も満たしている。3系統の4K信号入出力が可能で、最大4K60Pの3CHを同時に制御可能な高性能、高機能で、専用アプリケーションを用いSDI信号の監視、記録、送出、エンコードなどをPCスペックにあわせて自由自在に組み合わせ構築するPCI Expressカードも展示していた。intoPIXはJPEG2000をベースにする視覚的に劣化がない大変軽い4K圧縮技術”TICO”とJPEG2000による低遅延の4K/8Kコーデックを、BarnfindはIP回線を使うシステム構成にも対応できる高機能マルチインタフェースコンバータとバージョンアップした制御ソフトを出展した。Metusは放送局や制作プロダクションなど様々な環境で、各種フォーマットや編集ソフトウェアに対応するファイルベース映像/音声コンテンツのアセットマネジメントシステムと学校や企業でも使われるインジェストソリューションの実演をしていた。またIP配信系のハード・ソフト開発を手がけるZixiは、ネットワーク環境が劣悪な場合に発生するパケットロスを修復し映像や音声の欠落を軽減する事ができるQoSソリューションを公開していた。
計測ソリューションや測定器関連メーカーも4K高精細映像時代の制作、配信を支援する各種機器を展示していた。ROHDE &SCHWARZは昨今のメディア環境に照準を当て、4K XAVCの収録、送出と共にHD作業も並行して行える4KサーバやJpeg2000を強化したマスタリングステーション、DVBやISDB をサポートするマルチスクリーン放送監視装置 、広帯域の信号を出力できるマルチチャネル信号発生器などを展示していた。テクトロニクスは4CHの3G SDI入力を装備し、4Kまでサポートする高機能の波形モニター・ラスタライザーを展示していた。4Kカメラの調整、カラーグレーディングや色補正、設備メンテナンスなど総合的モニタリングに適している。リーダー電子は4K映像制作をサポートする機器として、従来のBT.709に加え次世代規格BT.2020両方の色域映像管理が可能なフル4K対応波形モニターを展示していた(写4)。表示部の高品質フルHDの9型液晶モニターは4K撮影で課題だったフォーカスあわせにも使え、3G-SDI信号の4入力同時表示により信号波形、ベクトル、ピクチャー、オーディオなどの表示もでき制作現場で威力を発揮する。
近未来の最先端技術を公開するFuture ParkではNHKが8K SHVシステムを公開していた。日本の8K放送ロードマップでは、来年からの試験放送を経て2018年には実用放送が開始される。オープニングセレモニーで、ゴードンNAB会長が4K/8Kの進展への期待を語り見所としてNHKの8Kに触れたこともあり、NHKブースは大盛況だった(写5)。8Kシアターでは、世界遺産となった「富士山森羅万象」や”FIFA World Cup Highlights”などの最新作品が22.2CHサラウンド音響つきで上映されていた。展示コーナーには、スポーツ中継などの制作現場での使いやすさを重視した小型軽量の標準モデルの8Kカメラと、初の可搬型8Kカムコーダが展示されていた。8K映像の記録系にはコンパクトで使いやすくなった新型の録画・再生機が、ディスプレイについてはシアターで使われていたDILAプロジェクターに加え、85"サイズの直視型LCDモデルがSHVコンテンツ上映用に使われていた。また開発中の13.3”サイズの有機EL 8Kモニターも初公開されていた。 さらにSHVの最終的スペックにあわせ、フレームレートが120HzでBT.2020色域対応の制作システムとして、超小型CUBE型カメラとレコーダ、光ファイバーインターフェースなどが展示され、60Hz映像と120Hzで撮られた映像が120p、BT.2020対応LCDモニターで表示されていたが、両者の差は歴然としていた。4Kとの差別化のためにもフルスペックの8Kシステムの早期の構築が期待される。さらに8K放送に使う多重化方式としてMMTを用いる”Advanced Hybrid Services”も公開していた。
これまで8KはNHKの単独行の感もあったが、今回のNABでは、池上通信機、日立国際電気、アストロデザイン、クオンテルなどが8K関連の出展をしていたが、その他にも8Kを視野に入れた展示物が目につくようになってきたが、今後さらなる展開を期待したい。
写2:多種多彩なIP関連技術が公開されていたImagineブース
写3:最近のメディア環境に応える各種デバイスを出展したDekTec
写4:測定器も4K対応へ(リーダー電子)
写5:例年以上の注目を集めたNHKの8Kシステム