私が見た"NAB SHOW 2013"における技術動向(その1、概要編)

2013.4.19 UP

日本企業ブースがならぶセントラルホールの景観
今大会最大のトピックスの4K展示状況 (キヤノン)

今大会最大のトピックスの4K展示状況 (キヤノン)

大人気の8K SHVシアター(NHK)

大人気の8K SHVシアター(NHK)

中継車や衛星アンテナなどが並ぶ壮観な屋外展示会場

中継車や衛星アンテナなどが並ぶ壮観な屋外展示会場

例年より地味な演出の感のオープニングセレモニー

例年より地味な演出の感のオープニングセレモニー

 オランダはアムステルダムのIBC、日本の幕張メッセのInter BEEと共に、世界最大の放送関連コンベンションの”NAB 2013”は、今年もカジノとショーの街、ネバダ州ラスベガスで開催された。
 ところで”2013”と言う年は、日本のテレビ界にとっては記念すべき年である。と言うのは、日本でテレビ放送が始まったのは1953年のことで今年がちょうど60周年になる。そしてこの長きにわたりわが国のテレビ放送を担ってきたアナログ方式SDTVがデジタルHDTVへと完全移行して1周年でもある。一方、全米放送機器展として長い歴史を持つNABは、これまでカメラやVTRなど放送を支える様々な技術を世に出し、白黒からカラー化、衛星放送やHDTVと時代時代の放送の進展に大きく寄与してきた。そして21世紀を越え、あらゆる分野におけるデジタル化に伴い、放送と通信との連携や融合が進み、デジタルシネマや3Dなど新たな映像メディアの展開が起こり、今やNABは放送の枠を遥かに超え、世界最大のデジタルメディア・コンベンションへと発展を遂げている。そしてこのNABの場を通じて、日本の技術力は世界の放送・映像・音響メディアの成長、発展に大きく寄与、貢献をしてきた。
 今年のNABは、昨年より1週間早い4月8日(コンファレンスは6日~)から11日まで、LVCC(Las Vegas Convention Center)で盛況に開かれた。わが国ではアベノミクスの効果か、円安、株高と上向きの景況感が出ているが、世界的には先行き不透明な経済状況の中で開催されたNABだったが、世界的なデジタル放送の進展、超高精細度映像の展開、放送と通信の一層の連携などを反映し、今大会の出展規模、来場者数とも例年を上回る盛況だったようだ。

 機器展示会場は、例年通りLVCCのノース、セントラル、サゥスホールいっぱいに展開され、世界各国企業・団体からの多種多彩な最新技術やコンテンツが展示公開されていた。
 最も広いセントラルホールは、わりとこじんまりした規模の欧米系企業ブースが多い中で、中央部の地の利の良いところに、キヤノン、パナソニックの大きなブースがあり、その周辺に池上通信機、日立国際電気、朋栄、JVCケンウッド、フジフィルム、ニコン、リーダー電子など多くの日本企業のブースが配され、東のコーナーに場内随一の大きなソニーのブースが開設され、その近くにアストロデザイン、ナック、昭特製作所などのブースが散在していた。これら日本企業のブースでは最新、高度な技術力が展示公開され、多くの見学者を集めまるで日本電子産業船団のような感もあった。また同ホール西側にはInter BEE協会のブースも開かれ、今秋予定の大会に向けてプロモーション活動を精力的にやっていた。
 上下2フロアからなる長大なサゥスホールでは、Grass valley、Quantel、Blackmagic design、Harmonic、Avid、Red digital designなど欧米系の有名な制作系企業が華麗なプレゼンテーションを繰り広げていた。その中で日本企業としてはNTTグループ、富士通、東芝などが伝送・配信、符号化技術などわりと地味ながら特色ある展示をしていた。また事務局やプレスルーム、ミーティングルームなどが並ぶ建物を挟み反対側に位置するノースホールには、Harris Broadcast、Evertz、Miranda Technologies、Snellなどの大きなブースが配され、右手奥の”Future Park”ゾーンでは、将来に向けた最先端技術がNHKやETRI(韓国電子通信院)、NICT(情報通信機構)などから公開され評判になっていた。またセントラルとサゥスホールの中間のアゥトドアにはNEPなどの大型中継車や衛星中継車、アンテナ類が数多く並び壮観な景観だった。

 今回のNABにおける主な技術動向を概略紹介してみたい。世界的に各国でのデジタル放送化移行は概ね山を越え、放送・映像メディアは通信との連携・融合による新たな展開が始まっており、それらを反映した展示物が目についた。2~3年程前の大会で最大のトピックスだった3D については、今やブームを過ぎたと言うよりメディアとして定着し話題性が減ったのか、3D関連の展示物はあまり多くはなく以前ほどの注目も集めていなかった。その一方で、昨今のますます大きく進展するデジタルシネマの潮流を反映し、さらに昨年ITUで国際標準化された超高精細映像U-HDTV(4K/8K)の動向に対応し、4K関連の展示物がひときわ多く今大会の最大のテーマ、トピックスだったと言って良い。4Kカメラについては、ソニー、キヤノン、アストロデザイン、朋栄、Vision Research、Blackmagic design、Red digital designなどから各種・各様の機種が出展され、制作系についてはソニーがトータル的4K制作環境を展開し、朋栄が4K制作サポートの各種機器を、記録系についてはアストロデザインが非圧縮SSDを出展し、リーダー電子は4K制作環境に対応する測定器類を展示していた。またQuantelは8Kも視野に入れつつ、4K、60Pによるカラーアンドフィニシングワークフローを公開し注目を集めていた。その他にも多くの企業から多種多彩な4K関連機器、システムが展示公開されいずれも評判になっていた。
 また今回は、NHKが2009年以来4年振りに大きなブースを設け、8K SHV(スーパーハイビジョン)に関連するトータルの機器展示と実演を公開していた。SHVシアターの300”の大スクリーンでは、技研公開などで見た事があるねぶた祭やスペースシャトルの打ち上げシーンに加え、新たに撮影・制作されたリオのカーニバルの華麗で迫力ある超高精細映像が2.2.2CHのマルチ音響と共に上映され、見学者が長蛇の列をなしていた。シアター周辺にSHV用カメラやマルチ音響システム、地上波放送システムも公開され、さらに今年中に始まると言われている通信と連携するハイブリッドキャストのデモもやっていた。

 その他に注目の技術的トピックスとしては、取材から制作系、送出・配信からアーカイブスまで進むファイルベース化の流れ、高解像度・高画質化の一方で小型・コンパクトで経済性の高いモデルさらにデジタル一眼レフムービーと多様化・多極化が進んでいるカメラ、LCDや有機ELなど高画質・多様化する映像モニター、半導体メモリーによるSSDレコーダやLTO(磁気テープメディア)アーカイブ、従来のMPEG2やH.264に加え新たなシリーズの符号化技術の提案、とりわけ昨年標準化された高画質、高圧縮の次世代符号化HEVC(H.265)に関する展示が各国の多くの企業ブースで公開されていた。また最近世界的に大きな映像情報メディアのトレンドになっているスマフォやタブレットなどSecond Screen”向けの”Mobile TV”や”Connected Media World”、さらに昨今注目の”Cloud Computing”など新たなメディア展開に関する展示も特設パビリオンなどで公開されていた。

 NABはこれらの機器展示だけでなく多種多彩なイベントやコンファレンスも行われている。コンファレンスは機器展示に先立ち6日から開かれ、”Technology Summit on Cinema”や”Advaces in Image and Sound”などのセッションで活発な講演、議論が交わされていた。上記SHVに関連し、NHKから"Super Hi-Vision Public Viewing at the 2012 London Olympics"と題する講演が行われ注目された。またLVCCに隣接するラスベガスホテルにて初日朝開かれるオープニングセレモニーは、毎年、趣向を凝らしている人気イベントだが、今年はやや地味な演出で、就任4年目になるGordon Smith会長が活動報告とNAB Awardの表彰を行い、テレビジャーナリストのBob Schieffer氏らが基調講演を行っていた。
 以上、今大会の全体的状況、技術動向概要を紹介したが、次回以降で具体的に紹介して行きたい。

映像技術ジャーナリスト 石田武久

今大会最大のトピックスの4K展示状況 (キヤノン)

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大人気の8K SHVシアター(NHK)

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中継車や衛星アンテナなどが並ぶ壮観な屋外展示会場

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例年より地味な演出の感のオープニングセレモニー

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#interbee2019

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