Inter BEE 2021

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Special 2023.01.19 UP

【CES 2023 Report】主役ではなくなったテレビ目線で見たCES2023

デジタルメディアコンサルタント 江口靖二

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CES2023に関しては様々な立場や業界からレポートが出ている。テレビが主役ではなくなっていることは間違いないのだが、実は映像あるいはビジュアライズが主役なのである。そこで今回はInterBEE目線、映像目線で全体を総括レポートしてみたいと思う。

イベントとしては混沌としてしまったCES

先日CES2023の参加者数が11万5000人と発表された。コロナ前の2020年が17.5万人、21年はオンライン開催のみで22年が4.4万人、そして今回23年が11.5万とコロナ前との比較で66%ということになる。20年ほど連続で参加している感覚からすると、今年の前年比7割くらいに回復というのは、数字的にはそうなのだろうが、実感とはやや異なる部分がある。これは中国勢の出展と参加が少ないことに起因していると思われる。こうした中国勢で数字を増やしていたのは電子パーツなどを扱う企業のような1コマブースが激減していることによるものだろう。こうしたエリアには元々人は多くない。実際の会場感覚的にはほぼコロナ前に戻った印象で、特に初日の笑顔に溢れた混雑は未だ見たことがないものだった。

さて、CESをイベントとして見た場合はテレビが主役でなくなってしまったためにとても混迷をしていると感じる。それは今年のキャッチコピーである「BE IN IT」に象徴されている。主催のCTAからは、業界を牽引するような明確なビジョンが示されることはなく「なんでもあるからみんなおいでよ」としか言っていないのである。実際に蓋を開けるとその通りの混沌とした内容だ。もちろん混沌が必ずしも悪いわけではないのだが。

CESは2015年からコンシューマーエレクトロニクスショーではなくシーイーエスであると主催者は明確に宣言している。ちなみに「セス」と言うのは日本人だけで他では全く通じない。同様にNABも「ナブ」では通じない。イベント名称の変更は、家電ショーではなくテックイベントに舵を切ったということだ。その結果としてカテゴリーは非常に幅広いものとなった。たとえばCESで開催された285本のセッションのカテゴリー分けを列挙すると
5G&IoT、アドバタイジング・エンターテインメント&コンテンツ、オーディオ、オートモーティブ、ブロックチェーン&デジタルカレンシー、ビジネス&ファイナンス、ヘルス&ウエルネス、ホーム&ファミリー、イマーシブエンターテインメント、ロボティクス&マシンインテリジェンス、スポーツ、テクノロジーインソサエティとなっている。

こうした幅広い対応もしく拡大主義によって、もはやCESは一つのイベントとしての体を成していない。カテゴリーごとに会場がある程度まとまってはいるのだが、各会場間の移動も30分以上かかるのが現状だ。こうした何でもありの状況だと当然大事なことが見えにくくなる。たとえば別記事
のソニーのBEV「AFEELA」は自動車業界と映像業界の中間部分に重要は意味があるのだが、そこをメディアも来場者も見落としてしまうのだ。

CES2023から見たテレビの現在位置

テレビというものは、CESではいまではとても地味な存在になっている。そうなっていった経緯と、今回の状況も改めて振り返りながら、次世代のテレビを考える上でのものとしてのテレビジョンをデザインする際の一つの参考材料としてまとめておく。

CESは55年前の1967年が第1回の開催だったそうである。そんな大昔の話はともかく、2008年頃からテレビはCESの主役となり花形的な存在になっていく。毎年各社が画面サイズや解像度の世界一を競う時代になる。2011年頃からはスマートTVが話題になり、一瞬3DTVが掠めるがそれは何事もなく通り過ぎ、2014年頃から4K&8Kが中心となる。

しかし、このあたりでテレビはネタ切れとなる。

2023年のテレビの現在地はどうだったのか。今年大画面や高画質、OLEDやマイクロLEDをアピールしていたのは中国のHisenseとTCL、韓国のLGくらいになってしまった。こうした企業のテレビ関連の展示はいまでも華やかであり、それはむしろ懐かしささえ覚える。中国勢はこの5年ほどでの着実に技術力を上げてきている。韓国サムスンと日本のパナソニックはCESでの展示内容はサスティナブル関連に完全にシフトしており、家庭向けのテレビの展示もプレゼンテーションはほぼない状態だ。ソニーは別記事の通り、新たに映像に関しての明確な方向性を示しているが、ブラビアに関しては新製品はあれども一台も展示はしていない。また米国市場に再参入をすると発表したシャープは、なぜか場所がWynnホテルの会議室だったために移動時間が取れず、前年ながら訪れることはできなかった。

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ハイセンスブースはテレビ全盛時代の日韓メーカーのように巨大で華やか
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TCLブースも非常に巨大で奥にはスマートホームの展示スペースがある

特に熾烈な競争を演じてきた日韓メーカーの中においては、唯一LGだけがテレビをメインにして訴求している。2020年のロール(巻取り)型のOLED TVに続いて、今年は電源以外が全てワイヤレスのOLED TVを「World’s First Wireless OLED TV」として「世界で一番シリーズ」を未だに継続しているのは立派なことだとだと本当に思う。

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LGの世界初のワイヤレスOLED TVはエントランス正面で4面連動でデモ

このように5年ほど前から、CESの場においてテレビはすでに主役の座からは陥落している。しかしテレビは売れていないのか、スマホがあればテレビは不要かと言われるとそれはそれでそうではない。水や空気と同じで欠かせないものであり、同時にあまりにも普通のものなので頓着しない、されない存在になっている。そしてスマホでさえもすでにCESではテレビと同じくらい主役ではない。

CES2023で特徴的だったことは、テレビに表示するコンテンツに関しての展示も議論もほとんどなかったことだ。いわゆるメタバースに関する議論、セッションは非常に多いのだが、欧州のIBCと決定的に異なるのは、メタバースとテレビに関しての議論はまったくない。日本も同じだが、とても不思議だ。また、もうOTTに関する議論は全く活発ではないし、FASTサービスに関しても日本での言われようほどには話題にはなっていない。実際問題としてはテレビでNetflixを見るケースが多いのだろうし、コロナ以降はテレビの接触時間は米国でも上昇している。こうしたコンテンツについて、コンテンツプロバイダーの出展もないし、それを具体的に示したり、サンプルとしてでも表示している例ですら殆どない。以前なら「当社のテレビならリモコンのボタン一つで、画面上のアイコンをクリックだけですぐにNetflixが見られます」がセールストークになったが、こうした提携や抱え込みは結局失敗というか、全部有りに落ち着いてしまった。これはコンテンツによる差別化が、ハードウエアレベルでは成立しないことを意味しているのではないだろうか。そうだとしたら、このままだとテレビは単なるディスプレイであるという、身も蓋もないない事実に落ち着くだけなのかもしれない。

そしてこうした議論においても、NEXTGENTV(ATSC3.0)は影も形も見えては来ない。全米で77局がすでに放送を開始しているそうだが、彼らの展示ブースには関係者しかいないし、セミナーは内容も薄くて参加者もまばらであった。

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ATSC3.0ブースは壁に囲まれた狭い出入り口が4箇所しかなく、非常に入りにくい雰囲気
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NEXTGENTVのセッションは人の入りも少なく重苦しいままの雰囲気で進行された

これまでテレビは、コンテンツ、伝送路、表示装置が制度で規定されて三位一体となって成長をしてきた。ところがインターネットと様々なサイズのディスプレーがバラバラで進化をする状況下においては、コンテンツも三位一体ではなく、YikTokの縦動画のようにそれぞれに最適化された内容となっている。そして技術の進化によって、これらをうまく吸収することができるMMTやオブジェクトベースのコンテンツも見えてきている。こうなると制度を規定してそれに準拠したテレビの開発製造を短期間で完了させて、かつ一定期間以上の保守メンテナンスを継続するのはコストに見合わなくなる。

これらをまとめて考えてみると、テレビはディスプレイ機能に特化したもので十分だということになりそうな予感がするのである。特にアメリカではもともとケーブルテレビか衛星放送のSTBがテレビにつながるものだったのでなおさらそういう傾向が強い。

CESの全ジャンルにわたるキーワードはビジュアライズ

ここまでをまとめておくと、CESは拡大を続けて混沌とした状況で、テレビはもう主役ではなく、もう返り咲くことは困難かもしれない。なのだが、前述したCESのカバー範囲全部に共通していることが一つだけある。それはビジュアライス、可視化だ。

今一度CESの全セッションのカテゴリーを列挙する。

5G&IoT、アドバタイジング・エンターテインメント&コンテンツ、オーディオ、オートモーティブ、ブロックチェーン&デジタルカレンシー、ビジネス&ファイナンス、ヘルス&ウエルネス、ホーム&ファミリー、イマーシブエンターテインメント、ロボティクス&マシンインテリジェンス、スポーツ、テクノロジーインソサエティ

これらは突き詰めていくと、全てセンサーでセンシングして、それをアナライズし、最終的にビジュアライズしているのである。生活の中のあらゆるシーンにおいて、今のテクノロジーが向かっている方向がそうなのである。センサー類の進歩は著しく、そこから得られたデータをAIを活用して解析を行う。解析結果を知りたいのはわたしたち人間であるので、五感のうちの視覚で提供することが最も合理的だからである。CESとは関係ないが、本稿を執筆している最中にもWi-Fiルーターが送受信する信号の位相と振幅を人体の座標にマッピングするディープニューラルネットワーク(DNN)を開発下というニュースが流れてきた。これも最終アウトプットはビジュアライズだ。

テレビ局、テレビ業界は、そのコア・コンピタンスがビジュアライズ、可視化であると、思い込みでもいいので位置づけることができれば、テレビ画面からもスマホ画面からも、電波からもネットからも開放されていい仕事ができると思う。あまりにも引きすぎた、マクロすぎる意見と大部分の方が思うのは承知だが、可視化の術に長けた競合者は案外他にはいないのだ。例えばヘルス・ウエルネスの領域はセンサー類もガジェットもかなりこなれてきているが、得られた結果を何にどう表現するかについてはあまりにも稚拙だ。まるでグーグルアナリティクスの生データを見ているみたいだ。

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今後も最も進化が期待されるブレインテック領域の例 LGとSleepwaveによる脳波センサーによる睡眠解析
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これをどうやって適切にビジュアライズするかがポイント

話がCESから外れてしまうが、いま動画マーケティングのビジネス領域が非常に伸びているようだ。従来から言うところの企業VP(ビデオパッケージ)や販促映像を50万円程度で制作するようなビジネス需要が非常に大きく伸びている。こうした映像はすべてネットで公開される。従来型の映像制作プロダクションの事業構造ではこんな単価では仕事にならないが、デジカメとノートPCで完パケて数で稼げば十分ビジネスになっている。そしてこの領域は映像制作文脈ではなく、デジタルマーケティングの文脈の中での映像制作である点が決定的に異なる。そのため両者の交流?はほとんどなく、テレビ業界のクリエイティブ能力は大きなニーズがあるはずだ。要するに居場所の問題、河岸を変えてみるということだ。

CES2023の公式オンラインで公開されている情報や、各メディアが伝えている混沌とした情報を、InterBEEに関係する方々が目線を変えて見ていくとそこにはヒントが山ほど転がっているはずだ。

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