【インタビュー】映画『ジョン・カーター』VFXスーパーバイザー ペーター・チャン氏(4) 自然な砂のCG表現でキャラクターのリアリティを向上
2012.4.6 UP
ダブル・ネガティブ社のペーター・チャン氏(画像2)
未知の惑星”バルスーム”のロケ(画像3)
合成のテクスチャにCanon5DMkII使用(画像4、5)
水面はCGシミュレーションに置き換えられている(画像6、7)
(3)より
■ロケにより”未知の惑星”の背景を撮影
物語の舞台は”未知の惑星”ではあるが、ベースとなる地形・環境は極力、ロケ撮影された。撮影は米国ユタ州やアリゾナ州でおこなわれ、ヘリコプターで上空から撮影された画像をもとにして、惑星“バルスーム”の環境が描かれていった。
ジオメトリーの生成にもフォトグラメトリーの手法が用いられ、撮影画像はテクスチャの生成にも活用された。フォトグラメトリとは、顔のモーションキャプチャーでも用いた手法で、複数の視点から撮影した二次元画像から、視差情報を解析して、3次元の形状情報を導く手法だ。
惑星バルスームは火星という設定であったため、すべてがこの地球上の世界よりも“赤み”を帯びて見えている必要があった。このため、撮影画像の“空”の部分から青味を取り除き、火星には存在しない雲も消しとっている。
■CGキャラクターとからむ砂のさまざまな動きをCGで生成
エフェクトでは、ダブル・ネガティブ社が世界に誇る自社製の流体シミュレーション・システムを駆使した“水”や“炎”の表現もさることながら、今回新たなチャレンジとなったのは、惑星バルスームならではの“砂”の表現であったという。
複雑な地形から舞い上がる砂をリアルに描くというだけではなく、今回はキャラクターと砂とのインタラクションも克明に描きだす必要があった。たとえば、キャラクターが歩行するたびに砂が舞い上がり、その足跡が砂地に深く刻まれる。さらに、キャラクターが砂に埋もれたり、そこからは這い出してきたりする様子などもリアルに表現しなくてはならなかった。CGキャラクターの豊かな演技に応じて自然な動きによる砂を表現することで、映像にリアリティが生まれる。
ダブル・ネガティブは今回新たに、自由度の高い砂のシミュレーションをおこなうためのパーティクルベースの流体シミュレーション・システムを開発している。同社の流体シミュレーションのソルバーは、もともとブリティッシュ・コロンビア大学が2005年のシーグラフで発表した砂の流体シミュレーションの論文がベースだ。今回、新たに開発された砂のシミュレーション・システムもこの論文の手法からなんらかヒントを得ているのかもしれない。(倉地紀子)
(連載 終わり)
©2011 Disney. JOHN CARTER™ ERB, Inc.
映画「ジョン・カーター」4月13日(金)3D ・2Dロードショー!
【画像説明】
(画像1)
映画「ジョン・カーター」( 4月13日(金)3D ・2Dロードショー)より
(画像2)
ダブル・ネガティブ社のペーター・チャン(Peter Chiang)氏。映画「ジョン・カーター」のVFXスーパーバイザーを担当した。
(画像3、4、5)
惑星“バルスーム”の環境の作成においては、スタントン監督は極力ロケ撮影や実写素材を用いるという方向性を貫いたという。CGを用いる場合にも、ユタやアリゾナの砂漠の上空からヘリコプター撮影された画像の集合にフォトグラメトリーの手法を適用して“地形”のジオメトリーを正確に復元し、さらにロケ地の環境のディテールをCanon 5DMkII で撮影した高解像度の画像がテクスチャとして活用された。
(画像6、7)
惑星“バルスーム”は火星という設定であったため、監督はその環境を実際の地球の環境よりも赤みを帯びたものにすることを強く意識していたそうだ。その結果、撮影プレートの空からはブルーの色調が取り除かれることになった。また同時に、火星という環境にはあるまじき“積雲”も、環境プレートの空の部分から消しとられた。
また、映画の中には、ダブル・ネガティブ社が世界に誇るインハウスの流体シミュレーション・システムを活用した煙・塵・炎・水などのエフェクトが多数登場する。画像の水面も、最終的にはCG流体シミュレーションで置き換えられている。
ダブル・ネガティブ社のペーター・チャン氏(画像2)
未知の惑星”バルスーム”のロケ(画像3)
合成のテクスチャにCanon5DMkII使用(画像4、5)
水面はCGシミュレーションに置き換えられている(画像6、7)