Inter BEE 2021

キャプション
Special 2022.02.15 UP

”特撮の神様” 巨匠ダグラス・トランブルが旅立つ

鍋 潤太郎 / Inter BEEニュースセンター

IMG
2012年2月、第10回VESアワード授賞式にて、ジョルジュ・メリエス賞を受賞したダグラス・トランブル氏(筆者撮影)

フィルム全盛期における特殊効果SFX(スペシャル・エフェクツ)およびオプチカル合成のパイオニアとして知られ、ハリウッドの映画業界そしてVFX業界で”特撮の神様”としてリスペクトされ続けてきたダグラス・トランブル氏が、2022年2月8日に死去した事が明らかになった。トランブル氏の娘がFacebookでアナウンスした。享年79歳であった。

トランブル氏は過去2年間、癌、脳腫瘍、脳卒中と闘病、このほど中皮腫による合併症のために死去した。

このニュース自体は日本でも既に報道されているので、既にご存知の方もおられると思う。

本欄では、トランブル氏の偉業を、筆者が取材した中で目にした近年の活動も含め、筆者独自の視点で振り返りながら、追悼したいと思う。

トランブル氏が手掛けた映画や映像作品は映画『2001年宇宙の旅』(1968)、『未知との遭遇』(1977)、『スタートレック』(1979)、『ブレードランナー』(1982)や、ユニバーサルスタジオの人気アトラクションだった『バック・トゥ・ザ・フューチャー・ザ・ライド』(1991)などのオプチカル合成によるSFX、視覚効果スーパーバイザーとしての実績が有名である。

Douglas Trumbull IMDB リンク

しかし、筆者の中ではそれだけではなく、”上映方式の先駆者”という印象も強く残っている。上映方式の先駆者としてはショースキャンやIMAXライド等が代表的だが、晩年はハイ・フレームレートによる上映方式を提唱していた。

筆者は、ここロサンゼルスでVFX関連のコンファレンスやイベントを取材してきた中で、トランブル氏の講演や登壇を何度となく拝聴する機会に恵まれたが、最後にトランブル氏をお見かけしたのは、5年前である。

2017年11月4日、VES(ビジュアル・エフェクツ・ソサエティ/米視覚効果協会)主催による「VES Summit 2017」というカンファレンスが、ビバリーヒルズにあるソフィテル ロサンゼルス ホテルにて開催された。

IMG
VES Summit 2017にて、講演中のダグラス・トランブル氏(筆者撮影)

この講演の中で、トランブル氏は次のように述べていた。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
映画館という場所は、観客が特別な体験が出来る重要な場所です。ジェームズ・キャメロン監督やピーター・ジャクソン監督が秒48コマに着目したように、次はFPS(1秒あたりのコマ数)に議論の余地があります。私個人は、"解像度よりもFPSを上げた方が、映像のクオリティが高くなる"と考えています。今後、映画製作者+映画館+映写機器関連企業の3者と、積極的に議論を重ねていきたいと思います。この3者が同じ土俵で一緒に考える、ということがとても大切なのです。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

詳細はコチラ:
VES Summit 2017

トランブル氏はかつてショースキャンの浸透に尽力していたが、その後も一貫してハイ・フレームレートを推奨する姿勢を貫いていた事が伺える講演であった。

一方で、ユーモアラスな一面もあった。2014年 2月12日(水)夜、ロサンゼルスのビバリー ヒルトン ホテルにおいて開催されて、第12回VESアワード授賞式では、ジョン・ダイクストラ氏が受賞した生涯功労賞のプレゼンターとして登壇。

IMG
第12回VESアワード授賞式(2014)にて、プレゼンターとして登壇したダグラス・トランブル氏(筆者撮影)

---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
その昔、ジョージ・ルーカスからオファーされたスター・ウォーズという得体の知れない仕事を断って、ジョン・ダイクストラに押し付けたが、後で一生後悔する事になった(笑)
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

というエピソードを冗談まじりに披露し、会場を盛り上げていた。

詳細はコチラ:
第12回VESアワード授賞式

そんなトランブル氏だが、ご自身もVESの特別賞を受賞している。2012年2月に開催された第10回VESアワード授賞式 では、長年の功績が認められ、ジョルジュ・メリエス賞を受賞した。

IMG
2012年2月、第10回VESアワード授賞式にて、ジョルジュ・メリエス賞を受賞したダグラス・トランブル氏(筆者撮影)

詳細はコチラ:
[月刊CGWORLD寄稿] 第10回VESアワード授賞式 スペシャルレポート(03/15/2012)

また、2007年に開催された、VES主催による「VFXフェスティバル」では、「VFX業界に影響を与えた50本の映画」というパネルディスカッションにパネラーの1人として登壇した他、『2001年宇宙の旅』の特別上映会で制作当時のエピソード等を披露している。

詳細はコチラ:
VES主催VFXフェスティバル レポート⑤ VFXの巨匠が影響を受けた映画50本『The VES50』/『ダグラス・トランブルが語る"2001年"』(06/27/2007)

この講演におけるプレゼンテーションも、大変興味深いものがあった。

これらの偉業を改めて振り返ってみると、トランブル氏のハリウッドでの功績が如何に金字塔的なものであったか、尊敬の念を感じずにはいられない。トランブル氏に触発され映像業界に入った人や、多大な影響を受けた方も多い事だろう。

ダグラス・トランブル氏は亡くなったが、その志は永遠に映像業界で受け継がれ、今後もハリウッド映画の画面の中で生き続けるのではないだろうか。

  1. 記事一覧へ