Inter BEE 2021

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Special 2023.07.18 UP

全米脚本家組合ストライキ、ハリウッドのVFX業界にも影響が

鍋 潤太郎 / Inter BEEニュースセンター

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Writers Guild of America(WGA/全米脚本家組合)がハリウッドでストライキを実施しているニュースは、既にご存じの方も多い事だろう。

このストライキは今年5月2日より実施され、これによってハリウッドでは映画・テレビ・動画配信などの作品の企画・制作・撮影がほぼストップし、ハリウッドで映像業界に従事する人々が多大な影響を受けている事は、日本でも報道されているとおりである。

そろそろ7月も中盤になろうかという時期に差し掛かっているが、ストライキは依然として継続されている。下手をすると秋ごろまで長期化する恐れも出ており、業界内では懸念が続いている。

ちなみに、WGAによるストライキは今回が初めてではない。2007年にも100日間にも及びストライキが続き、ハリウッドの映像業界が多大な影響を受けたのは記憶に残るところである。

WGAのストライキは、それぞれの時代背景を反映した要求内容となっている。2007年の前回はDVDの売り上げの利益配当が焦点であった。そして今回の場合は、動画配信の台頭よる待遇改善を前面に打ち出したストライキとなっている。このようにWGAは、これまでの伝統的な待遇及び契約内容ではなく、時代の変化や状況に応じて待遇の改善を要求し、全米映画テレビ製作者協会(AMPTP)と交渉を続けているのである。

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画像:ストライキのプラカードを手にするWGAのメンバー

さて、この影響がハリウッドのVFX業界にも出始めている。

VFXおよびポストプロダクションは、撮影が完了し、その実写プレートを受け取って作業が始まるという特性から、脚本家組合のストライキは”ワン・テンポ遅れて”影響を受ける場合が多い。

例えば、映画のVFXを手掛ける大手VFXスタジオは、ポストプロダクションの期間が半年から1年以上と長い事もあって、「撮影が完了してさえいれば」仕事が継続出来る。しかしながら、テレビや動画配信、コマーシャル等を主に受注しているVFXスタジオは、そのスパンが短い為、比較的間髪を入れずに打撃を受ける事になる。

筆者の友人・知人の中にも、勤務先のVFXスタジオからレイオフに遭った人も少なくなく、SNS等を通じて、その情報が伝わってくる。「ある月曜の朝、チーム全員がレイオフされた」、「特に明確な説明があった訳でもなく、レイオフが行われた」という生々しいコメントが投稿されていた。昨今では、報道で知るよりも、こうしたSNSを通じて最新ニュースが伝わるケースも多い。

また、レイオフには至らずとも、出勤日数を通常の週5日勤務から、週3日体制、ないしは週2日体制に減らし、当面の人件費を削減する対策を行っているVFXスタジオやポストプロダクションも出始めている。

なぜなら、ハリウッドのVFX業界は月給制ではなく時給制である。故に「週に、何時間勤務したか」に準じて給与が支給される。つまり、出勤日を減らされるという事は、大幅な減収に繋がってしまう。もちろんレイオフ(=解雇)よりは幾分か寛大な措置と言えるが、生活に大きな影響が出る事は間違いない。

こうした状況を受けて、VES(米視覚効果協会)では、公式サイトでジョブ・ボードを設置し、現在失業中の会員に対して最新の求人情報を提供している。また、ポジションに空きのあるVFXスタジオには、求人情報の提供を呼び掛けている。

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画像:VES(米視覚効果協会)ホームページより

以上の事情から、ハリウッドのVFX業界は、現在「一時的な不況」に陥っている状況である。ひとたびストライキが終了しさえすれば再びニーズが戻ってくるのだが、それまで持ち堪えなければならないのが辛い所だ。

全米脚本家組合ストライキが、1日も早く収束する事を願うばかりである。

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