Inter BEE 2021

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Special 2023.02.02 UP

【Inter BEE CURATION】2022年を振り返って思ったこと

石松 俊之 VRダイジェスト+

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、ビデオリサーチ社の協力により「VRダイジェストプラス」から転載しています。2022年を振り返って印象に残った出来事はありましたか。

2022年は、新型コロナウイルスの第6波の感染拡大とともに迎え、2月にはロシアによるウクライナ侵攻と不穏な始まりでした。さらに7月には安倍元首相が参院選の応援演説中に銃撃により命を落とすという、ショッキングな事件が起きました。事件後、犯行動機と関連があるといわれている旧統一教会と政治家の関係が報じられるにつれ、閣議決定した国葬儀の実施への評価にも影響、反社会性の指摘がある宗教団体と政治の問題は、暮れの迫った今もその余波が続いています。 

新型コロナでは、感染拡大防止策として各地で講じられていた「まん延防止等重点措置」が3月に全面解除となりました。以降、大型連休、夏休み、秋の行楽シーズンでは「3年ぶりに行動制限のない」という枕詞とともに各地の様子が報じられることも多く、イベントやお祭りなど、かつての風景が再びみられるようにもなってきました。とはいえ、個人への感染防止策の推奨は続いているため、「マスク」「黙食」などの対策を世の中全体で止めさせて「脱コロナ」としたい人々も少なからずいるようです。ただし、第6波、第7波での死者はそれぞれ12,000人規模で、過去の感染流行期よりも多く、暮れの第8波の被害が懸念されます。

東京に続いてパンデミック下での開催となった北京冬季五輪・パラリンピックは、多くの人に見られ、2022年を代表するテレビ番組でもありました。一方、今年になって東京五輪のスポンサー契約をめぐる汚職事件、談合疑惑での捜査が行われています。今後のスポーツビジネスの在り方にも影響があるのかもしれません。

コロナ禍、ウクライナ侵攻と政情不安の中、日経平均は一時25,000円を割る水準まで値を下げましたが、年末に向けて年初付近まで戻す一進一退の動きとなっています。その一方で、生活者は値上げラッシュにさらされ、生活へのゆとりは感じづらくなっていそうです。そこへ防衛政策の見直しは、地政学リスクを過度に意識させたり、防衛費増額の財源によっては生活へも影響があったりで、心理的・経済的な不安が増す年の瀬となっている気もします。

さて、そんな1年は、メディア業界にとってはどんな年だったのでしょうか。恒例により、放送・通信・ITまわりを見渡して【10大トピックス】をあげて振り返ってみます。

放送・通信・IT まわりの2022年 10大トピックス

概況 ~2021年の広告費

電通「日本の広告費」によれば、2021年の地上波テレビ広告費は1兆7,184億円、前年比111.7%でコロナ禍での落ち込みから上昇しています。番組広告(タイム)は、東京2020五輪・パラリンピックをはじめ、2020年に開催延期や休止となった大型スポーツ大会の開催が出稿増の要因となったようです。スポット広告は、4月以降回復傾向がみられ、携帯キャリア等による「情報・通信」、前年に中止または延期になっていた映画作品関連、「交通・レジャー」「外食・各種サービス」等が牽引したようで、ここにもコロナ禍からの回復の兆しはみられたようです。衛星メディア関連は1,209億円、通販市況の好調な推移、スポーツイベントの開催などにより、前年を上回りました。

インターネット広告費は、2兆7,052億円、前年比121.4%で2桁成長、総広告費に占める割合は39.8%となり、マスコミ四媒体の広告費を超えました。媒体費 2兆1,571億円で媒体費としても初めて2兆円を超えています。マスコミ四媒体由来のデジタル広告費も2桁成長で、初めて1,000億円を超え、なかでも「テレビメディア関連動画広告」は前年比 146.5%の249億円で、コネクテッドTVの浸透によってさらなる成長がありそうです。2022年は行動制限も解除されていることで、2021年の回復要因の影響が継続すると期待されますが、電通グループの7月時点の予測では、全体としては横ばいになる可能性もありそうです

2022年の高視聴率番組はWCカタール大会と北京五輪などのスポーツが席巻

執筆時点(12/14)までになりますが、2022年の高視聴率番組(関東・個人・リアルタイム)をみると、グループリーグ突破に沸くWCカタール大会の日本代表戦関連の番組が上位10番組中5番組を占める状況となっています。上位10番組すべてスポーツ関連の番組となり、上位30番組のうち、13番組が北京五輪、それも含めて23番組がスポーツに関するものでした。タイムシフト視聴を加えた総合視聴率(関東・個人)でみると上位30番組(12月6日放送分まで)では、ドラマが11番組を占める結果になります。視聴率のスタンダードが個人視聴率へと移り、肌感や目安も新たに蓄積されているところなので世帯指標でのコメントは適切ではないかもしれませんが、ドラマ11番組において世帯の総合視聴率が従来、高視聴率と評される20%以上を獲得しているので、テレビ番組の「視られ方の変化」とTVer等での配信を含めた「届け方の拡張」を両輪として、テレビ番組の未来を考えていくことが改めて重要と感じられます。

スポーツ放映権が高騰。WCカタール大会の地上波中継は41試合。ABEMAが全試合生配信

遡れば、2002年日本・韓国大会の全試合完全生中継をスカパー!が獲得したり、2006年ドイツ大会ではモバイル関連事業を手掛けるインデックス(2016年に清算)がハイライト映像のIP網に向けた公衆配信権を獲得したりがありました。内容や伝送経路別に様々な権利があって複雑ですが、2002年からWC大会の地上波での中継権は、五輪・パラリンピックと同様にジャパン・コンソーシアムが獲得・調整を担っています。2022年 カタール大会では辞退する局があり、地上波での中継は、NHK、テレビ朝日、フジテレビで41試合、ABEMAが全64試合のネットでの生中継配信を行う体制となりました。世の中の関心を集めるけれど、視られる経路が地上波テレビではないという事例が近年増えている感覚もありますが、放映権料の問題だけではなく、放送の公共性の観点から、リスク管理により放送中止が判断された事例などもあります。しかし、そういった事情は生活者の知るところではないので、単純に「視たいものが地上波でやらない」という体験や印象が蓄積することの、今後のメディアイメージに与える影響が改めて気になります。

TVerの利用拡大。アプリダウンロード数 5,000万。1話の再生回数で 500万回超えも

TVerの利用拡大のニュースが活発でした。月間の再生回数2億5,000万回超え(3月)、アプリダウンロード数が累計5,000万を超え(7月)、MUBが2,300万を突破、コネクテッドテレビの利用が前年同月比1.4倍に拡大(10月)と利用者数の拡大、利用シーンの変化などがリリースされています。これに加えて、木曜劇場「silent」(フジテレビ)の10月27日放送回が配信後1週間で582万再生を記録、単話での最高記録更新も話題となりました。全国PMでの推計到達数(リアルタイム視聴1分以上)が616万、タイムシフト視聴1分以上が推計で711万という数値からも600万近い再生の規模の大きさがわかります。テレビ視聴行動の分散化・細分化を「フラグメンテーション」としてテレビ視聴率の測定課題に掲げたのは2015年のVR FORUM(当社のビジネスフォーラム)でした。すべての番組におしなべてではありませんが、個々の番組の集客力評価に視聴率以外のデータも必要な時代に入ったことがわかります。

新たな3局が開局、23年目を迎えたBSデジタル

3月に「BSよしもと」「BS松竹東急」「BS Japanext」が放送を開始しました(放送開始日順)。BSは22年の歴史の中で新規参入・撤退があり、今も異なるビジネスモデルが共存しています。そのため、ひとことでは媒体特徴を言い表しにくいのですが、無料広告放送については、年齢層が高めで、落ち着いてみられるメディアイメージがあります。さらに、趣味性・専門性がやや高めの番組で、地上波と差別化が意識されているかもしれません。新たに開局した局では独自にウェブサイトやアプリを通じた同時配信に取り組んでいる局もあります。その番組の届け方を軸にしてみると必ずしもBSという経路に絞り込んではおらず、BSメディアの特色にまた新たな軸が生まれています。BSは今後もNHKが2024年3月末に2波を1波に削減(BSプレミアムが停波)することが予定されており、4K/8K、左旋の受信環境普及課題などで、さらに顔・特長が変わっていくこともありそうです。

地方局からの問題提起が全国区に届くことの意義

「日本国男村」(石川テレビ)が、2022年の民放連 テレビ報道部門 最優秀賞を受賞し、本作品と2021年放送された番組をベースに再編集された映画版『裸のムラ』が各地の映画館で公開されています。ドラマ「エルピス --希望、あるいは災い--」(関西テレビ)は、ジャンルも制作局の規模も異なりますが、どこか通じるところを感じます。両者とも重層的なテーマの中に「メディアの危うさ」を描いており、こういった番組が出てくるのが2022年らしい情況かもしれません。「デジ放検(後述)」で議論されるメディアの「公共性」、コロナ禍で生活者に再評価されている「信頼性」には、テレビメディアの強みとして、改めてフォーカスが当たっています。その強みを生活者や広告主に提示すべし、という機運にある中、当事者目線で「自らの危うさ」に触れる作品が登場する。それは、せっかくの機運に水を差すというより、むしろ「矜持」を示すことになっているように思われるからです。また、これらの作品が制作本数の多い在京キー局ではなく、地方局から生まれているのは、テレビの地力を表しているようにも思います。企画や制作をめぐる経緯などは、様々な媒体での記事に委ねますが、巡り合わせによっては、このタイプの作品が配信事業者主体の企画になっていた可能性もあるのではと想像されます。番組制作の手法として、配信事業者とのタッグなども含めて選択肢は拡げていくべき状況にあるでしょうが、誰でも見られる地上波でこういった作品が提供されるのは、社会的にも、文化的にも意義があって、それこそがテレビらしいとも思われました。

デジタル時代の放送制度の在り方に関する検討会から始まる変革の兆し

総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」(デジ放検)は、上半期のホットトピックスであったと思います。「デジタル時代における放送の意義・役割」「放送ネットワークインフラの将来像」「放送コンテンツのインターネット配信の在り方」を論点とした「デジタル時代における放送制度の在り方」に関する議論ですが、具体的な検証として、小規模中継局等のブロードバンドによる代替シミュレーションが行われました。対象の範囲が設定されているとはいえ、ハード・ソフト分離が制度上の選択肢になることでもあり、今後の実装フェーズへの動向が注目されます。また、今後は放送コンテンツのネット配信をどのように促進させていくのか、国民への「インフォメーション・ヘルス」の提供を実現する上で、メディアそのものの機能・役割に関する議論、それを前提としたネット空間における取り扱い(アクセスのしやすさの設計)についての議論へとテーマが分かれていくようです。

チューナーレステレビに流通が続々参入

2021年、大手ディスカウントストアがチューナーレステレビを販売して、完売=ヒット商品として取り上げた記事をいくつも読んだ記憶があります。しかし、販売台数が1.3万台規模なので、年間500万台程度のテレビ出荷台数全体からみれば、現時点で、脅威論を唱えるのは早すぎる気がします。とはいえ、家電量販店等が独自に企画・販売に参入による販売チャネルの広がりもあって「将来的にある程度のシェアを占めるのでは?」という問題意識は身近なところでも聞かれます。執筆時点で、ある比較サイトに登録されているチューナーレステレビは16製品。大手の家電系のメーカーが本格参入している状況ではありません。「安さ」は魅力のひとつですが、チューナー搭載テレビにもお値ごろな選択肢はあって、圧倒的に安いというわけでもなさそうです。配信サービス対応はチューナーレスに限らないので、残る決め手はNHKの受信契約義務が生じない点でしょうか。ただ、デジ放検関連の議論によっては受信や受信機の定義が広がるかもしれませんし、チューナー搭載とはいえ、主たる機能がそもそもテレビではないワンセグ搭載携帯電話でも受信契約義務の対象となったことを踏まえると、セールスポイントが続かない可能性もあるかもしれません。

NetflixとTwitter、2つのメジャープラットフォームに大事件

11月、Netflixが「広告つきベーシックプラン」を導入しました。2022年春、加入者数の減少など、成長の鈍化を受けて広告モデルの導入を検討していると報じられてから半年ほどで実行に移されたことになります。開始にあたって国内のテレビ局との合意が十分ではなかったようで、NHKではインターネットを活用した業務で広告は行わないと定めている基準に抵触する問題でCM挿入が停止となり、民放の幹部からは不快感が表明されるなど、波乱のスタートとなっています。

Twitterは、4月以降、経緯もイロイロでしたが、イーロン・マスク氏が10月に買収を完了しました。大規模な従業員のリストラ、それまでのコンテンツモデレーション部門の停止など、真偽不明の情報も日々飛び交い、「Twitterは今後どうなるのか?」と様々な疑問・疑念が浮かぶ状態となっています。Twitterは、一部でデマや誹謗中傷などが発信されていることは否めませんが、例えば2011年の東日本大震災の時、救助・救難の助けにもなるライフライン機能を果たすなどして、国内での利用が定着してきたところがあると思われます。大規模に普及しているサービスが、オーナーの交代によって一夜にして機能・特徴が変わるかもしれないというのはあまり心当たりがない出来事で、プラットフォーマーに対して依存度が高すぎる施策に潜むリスクを実感することでもありました。

2023年に向けて

トピックスに挙げるべきであったかもしれませんが、テレビ視聴率が全国的に低下傾向を示したのも2022年の出来事でした。TVerのリリースが示すように、テレビでの配信サービスの利用が増えていることが視聴率調査の観察からも一因としてありそうです。「リアルタイム視聴」と、「タイムシフト視聴」を含む「その他のテレビ利用(配信サービス、ゲームなど)」を合わせた「テレビの稼働全体」が従来と変わらなければ、テレビとの接触時間自体は以前と変わらず、「利用行動の内訳が変わった」ことになります。しかし、それもやや低下傾向にあり、就労・外出、余暇活動などの変化や影響も併せてみていく必要があることは、各種調査からうかがえます。まだ収束のみえていないコロナ禍にあって、生活のスタイルやパターンがさらに想像を超えて変質していくこともあるかもしれません。

コロナ禍は、在宅時間の増加によるテレビ視聴機会の押し上げ、情報の信頼性への評価の再確認など、テレビにとってマイナスの面だけでなく、追い風の側面もありました。ただ、地方局の「自らを顧みる視点」の番組を取り上げましたが、相対的に高い信頼性評価の裏側に「強い不信」を持つ人もいるであろうことは、参院選で議席を獲得するに至った政党の主張などに鑑みても、軽視できないように思われます。情報番組で、司会やコメンテーターの発言が問題視されるのは今年に限りませんが、それが同一人物である場合には、話題になって番組を告知できる以上に、無自覚も含めた「見なくてよい/見たくない理由」を、人々の心に蓄積させていそうなことが気になります。また、テレビの影響力の裏返しですが、例えばコロナ禍で、医療や感染学の関係者で、番組出演やコメント提供を箔付けに、ソーシャルの中でデマ含みの発信を繰り返してモンスター化している人物なども散見されます。世の中の複雑化に応じて、出演を依頼する専門家・有識者の点検や依頼アプローチの見直しも、テレビメディア(マスメディア)の信頼を維持・向上させるために重要な施策となる気がします。

最後に、11月29日から12月1日に開催した「VR FORUM 2022」へは、のべ37,000人を超える方々に参加をいただき、誠にありがとうございました。各界の最前線で活躍されているキーパーソンをお招きし、メディア・ビジネスの今後について、示唆に富んだディスカッションを展開していただきました。当社としても、メディアの価値を公正、正確に測定する責任を自覚し、実態に即したデータの提供等を通して、社会に貢献する、その想いを新たにする3日間となりました。

本年も大変お世話になりました。2023年もどうぞよろしくお願いいたします。



(用語説明)
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