Inter BEE 2022 幕張メッセ:11月16日(水)~18日(金) オンライン:12月23日(金)まで

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Special 2024.12.13 UP

【INTER BEE CINEMA】クリエイターズインタビュー 岡村良憲「新しい機材の進化とともに、誰も見たことがない新しい表現を。そして制作環境も様変わりしていく現在を捉えるカメラマン岡村良憲の視点」

林 永子

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Inter BEE開催60回目を記念して特設された【INTER BEE CINEMA】。エリア内では、実際に建て込んだスタジオセットにて撮影を行うライブショー、著名なゲストを招いたトークセッション、選りすぐりのシネマレンズの装着や解説を行う「レンズバー」といったユニークなコンテンツとともに、映像制作者の交流や若手育成を促進する場を3日間にわたって提供した。

この「クリエイターズインタビュー」では、今後も続く【INTER BEE CINEMA】の取り組みにつなぐべく、映像クリエイターのオリジナリティ溢れる活動歴とともに、多様な表現活動を行う「人」にフォーカスした記事を掲載していく。

今回は、コマーシャルの話題作を多数手がけ、2018年には劇場公開長編映画『来る』(中島哲也監督)の撮影監督を務めた人気カメラマン岡村良憲氏にお越しいただき、これまでのご経歴と貴重な体験談とともに、近況についても伺った。

プロフィール

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岡村 良憲
Ryoken Okamura

1975年 生まれ
1999年 黒澤フィルムスタジオ入社
2003年 フリー撮影部
2012年 独立

カメラマンの特機部のジャムセッション

――昨年のInter BEE2023では、ソニーブースでのセミナーにご登壇されました。どんな講演をされたのでしょうか。

CineAltaカメラ「BURANO」を使用した作品『My Melomania』の撮影と、監督として演出も担当しまして、その制作背景について、グレーディングを担当したカラリストの田中基さん(レスパスビジョン)とともにお話しました。

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――多くの話題作を撮影されている岡村さんですが、なんと監督まで! 今回はそんな岡村さんがムービーカメラマンを志した経緯からお聞きしたいのですが、最初は黒澤フィルムスタジオの特機部に入社されたと伺いました

黒澤フィルムスタジオは、町の写真屋さんと間違えて面接に行きました(笑)。写真に関わる仕事に興味があって、肉体労働系のアルバイト情報誌「ガテン」に出ていた求人広告を見て応募したのですが、面接に行ってようやく勘違いに気がつきました。その時、正直に「間違えてきました!」といったら、「いいね、君」と。黒澤フィルムスタジオは機材レンタル会社ですが、面接に来る多くの人たちが”演出部”や”撮影部”希望で、撮影の手伝い側として雇うには「間違えました!」みたいなやつの方が叩き上げとしては使い勝手が良いからか、明日から来てねという感じで採用されました。

――入社後はすぐ特機部に?

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照明機材部か特機部の選択で、機材を運ぶだけではなく、カメラマンと一緒に動きをオペレートする方が絶対に面白いので特機部に。自分が持ってきた機材にカメラマンを乗せて、撮影現場の最前線にい続ける仕事はとても面白かったですね。3年目の頃には、カメラマンの瀧本幹也さんやKIYOさんが、僕にキーグリップを任せてくれました。もうね、カメラマンのみなさん、かっこいいんですよ。ドリーを押している時に、「KIYOさん、ここでパンしてくれーー!」って祈ると、すかさずKIYOさんがバシッと決めてくれて「やったーー!」みたいな瞬間が撮影中に何度もある。動きをつける自分も画の一部を担っているから、ジャムってるみたいな感覚でした。

――岡村さんは学生時代、音楽や絵の道を志していらっしゃいましたが、そうか、ジャムセッションだったんですね。

バンドみたいな感じ。一方で、カメラマンがアングルを探している時に、なぜこのアングルなのか、自分だったらこう撮る、と考えることがあり、次第に自分もカメラマンになりたいという思いが膨らんでいきました。

――そしてついに撮影助手としてフリーランスに。

27歳の頃に、カメラマンになると決意して会社を辞めました。最初の半年間はノーギャラで見習いから。他の助手よりスタートが遅かったので年齢が高く、写真の専門知識もないので、厳しい環境に身を置いて人並み以上の経験値を積むためにも、最も厳しいと評判だった撮影チームに頭を下げて入れてもらいました。同時に、撮影部の先輩たちが学んだ写真の教科書やノートを借りて、人生で初めて、めちゃくちゃ勉強したんです。そして現場の場数を踏みながら、次第に助手としてのステージが上がっていきました。

カメラマンとしてかっこよく立ち回る師匠たちの背中

――カメラマンとして独立されたのはいつ頃ですか?

36歳です。助手時代の最後にメインで撮影チーフを務めていたのが、白鳥真太郎氏と草間和夫氏だったのですが、関係各所に独立のご案内を送る際、白鳥さんに記念写真を撮っていただきました。

――当時、映像業界はまだまだ縦社会で、緊張感のある現場が多かったと記憶しています。

チーフ時代は、フィルム撮影の緊張も含めて、プレッシャーは大きかったですね。撮影チーフとしては、たとえばカメラマンと制作部やスタッフの間に入ってやり取りを潤滑にしたり、本人が現場に入る前に自分がアングルを確認しておいたり。草間さんが来る2時間前に入って、先にカラリストと一緒に色をつくっておいたこともありました。

――独立される前からカメラを回されていたと伺っておりますが、デジタル一眼カメラ撮影が台頭してきた時代と合致していますでしょうか。

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ショウダユキヒロ監督 ショートフィルム『Blind』(2011年)

ちょうど出始めた頃です。予算がない時に使ってみようか、という温度感でした。独立前に撮影したショウダユキヒロ監督のショートフィルム『Blind』(2011年)は、Canon EOS-1Dを使用しています。この作品がきっかけとなり、たくさんの仕事おやお声がけをいただいたので、転機となった思い出深い作品です。当時はまだフィルム全盛期でしたが、デジタルの波に乗って、フィルムでは撮れない表現にチャレンジしました。例えば、ショウダ監督のTOWER RECORDS『LIVE LIVEFUL!』で、パルクールのパフォーマンスを撮影しています。その画はフィルムや大型ビデオカメラでは撮れない。片手で持てる小型デジカメの機動力と性能があってこそ撮れる画でした。新しい時代が来た、新しいビジョンを撮れるという雰囲気から、仕事が増えていったのだと今は思います。

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ショウダユキヒロ監督 TOWER RECORDS『LIVE LIVEFUL!』(2012年)
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長編映画『来る』(2018年) 中島哲也監督

――独立後はコマーシャル、MVを主軸に様々な映像コンテンツに携わられ、2018年にはついに映画『来る』の撮影を担当されました。

初めての長編映画で、さらに中島哲也監督作品。何度アングルを切っても納得していただけず、アングルが決まらないと美術も照明も作れないので、毎回先頭でプレッシャーに押し潰されそうになりましたが、「カメラマンがかっこ悪くなると現場が崩れる」と、気持ちで負けないように踏ん張りました。中島さんはとても厳しいけれど、頭の中で計算し尽くしている。この人についていけば間違いないという感覚に、スタッフ全員がなる。

――チーフ時代にメンタルを鍛えられた経験が功を奏しているところもありますか?

大いにあると思います。中島監督と渡り合えたのも、撮影の師匠たちが本当にすごい方々で、カメラマンとして背筋を正して、バシッとかっこよく立ち回らないといけないと強く思う、気持ちの面も育成されたと思います。

――一方で、現代は映像の働き方改革の最中にあるので、メンタル面での負荷よりも、合理的なシステムをもって健全化しようという気運があります。この点、どうお考えですか?

今は今で素晴らしいと思います。健全化、合理化で、どんどんいい方向にいっているし、かつてよりもクオリティの高い作品がたくさんあります。機材の進化が、現場の制作進行を変え、環境を変え、人間を不健全に追い込んでいた面を解消する。目標にたどり着くまでのプロセスも早い。現在もフィルム撮影の体制のままだったら、環境も緊張感も何も変わらなかったかもしれません。

――機材の進化が人間を変える。映像機材展で”働き方”の話をする機会はなく、だからこそ<INTER BEE CINEMA>では、映像制作に必要不可欠な”働き方”について話す機会を設けているのですが、まさにその密接な関わりについて重要なお話をしてくださっております。

めちゃくちゃ密接ですよね。今の撮影は現場で答えが見える。照明のつながりもすぐに確認できる。ハイスピード撮影も、時間と機材とお金がかかっていましたが、今は感度があがり、照明が小さくなり、プレイバックできて、テイクも減り、予算も減り、時間も減り、みんなが寝る時間が増えて、クオリティがあがる。それ全部、機材の進化のおかげですよね。

最先端技術の最高峰が集結したAR空間を全力疾走

――最近のお仕事の中で、印象的だった作品について教えてください。

面白かったのは、今年夏公開のポカリスエットのCM(「潜在能力は君の中。」篇)。撮影自体はiPhoneですが、既存の技術にはない屋外ARに対応する最先端のシステムを開発して、2人の主人公がさまざまなオブジェクトの浮かぶ空間の中を、全力疾走で駆け抜けるという大掛かりな企画です。カメラは1人の主観目線を担う。つまり、カメラマンの重大な仕事はといえば、全力疾走。体力勝負なので、毎日トレーニングをして体を鍛えました。実はロケハンの時にロケ地の山を登りきれなくて、登りきれない=撮影できないので、肉体労働も重要なカメラマンとしてはあるまじき事態だと。柳沢翔監督は「オペレーターをつける」といってくれたのですが、現場で「主人公が、この空間のここに出てくるオブジェクトをふっと見る瞬間を、岡村さんがカメラをふっと振るあの感じで」と説明してきて、完全に僕にやらせようとしているなと(笑)。

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ポカリスエットCM「潜在能力は君の中。」篇

――カメラマンは体力に加えて、動体視力も大事ですね。

結局、2ヶ月間のトレーニングで、楽勝で山を駆けあがれる人になりました。iPhoneは、ARKit用、プレビュー用、本収録用の3台を用意し、ひとつに組み合わせたカメラリグを制作。そのカメラセットとベースを100m以上の光ケーブルでつなぎ、光やアングルや動きを丁寧に扱いながらAR空間を駆け抜ける。システムの方は遅延が少しでもあると成立しないので、開発チームが何ヶ月にも渡ってトライアンドエラーを繰り返していました。最先端の難しい技術を駆使した作品であり、小型カメラだからこそ追求できた世界でした。

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――先ほどの、新しい機材が新しい表現を生み出すというお話にも精通するチャレンジングな作品ですね。デジタル撮影以降は、エディターも撮影現場に同席する機会も増えましたが、岡村さんは編集の方と密に連動しながら撮影するケースはありますか?

必ず密に話し合っています。編集と話さないと撮影できないぐらい。今はカメラマンが、現状のスペックでどこまで編集できるかを理解することはマストですし、理解していれば設計が複雑な撮影の可能性が無限に広がります。リファレンス対策やプレビズとして、事前に映像を用意し、お互いの頭の中にある画のイメージを共有しておくことで、スムーズに本番を迎えるケースも有用です。その上で、本番はパワーを上乗せする。

――最後に、今後の予定についてお聞かせください。

また映画を撮りたいと思っていて、最近ついに来年2月クランクイン予定の作品が決まりました。これからロケハンが始まります!

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