私が見た「IBC 2013」動向(その1)

2013.10.8 UP

IBC会場のコンベンションセンターの情景
会場の内外で日本企業の勢いを見せるキヤノンの大きな看板

会場の内外で日本企業の勢いを見せるキヤノンの大きな看板

大画面、高精細映像で来場者を魅了するソニーブース

大画面、高精細映像で来場者を魅了するソニーブース

Future Zone のNHKのSHVとハイブリッドキャストの公開

Future Zone のNHKのSHVとハイブリッドキャストの公開

JBA(日本民間放送連盟)がIBC Award受賞

JBA(日本民間放送連盟)がIBC Award受賞

 IBC2013がオランダのアムステルダムで、日本の晩秋の感がある9月13日から17日まで開催された。(その1)、(その2)の2回に分け、今大会の概要、全体状況と技術動向や各社の出展物を紹介したい。
 IBCの歴史を簡単にひもとくと、最初の大会は1967年にロンドンで開かれ、その後、種々の事情によりブライトン(英)などを経て1992年にアムステルダムに移り、創設からすると今年が45年もの長い伝統を持ち、今や米国のNAB 、日本のInter BEE とともに世界の3大放送機器展に成長している。

 アムステルダムは、観光的には風車や運河、飾り窓などで有名だし、日本とは歴史的つながりが深いオランダの首都として人口74万(我らの感覚では意外に少ない)を抱える大都市である。いまだ中世の面影を残す旧市街地には赤レンガ造りの3角屋根の建物が数多く並び、どこを見ても絵や写真のスポットになるような景観だ。IBCの会場は、東京駅のモデルになったと言われる優美で荘厳なセントラルステーションから、モダンで洒落たデザインのトラムカー(路面電車)でのんびり走ること約30分、旧市街をはずれた近郊のRAI地区に建造された近代的で広大なコンベンションセンターで開催されていた。

 今回のIBCは、世界的には翳りが見え始めている経済状況やシリアやエジプトなどに見る不安定な政治状況を抱え、日本経済は昨年よりはやや上向きの感はあるもののまだまだ先行き不透明という状況下で開催された。しかし今大会への出展企業・団体は世界各国から1400社以上、来場者数は昨年より2000人上回る52794人と大盛況だった。長年、世界の放送技術の進歩発展に大きく貢献してきた日本からの出展状況を見ると、会場を廻ってみた印象では出展企業の数は若干減りブースの規模もやや小ぶりになり、企業展示関係者だけでなく日本からの見学者やメディア関係者もかなり少なくなった感があった。

 コンベンションセンターは、写真1に示すように右手にRAIのシンボルタワーとテント風の展示場、その横に大きな“I amsterdam”のモニュメントが設置され、正面に会場で唯一の高層の建物、左手に一部が見えるがほとんどの展示場やコンファレンス会場は奥の方に広がり会場全体を見渡すことができないくらい広大である。コンファレンスや機器展示場は幕張メッセやNAB会場のように集約されておらず、14もの中小規模のホールが複雑に入り組んでおり、限られた時間で目当てのブースを見学し、各種イベントやコンファレンスに参加するには強靭な足腰と気力・忍耐が必要だった。
 レジストレーションがあるメインエントランスは豪華なホテルのロビーのように広く、壁面の目立つところには、今や世界のリーディングカンパニーになっているキヤノンが日本企業の勢いを見せるかのように大きな看板が飾られていた(写真2)。一方、長年世界の放送技術を引っ張ってきたソニーは、高層ビル内の第12ホールの2階全部を占有する展示会場随一の広大なスペースに”Beyond Definition”のテーマを掲げ、超大画面に4K映像を映し日本の技術力の健在さを誇っていた(写真3)。

 世界的にデジタル化・HDTV化移行は概ね山を越え、ポストデジタルを見据え放送と通信の連携・融合が急速に進み、スマートフォンやタブレット端末が普及し放送視聴者や通信利用者の環境やニーズも多様化している。今回のIBCの主たる技術的動向としては、大きく変わりつつある放送・映像メディアを取り巻く状況や役割を反映した出展物が目立っていた。とりわけ映像の世界では、ひと頃ブーム的に多かった3D立体映像関係はほとんど目立たなくなり、その一方で、ポストHDTVを視野に、効率的で高品質なコンテンツの制作、配信利用に関する出展物が多く、とりわけ世界的に進む超高精細度映像へのニーズを踏まえ、4K、8K関連の展示やプレゼンテーションが注目さえていた。さらにこれらのメディア状況を支えるベースの技術として、多種多様な符号化技術、その中でも最新のコーデックHEVC(H.265)に関連する出展物が多くのブースで見られ見学者の高い関心を集めていた。

 詳細は次号に譲るとして、日本企業の様子を概観すると、上述のキヤノンは広大なブースいっぱいにハイエンドの4Kカメラとハンドヘルドカメラ、低照度用カメラ、4Kリファレンスディスプレイ、主力の各種レンズ類などを展示し、ソニーは巨大なブースいっぱいに、大画面シアターを設け、4Kカメラ、精細で色鮮やかな4K有機ELモニター、最先端ワークフローなどを展示し大勢の見学者を集めていた。御三家のひとつのパナソニックは、ハイエンドのショルダー型HDカメラ、AVCULTRA対応のハンドヘルドカメラレコーダに加え、プロトモデルの4Kカメラなどを展示していた。
 その他の日本企業としては、朋栄が4Kも含めた多種多彩な制作関連システムを、池上通信機はARRIと協業開発した最新モデルのカメラと高感度カメラなどを、日立国際電気は従来からの主力カメラや同社の機器類を装備したコンパクトな中継車を、JVCケンウッドはハンドヘルドタイプの4Kカメラなどを、ナックテクノロジーは機能アップした高速度カメラを、昭特製作所は様々なインテリジェントな撮影支援機器類を、NTTグループは最先端の多種多様な符号化技術や配信技術を、NECは最新の4Kエンコーダや超解像技術を、東芝は主力のフラッシュメモリーサーバや4K HEVCコーデックなどを、その他にもヤマハが音響関係機器を、住友電気工業が最新の光ファイバー関連技術を展示していた。いずれも長年蓄積した日本の高い技術力の粋を結集したもので、展示会場でもひときわ見学者を沢山集め人気スポットになっていた。

 また、近い将来の放送・通信技術を公開するFuture Zoneでは、BBCやDVB、HbbTVなどと共にNHKがブースを設け、2020年東京オリンピック開催によりいよいよ放送開始が現実のものとなったスーパーハイビジョン(SHV)と9月から総合テレビで放送が始まったハイブリッドキャストを展示し、欧州では見る機会のない日本の最先端の放送を見ようと大勢の見学者を集めていた(写真4)。

 会期中の中日の夕刻、セレモニー会場のBig ScreenでIBC Awardsの表彰式が盛大に行われた。様々な部門での表彰の中で、JBA(日本民間放送連盟)がContent Delivery部門で、NTT コム、富士通、ジュニパーネットワークスと共にInnovation賞を受けた(写真5)。IBC Awardの受賞は昨年のNHK技術研究所につぐもので、わが国の技術力が高く評価されているということで喜ばしい限りである。
(その2)では外国企業も含め、注目された出展物、技術動向について報告したい。

映像技術ジャーナリスト 石田武久(Ph.D.)

会場の内外で日本企業の勢いを見せるキヤノンの大きな看板

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大画面、高精細映像で来場者を魅了するソニーブース

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Future Zone のNHKのSHVとハイブリッドキャストの公開

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JBA(日本民間放送連盟)がIBC Award受賞

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#interbee2019

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