Inter BEE 2021

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Special 2024.11.14 UP

【INTER BEE CINEMA】クリエイターズインタビュー 小島淳二「ようやく人間らしくなってきたタイミングで映画を撮り始めた」

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Inter BEE開催60回目を記念してホール3にて展開される【INTER BEE CINEMA】。特設エリアでは、実際にスタジオセットを建てて撮影するデモンストレーション、著名なゲストを招いたトークセッション、「レンズマイスター」が来場者の要望に応じてシネマカメラのレンズ装着や説明を行う「レンズバー」といったユニークなコンテンツとともに、映像制作者の交流や若手の人材育成の場を提供していく。

その関連記事として、多様な表現活動を行う映像クリエイターの創作の秘訣に迫る「クリエイターズインタビュー」では、それぞれにオリジナリティ溢れる活動歴とともに「人」にフォーカスした記事をお届けしたい。

第1弾は、1989年よりポストプロダクション「McRAY」にてデジタル編集のエディターを勤め、ディレクター転身後は、Motion GraphicsやCG表現を駆使したMV、CM、TV番組のタイトル映像など多岐にわたるメディアで最先端の映像表現を追求してきた小島淳二監督。長年に渡って手掛けている資生堂のCMにおいては「女性美の魔術師」と評され、現在はドキュメンタリーから劇場公開映画まで、さらなる活動の場を広げている。

日本のデジタル映像の旗手であった小島監督が、徐々に「人間の心の機微」に興味を覚えるようになった経緯には、ある映画監督の影響があった。

プロフィール

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小島淳二
Junji Kojima

1966年 佐賀県生まれ。1988年にMcRAYに入社し、デジタル編集のエディターを務める。その後、映像ディレクターへ転身。1995年にteevee graphicsを創立。TVCM、MV、TVのオープニングタイトルなど多岐にわたるメディアで革新的な映像表現を手がける。2001年に結成した小林賢太郎との映像制作ユニット「NAMIKIBASHI」のコント動画は国内外の映像祭で多数の受賞歴をもつ。2018年初長編映画『形のない骨』公開2021年にはドキュメンタリー映画『RIGHTS! パンクに愛された男』、2024年には劇場映画『あこがれの色彩 / LONGING FOR COLOR』が公開された。

スタイリッシュなデジタル映像から人間の心情に興味を抱くまで

――小島監督はInter BEEに来られたことはありますか?

McRAYに勤めていた頃は毎年行っていました。フリーランスのディレクターに転向したあと、1995、6年には講演したこともあります。海外からのゲストスピーカーもいて、5人くらいで、デジタル映像についての英語を交えてのトークだったかな。

――なんと90年代にご登壇されていたご縁があったのですね。

もう30年くらい前の話です。当時デジタル編集機材はとても高額で、機能が猛スピードでアップデートされる時代。情報が一早く出回るのが4月のラスベガスの「NAB SHOW」で、9月にヨーロッパの「IBC」、11月の「Inter BEE」の頃には4月に出た新しいソフトのバグが修正されている、ぐらいのスピード感でした。最新情報を知る場が他にないから、エディターもCGアーティストも展示会に行って聞かないと何もわからない。海外から来たFlameのアーティストに「ここはどうやるの?」って直接尋ねてみたり。撮影機材もちょうどフィルムからHDカメラに移行し、HDで撮ろうという時代だったので、どうやってルックを作っていくのか、勉強しに行きました。

――今はYouTubeで学べるけれど、場も情報もないから、会って聞くしかない。

マニュアルも英語しかない。CGソフトも、今みたいに直感で操作できる時代ではなく、プログラムから知っているプロしか扱えないみたいな感じだったので、一生懸命勉強しないと理解できない。感覚的にCGを作るのが上手な人も中にはいましたが、ソフトのシステム的の部分から詳しい人もいて、訓練しないと習得できない傾向にありました。

――Motion Designを中心としたクリエイティブプロダクション「teevee graphics」を設立された以降は、CM、MV、テレビ番組のオープニングタイトルなどを多数、手掛けられました。デジタルクリエイティブに特化されていた印象ですが、近年は人間の心情に迫る映画を手がけられています。改めて映画を作ろうと思われた心境について、教えてください。

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今から20年前の40歳くらいのタイミングで、散々コマーシャルもMVも作ってきた中で、「人と人の関わり」の大事さについて、改めて気づかされたんです。それまでは映像を作る過程において、自分のことしか考えていなかったというか(笑)、自分がどうしたいかであったり、自分が作りたい表現、好奇心をそそられる技術を使ってやりたいようにやる方向に焦点をあててきたけれど、人間の関係性に興味をもつことで、ようやく人間らしくなってきたというか。そういう目線で映画を観れるようになってきた。以前はスタイリッシュな映画が好きで、人物の感情よりも画のトーンがいい、展開がいい、といった目線で見ていましたが、人の心情の機微や葛藤が面白いと思えるようになってからは、いろいろな映画をより深く掘り下げて見つめ直す視点が生まれました。好きな監督の作品に関しても細かく分析してみると、とても巧みに計算されて作られていることがわかってきた。そこで自分もチャレンジしてみたいという思いに至りました。最初はどうやって作っていいかわからなかったので、本で勉強したり、分析したり、そういうところから地道に始めました。

――その好きな映画監督とはどなたですか?

ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌによるダルデンヌ兄弟。ベルギーのおじいちゃん兄弟の監督です。描き方は「ひとりドキュメンタリー」みたいな感じですが、実に計算し尽くされていて、本来のドキュメンタリーだったら「ここは絶対にカメラマンの足音が入っていないとおかしい」と思うシーンがあるとして、足音が聞こえてこないのは、台詞をアフレコで、環境音も後付けでミックスしているから。その技法が心象風景を巧みに表現している。物語の展開も、「人間は過ちを犯す」とか「善か悪だけの世界」ではなく、「そうなってしまうこともある」「それが今の社会の歪みなのかもしれない」といったメッセージを上手にパッケージングしている。とても影響を受けて、ルックのみならず、心境だったり、人間を描く、撮るという視点に徐々に向かっていきました。

生き様を記録するドキュメンタリー

――映画の実例について伺います。2021年公開の『RIGHTS! パンクに愛された男』は、地元佐賀県の高校の先輩であり、1990年にメジャーデビューしたパンクバンドCRACK THE MARIAN/JUNIORのボーカルとして知られているKAZUKIさんが地元に戻り、家業の有田焼の窯元を継ぐ日々を追いかけたドキュメンタリーですが、地元の文化を知る地域映画としても面白く拝見しました。

懐かしく昔を振り返りつつ、有田焼の現状や田舎の暮らし、町並みの記録を、自分の関われる範囲で残したいという気持ちで撮りました。主人公のKAZUKIさんをはじめ、多くの若者が「こんな退屈なところにはいたくない」「もっと面白いことがしたい」といって上京したけれど、年を重ねてから地元の良さを再発見したり、実際に戻ってきたり。KAZUKIさんも実家の都合で帰らざるを得ず、「歴史ある窯元を自分の代で潰すのは嫌だ」という思いで家業を続けています。

――音楽活動を続ける現在のライブシーンも迫力満点でした。劇場にはコアなファンの方々が詰めかけていらっしゃいましたね。

デビュー当時に中高生だったファンの方たちが今も応援されています。有田では1回、佐賀県では1週間上映しましたが、窯元を経営しながらライブの度に東京に行くKAZUKIさんの現状を知らない地元の方に、その真摯な暮らしを伝えられてよかったです。大変な毎日だけれど、パンクはやめない。絶対に続けると決めて生きている。この歳になって、信念と生き様を貫いているおっさんがいること自体が素晴らしく、その勇姿を見てもらいたいと願いながら作りました。

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『RIGHTS! パンクに愛された男』カバー画像

出演:カズキ/タイチロー/ヨージロー/テル(CRACK The MARAIN)、HOOKER/GO!/HAV/Atsushi Armstrong jr/FAT KOHEY/(JUNIOR)、くっきー!(野性爆弾)、綾小路翔(氣志團)、小沢一敬(スピードワゴン)、まちゃまちゃ、三代目魚武濱田成夫 他
監督・撮影:小島淳二
プロデューサー・撮影:安岡洋史
ナレーション:矢沢洋子
アニメーション:泉優二郎
グラフィックデザイン:丸橋桂
制作:teevee graphis
110分/16:9
2021年制作ARTS for the future! 支援対象作品

――そんなドキュメンタリーと同時進行で制作された劇場映画『あこがれの色彩』は、アプローチがまったく異なります。2024年の公開ですが、いつ頃から準備されましたか?

公開の5、6年前から。前作『形のない骨』(2018年公開)を撮り終わってから準備を始めて、撮り終わるまでさらに2年ぐらい。編集が終わってから公開まで丸3年かかりました。

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――長期プロジェクトですね!

本当に長かったです。映画を撮ろうとしている人たちに伝わるといいのですが、撮ること自体はね、できます。協賛金や助成金の申請をして、なんとかがんばって資金を集めれば、撮影はできる。でもその後、公開するのが難しい。配給をお願いして、劇場にかけてもらうのがすごく大変です。『あこがれの色彩』もその点で難航して進まないタイミングがありました。その間、僕自身は編集に手を入れたり、国際映画祭に出展したりと、有意義に悩む時間となったのでよかった反面、役者のみなさんには公開を待たせてしまったので申し訳なかったです。撮影時には中学3年生だった役者が、舞台挨拶では高校生2、3年生になっていました。

横顔に惹かれた中島セナの佇まい

――思春期らしいナイーブな心情が描かれていますが、アイディアの発想は?

娘が美大志望で、受験予備校に通っていたのですが、自分の描きたい絵と、先生のアドバイスにギャップが生じて悩んでいたんです。講評の時に、評価が良ければ上段、悪ければ下段に並べられてしまうらしく、その結果がつらくて、帰ってきて部屋にそのまま入って泣いていたり。絵を書くのは楽しいはずなのに、苦しい。でも美大に行くためには必要な訓練かもしれない。思えば自分の仕事も、いくつか編集のパターンを用意した中で、クライアントの意向が重視され、自分がいいと思う編集が使われないこともある。そんな「表現する葛藤」をテーマにしたいと思ったのが物語の発端です。

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『あこがれの色彩 / LONGING FOR COLOR』カバー写真

出演:中島セナ 大迫一平 宮内麗花 安原琉那 MEGUMI
監督:小島淳二
撮影:安岡洋史 
照明:根岸謙 
録音:阿尾茂毅 
音楽:徳澤青弦 
美術:古本衛( TRY² ) 
音響効果:ジミー寺川 
衣装:Toshio Takeda( MILD ) 
ヘアメイク:木戸友子 
助監督:中村周一 
制作主任:長沢健一 
プロデューサー:荒木孝眞
グラフィックデザイン:丸橋桂 
配給:スタジオレヴォ 
制作:teevee graphics,INC 
協賛:佐賀県フィルムコミッション
2022年 / 日本 / カラー / 107分 / 17:9 / 5.1chデジタル /

――拝見して、5.1chの音の鳴りがすごく気持ち良く響いてくる感じがありました。例えば水の流れや競艇場の環境音など、迫力満点でしたが、技術的に工夫を凝らされましたか?

音響に関しては、ベテランエンジニアの阿尾茂毅さんが、音環境を丁寧に録音してくれました。2人の役者が会話するシーンでは、2人の間の頭上にガンマイクを置いて台詞を撮りながら、周囲の空間にもいくつかマイクを仕掛けて同時収録しています。いろいろな場所で拾った5、6チャンネル分の音源をミックスして、その環境に合っている音の場所に再配置し、再現しています。音源はすべてデジタルで録音していますが、無線で飛ばしたデータだけ時々ノイズが入ってしまって、でもどうしてもその音源を使いたかったので、阿尾さんにお願いして細かくノイズを消していただきました。その作業になんと1か月もかかってしまって、阿尾さんにはもう頭が上がりません!

――撮影監督についてはいかがですか?

撮影は『形のない骨』からずっと一緒にやっている安岡洋史さん。好きな映画や、汲み取ろうとするポイントが近いので、すごく信頼しています。カメラワークについては、一回お芝居が決まり、リハーサルをしながらカメラ位置やアングル、最後に出て行くシーンは寄りを撮っておこう、などと決めつつ、撮影監督が出してくれるアイディアも取り入れています。もちろん芝居が一番大事で、どう切り取るかは監督の仕事といわれますが、撮影監督の提案するアングルを撮っておくと、結果的にシーンの深みが増したり、想像を超えて良くなったりする利点があります。

――『あこがれの色彩』で好きなカットは?

美術室で、中島セナさんが演じる主演の結衣が、イーゼルを前に落ち込むシーン。その横顔、なんともいえない佇まいと表情がとても気に入っています。

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『あこがれの色彩』にて小島監督が気に入っている中島セナさんの横顔のショット

――最後に新たな試みである<INTER BEE CINEMA>に一言ご意見をお願いします。

ハードの知識をもちつつ、機材を通じて人と人、クリエイター同士がつながっていく「場」があるのは良いことだと思います。普段は個人同士で、新しいカメラが出たとか、センサーが大きくなったと話をしますが、みんなで共有する場があれば刺激になる。そこに実機があれば、「ここにこんな機能が付いたもっと使いやすくなるよね」など、有意義な話もできそうです。

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