Inter BEE 2022 幕張メッセ:11月16日(水)~18日(金) オンライン:12月23日(金)まで

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Special 2023.10.05 UP

IBC2023 スペシャル現地レポート#05 日本でIBC2023をベンチマークするべきポイント編

デジタルメディアコンサルタント 江口 靖二 氏

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IBC2023の現地レポートの最終回は、全体をまとめて俯瞰して、日本でベンチマークするべきポイントとその実現のためにアクションについて考えてみたい。最後には提言も付記しておく。

日本のプレスは筆者だけだったという衝撃の事実

その前に1点、愚痴に聞こえるかもしれないがどうしてもお伝えしておきたいことがある。事前にわかっていたことだが、IBC2023に日本からプレスとして参加したのは筆者ひとりだけだったということだ。放送局の人も30人を超えることはなかったと思われる。IBCは言うまでもなく日本ではこのInterBEE、米国NABと並んで、放送・映像業界では3大コンベンションである。その場に対して日本から取材に出かけられないのである。もしも私が参加しなければ、現地からの日本語での情報発信はゼロだったのだ。

これは近年のIBCが正しく伝わっていないために、正当な評価されていないこともあるが、取材しようにも媒体社も個人のジャーナリストも、渡航や取材にかかる費用をリクープできないからだ。これは円安や燃油高の影響が大きく、この傾向はNABでも感じていることである。放送業界自体と同様に、その業界を扱うメディアも弱体化しているのだ。

そして本稿も含めて、表に出ているアウトプットはすべて筆者のフィルター「だけ」がかかっている。これは決して良いことではない。来年は何らかの複合的な取材体勢を組めるような取り組みを考えようかと思っている。

一気にコモディティー化したバーチャルプロダクション

ではバイアスなし、異論なしの客観的なIBC2023のポイントをまとめておこう。まずバーチャルプロダクションは、いい意味であっという間にコモディティー化した。目立った新規性はないのだが、出展者数は20社近い規模である。
去年まではバーチャルプロダクション、特にインカメラVFXはそれ自体が珍しく先進的で、展示をするだけで人が集まっていた。ところがこの1年で理解と普及が一気に加速し、議論の中心は、被写体になる人物の肌の色に影響があるので、LEDウォールが発する光のスペクトラムを補正しようとか、個々のLEDパネルユニットが平面であってはフォーカスが一点で合わせられないので湾曲したLEDが必要だとか、どうしても避けられないモアレの発生を予め予測するというような、一気に非常に深いレベルに入っている。

20年にわたってこうした技術のトレンドを定点観察してきた筆者としては、こうしたフェーズの変化速度は猛烈に加速するようになっている。

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XRとメタバースとの融合を模索するBRAINSTORMのバーチャルプロダクションのデモ

IBCはAIの議論の場にはなっているとは言えない

コモディティー化の加速は、映像領域でのAIに関しても全く同じことになるだろう。もちろんAIについては、まだまだ現在進行系そのものだ。動画生成AIの最先端といえるRunwayもModelscopeもIBCには出展していないのは残念ながら事実だ。そんな中でアドビのテキストベースエディットやFireflyが実用性では最先端といえる。テキストベースエディットは4月のNABのタイミングでリリースされたが、この5ヶ月でユーザーからの要望が多かったという「あー」「うー」というフィラーワードと呼ばれる不体裁な音をAIで検出できる機能を追加した。また日本テレビのBlurOnのAIによる自動モザイクやマスキングは地味だが、かなりの実用的で最先端である。

従来の職人技は不要になり、クリエイティビティー求められる

個人的にIBC2023で感じて、これから注目していきたいのは、職人技は不要になるのかということだ。どういうことかというと、今回ソニーがデジタルシネマ用のカメラのラインナップCineAltaに、超小型軽量のBURANO(ブラーノ)を発表した。このカメラはPLマウントでボディ内手ブレ補正機能が、EマウントでAF機能が搭載されていることである。

こうした機能の搭載理由は、小型軽量化によってシネマクラスの撮影においてもこれまでにない機動性を手に入れられるので、ソロ撮影のような場面でこうした機能が生きてくる、ということである。そのとおりであり素晴らしいと思う。

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ソニーのCinaAlta BURANO

CineAltaはハイエンドカメラのラインナップである。カメラマンではなく撮影技師と称されるような方々が使うような機材である。実際のカメラワークは助手に任せるような現場の職人気質の方々が使う機材に、これまでタブーに近いような手ぶれ補正とAFがどう受け入れられていくのだろう。

知り合いの撮影技師に話を聞いてみたところ、意外なことにかなり好意的なのである。消極的理由は、目が弱りつつあるのでどうしても小さなファインダーではピントの山がつかみにくいから。積極的理由は、機械にできることは機械がやればいいということ。実際iPhone15 Proでは撮影後に自由にフォーカスを変えられる。

重要なのは機械がやればいいことと、人がやるべきことの見極めである。フォーカスをカメラ任せにしていい場面とダメな場面がきちんと使い分けられるかだ。構図を決める、それも前後のカットのつながりを考えて、心象描写まで考えて決めていく作業を、AIがハイレベルで学習するのは大変だと思うからだ。そしてこの例は手ぶれ補正やAFの是非の話だけではなく、AIを筆頭としたこれからの放送技術や制作技術をどう受け入れるかという話そのものである。

批判を恐れずに言えば、SDIやベースバンドの時代はワイヤリングが腕の見せ所だったわけだが、IPでは全く関係ない。IPが万能というわけではもちろん無いが、LANケーブルを挿せばあとはディスプレイ上のアプリケーションでなんとかなるのは圧倒的に楽である。そこではワイヤリングのスキルには価値はほとんど存在しない。

スキルなど不要な時代になる

このようにIBCで感じた新時代への対応の指針をまとめると、これからの時代は、スキルはAIやデジタルテクノロジーに全部任せて、ひたすらクリエイティブに専念するということに尽きる。 クリエイティブというのはコンテンツに限ったことではなく、クリエイティブなワークフローとか、システムというものももちろんある。

テクノロジーの発展は人類史的な必然なので、どんなに必死になって遅らせても止まることはない。その時遅らせる側に回った人たちは、その後に大きな機会損失していることに気がつくのは、これはストリーミングサービスの普及を遅らせようとした日本のレコード業界が、遅らせることはできたけれど、その結果として世界で市場は成長したにもかかわらず、日本だけ停滞したという最近の事実でも明らかだ。そして放送についても同じ状況だということは否定することができるだろうか。

「リープフロッグ」のタイミングがまもなくやってくる

この10年、特にコロナの3年で、日本の放送業界は3周回以上の遅れになっている。だがこれを言ってもなかなか理解や共感を得られな。冒頭で書いたようにほとんど外に出ていないからである。筆者も2022年のNABやIBCに参加して、今浦島状態になった。

なのだが、この心地よいほどの大きな遅れによって、逆に一気に最前列に進出、ジャンプインできるチャンスを感じている。つまりはリープフロッグ、飛び級である。そのためにはLLMや生成AIのモデルを我々が創り出す必要など無いし、それはもうたぶん無理だ。

明治維新や高度経済成長と同じで、我々はゼロイチを創り出すのは不得意だが、1を3や10にするのは得意なはずである。少なくともそう思ってやっていかないと、それこそ数百年間鎖国するしか無い。

そこで最後にINTERBEE の場をお借りして提案をしておきたい。
リープフロッグのために民の関係者が集まって議論と実証を行う場を作るのはどうだろう。Z世代やα世代を中心にして、まともな知見と視点と経験を持つ老人会世代も交えた、近未来の放送的サービスを技術実証する業界横断的な枠組みを作り、個人や一企業ではできない取り組みをスタートさせるのはどうだろうか。

類似の事例としては、Interopにおける「ShowNet」や、InetrBEEにおける「INTER BEE IP PAVILION」がある。これらは1年に一度のアウトプット先としてのイベントがあり、そこに向けてプロジェクトが進められる。セロから新たな枠組みを作り上げるのは簡単ではないし、それだけでエネルギーを無駄に消費する。また期日が決まっているから火事場の馬鹿力も出しやすい。

日本ではInterBEEの枠組みが一番フィットするので、プロジェクト名は自虐的かつ直球で「INTERBEE LEAPFROGGING」はどうだろう。

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