【Inter BEE 2013】私が見た"Inter BEE 2013"動向(その1)全体概要、各種イベント編
2013.11.26 UP
「 HTML5時代における動画配信の最新動向」
映像シンポジウム「新たな放送メディアサービスの現状と今後の展開」
チュートリアルセッション「デジタルシネマ4K今昔」
IPDCフォーラム「パーソナルTV視聴の現状と今後」
デジタル化完全移行から1年、放送を巡る状況はポストデジタルを見据え大きく変わり新たな展開を始めている。スマートフォンやタブレット端末が普及し、放送や通信の視聴・利用環境は変わり多様化している。この1年に起きた放送メディアに関連する出来事、ニュースを振り返って見ると、最新のコンテンツ制作・配信を支える高品質で圧縮効率の高い符号化技術HEVCがITU(国際電気通信連合)において標準化され、次世代高精細度放送4K/8K U-HDTVが同じくITUで標準規格化された。わが国では次世代放送推進フォーラム”NexTV Forum”が発足し、次世代放送に向け具体的な展開が始まっている。
9月頭には放送と通信を連携する「ハイブリッドキャスト」サービスがNHK総合テレビで開始された。IBC直前、ブエノスアイレスで開かれたIOC総会で2020年東京オリンピック開催が決定された。これまでも放送とオリンピックは密接な連携があり、1964年東京大会ではカラー放送と国際衛星中継が始まり、1988年ソウル大会でハイビジョン実験放送が開始され、1998年長野大会では今につながる薄型テレビ(PDP)が実用化された、と言うように放送メディアはオリンピックを機に技術的成長をとげ発展してきた。そして2020年東京大会に向け、4Kはもちろん8K SHV(スーパーハイビジョン)放送が本格的に加速されることになる。10月開催された東京国際映画祭には8Kドラマが初めて登場し、11月Inter BEEの直前に武道館で開催されたアリスライブ公演がスカパーJSATにより4K生中継が実施された。と言うように新たな放送メディアに対する機運、期待は急速に高まっている。
今年49回目を迎えたInter BEE2013は、やや明るい兆しを見せつつもいまだ先行き不透明な経済状況下、11月13日から15日まで幕張メッセで盛況に開催された。今大会における出展社・団体は昨年より約50社多く過去最多となる918社を数え、来場者数は31979人と昨年実績をやや上回った。今大会では、このようなメディア状況、昨今の社会的ニーズに応える最先端の多種多彩な技術やコンテンツが展示公開されていたが、ここでは主に映像関連の動向について4回にわたり概略を紹介したい。
InterBEEでは、機器展示だけでなく例年多種多彩なコンファレンスやセミナーも開催されており、最新のホットな情報や最先端の技術・ノウハウを、国内外の有識者や最前線で活躍する専門家から直接話を聞くことができると言うことでいずれのセッションも盛況だった。
初日朝、開かれたオープニングセレモニーでは総務省と経済産業省の揃い踏みとなり、奇しくも2020年東京オリンピックが決まったことも大きな推進エンジンとなり、今後、国の施策として4K/8Kを推進していくこと、それに向け学界、放送・通信、機器メーカなど関係業界が一層協力、連携をしていくこと祈念してテープカットが行われ、わが国の放送の新たなスタートとなるInterBEE2013が始まった。
それに引き続いて国際会議場で開催された基調講演では、総務省の情報流通行政担当の南審議官から「放送サービスの高度化に向けて」のタイトルでこれからの放送メディアの進展に関する国の考え方について話があった。オリンピックと共に成長してきた放送の歩み、これからもワールドカップサッカーやオリンピックなどの国際的イベントを機に4K/8Kなど新しい放送の展開が本格的に進んで行くこと、それを支援・推進するために設立されたNexTVフォーラムのこと、今後の放送メディア進展のロードマップや国の施策、課題などについて語っていた。まさに今回のInterBEEを象徴するテーマだけに大勢の聴講者が熱心に聞き入っていた。
また同日午後には、新たな放送メディアの大きな潮流である通信との連携を強めるスマートテレビやソーシャルメディアに関連し「HTML5時代における動画配信の最新動向」と言うテーマで講演やパネルディスカッションがあった。NTTやクアルコムから最新配信コーデック規格”MPEG-DASH”についての話やビットメディアなどからHTTP動画配信技術の応用例などが紹介された。さらに慶大村井教授モデレータのもと、NHKの「ハイブリッドキャスト」、日本テレビの”JoinTV”、毎日放送の「マルチメディア型放送研究会」、FM東京の「V-Low帯マルチメディア放送」に関し活発なパネル討論がなされていた。これらのセッションは、華やかな4K/8Kとは趣の違うやや地味なテーマだが、放送メディアの一層の多様化とビジネスチャンス到来にもつながり得るということで熱心な聴講者を集めていた。
また2日目午後には例年好評の映像シンポジウムが開催されていた。女子美大為ヶ谷教授とNHKアート国重氏の司会進行により「新たな放送メディアサービスの現状と今後の展開」と題して、4K、8Kスーパーハイビジョン(SHV)やスマートテレビ、ラジオコンテンツへの期待などをテーマに講演とパネル討論が行われた。パネラーにはNexTVフォーラム、NHKエンタープライズ、NHK、電通、radikoの第一線で活躍する専門家達だった。講演や議論の中で、今後、放送は通信との連携をますます強め大きく変わり多様化していくことは当然として、コンテンツ制作が効率性や経費縮減などへの要請からワンソース、マルチユースになりかねないことは注意すべきであること。それぞれ個別メディアの特質、特性を発揮すべく制作、配信されるべきで、そのためにも新たな感性、力量を備えた時差代を担う人材が求められること。それと共にこれまで長きにわたり培ってきたテレビ番組の制作、サービスにおける技術力、ノウハウはこれからのメディア展開の中で活かして行くべきだなどと語られていたことが印象に残った。
次世代の放送マディアの進展を担う放送・映像・音響業界で働く若手エンジニアやクリエイター、これらの分野に関心を持っている大学や専門学校の学生などを対象に、現在第一線で活躍する講師陣によるチュートリアルセッションも開催されていた。映像セッションでは旬なテーマである「デジタルシネマ4K今昔」と題して川上氏が講演し、マーロン氏が「HTML5のコンテンツ制作」について現場で役立つ実践的で基礎的知識が伝授されていた。さらに今回初めての試みとして、NABで実績ある”Post Production Conference”と称しAdobe、Apple、Avidのインストラクターにより「ノンリニア編集における色補正の秘訣」などの実践的研修も行われていた。国内にいながら米国の一流インストラクターの話を聞ける貴重な機会だった。
またクロスメディアシアターで開かれたIPDC(IPData Cast)フォーラムのセッションでは「パーソナルテレビ視聴(More TV)の現状と今後」と題し、日大の杉沼講師などから海外における先進事例や先進的な取り組みなどの紹介が行われていた。今、世界的に放送・通信連携の動きが急激に始まっていることを実感させてくれた。同じシアターでは、今年も”Asia Contents Forum”が開催され、「アジアにおけるメディアビジネス最前線」と題した講演や海外からのクリエイターによる作品紹介やNHK大河ドラマ「福島《八重の桜》プロジェクト~東北復興への想い~」報告なども行われていた。
テレビ放送開始後10年目の1963年に始まり、その翌年に放送機器展(現Inter BEE)発祥のもとになった民放技術報告会は伝統ある催事で今回50回という区切りを迎えた。今年はテレビ放送開始60周年、アナログからデジタル放送へ移行して1年目、通信との連携を一層強め、高精細度化へと大きく成長しようとしているだけに、今のメディア状況、技術動向を反映した報告が行われていた。特別企画には、時流を反映し「新たな撮影技術への取り組み~4Kの現在と展望~」と題するパネルディスカッションが行われていた。
映像技術ジャーナリスト(Ph.D.) 石田武久
「 HTML5時代における動画配信の最新動向」
映像シンポジウム「新たな放送メディアサービスの現状と今後の展開」
チュートリアルセッション「デジタルシネマ4K今昔」
IPDCフォーラム「パーソナルTV視聴の現状と今後」