Inter BEE 2021

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Special 2024.03.07 UP

【Inter BEE CURATION】能登半島地震と羽田事故で見えた 日本と欧米の報道の違い

津山恵子 GALAC

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、放送批評懇談会発行の月刊誌「GALAC」2024年4月号からの転載です。

BBC特派員のルポが日本で高評価

能登半島の大地震発災と東京・羽田空港で日本航空(日航)機と海上保安庁(海保)の飛行機が衝突した事故は、日本と欧米の報道の違いを際立たせた。英BBC記者の能登半島からのビデオルポは生々しく、「国内ニュースをなぜ海外メディアを通して知るのか」とSNSで話題となった。しかし、BBCは被害の状況を淡々と知らせるものの、国内メディア側は被害や救済の状況を刻一刻知らせる必要があり、報道の役割が異なるのを強く感じた。

 BBCのジーン・マッケンジー記者は地震発生の翌日、1月2日に「道路が寸断され救助が難しく BBC特派員が被災地に」で現地からのルポを伝えている。
 「こうした地震に耐えるよう造られていない木造の家屋が多いようです」
 「震源地となった街に向かおうとしています。(中略)見てください。こうした通行止めの道路に次々と行き当たるのです」
 地震でアスファルトがギザギザ状態になり、車両の走行がままならない道路を撮影。救急車などの緊急車両が左右に大きく揺れながらも現場に向かう映像もある。BBC日本語版は日本時間1月2日撮影とし、ウェブへのアップは3日だった。
 同記者の次のビデオは「BBC記者 輪島市に入る 煙がまだくすぶる朝市の現場から」で、3日の朝、輪島市に到着したものだ。
 「私たちが今まで見たどこよりもはるかにひどい被害状況です」
 とリポート。煙が立ち上り、真っ黒く平たく焼け崩れた朝市通りの前に立つ。

 二つのビデオはX(旧ツイッター)などSNSで拡散された。映像は編集されており、日本の放送局のルポよりは「映像が明瞭で説得力がある」と話題になった。その結果「国内メディアではなく海外メディアでニュースを知るというのはおかしい」といった反応が出たわけだ。

 実は、BBCはオンラインでのサービスをファーストとする戦略に舵を切り、インターネットでのユーザーを多く集めている。生放送ではなく、前述の2本のビデオなど質の高い「編集された」動画を提供している。
 これに対し、当事者である日本の放送局は、生中継で編集のない速報が必要とされる。また、オンラインでは誰もがどこからでも見られるのに対し、日本の報道は放送中だけに限られる。一方で、能登半島地震については、新聞やフリーランスジャーナリストのオンライン記事に多くのビデオがアップされていた。放送局の競争相手がこれほどいることを示した災害はなかったと感じている。
 BBCやそれらのビデオは、映像の威力で、現場にいて被害を受けた人々の実情や事実を知らせるに十分な迫力があった。人々に「事実」を知らせる強力な材料となる。

記者の容赦ない追及をぜひ政界へ

日航機と海保機の衝突事故でも、日本の報道と欧米の報道の違いが浮き彫りになった。
 衝突事故で目立った欧米メディアの報道は、日航乗務員と乗客の行動を高く評価するものだ。米紙『ニューヨーク・タイムズ』『ウォール・ストリート・ジャーナル』、英紙『ガーディアン』などが「奇跡」「乗務員と乗客の秩序が保たれていた」と評価する記事を相次いで載せた。米CNNは、1カ月も経ってから「世界の客室乗務員が、事故の報道のおかげで、食事を運ぶだけの職業ではないと知ってもらうことができた」とする記事をアップした。

 「乗務員がどれだけ避難訓練に時間を割いてきたかを思い知らされた。信じられないほどの仕事をした」とBBC。ニューヨーク・タイムズは「訓練された乗務員と最新型の機体が、パニックを起こさず367人の乗客の脱出に繋がった」とし、炎上しながらも90秒で乗客を脱出させられる機体の設計を詳しく報道した。ウォール・ストリート・ジャーナルは乗客への取材から「かさばる手荷物を持って出ようとする人は見当たらなかった」と伝えた。

 日航が開いた記者会見で、日本の記者らが緊急脱出時の粗探しばかりしていたという批判は、SNSで目立った。しかし、記者からの厳しい質問で、航空業界は対応を学び、将来の危機管理や訓練に繋げることができる。ただ、容赦ない追及が、岸田文雄首相や政権への会見やぶら下がり取材では見られないことが問題となっている。民間企業だけでなく、政界や不正義が行われている業界、団体に対しても厳しい質問をしていくことが、日本のメディアには求められている。

【ジャーナリストプロフィール】
つやま・けいこ ニューヨーク在住のジャーナリスト。『AERA』『週刊ダイヤモンド』『週刊エコノミスト』に執筆。近著には『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社、共著)がある。

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