Inter BEE 2022 幕張メッセ:11月16日(水)~18日(金) オンライン:12月23日(金)まで

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Special 2022.01.24 UP

【Inter BEE CURATION】地域から問い直す“放送の公共性”~在京出身トップによる複眼的ローカル局論~InterBEE2021レポート

編集部 Screens

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(左から)FCT五阿弥社長、TSS箕輪社長、TUY井川社長、村上氏

※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、InterBEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、Screensに2022年1月19日に掲載された「地域から問い直す“放送の公共性”~在京出身トップによる複眼的ローカル局論~【InterBEE2021レポート】」記事です。お読みください。

地域から問い直す“放送の公共性”~在京出身トップによる複眼的ローカル局論~【InterBEE2021レポート】

一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が日本随一の音と映像と通信のプロフェッショナル展「InterBEE」を、2021年11月17~19日にかけて開催。今回は幕張メッセでのリアルイベントとオンラインイベントを並行しての開催となり、495の企業・団体から749ブースが出展。幕張メッセ会場には18,308名、オンライン会場にも累計1万名以上(2021年11月22日時点)が来訪した。

本記事では、オンライン開催された「INTER BEE CONNECTED」のセッション「地域から問い直す“放送の公共性” ~在京出身トップによる複眼的ローカル局論~」の模様をレポートする。

地域に根ざし、活性化や課題解決に取り組む存在として重要視されるローカル局。ローカル局の将来は、少子高齢化する地域に根差すメディアとしてどうあるべきかという“地域的な視点”と、基幹放送普及計画という制度や、系列ネットワークという民放のビジネスと報道取材の枠組みをどういう姿にしていくのかという“全国的な視点”で複眼的に考えるテーマであるとの問題意識のもと、キー局もしくは全国紙で活躍後、地縁のない地域の局のトップになった経歴の4人を招いて議論した。

パネリストは、株式会社 福島中央テレビ 代表取締役社長・五阿弥宏安氏、株式会社 テレビユー山形 代表取締役社長 井川 泉氏、長崎文化放送株式会社 代表取締役社長 壹岐 正氏、株式会社 テレビ新広島 代表取締役社長 箕輪幸人氏。モデレーターを日本放送協会放送文化研究所 メディア研究部 研究主幹・村上圭子氏が務めた。

長崎文化放送:自治体営業・地域情報発信で成果。一方、中継局の更新費用が課題に

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NCC長崎文化放送 壹岐社長

長崎県を放送エリアとする長崎文化放送(NCC)の壹岐社長は、テレビ朝日スポーツ局長、BS朝日取締役、文化工房社長を経て2016年より現職。同局では「長崎の魅力を全国発信」「広告収入依存体質からの脱却」を改革のポイントに掲げる。

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「現在は売上の98%が放送(広告)収入」と壹岐社長。「とくにこのコロナ禍ではイベントが開催できず、実際には『放送収入99%』に近い状況」といい、「放送外収入を5%程度にまで増やしたい」と語る。

同局では週末の情報番組『トコトンHappyサタデー』(毎週土曜9:30〜)にて、長崎県下21市町からの生中継を実施、各自治体や観光協会と連携した情報発信を行った。

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「やはり地域PRにおいて、テレビの伝達力は強い。番組を見て視聴者の方々が『実際に行ってみよう』と行動を起こし、それにあわせて番組の視聴率も上がるという好循環が生まれている。この番組を通じて、制作も営業も、直接自治体と話ができる関係性ができた」と語る。

さらに同局では、県内の小中高生を中心に地元のアマチュアスポーツへ密着する生放送番組『スポ魂ながさき』(毎週月曜 18:30〜19:00)を制作。YouTubeでも同時配信を行い、多くのアクセスを獲得しているほか、地元の大祭である「長崎くんち」も、地上波に加え、BS朝日、ABEMAを通じて全国発信。さらにSDGs活動にも積極的に取り組み、地域社会への幅広い貢献を図っているという。

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その一方で「2023年から中継局更新にかかる多額の費用が課題」とのこと。島しょ部を含め県内に62ヶ所ある中継局の更新には5年間で10億円ほどかかる見通しで、「設備投資が死活問題に直結している」と胸の内を語った。

テレビ新広島:ローカルワイド(主に民放ローカル局で生放送される情報番組)を大幅拡充。地域情報の純度を高める取り組みに注力

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TSSテレビ新広島 箕輪社長

テレビ新広島(TSS)の箕輪社長は、フジテレビ報道局長、同局常務を経て2014年より現職。注力ポイントとして、「街を歩き、人に出会い、本を読む」とスローガンを挙げる。

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「地方は車での通勤が多く、自宅と職場の往復になりがちだが、歩くことで街の変化に気づくことができる。観察することで発見があり、またそれが新たな発見につながる。社員にも、『街を歩き、人と会い、さらに本を読んで背景を分析するように』と言っている」という。

改革のポイントとしては「失敗を恐れないこと」をあげ、「とても真面目だが、同時にそれが『いいものを出さなければならない』と自分たちを縛る枷にしていた社員の意識改革から取り組んだ」と説明。

「最初は0点でも構わない、時間が経っていけば情報の量も質も高くなっていき、それが合格点に続くのだから、大事なのはとにかく、まずやることだと社員たちに伝えた」と続けた。

こうした思いのもと、同局が取り組んだのは、平日夕方帯の報道ワイド番組の拡充。別番組で制作した素材の再利用やリピート編成などで効率化を図ったという。

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これについて箕輪社長は、「当初はコストへの懸念もあったが、『必要・大事な情報は何度流してもいい。見逃しも同時にカバーでき、情報そのものが伝わりやすくなる』と呼びかけ、積極的にリピート放送や他企画の再利用を推し進めた。長時間の編成をすべて新しい内容で作らなければいけない、という固定観念をまず改めることで、伝える情報そのものの価値を上げた」と振り返る。

同局では、フジテレビのニュースメディア「FNNプライムオンライン」を通じて、ローカルニュースを積極的に発信。毎年夏の平和記念式典の同時生中継や、TVer、FODを通じた特番の配信など「広島発全国」の発信を積極的に行っている。

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また、「私を含め、県外の人にとっては、地元の人にとって当たり前だと思うものが新鮮に感じられることがある。ネットを通じ、地元の価値ある情報を発信していきたい」といい、さらに、広島県内の新生児に向けてプレゼントを配布する「はじめてばこ」や、小学生高学年を対象にした野外学習の場を提供する「わんぱく大作戦」など、SDGsに向けた取り組みを紹介。地元に対する愛着を育む取り組みに注力していると語った。

> 【関連記事】テレビ新広島、情報銀行プラットフォーム「TV-FAN BASE」を放送局として初採用した意図〜インタビュー(前編)

福島中央テレビ:テレビ&デジタル ユニークな切り口の企画で地域を巻き込む

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FCT福島中央テレビ 五阿弥社長

福島中央テレビ(FCT/中テレ)の五阿弥社長は、読売新聞社会部長、同取締役、福島民友新聞社長を経て2021年より現職。「注力ポイントは『二兎を追うこと』」と語り、テレビ、デジタル両輪での取り組みを紹介。

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コロナ禍でリアルイベントの開催が中止となった大規模フェス『風とロック芋煮会』では、地上波特番とネット配信を組み合わせた72時間体制のイベントを実施。一部の時間帯ではオンライン有料配信を行い、約2500枚のチケットを売り上げた。

さらに同局では、「コロナ禍での新しい楽しみ」を志向したオンラインフェスを実施。局内を舞台とし、視聴者からの投票でインタラクティブにストーリー進行が変わるオンライン演劇や、ドラマ形式で楽しむオンライン謎解きイベント、「オンライン忘年会」など、ユニークな企画を開催し、人気を集めている。

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「目下の課題は、Z世代に向けたアプローチ」と五阿弥社長。「世の中の価値観が変わるにつれ、伝え方も変わっていかなければならない」としつつ、「地域を元気にし、活性化させていくことがローカル局にとって大きな役割」と語る。

続いて、同局のユニークなSDGs施策を紹介。夕方帯のワイド番組『ゴジてれChu!』(毎週月曜〜金曜 15:50〜)の月曜レギュラーコーナー「ブンケンの歩いてゴミ拾いの旅」では、“ブンケン”の愛称で親しまれる郡山市出身の俳優・鈴木文健が、県内各地でゴミ拾いを行いながら地元住民らと交流する模様を放送。回収したゴミは6トン以上にのぼり、大きな反響を得ていると。

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「ブンケンさんがゴミを丹念に拾っていくと、『一緒に拾いましょう』と加わってくれたり、車を止めて差し入れをしてくれたりする方が出てくる」と五阿弥社長。そのムーブメントに「知事からも『参加したい』との声があったほど」と手応えを感じている様子で、「お恥ずかしい話だが、福島は1人当たりのゴミの量が全国ワースト2。この活動を県民全体に広げ、ワーストではなくベスト10に入るようつなげていきたい」と力を込めた。

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「大震災と原発事故と、本当に過酷な経験をした福島から『誰ひとり取り残さない』というSDGsの精神を発信していくことは非常に大切」と五阿弥社長。「企業や団体、学校などを巻き込んだ、ひとつの運動体にしていきたい」と意気込みを語った。

テレビユー山形:「地域の情報を知りたい、発信したいならTUY」情報ハブ化に取り組む

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TUYテレビユー山形 井川社長

テレビユー山形(TUY)の井川社長は、TBSメディア推進局長、メディア担当執行役員を経て、2017年より現職。同社では自社コンテンツの制作力強化をテーマに掲げ、水曜夜のゴールデン帯で山形県内の自治体35市町村を回る自社制作のレギュラー番組『どすコイやまがた』を2021年4月スタート、県内民放としては初めてのことでしたが、平均視聴率11.6%を獲得。また月1回のペースで、山形の自然や食、人物などを取り上げる『ローカル魂』を放送し、こちらも平均視聴率10.6%を獲得している。

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「山形の人々は、とくに地元の情報を見たがる傾向にある」と井川社長。「これまで同じ時間に放送していたキー局制作の番組よりも視聴率が高い」といい、「『どすコイやまがた』の場合など、ロケ先の地元企業や商店がスポンサーとなることも多い」と語る。

さらに同局では、デジタル展開も積極的に実施。新型コロナウイルス関連の報道の一環として、記者会見の生配信をYouTube上で行ってきたほか、自社番組のディレクターズ・カット配信や、県内の高校駅伝のライブ配信などを実施。JNN東北3局の共同開発によるアプリ「ぴぴた」や、TikTokを通じたアナウンサーのPRなど、その範囲は多岐に及ぶ。

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井川社長は、「とにかく、TUYが『どこにでもいる』存在でなければならないと思った。どんな分野にも出ていって商売できる武器といえば番組じゃないか、ということで、さまざまな媒体を通じて番組コンテンツを発信している。このうちのどこかでTUYに接触した方に『面白いことをやっているじゃないか』と思っていただき、そこから何かお付き合いが始まれば、そのうちどこかで新たな商売になっていくのではないか」と。

同局では2018年には事業部を立ち上げ、放送外収入への取り組みも強化。県内のイベントでも観光客誘致のためのフードイベントを展開したほか、台湾の見本市では山形県のPRブースを出展。さらにJETRO(日本貿易振興機構)による海外向け県産品PRビデオの制作にも携わるなど、インバウンドや県内事業者の輸出拡大を踏まえた海外展開にも積極的に取り組んでいる。

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「アプリでもネットでも、『山形の情報を知りたかったらTUY』と思っていただきたい」と井川社長。加えて「『地元の情報を外に向けて発信したい』という場合にTUYを使っていただきたい」とし、「山形における情報ハブとしての存在になっていきたい」と語った。

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リアルタイム配信には「懐疑的」。見逃し配信・独自ライブ配信には積極的な姿勢

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後半は、プレゼンの内容を踏まえてディスカッション。まず、キー局で随時スタートしていく予定のリアルタイム配信(放送同時配信)に対するローカル局の見解をたずねた。

「もともとリアルタイム配信には懐疑的である」とTUY・井川社長。「いまローカル局はこのようなことができる状況にはなく、やる意味もそんなにないだろうと思っている」と厳しい見方を示しつつ、「もしやるとするならば、長時間の選挙報道や地元のスポーツイベントの配信など、地上波では編成の難しいコンテンツを発信する価値はあると思う」と語る。

自局で地元アマチュアスポーツのライブ配信を行っているNCC・壹岐社長は、「マネタイズにはまだ結びついていない」としながらも、「長崎のスポーツと言えばNCC、というイメージ付けに役立っている」と語る。地上波のリアルタイム配信については「CMなどの問題があり、まだそこまで手はつけられていない」という。一方で、TVerなどでインフラ・仕組みが整えば「やってみたいという気持ちはある」と述べた。

「多大な投資に対してリターンが少ないとなると、やはり会社としてはリアルタイム配信への参入に踏み切りにくい」というのはTSS・箕輪社長。「現場の人間はとても一生懸命に番組を作っている。『地上波は見ないが、ネットでならば見る』という方もいる。そうした方々が『テレビって結構面白いじゃないか』と思っていただけるのであれば意味があると思うが、見逃し配信でも良いのではないか」と語った。

地上波のリアルタイム配信には懐疑的な一方、独自のライブ配信については「積極的に取り組む姿勢である」と箕輪社長。「なにかあったときにうちの局を見ていただければ、必要な地元情報が届くきっかけ作りが必要だ」と語る。

「『風とロック芋煮会』をライブ配信した際には有料配信へ2000人以上の方に参加いただいたが、もっともアクセスが多かったのは東京からで、福島県内は2番目、さらに他の県からのアクセスもあった」と、中テレ・五阿弥社長。「テレビではどうしても県域の縛りがあるが、ネットでは県境を越えて情報発信ができる」とし、「地上波プラス+ネット有料配信というアプローチもありえるかもしれない」と期待を語る。また、「ともに福島県いわき市出身である元・テレビ東京プロデューサーの佐久間宣行さんと、お笑いコンビ・アルコ&ピースの平子祐希さんが街歩きをする番組『サクマ&ピース』を地上波で放映したが、ここでは初めてTVerやHuluへの配信を前提とした番組作りを行った。こうした若い世代向けのアプローチなども積極的に行っていかなければならない」と続けた。一方で、「やはり、リアルタイム配信によって地方局が“中抜け”になるのではないかという不安がある」と五阿弥社長。「多元性や多様性、地域性の確保といった放送の大原則が揺らいでいくのではないか」と語った。

地域制御に対しては一様に否定的。「ローカル発全国向け」に意欲

リアルタイム配信の実施については、放送エリアと同じ内容のみがネットでも視聴できるradikoのような「地域制御」が必要だという意見も根強かった。その意見はローカル局に強いというのが、これまでの議論における印象であったが、こちらについては各局ともに否定的な見方を示した。更に、ネット上で地域の壁なくコンテンツとして視聴される時代を見越し、各局共に「ローカル発全国向け」の情報発信に強い意欲をのぞかせた。

「ユーザーにしてみれば、地域制御の機能は便利でもなんでもない」と井川社長。「そもそもネットサービスはユーザーにとって便利で使いやすく、面白いことが大前提」といい、「リアルタイム配信を行うなら、地域制御は絶対に行わないだろう、と最初から考えていた」と語り、「地域制御をしなければ、山形からの番組をどこでも見ていただける、と思えばいいだけの話。そのために見てもらうためにどうするかを考えるのがローカル局の役目だと考えている」と語った。

箕輪社長は、「視聴者のニーズに向き合えば『地域制御なしに全部見たい』という声が返ってくるわけで、地域制御という考えは必ずなくなる。広島は日本中、世界中で名前が知られた都市である、しっかりとしたコンテンツがあれば世界中の人に見ていただけるはず。もっと大きな考えで番組を作っていく必要がある」。

ネット配信の普及によって「ローカル局の存在意義が一層問われる時代になる」と五阿弥社長。「これまではキー局の番組を流していれば収益になったが、自社で制作するとなると、人もお金も必要になってくる」とし、「これからのローカル局においては、コンテンツ制作能力がさらに重要になっていく」とコメント。壹岐社長も、「地元の良さを全国に向かって出せるツールであるという点をいかに利用していくかという視点が大事」と述べた。

放送局の「地域事業」は放送外収入の基盤となりえるか?

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次のテーマは、各局が地域の自治体や企業と連携して取り組む「地域事業」について。「これらの地域における新規の事業領域は、目減りしていく放送(広告)収入を補い、新たな収益の柱となる可能性はあるか」と村上氏がたずねた。

「Z世代の人々には、社会問題を解決する企業を支援する文化がある」と箕輪社長。「Z世代の人々が社会の中核となったとき、取り組みを続けるテレビ局となれていれば、支えくれるのではないかという期待がある。それがビジネスにもつながっていくかもしれない」。

続けて、「エシカル消費という言葉があるように、製品やサービスの生み出される過程が倫理的かどうかという点に関心を持つ人が増えてくると、付随するビジネスのあり方も変わってくる」と五阿弥社長。「営業を担当する部署を『営業局』から変えようと思っている。何かを売って儲ける、というより、もう少し地域へ貢献する、みなさんと一緒に豊かになるというような双方向な名前にできないかと考えている」という。

「こうした案件は、地域活性化とイコールの存在であり、積極的に取り扱っていくことは必要。それが売上全体の4割、5割を占めるかというと難しい」としつつも、「いまのように広告収入が9割以上という状況は変えていかなければ、経営基盤としては脆弱になってしまう」と胸の内を語った。

経営統合について「ハード面での統合・連携は現実的」

最後のディスカッションのテーマは、2021年11月に始まった総務省の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」について。村上氏は、第1回に事務局が提出した論点案を、個人的な見解も交えながら説明した。

まず、ローカル局の経営に関わるテーマについては、マスメディア集中排除原則の見直しによる経営の選択肢の拡大や、現在はラジオのみに適用されている経営基盤強化計画認定制度をテレビにも拡大するかどうか論点案に示されていることを紹介。

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その上で、「これまでの検討会(「放送を巡る諸課題に関する検討会」)では、個々の局が今の経営の形態を維持しながらいかに頑張っていくか、という議論だったが、本検討会では、放送局の経営にとって負担が大きいハード部分を抜本的に共有・切り離していくという策や、場合によっては放送局の数を減らしたり、免許のあり方を変えたりという制度改正の議論に踏み込んでいくだろう」と村上氏。

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さらに、村上氏は、「各地に存在するミニサテライト局(地上波デジタル放送では出力0.05W以下の小規模中継局)の更新・維持をNHK主体で行う要望が民放連から出され、それを受けた放送法改正案が提出されていたが廃案になっており、本検討会ではそれが一転、ミニサテ等のブロードバンド回線による代替が提案された」と紹介。そしてこの提案の背景には、「放送番組のみを受信できる放送インフラの整備より、放送番組の受信に加えて、地域社会のDXや住民の暮らし全般の向上に寄与する可能性のある通信インフラの整備のほうが、より経済合理性があり有意義であるという判断があるのではないか」と語った。

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何をどう「統合」「共有」「連携」していくのか?

「東北なら東北で同一系列の放送局がひとつになる、という話なのであれば、それは非常に難しいことと思う」と井川社長。「県境を越えたら醤油の味も違うのだから、異なる県と一緒になることはできない、という声もある」としたうえで、「経営統合のようなことを考えるのであれば、同じ放送対象地域を持つ局同士でハード面の連携を進めるような議論になるのではないか」と語る。

「ハード面の連携は可能だろうが、ソフト面の連携は非常に難しいだろう。各系列のごとの施策もあるし、経営力の弱いところ同士が単純にひとつになればよいという単純な話でもない」と続けた。

「長崎県においては、1989年よりNBCとテレビ長崎(KTN)が設備メンテナンス会社を共同で設立し、県内の送信設備全般を管理している」と壹岐社長。「井川社長の通り、ハード面であれば、中継車の共同利用などといった効率化を図ることは考えられる」と語った。

「放送のブロードバンド代替」から浮き彫りとなった“ローカル局の公共性”

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「放送のブロードバンド代替」という提言に関しては、各社ともに強い反対意見が吹き出し、白熱した議論となった。

井川社長は「テレビの電源入れるとすぐに放送が見られる状態を作ることで、放送局はメディアとしての信頼を得てきた。ブロードバンド回線を整備するから、電波領域を通信に明け渡す、ということが果たしてわれわれのメディアの価値を向上することにつながるのか。机上の議論ではなく、放送局からの意見にも耳を傾けていただきたい」。

壹岐社長は、「長崎県は全国でもっともブロードバンドの普及率が低く、現実問題として、放送のブロードバンドへの完全な代替というものは考えられない。提言された内容には、現実と未来像との大きなギャップを感じる」。

これに加え、井川社長は「ブロードバンドに代替するとして、放送波でしか情報を得られない地域に住んでいる人々はどうフォローするのか。これまで放送は電波を通じ、さまざまな品質をしっかりと担保してきたが、ネットの世界は基本的にベストエフォート(最大限努力であり、完全保証としない考え)であり、相反する。非常時に情報が届かない人が出てくる可能性がないか、というところも含めて議論をしていかなければいけない」。

「東京で考えている現実と、地方の現実とは全く違う。中央への統合の流れが進むことは、情報格差、地方の民主主義の衰退につながる。それをよしとするのか、という議論がなされていない」と箕輪社長。「技術の進歩の中で受け入れざるを得ないときも来るだろうが、そのときに本当に大事なものを忘れてはいけない」と強調した。

「今回はコスト削減を中心に、どのように厳しい時代を乗り越えていくかという悩みの声があがることを想定していたが、予想以上に前向きな話をたくさん聞くことが出来た」と村上氏。「これからの地域において、放送が果たしていく役割がたくさんあることを改めて実感した」と語り、セッションを締めくくった。

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