【コラム】映画館をイベント上映施設に活用する「イベントシネマ」 BBCが衛星を駆使して世界規模の配信を実現 番組、ライブと連携し新たな売り上げを創出
2014.10.22 UP
IBCで開催されたセッションでは、イベントシネマ協会のMelissa Cogavin氏が登壇した
映画館に、映画以外のコンテンツを配信し多くの観客を集める「イベントシネマ」が立ち上がりを見せている。英BBC放送が行った2つのイベントでは、世界配信がなされ、英国内だけでも100万ポンド(約1億7500万円)を越える売り上げを得ている。振興団体も結成され、イベントシネマが加速している。(映像新聞 論説委員/日本大学 生産工学部 講師 杉沼浩司)
■ライブイベント「ドクター・フー」で放送と同時に98カ国で上映
映画館は、月曜日から木曜日までは10%以下の客席利用率で金曜日以降跳ね上がるとされている。閑散期に上映室を有効利用する策として考えられたのが、映画以外のコンテンツ配信を行うことだ。米NATO(全米劇場主協会)のジョン・フィシアン会長が2003年のデジタルシネマサミットにおいて「ODS(その他のデジタル作品)」として提唱し、その後「AC(オルタネティブ・コンテンツ)」と同氏が改称していた。当初は、コンサートや劇の中継や録画上映が見込まれていた。
「IBC2014」では、放送コンテンツと連携した新しい動きが「イベントシネマ」の一分野に現れ好評を博する例が報告された。イベントシネマは英国発の呼称で、劇やコンサートなどのイベントを映画館(英語呼称でシネマ)に配信するものだ。配信には衛星が使われる。イベントシネマは以前よりあったが、昨年急激な伸びを見せた。
転換点になったのは、昨年11月23日(英国時間)に全世界に配信された「ドクター・フー50周年記念イベント」だ。世界98ヶ国、1559館に配信され、65万人以上の観客を集めた。それまでの記録は世界10ヶ国配信であった。BBCは、このイベントを放送すると同時に、英国内を含む世界の映画館に中継した。また、有料放送やVOD向けにも同時配信した。放送とイベントシネマを同時に行ったことが注目される。
■年間40億円超の売り上げを生み出す
また、同局は、今年7月20日に「モンティ・パイソン復活ライブ!」(Monty Python Live (mostly))の世界配信も行った。この番組は、世界売上は400万ポンド(約7億円)とされている。
英国におけるイベントシネマの売上は、今年は9月5日までで2300万ポンド(約40億2500万円)となっている。昨年同時期は1070万ポンド(約18億7250万円)であり、期間比較で倍増している。集客力のあるイベントも増えている。昨年興行収入が100万ポンドを超えたイベントは3回だが、本年は既に5回を越えている。
英国では、イベントシネマ用に劇、オペラやクラシックコンサートなどが配信されている。チケット入手が難しいものが多い。また、地方から旅行せずとも地元で観劇できることから高齢者層を中心に人気があるという。
イベントシネマを推進する「EVENT CINEMA ASSOCIATION」(イベントシネマ協会、http://www.eventcinemaassociation.org)の理事を務めるピーター・ウィルソン氏は「デジタルシネマ用に開発されたコンテンツ配布フォーマット、DCPが有効に使われている」としてデジタルシネマ用の技術的基盤が活用されていることを講演で指摘した。映像新聞がウィルソン氏に取材したところでは、配信には主として2つの通信衛星が用いられるが、多くの映画館が民生用機器を使っているため、今後信頼性向上策が必要とのことであった。
日本にも歌舞伎や宝塚歌劇といった広いファン層を持つコンテンツがある。これらの世界配信が期待できそうだ。
IBCで開催されたセッションでは、イベントシネマ協会のMelissa Cogavin氏が登壇した