Inter BEE 2021

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Special 2024.08.08 UP

【INTER BEE CINEMA】「お母さんが一緒」撮影 上野彰吾氏インタビュー

石川幸宏 Inter BEE 編集部

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上野彰吾 J.S.C.
1960年生まれ。にっかつ撮影所/日活 出身の撮影監督。森田芳光監督「それから」「悲しい色やねん」、伊丹十三監督作品「マルサの女」「マルサの女2」などで撮影助手を務めたあと、映画カメラマンへ。橋口亮輔監督作品は「渚のシンドバッド」「ハッシュ」「ぐるりのこと」などほぼ全ての作品に参加。その他「バーバー吉野」(荻上直子監督)、「天国の本屋〜恋火」「地下鉄に乗って(メトロに乗って)」(篠原哲雄監督)、「カムイのうた」(菅原浩志監督)などがある。JSC 日本映画撮影監督協会会員 理事メンバー。

■人気の舞台劇を映像化 9年ぶりの橋口監督作品

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7月12日から全国公開される映画「お母さんが一緒」は、2015年の映画「恋人たち」から9年ぶりとなる、橋口亮輔監督の最新作。
2015年に舞台作品として発表された同名の作品は、脚本家・劇作家・演出家・映画監督として活躍するペヤンヌマキが主宰する演劇ユニット「ブス会*」で発表されている。
この舞台作品を、橋口監督がテレビドラマとして自ら脚色。CS「ホームドラマチャンネル」(松竹ブロードキャスティング)の開局25周年ドラマとして制作、さらにこのオリジナルドラマシリーズを再編集して映画化されたのが本作だ。

母の誕生日に、そろって温泉旅行に来た家族の物語。久しぶりに再会した姉妹、長女・弥生役を江口のりこ、次女・愛美が内田慈、三女・清美を古川琴音が扮し、清美の彼氏・タカヒロを青山フォール勝ちが演じる。現代版、小津安二郎テイストを匂わせる映像表現やストーリー、細かい描写が魅力的。人気の舞台作品を細やかな演出の光る作品に仕上げている。

撮影の上野彰吾氏は、橋口監督による映画「渚のシンドバッド」(95年)で撮影を担当して以降、すべての橋口作品で撮影を担当しており、橋口監督の映画には欠かせない存在だ。自ら「橋口監督の信奉者」を任じている上野氏が、9年ぶりの橋口作品でまた撮影監督を務める。今回は、さまざまな条件から、マルチカメラでの撮影という、今までの橋口作品ではなかった手法を取り入れている。デジタル撮影のメリットを生かしながら、「橋口組」ならではの息の合った撮影でスムーズにロケが進められたという。

■橋口監督の全映画作品で撮影を担当

Q:映画「お母さんが一緒」は、橋口亮輔監督作品ということで、上野さんにとっては、8年ぶりの再会なんですね。

上野:
はい。映画「渚のシンドバッド」からずっとお世話になってまして。以後「ハッシュ!」(2001年)、「ぐるりのこと。」(2008年)などの橋口監督作品の撮影を担当しています。今回は、2015年の映画「恋人たち」以来、8年ぶりの再会となります。8年ぶりに橋口さんに呼ばれて、僕は本当に有頂天になりました。とても信奉している監督さんなので、久しぶりに声をかけてもらって、本当にうれしかったですね。

Q:もともとは舞台、その後、テレビドラマとして橋口氏が脚本を手がけられていますね。

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上野:
テレビドラマは、5話プラス、アナザーストーリー1話の全6話です。6話目は次女のスピンオフストーリーで他の登場人物は出演していません。その後、評判が良かったため、本編の5話分を再編集して、今回の劇場公開になりました。
もともと橋口さんの芝居の付け方というか、捉え方が、小津安二郎作品に近いテイストを感じていたんです。今回は、特に三人の娘さんたちの内面の描写がすごく緻密で繊細に描かれています。セリフも相当長く、語り尽くすようなところもありまして、カットバックの仕方は小津さんとは違うんですけれども、やっぱりちょっと小津作品に近いものを感じますね。



タイトルバックで使っている赤い布は、物語の中で出てくる大切な小道具なんですが、ある日、監督がこれをタイトルバックに使いたいから撮ってくれと言われたんです。昔、日本映画で使ってたクロスを背景にして文字を入れていた、あの感じをイメージしましたね。橋口監督は意識してないかもしれないですが、僕らはなんかまた、小津監督を意識してしまいました。

■小道具を用いた"小津調"の演出

Q:客席から鑑賞する舞台作品からモニターで視聴する映像作品を制作するということで、撮影や絵作りで工夫したことはありますか。

上野:
舞台は舞台で、現実に俳優さんがいて演技をしているということで臨場感はあるわけですよね。映画の場合は逆に、それをどうやって醸し出すかっていうことだと思います。橋口監督がよくおっしゃってたのは、舞台は一つの場所(席)から一つのものしか見れないので、小道具とか小物を出してきても、クローズアップはできない。

小津調じゃないですけれども、例えばお茶碗に茶柱が立っていると、「あ、茶柱」っていうセリフと共に、茶葉のアップがあったり。こういうのって、今はなかなか無いんですよね。今回の場合、折り紙の鶴をモチーフにしたのと、アイロンがとても小道具として大切に使われてたんです。言葉の使い方が、とても卓越した技を持っている監督なので、撮っててすごく面白かったし、私も狙ってやっていましたね。橋口監督は本当、観察感がすごい。人を見る力、観察眼というか、洞察力というか。
また演劇の方では、内田慈さんが出演されてるんですが、ドラマのそれ以外の役者さんは初めての方たちでした。当て書きではないんだけど、やっぱり、この三人に目がけてちゃんと本を書いてます。
ドラマで出てくるセリフは、アドリブのように思えるほど自然なんですけど、全部、一語一句間違いなく書かれているんです。

■5話分を15日で集中的に撮影

Q:CSでの放映は今年2月でしたが、撮影時期はいつごろで、期間はどのぐらいでしたか。

上野:
昨年23年の9月15日にクランクインして、10月の頭ぐらいまでかかりました。5話分を、15日間ぐらいかけて撮ったんです。部屋の中のシーンがほとんどで、全体の7割ぐらいある部屋の中のシーンを、山梨の井沢温泉の旅館をお借りして撮影しました。

各々3人とも、てんやわんやするんですが、その都度、誰か一人がどっかで隠れなくちゃいけないといったシチュエーションも多いんですが、うまく襖が役立ちましたね。都合よく、本当にいい感じの部屋があったんです。よくこんなとこ見つかったなと思いました(笑)。

大体、物語の最初の方から撮り始めたんですけれども、まず旅館に到着するのがこの3人で、次にお母さんが到着するのがだいたい三時ぐらい。それから夕方になってて、夜を迎え、そして真夜中のシーンがあり、そして朝を迎えるという順番に撮りました。

監督は、太陽の変化、時間の変化をしっかりと考えてましたので、それをコントロールするのは大変だったんですね。本来は、窓外の明かりとかを、操作するんですが、西側の窓だったもんですから、夕日はもうどんどん入ってきてしまうようなエリアがあって、照明部さんは大変だったと思います。

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■橋口監督作品初のマルチカメラ撮影を敢行

Q:今回はカメラ3台によるマルチカメラ撮影でしたね。

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上野:
台本を最初渡されて、驚いたのがセリフが長いことですね。もともと、原作が演劇・舞台ですから、とにかくよく喋るんですよ。三人しか出てないんですけれども、喋り続けるんです。あるシーンなんかはもう七ページぐらいあって、二、三ページずっと喋り続けるシーンが続いちゃったりして。
これをどうやって撮影していくかっていうことを考えた時に、監督からずいぶん初期の段階で言われたんですけれども、なるべく芝居を切りたくないと。監督は、なるべくできる限り、この三人のテンションを、感情を撮っていきたいと。



今までの作品では、一台のカメラということにこだわって撮ってたんですけれども、今回はテレビドラマであり、また、現場のスケジュールにも制約があるということで、一気呵成に撮るためにも3台用意してみましょうと、プロデューサーと相談して決めました。

実は、本が渡された段階で、僕はもう「これは絶対ズームが必要だ」って思っていました。橋口監督にはいいませんでしたが、「上野さん、ここズームでお願いします」って来ると、「あ、やった! 良かった!」ってなりました(笑)。

■デジタルカメラが生きる狭い空間での撮影

Q:カメラ3台で、撮影部は何人体制だったのですか。

上野:
撮影部は、私とあのAキャメのフォーカスプラーと、Bキャメのカメラマン。それと、僕の教え子の学生さんが一人、アルバイトで来てくれました。3台のカメラで4人でした。

3台のカメラが一つの部屋の中に入って撮影するっていうのは、フィルムカメラの時代は無理でした。デジタルカメラで、しかもCANON EOS R5Cのような小型カメラが出てきて、狭い空間でのマルチカメラができるようになったのは、今の時代の形なのかなと思ってますね。

全体のスタッフも少なかったですね。照明部さんも照明技師さんとその下に1人と学生さんで3人体制。逆にあまり人数いても、この狭い部屋の中で仕事できないので、ちょうどよかったかなと思います。

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■少数精鋭でも効率的な撮影進行

上野:
みんながプロで、同じ方向をちゃんと向いているっていうことがあれば、人数が少なくても進んでいくことを、今回実感しました。DITもいない現場でしたので、今回はデータを落とす作業も自分でしたんですけど、その代わりなるべく早く宿に戻って作業することにしたんですよ。その後に監督の絵コンテを読み込んで、字に置き換えて。スタッフに明日の分量はこうだよって伝えるということをやりましたね。
みんなが分からないと、次何やるのってなっちゃうので。

Q:絵コンテは橋口監督が描かれたのですか。

上野:
はい。監督自ら描いた絵コンテが毎日、やってくるわけです。殴り描きのときもあれば、すごく丁寧に描かれているときもあるんですけど、コマ割りのことに関しては、すごく慎重にきめ細かく割られているんです。
カメラの3台の配置もだいたい監督が主体になって指示されます。

現場でも、3台のモニターを据えて見てもらってます。昔はカメラの横にいて、よういスタートって声をかけてた監督さんだったんですね。
今は、モニターをチェックしながら、編集のこともしっかりと自分の中で作っていくので、撮る材料があれば、okということで、とても早かったです。今回は毎日巻きでした。本当に二時間半ぐらい早く終わってました。

■「監督を知ることがカメラマンの仕事」

Q:脚本から監督と同じマルチカメラを発想されていたり、絵コンテからコマ割りをつくって他のスタッフに伝達するところなど、まさに息がぴったりと合ったお仕事ぶりですね。

上野:
僕は橋口さんで、映画の作り方を勉強したんじゃないかなと思うぐらい影響を受けてますね。他の組で違うようなやり方をすることはもちろんあります。それでもまた、橋口さんと一緒にやると、その頃のことがバーンと思い出してくるんですね。

監督さんがその都度、狙いたい方向、それを実現するためのやり方を考えているのが、カメラマンの仕事かなと思いますね。その作品の監督のことを知ることが、一番、僕は大切だと思います。

僕がカメラマンになるとき、師匠の前田米造さんからお手紙いただいたんですが、そこに「これからのカメラマンは、監督のことを知ることです」という一言があったんですね。このことを噛み締めて、いつも仕事しているつもりではあるんですけれど。やればやるほど、それは大変なことだなと感じますね。

監督は人を見るの専門家ですから、我々のことをよくわかってるんですけど。我々は機材と向き合わなくちゃいけないときもあって。だから僕は、機材は信頼している助手さんに任せて、監督にあのなるべく近くついて仕事をしていくっていうのがモットーだと思ってますね。

■現場の撮影設計を体現できるINTER BEE CINEMAに期待

Q:今年のInter BEE 2024では、60回目開催を記念してINTER BEE CINEMAと呼ぶ、特別企画を催します。放送技術中心のInterBEEの中に、Inter BEE CINEMA という映画の撮影プロダクションにフォーカスした展示エリアとなり、映画関係の方にも関心を持っていただけるエリアにしたいと考えています。

上野:
大変喜ばしい事ですね。最近の傾向は放送通信系やVFX、LEDパネル、ポスプロ系の展示が多くベーシックな撮影の製品が少なくなって来た感があります。
実際のドラマ撮影の現場でどのように撮影設計が始まって行くかを体現出来る事は大変興味がありますね。
会場となる幕張メッセに行くには、都心から時間もかかり、また、交通費も掛かることから、なるべく行って良かったと思うような実のあるイベントになることを期待しています。

Q:上野さんは、映画学校の講師もされていらっしゃいますが、ぜひ学生さんにもおいでいただきたいと思います。また、若いカメラマンや映画人にとっても、このイベントで新しい発見をしてもらいたいと考えていますが、いかがでしょうか。

上野:
学校内の撮影実習は予算の関係で機材的に限界があるため、10年以上前の機材を使用していたりします。最新のプロの機材でプロの仕事を見る、もしくは体験する事は大変意義のある事だと思います。

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<作品情報>
『お母さんが一緒』2024年7月12日新宿ピカデリーほか全国公開

原作・脚本:ペヤンヌマキ
監督・脚色:橋口亮輔
撮影監督:上野彰吾
照明:赤津淳一
美術:仲前智治
録音:中村雅光
整音:小川武
編集:宮島竜治
衣装:片柳利依子
ヘアメイク:濁川奈津美
音楽:平井真美子

キャスト
江口のりこ、内田慈、古川琴音、青山フォール勝ち
(C)松竹ブロードキャスティング

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