Inter BEE 2021

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Special 2024.05.27 UP

【INTER BEE CINEMA】 「沈黙の艦隊」吉野耕平監督インタビュー

石川幸宏 Inter BEE 編集部

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制作費、撮影環境など、ハリウッド映画と比べて比較的、制約の多い中で、撮影・照明、美術など、
知識に裏付けされた、優れた技術を発揮するスタッフと、演出・キャストのプロ意識と高い経験値が調和して作り出される日本の映画に対する注目度は世界的にも高い。
近年では、アカデミー賞や欧州の映画祭等でも高く評価されており、低予算での映画制作を余儀なくされている他国の制作者からも、日本的な映画制作手法として「Japanese Production Style」が注目されている。
今年11月に開催されるInter BEE2024では、その「Japanese Production Style」を実践・活躍するアーチストたちの姿、そして、撮影現場の秘密を見ることができる、INTER BEE CINEMAが開催される。
これから11月の開催に向け、日本での映画制作の撮影現場で、クリエイティビティを発揮する人々をシリーズで紹介していく。

第一回目は、吉野耕平監督。世界的な人気コミックを見事に実写化し、2023年9月29日に劇場公開された映画『沈黙の艦隊』(現在ドラマ版(全8話)が、Prime Videoで配信中)のメインの演出家として起用された。映画「沈黙の艦隊」は、同名のコミック作品がマンガ雑誌で大ヒット。多くの熱狂的なファンがいる「沈黙の艦隊」(かわぐちかいじ作、講談社「モーニング」)が原作の実写作品だ。
多くのシーンが、狭く暗い潜水艦内である本作品では、実物と思えるほど精巧につくられた美術セットや、重厚な演技を見せつつも、明るさが制限された空間内を見事に表現した照明によって完璧な舞台がつくられた。
吉野監督は、映画『ハケンアニメ!』(2022年)で第46回日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞。また映画『君の名は。』(新海誠監督/2016年)では、CGアーティストとして参加もしており、CGの知識や経験も評価されての起用となった。
大学生のときに「沈黙の艦隊」の原作を「夢中になって読んでいた」という吉野監督。奇抜で壮大な世界観とストーリー、潜水艦という制約の多い空間での人間ドラマという難しい条件である上に、「実写化は不可能」といわれていた作品であり、さらには、幅広い多くのファンに支持されている人気コミック作品の実写化というチャレンジングな仕事だったという。

吉野監督に、映画「沈黙の艦隊」における撮影や演出の苦労や工夫した点、また、これからの日本の映画制作の思いについて聞いた。

Q:「沈黙の艦隊」は、超人気コミック作品の実写化、さらに、物語の主な舞台が潜水艦という密閉された空間であるなど、いろいろな意味で大変な作品でしたが、実際に監督として参画されていかがでしたか。

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©2024 Amazon Content Services LLC OR ITS AFFILIATES. 原作/かわぐちかいじ『沈黙の艦隊』(講談社「モーニング」所載)

吉野監督:
単純にファンの方がすごく多い作品で、映像化した時に、ものすごい賛否両論をいただきました。もちろん、ファンの人にとって、それぞれの「沈黙の艦隊」があると思います。私にも自分の中で思い描く「沈黙の艦隊」があるので、果たして許してもらえるのかっていうのが、一番気がかりだったんです。
幸いその全員が全員怒っているわけではなく(笑)、また、原作を読んでいなかった人から「原作を知らなくても楽しめた」というコメントを頂いたのが、一番嬉しかったですね。
僕も原作が大好きだったので、今回の実写版を見ていただくことで、さらに多くの人に原作を見てもらえるきっかけになればとも思ったんです。
なので「2023年に実写化するならこう」っていう、一つのやり方を試してみたんです。それが、どう受け入れられたかが今だんだん世の中で出てきている。嬉しいのと不安だったのと、ちょっとホッとしたのと、色々混じってますね。

Q:主役の海江田役、大沢たかおさん、深町役の玉木宏さんは、日本を代表する俳優さんですが、実際一緒にやられるのは初めてですね。実際いっしょに作品に携わられて、いかがでしたか?

吉野監督:
もう、それぞれ歴戦のプロフェッショナルなので。特に、大沢さんは今回、本作のプロデュースまで引き受けられています。この規模の映画で役者さんがプロデュースのトップに立ってやられるって、日本ではまだそんなに多くないはずで、そういう意味でも、監督としてはとてもチャレンジングな作品だったと思います。


Q:プロデューサーであり、役者でもあるというのは、難しい立場ですね。大沢さんは、現場ではどんな感じだったのですか。

吉野監督:
プロデュースに加わるということは、相当な覚悟で参加されたのだと思いますので、役作りに関しても誰よりも勉強してきている一人だったと思います。
現場では、役者としての立場を貫かれていたので、プロデューサーとしての意見とかじゃなくて、役者としてこのセリフって演出的にはどう表現しますかといった会話が多かったですね。やはり、艦長、潜水艦のリーダーという役柄なので、現場でも潜水艦の空気を作っていく人として、メンバーたちへの声がけや、雰囲気作りに腐心されていましたね。
長期間にわたって同じ部屋でずっと取り続けるんで、いい意味で空気を変えることも必要で。さりげなく何か仕掛けて頂いたりとか。撮影現場はすごく上手だったんで。本当に座長としての頼れる感じが強かったですね。
あと、やっぱりすごいなと思ったのが、海江田自身のキャラクターが、かなり専門的な言葉だったり、あるいは空気をまとってるんで、映画の役柄としても、焦ったりミスをしない人なんで。そういう意味では、撮影前の振る舞いから海江田でしたね。現場で自分がNG出したらどうなるか、っていうのも考えてて、セリフについてはほぼNGなし。現場で何かセリフを言うのに苦労するとか、そういう素振りは本当になかったですね。毎回ほぼ完璧にやってくれました。そういうところに、役者さんであり、同時にプロデューサーであるという意識を持たれているということを強く感じました。

Q:役者さんがプロデュースに参加されるというのは、海外の作品ではよくありますが、日本の映画づくりの中では、どういう効果があるでしょうか。

吉野監督:
今回のような関係性による作品作りがうまくいくことで、役者さんのキャリアの中で、役者自身が作りたいものを作っていくっていう、新しい道が開けるようになるんじゃないかなと思いました。役者としての目線で積み重ねてきた経験を生かしてプロデュースした映画を作っていくのも、作品のバリエーションが広がると思いますし、ファンにとっても、楽しみが増えるのではないかと思います。そういう意味で、映像界ではすごくプラスになることが多いんじゃないかなと思ってます。

Q:長期間にわたるセット撮影でしかも潜水艦という題材、撮影は色々と大変だったのでは?

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©2024 Amazon Content Services LLC OR ITS AFFILIATES. 原作/かわぐちかいじ『沈黙の艦隊』(講談社「モーニング」所載)

吉野監督:
今回は映画スタジオではなくて、大きな倉庫を借りてセットを組んだのです。エアコンもない倉庫の中で、潜水艦、洋上艦も含めて、そこでセットを組んで撮影しました。通常の生活空間と違い、実物大の潜水艦のスケール感を出さなければならない。さらに、潜水艦の浮き沈みを表現するために、セットに傾斜をつけて撮影したりするのですが、そのためにセット自体をクレーンで釣り上げたり、カメラクレーンを室内に入れなきゃいけないこともあったんです。機材も、後から色々加える可能性もあったので、スペースがいくらあっても足りなかったりしました。
"潜水艦もの"って暗ければ暗いほど、カッコ良くはなるんですけど、同時に情報が伝わりづらくなっていっちゃうんで、好きな人、知っている人は、暗くても全然平気なんですけど、やはり、エンターテイメント、ドラマとしての明るさは必要だったりするので、そこのバランスがすごく難しかったですね。演じる側も、基本的にはずっとレーダーなどのモニターを見て操作しながら、背中越しに会話するシーンが多いという、なかなか他にはない特殊なスタイルでした。

主人公の海江田も、ずっと帽子をかぶっているので、目に影が落ちてる。その方がミステリアスで、カッコ良いんですけど、一方で、彼の眼光の魅力が伝えづらい。ここは、撮影機材については、もうカメラマンチームに基本的にお任せし、演出的な表現、見え方は後処理で調整できたので、作業はスムーズに進みました。

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©2024 Amazon Content Services LLC OR ITS AFFILIATES. 原作/かわぐちかいじ『沈黙の艦隊』(講談社「モーニング」所載)

今回のようにセットが多い撮影ですと、現場のモニターで確認したときの見え方が最後まで変わらないと思うと、非常に不安が募るんです。現場でカラーグレーディングをしながら撮影したので、モニターに映る映像がバシッと雰囲気出てたんですね。そうなれば、後処理でかっこいいところには行けるので、演出に集中しやすいですし、演じてる側も多分それはすごく感じると思います。

特に今回、窓一つない潜水艦の中での演技という中で、自分たちが演じてる部分が、それ以外のCGや実物の潜水艦の映像などと同様に素敵なものになっているだろうか、という不安が先立って、演者的にも過酷だったんですが、現場のモニターが素敵に見えてるのが、凄く大きなヒントになっており、また、いろんな人の安心材料になってたと思いますね。

Q:作品の舞台の特性上、制約も多い中で、どうダイナミックに見せるかという、いろいろな工夫をされたんですね。

吉野監督:
確かに、演出家も役者さんも、いろいろ試されることがいっぱいあったんじゃないかと思います。で、うまくいくとみんなテンションが上がるんですね。壁があるからこそ、なのかもしれないですが、なんか達成感ありました。素晴らしい経験ですね。
潜水艦って、その存在自体が非常に神秘のベールに包まれている。「いない」っていうことがすごく重要に、存在を知らせないっていうことが非常に重要な不思議な兵器なので。それが本当に実在してて、世界を巻き込んで動いていくっていう物語を、メディアの発達した現代でも描いていけたらいいなと、ちょっと考えてました。

Q:吉野監督は、映画「君の名は。」にCGアーティストとして参加するなど、CGやアニメの制作でも、実力を発揮されています。映画監督として実写とCG、アニメという表現手法について、どういう位置づけをされていますか。

吉野監督:
僕の世代からは、個人で映像編集ができるようになった時代で、CGも含めて編集実写の垣根が、この先どんどんさらになくなっていくんです。それこそ、スマホで編集したり、スマホで合成したりっていう時代まで突入していく中で、僕自身も、両方をずっとやってきたので、他の人にはまだできてないことができたらいいなと思っています。
それが何かはまだ分からないですが、片方しか知らないと、どうしても、もう片方のことをやる時に過剰に尻込みしたり、過剰に警戒しちゃったりするので、あえてなんか軽薄に、というか、両方できるようにやって、その中でやっていけたらなと思ってます。
その一方で、両方やってて思うのは、結局、人が見たいのは物語だったりするということですね。CGが見たいっていうよりは、CGで描く物語が見たいんだろうと。CGが運んでる物語を見せるっていうことなんだよ、CGが見たいんじゃなくて、物語が見たいんだっていう、物語を描く方法としては、アニメがあったりとか実写があったりとかかなと思ってますね。

Q:「沈黙の艦隊」は、今年2月からPrime Videoで配信されているドラマ版「沈黙の艦隊 シーズン1 ~東京湾大海戦~」について教えてください。

吉野監督:
一度、劇場公開されているエピソードのさらに先までを配信ドラマとして描いていく。あるまとまりまでを描いていく、っていうことになるんですけど。基本的には、前よりキャラクターが見えていく。それぞれの見せ場がよりぐっと広がっていくシーン、場面が続いていくので、どうしても短い尺では描ききれないんです。
原作の持ってる政治的な駆け引きや、潜水艦のバトルもありつつ、実は日本という国がどうなっていくか、世界の政治の仕組みがどうなっていくかっていう物語だったりする。本来の物語の持っている側面に近づけていけるかなと思っています。まさにそういう描き方をしていけるかなと思っています。

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©2024 Amazon Content Services LLC OR ITS AFFILIATES. 原作/かわぐちかいじ『沈黙の艦隊』(講談社「モーニング」所載)

劇場版で描けているところまでも、非常に重要だった深町と海江田という二人の潜水艦の物語がクライマックスを迎えていきます。原作でも非常に重要な話にまで到達していくと思います。そこまで見ると、なんていうか、ぶつかり合う二人の物語っていうのが、非常にしっかりとした結末を迎えるんです。
一方で、一人の人間の二つの側面というか、お互いに理解しあいながらも一方で、それがゆえに許せないと思っている二人が、ぶつかり合って結末を迎えていくっていうところまでをしっかり描ける。なので、それはすごく見ごたえがある物語になっていくんじゃないかなと思ってます。
絡み合っていく、それぞれのドラマが。本当にドラマの終点。このシリーズの終点で、色んな人が一気に集まる瞬間が出てきます。色んな人の物語がそこのピークに向かって、まさに一話一話、楽しんでいただければと思ってます。
地上も水中も含めて、会場も含めて思いが一点に集中するっていうのが、原作の面白さでもあるし、今回のあのドラマの面白さでもあるかなと思ってます。

Q:話はInter BEEのことに変わりますが、Inter BEEは長い間、放送機器中心の展示会でしたが、昨今は映像制作のスタイルも大きく変化し、現在は総合的な映像関連展示会として、若手のクリエイター等からも注目されています。その中で今年、Inter BEE CINEMAというエリアが新設されることについて、何かご意見やコメントをいただけますと幸いです。

吉野監督:
映像制作の現場が、色々な意味で今後どこまで開かれた明るいものになっていくか、が重要だと思っています。新しく飛び込んでくる人の数が、そのまま今後の映像界の活性化や作品の質を高めていくことにつながると思いますので。そのために積極的な交流が増えていくことはとても意義があると思います。

Q:今年のINTER BEE CINEMAのテーマの一つとなりますが、今、日本の映画制作が、ジャパニーズ・プロダクション・システムという、制約された制作様式の中でも、多くの先人の映画人が切磋琢磨してきたことで、高品質で世界に通用するコンテンツを作れるプロダクションスタイルを確立してきたと思います。 今回の「沈黙の艦隊」も含め、実際に制約下をものともしないクリエイティブを発揮されている映画人として、理想的な映画プロダクションスタイルというと、どんなイメージでしょうか。

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吉野監督:
個人的に、これまで、実写から2Dアニメーション、3DCGまで割と幅広く色々な現場に関わらせていただいたのですが、うまくいっている現場で共通しているのは、監督の「個人プレイ」とそれを支える「チームプレイ」のバランスが良い、ということかと思います。
今の日本の映像の現場の監督と呼ばれる方々は、良くも悪くも歩んできた道がそれぞれかなりバラバラで、一本の明確な「定番コース」が存在していないように感じます。脚本家・カメラマン・CG作家・個人アニメ作家・CM監督・役者・その他…と、それぞれの出自からスタートして、そこから独学で監督と呼ばれる立場になっていく方も多いように思います。
そのためか、日本の映画の現場では、少人数がゆえにそういった「門外漢」もある程度柔軟に包み込んで、作品が完成できるように工夫する(工夫せざるをえない)、というような特性があると思います。
「システムにハマらなければ排除する」ではなく「その監督を最大に活かせるシステムを作る」というスタイルと言えるかもしれません。いわばその最も成功した作品が、今年の米アカデミー賞『ゴジラ -1.0』での評価につながったのかもしれない、と個人的には思います。
理想の映画プロダクションスタイル、というのはまだまだわからないのですが、決して世界の中心とは言えない日本の映像業界から、世界の中で際立つ作品を生み出したいのであれば、限られた個性を巨大なシステムにはめるのではなく、「個人プレイ」と「チームプレイ」が最高の掛け算になるようなチーム作りが鍵なのではないか、と思います。

Q:映像制作技術の分野では、日本の多くのメーカーも世界的に重要なポジションにあると思いますが、映画監督として今後、日本メーカーや日本発の技術に期待するところはありますか?

吉野監督:
新しい道具の登場は、それまで映像を作る気のなかった人を作家にしたり、それまでにないストーリーを発想するチャンスになったりします。今スマホやGoProで普通の人が当たり前に映像を撮ったり、AIで映像を作ったりといったことは、今後の映画の世界に想像以上に強い影響を与えていくと思います。出口のクオリティの部分ももちろん大事だと思いますが、実は入り口をいかに広げるか、が大きいのではないか、と思います。

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<作品情報>
『沈黙の艦隊』2023年9月29日公開

原作:かわぐちかいじ「沈黙の艦隊」(講談社「モーニング」)
監督:吉野耕平
脚本:高井光(※「高」表記は はしごだか になります)
音楽:池頼広
主題歌:Ado「DIGNITY」(ユニバーサル ミュージック) /楽曲提供:B’z

キャスト
大沢たかお
玉木宏 上戸彩
ユースケ・サンタマリア 中村倫也
中村蒼 松岡広大 前原滉
水川あさみ
岡本多緒 手塚とおる 酒向芳 笹野高史
アレクス・ポーノヴィッチ リック・アムスバリー
橋爪功 夏川結衣
江口洋介

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