Inter BEE 2021

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Special 2022.12.13 UP

【Inter BEE CURATION】梨泰院雑踏事故の名称は 「10・29惨事」に

安 暎姫 GALAC

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、放送批評懇談会発行の月刊誌「GALAC」2023年1月号からの転載です。

ハロウィンが招いた大惨事

 10月29日夜、韓国・ソウルの繁華街、梨泰院は阿鼻叫喚の事態に陥った。コロナ禍明けのハロウィン・イベントを楽しもうと集まった人たちが、狭い坂道ですし詰め状態となり、どちらに動くこともできず、圧死するという最悪の事態が生じたのだ。
 雑踏事故が起きた場所は、18・24㎡という狭い路地で、数時間で156人もの死者が出た。救出しようにも人が何重にも折り重なり、どうしようもなかったという証言もある。そのなかで一般人や医師が倒れた人たちに心肺蘇生を施したりする映像は、日本でも報道されていた通りである。
 なぜ、梨泰院に人がこれだけ集まったのか。もともとハロウィンはそれほど馴染みのある文化ではなかった。ハロウィンが韓国で流行り始めたのは十数年前からで、英会話を教える外国人の講師たちが広めたというのが定説である。
 Netflixで配信されたドラマ「梨泰院クラス」でもわかるように、梨泰院には居酒屋、バー、ナイトクラブが立ち並び、外国人もたくさん遊びに来る。だからハロウィンになると、自然と仮装した若者たちが梨泰院に集まってくるのだ。今回は特にコロナ禍以降、やっと日常生活に戻れることになった初めてのハロウィンであった。だから、余計に人が集まったのではないかと思われる。
 雑踏事故の一週間前、あるイベントが梨泰院で開かれたが、そのときは官が主催したため交通統制がされていて、まったく問題はなかったという。だが、今回は誰かが主催したわけではなく、交通統制もされていなかった。
 この事故を受けて尹錫悦大統領は、10月31日から11月5日までを「国家哀悼期間」と宣布した。そしてソウルの数カ所、さらには地方自治体にも今回の事故で亡くなった人たちを弔う「合同焼香所」が設置され、多くの人が訪れた。また、事故のあった現場には献花をする人たちもたくさんいた。
 今回の雑踏事故報道では、いくつかの特徴が見られた。まず、当初から特報扱いだったこと。二番目に、国民哀悼期間中はテレビで報道するアナウンサーや気象キャスターまでも喪服に黒いリボンを付けていたこと。三番目は特報をする一定期間商業CMは控えていたことだ。
 もう一つ特徴的だったのは、日本では繰り返し事故の様子を流していたが、韓国では見る側のトラウマを考えて、刺激的な場面はなるべく放送しない、と各放送局が自主規制していたことだ。
 このことは、MBCの30日のニュースデスクで「惨事のニュースを過度に繰り返し視聴した場合、健康を害する可能性がある、という神経精神医学会の勧告があった」と、キャスターが話したことからわかった。
 29日の夜、特報で報じていた各放送局は、30日の午前0時から速報体制に転換し、一定期間正規編成の一部または全部を中断し、ニュース速報番組に編成した。さらに、MBCは30日から31日の午後6時40分まで、SBSは30日から31日午前5時まで、テレビ広告を全面中断。両局ともに、心停止、地震、鳥インフルエンザ、豚インフルエンザなど、災難発生時の行動要領、公益広告協議会、保健福祉部などのキャンペーンだけを放送。30日の午後3時からは、メインの放送3社が一斉にステーションIDを犠牲者追悼バージョンで放送した。

誰が責任を取るべきか

 雑踏事故により、その後予定されていたイベントは、ほぼキャンセルされた。29日はまだハロウィンでもなく、31日のイベントに向けて準備をしていたところもすべてキャンセル。年末までのイベントもほとんどキャンセルされた。
 現在は連日、事故の責任は誰が取るべきかに関する政治がらみの内容が報道されている。行政安全部の長官に対して、野党議員たちは「責任を取って辞任すること」を要求し、当の長官は「これからこのようなことがないようにもっと精進する」と返している。
 また、梨泰院が位置している龍山区の区長が、事故が起き、死亡者が120人と報道されてから10分後に自分のSNSに就任100日を祝う記事を投稿したことで非難された。事故が起きて緊迫したときに、現場からそう遠くない場所で警察署長がのっそのっそと歩いている映像が見つかり、これを叱責する大統領の発言も見られる。政界では、魔女狩りが始まっているようだ。
 亡くなった人たちも大変可哀想だが、梨泰院でナイトクラブやバー、居酒屋などを営んでいる人たちも哀れである。新型コロナが流行り出した初期に梨泰院のナイトクラブで感染者が多数出たことで、ずっと営業停止のところが多く、今回のハロウィンから年末にかけて稼ぎ時だと思っていた店主たちも多かった。そこで、マスコミはこの事故を「梨泰院惨事」と呼ばず、「10・29惨事」と呼ぶことにしたと明言した。地名を惨事と関連させることで、危険な地域として烙印が押されてしまう副作用を防ぎ、該当地域の人々に苦痛や二次被害を発生させないためだという。G


【プロフィール】
アン・ヨンヒ 韓国ソウル在住。日韓の会議通訳を務めながら、英語をはじめ8ヶ国語の国際会議通訳・翻訳会社を経営。『朝日新聞』でのコラム連載を経てウェブ・マガジンの『JBPress』と『フォーブス・ジャパン』で連載中。

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