【CEATEC 2012】世界最大級90型液晶、IGZO、4K ICC-LED TV、モスアイ搭載TVなど多彩だったシャープのディスプレイ・アプローチを紹介
2012.11.6 UP
モスアイパネル実装のAQUOS
10月2日から6日まで、千葉県幕張メッセで開催されたCEATECにおいて、シャープのでは、AQUOS 90V型から4K対応ICC-LED TV、IGZOモバイルディスプレイまで揃え、幅広いディスプレイ技術の紹介となった。シャープが出展した数々の新たな映像表示技術は、クリエイターにとっても刺激的なものであるに違いない。11月14日〜16日に開催されるInterBEE 2012では、アストロデザインがIGZOを搭載したディスプレイを出展するなど、プロ機器におけるプレゼンスも拡大中だ。シャープがCEATECで展開した各技術について、レビューする。(ザッカメッカ 山下香欧)
■IGZO ディスプレイ
シャープは、酸化物半導体「IGZO」を用いたLCDパネルを多数出展した。IGZOは、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)からなる酸化物半導体で、テレビ用のLCDパネル上でスイッチに使われるアモルファス半導体よりも20〜50倍の電子移動度を持つ。電子移動度が高ければ、小さな素子で大きな電流を流せる。パネルの電力消費を抑えて高精細化を実現できる。IGZOを用いれば、トランジスタ部分が小さくなるため、光が通る部分が大きくなる(高開口率)。これは、バックライトの光量を抑えても、従来と同じ輝度を得られることを意味している。また、低抵抗で電流が流れるため、パネルとしての電力消費も抑えられる。
シャープは、このIGZOディスプレイをCEATECに先立つ1カ月ほど前の9月に、ドイツで開催された世界最大のエレクトロニクスショー「IFA 2012」で初公開している。CEATECで出展したIGZOは、IFAで展示したものから更に薄型高性能化したCAAC (C-Axis Aligned Crystal)と呼ばれている新世代のものである。
同社では、高精細のノートPC向けディスプレイや液晶モニター、そしてモバイル機器用と、幅広いアプリケーションに向けてIGZO液晶パネルを供給する意向だ。IFAノブースでは、今春に本格生産化を発表した業務用の32インチで4K (3840×2160ピクセル/140ppi)の液晶モニターのほか、IGZOの三大特徴ともいえる「高精細、低消費電力」を生かした「高感度タッチパネル」をアピールするため、従来の水素化アモルファスシリコン(a-Si)製のディスプレイとの比較展示を行っている。
CEATECの展示でも、32型の4Kx2Kパネル(3840x2160:140ppi)や13.3型タブレット用パネル(2560x144:221ppi)、10.8型PC用パネル(1366x800:147ppi)、そして7型電子ステーショナリー用パネル(1280x800:217ppi)などが置かれていた。10.8型では、同サイズのアモルファスシリコン-LCDパネル(アモルファス半導体使用)との比較が行われ、高開口率によるバックライト消費電力の削減、駆動用トランジスタの性能向上によるドライブ電力の削減が示されていた。
IGZOの大きな特徴は休止駆動ができる点にある。回路オフ時はリーク電流がほぼ遮断できるため、回路のオン/オフにかかわらず電流が流れ続けるよりも電力効率が非常に高い。a-Siの場合は、休止駆動を用いるとオフ時の動作性能から書き換え時にフリッカーが発生してしまう。従来の液晶だと、60Hz (1秒間に60回)ごとに画面の書き換えを行うが、IGZOで画面の動きがほとんどない場合は、比較して1/5~1/10程度まで消費電力を低減できる。
a-SIとのスペック比較のコーナーでは6.1型(2560x1600/498ppi)から10.8型(1366x800/147ppi)パネルを展示。そして実用商品化の可能性も検討されているという10.1型(2560x1600/299ppi)と13.3型(2560x1440/221ppi)のIGZOタブレット、7型(1280x800/217ppi)でタブレット向けパネル(電子ステーショナリー)を展示している。
■ICC LED-TV
常時20分~30分待ちとなった、60V型「ICC LED-TV」のシアター内には、現行HDのAQUOSテレビ(1920×1080)と4Kスペック(3840×2160)の60インチICC LEDテレビを並べた視聴ルームが3部屋あり、IFA 2012でも行った比較映像が行われた。
ICC とは、I3(アイキューブド)研究所が開発した画像処理ICC(Integrated Cognitive Creation、統合脳内クリエーション)LSIで、シャープでは、光クリエーション技術と呼んでおり、光刺激に対する人間の認知過程を再現する技術だ。 つまり肉眼で見たそのものが再現されているわけではなく、人間の脳が実際の光景を見るときと同じ光情報をICCで補完し、画面すべてに焦点が合った、遠近感が認識できる映像を再現するという。
I3研究所は、ソニーで解像度創造技術DRC(デジタル・リアリティ・クリエーション)を開発していた部隊が立ち上げた開発会社である。「パートナー企業と共に独自技術の研究開発を行うオープンプラットフォーム型研究開発企業」として事業展開を行っている。
ICC-LED TVは、そのICCをシャープの4Kパネルに実装したもの。シャープのバックライト技術により更に輝度均一のとれた映像を映し出す。商品化については、欧州では213年下期を予定とIFAで明らかにしているが、国内については正式な発表はない。シャープでは、4K画質をもつディスプレイとしてアプローチはしていない。またAQUOSラインとは融合せずに幅広い分野で展開していくとみられる。
■8Kおよび大画面ディスプレイ
そのほかにもシャープでは参考展示として世界最大級の90V型AQUOS 「LC-90LE745U」(米国モデル)、そしてJEITAブースにあるNHKによるスーパーハイビジョンビューイングコーナーにて 直視型のスーパーハイビジョン対応85V液晶ディスプレイを提供している。この85V液晶ディスプレイは幅1.9メートル、高さ1.05メートルの85Vサイズで、横7,680×縦4,320画素(8Kx4K、約3,300万画素)の画素数を実現。輝度は300cd/m²、表示階調はRGB各色10bit(最大10億色)になる。シンプルなパネル構造の当社開発「UV2A技術」とバックライトにRGB各色のLEDを採用し、圧倒的な臨場感と迫力ある映像表現を実現。またAQUOSで培った高画質映像処理技術により、SHVという大容量の映像駆動を可能にしている。
夏季オリンピック会期中にNHKがパブリックビューイングを実施した際、秋葉原の「ベルサール秋葉原」と福島の「NHK福島放送局」の2拠点でこの液晶ディスプレイが使われた。 CEATECでのスーパーハイビジョンビューイングコーナーは、屋内とはいえども全灯で空間が広かったが、それでも高コンストラストで立体感まで感じられる高精細な画面表示を実現していた。
■「モスアイパネル」実装のAQUOS
モスアイ型低反射フィルムを実装したAQUOSディスプレイを参考展示している。 同社ブースに展示されているのは、AQUOS クアトロン 3D LCシリーズの 80型、70型、60型の大型ディスプレイ。 モスアイ・フィルム自身は、大日本印刷と共同開発したという。
モスアイ型の低反射フィルムは、フィルムの表面に高さが200nm強、底面の直径が100nmというナノ単位の微小な円すい状の突起を規則正しく形成したもの。突起と突起の間隔が可視光の波長よりも小さいため、外部からの光はこの突起に影響されず透過する。
動物の目と違って光を反射しにくい蛾の目の構造と似ていることからモスアイと呼ばれている。モスアイ構造では、斜め方向からの光の反射も防止でき、また外光だけでなく映像の発色も拡散することなく、高コントラストな映像を再現することができるという。モスアイ実装のAQUOSは、外光の映り込みが見られないが、ノングレア(非光沢)パネルのようにコンストラストが落ちることなく、鮮明な画像を表示している。シャープによると、早い時期に商品化として市場投入する意向という。
モスアイパネル実装のAQUOS