Inter BEE 2021

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Special 2024.09.17 UP

【Inter BEE CURATION】「最先端づくし」のパリ五輪  日本の放送の未来に不安

稲木せつ子 GALAC

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、放送批評懇談会発行の月刊誌「GALAC」2024年10月号からの転載です。

五輪は最先端放送技術の見せ場

斬新な演出で世界を魅了したパリ五輪の開会式は、主催国フランスで放送史最高の視聴記録(*1)を打ち立てた。東京開催とは対照的な観客の賑わいが、放送への関心も高めたようだ。セーヌ川のボートパレード中継では、選手を乗せた船に固定された5Gスマホの映像がリアルタイムで活用されるなど、五輪開催中の放送は、最先端放送技術のオンパレードだった。AIやクラウド技術などを駆使したサービス(動き解析映像=判定補助、競技フォローなど)は、視聴者も体験したところだ。日本でも提供された4K生中継もその一つだろうが、フランスでは、欧州の先駆けとして4Kの地デジ放送が実現した(ただし、放送エリアは全人口の74%カバー)。これには海外の領土も含まれ、南太平洋からカリブ海まで、仏領にある15の地デジ送信タワーから4K地デジ放送が行われたのだ。

 2017年以降に発売された4Kテレビならば、HDR、ドルビーアトモスに対応しているため、受信チャンネルの再チューニングをすれば公共放送(フランス2と3)の4Kチャンネルが自動認識され、迫力ある映像を手軽に楽しめた。この次世代地デジ(4K)放送、実はフランス2だけは今年1月から始まっており、同チャンネルはパラリンピック閉幕後もHDとのサイマル放送を続ける。周波数帯不足もあり、公共放送は、放送エリアが人口の98%に達する2029年に全チャンネルを4Kに完全移行する予定だ。プロジェクトの責任者は、国民の10人中4人が地デジでリニア視聴をしていると述べ「地デジを1時間視聴した場合のエネルギー消費量は、ストリーミング1時間視聴分の10分の1。地デジは公共放送の社会的責任(サステナビリティ)を果たすうえで重要」と語る。

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フランス5G放送スタート画面

同様に公共放送が力を入れているのは、5G技術を応用して屋外・移動体向けに地デジ放送をする「5G放送」だ。こちらも環境に優しいうえ、携帯のデータを消費せずにテレビが見られる。パリ五輪を機に、同国の地デジサービスを一手に手がける伝送会社(TDF)が、パリ周辺、ボルドー、ナントの3箇所で同社の放送ネットワークを使って5G実験放送を行った。

 視聴には5G放送を受信するチューナーが内蔵されたスマホが必要だが、まだ製品化されていない。だがデモ機は数年前から作られており、今回TDFは携帯メーカーのシャオミと提携して約250台のデモ端末を用意した。一般人に貸し出して実際に多様な環境で試してもらう。デモ機には専用アプリが入っており、アプリを立ち上げると画面に放送されているチャンネル(テレビ3局、ラジオ2局)が表示される。利用者はアプリ内のサービス評価ボタンを押して逐次、サービス評価をする。また、デモ機の利用データ(位置情報や視聴チャンネルなど)は匿名化された形で実験の評価に使われる。


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ドイツ スタート画面 (Unicode エンコードの競合)

 4K地デジ放送も担っているTDFは、5G放送を次世代地デジサービスの“補完的な存在”と位置付けつつも、若者層の取り込みに期待をかける。幹部は、「今後3年以内に、若年層のコンテンツ消費習慣に対応し、地デジ放送を携帯電話でも視聴できるようにする予定」と大変な意気込みだ。ドイツも公共放送が実用化を急いでいる。

放送ハードの完全分離の勝利か

欧州ではほかでも次世代地デジの実現を加速化する動きが目立つ。スペインでは2月に公共放送がメインチャンネルを4Kで放送開始。こちらはカバーエリア99%(*2)での実現だ。同様にドイツでもサッカー欧州杯のドイツ開催とパリ五輪に合わせて5G放送をネットワーク規模で実験放送している。放送規格はフランスと同じで、デモ機によるトライアル。だが、実験エリアは人口800万人をカバーし、緊急警報放送もテストする。注目はライプツィヒ近郊都市での実験で、初めて地元の民放局が参加。公共放送主導で進められる地デジの近代化だが、5G放送には民放も関心を寄せる。春に行ったドイツの調査では、66%が「5G放送の携帯受信に興味あり」と答え、うち68%が、「実現すれば頻繁に使う」とし、リニア放送視聴を一番の使い道にあげているからだ。

 欧州勢の盛り上がりを見るにつけ、「日本の視聴者がこうした恩恵を受けられるのはいつなのか、なかなか実現しないのでは?」と不安になった。単純比較できないが、欧州の放送局は地デジの伝送インフラを持たず、どの国にも全局あるいは大部分の地デジ放送を担う伝送インフラ会社がある。前出のTDFらにとって、地デジのアップグレードは事業の生き残りにも関わる優先課題なのだ。

 一方、日本では、制度上は放送のハード部分は局と分離されているが、実際にはそうなっていない。この構造の違いが、デジタル改革対応での日欧の差となっている。また、欧州では放送の近代化に向けて政治の後押しもある。
 放送技術の進化は実に目まぐるしい。世界中の放送局が大変革への対応(=新規投資)に迫られているなか、日本の放送局は、コンテンツ制作や配信分野でのDX対応に手一杯で、抱える放送ハードのサービス改善はどうしても後回しとなってしまうのではないか。

*1 公共放送で開会式を視聴したのは翌朝集計で2324万人(視聴シェアは83.1%)。放送後7日間のキャッチアップ視聴を足して2442万人、歴代最高視聴記録となった。
*2 スペインでは、SD放送が今年1月停波となり、この空き周波数が4K放送に振り分けられ、一気に4K全国放送が実現している。


【ジャーナリスト・プロフィール】
いなき・せつこ 元日本テレビ、在ウィーンのジャーナリスト。退職後もニュース報道に携わりながら、欧州のテレビやメディア事情などについて発信している。

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「GALAC」2024年10月号

【表紙/旬の顔】寛一郎
【THE PERSON】長田育恵

【特集】放送アーカイブの現在地

今だから、今こそ、アーカイブ/吉見俊哉

フランス・INAの歴史と活動から/大高 崇

〈日本の放送アーカイブ最新事情〉
NHKアーカイブス 番組発掘プロジェクトの成果/森 正晴
放送ライブラリー 教育現場での利活用も推進/峰野千秋
脚本アーカイブズ 国立国会図書館からデジタルまで/石橋映里

〈アーカイブを生かす試み〉
NHK AIによる最新カラー化技術/霜山文雄・遠藤 伶
ニッポン放送 「オールナイトニッポンJAM」/桐畑行良
長崎放送 映像のタイムマシーン「ユウガク」/伊東陽一

著作権問題の現状と展望/福井健策

【追悼】佐々木昭一郎/戸田桂太

【連載】
イチオシ!配信コンテンツ/西川博泰
テレビ・ラジオ お助け法律相談所/梅田康宏
報道番組に喝! NEWS WATCHING/平岩 潤
国際報道CLOSE-UP!/伊藤友治
海外メディア最新事情[ウィーン]/稲木せつ子
GALAC NEWS/水島宏明
TV/RADIO/CM BEST&WORST
BOOK REVIEW『ケアする声のメディアーホスピタルラジオという希望-』『NHK 日本的メディアの内幕』

【ギャラクシー賞】
テレビ部門
ラジオ部門
CM部門
報道活動部門
マイベストTV賞

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