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Special 2022.09.21 UP

【Inter BEE CURATION】長期化するウクライナ侵攻 メディアへの影響と今後の課題

稲木せつ子 GALAC

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、放送批評懇談会発行の月刊誌「GALAC」2022年10月号からの転載で、ウクライナ侵攻から発生する配信メディアへの影響に関しての記事となります。ぜひお読みください。

有事のウクライナ放送連合

 ロシアのウクライナ侵攻から、瞬く間に半年が経った。この間、ロシアではメディア統制が強化され、独立メディアは姿を消したが、ウクライナではどうなのだろうか?
 侵攻開始当時、キーウへの砲撃が続くなか、避難所(地下鉄の駅など)から現地テレビ局が生放送を続けていたことは記憶に新しい。当時、大半の外国メディアが首都から一時避難しており、ウクライナのキャスターがドイツのニュースに出演し、現状リポートした。「自分たちが伝えるしかない」と、カメラの前に立つジャーナリストの勇気もさることながら、生放送を24時間体制で毎日続けるために、公共放送と大手民放4局が手を組んだのも話題になった。この放送連合チャンネルは、「ユナイテッド・ニュース(#UA)」と命名され、現在も参加局が6時間交代で放送を制作し、国内外で衛星放送やネットでも同時配信をしている。
 経緯を調べたところ、#UAが創設されたのは、侵攻2日後の2月26日で、ウクライナの大手民放4局が共同でプレス発表している。動機は共通の敵(ロシア)の出現。攻撃により放送局は通常の活動ができなくなり、ロシアとの情報戦争に対抗するために共同戦線を張ったようだ。「国内各地の総合的な情報を客観的かつ迅速に提供する」とし、世界が信頼できる真実(情報)にアクセスできることが非常に重要だとアピールしていた。
 1カ月後の3月20日、ゼレンスキー大統領は戒厳令下の統一情報政策を理由に、戦争に関する放送を一本化する大統領令に署名。放送連合チャンネルは、いわゆる大本営放送(*1)となった。
 地元の独立メディアが、「大統領令は違法」とする野党系放送局の発言を掲載したが、今や#UAの国内認知度は9割に達し、6割の国民が「信頼できる」と評価している。
 夫は戦場、子ども3人は疎開という隔離生活を続けながらニュースキャスターを続けるパダルコさんは、独立性を危惧する声に対して、「放送内容は自分たちで決められる」と説明する。政府の要請で、ウクライナ軍の前線活動について、位置情報などの詳細は曖昧にしているが、報道の仕方で政府の指示を受けたことはないとのことだ。だが、釈然としない疑問も浮かぶ。
 7月にアムネスティ・インターナショナルがウクライナに警告をした。同国の軍隊が前線の住宅地や学校、病院に軍事拠点を置き、市民を攻撃の危険にさらしているとのことだ。仮に#UAがこのリスクに目をつぶり、ロシアが民間施設に潜むウクライナ軍を攻撃し、一般人が殺害された場合に、#UAは事実に基づいた客観報道ができるのだろうか。意識して政府に加担していなくても、情報を伏せること自体が真実を曖昧にする。#UAが目指している客観的な報道は、実践で大きな壁にぶつかっている。

悲惨なニュースの過剰消費か、回避か

 戦争報道は、より紛争の影響を受けている近隣国でも課題を突きつける。
 世界5カ国(ブラジル、米、英、独、ポーランド)でウクライナ戦争のニュース利用を調査したロイタージャーナリズム研究所によると、すべての国で半数以上が戦争報道に何らかの関心を寄せたが、ドイツでは81%が強い関心を寄せ、遠く離れたブラジル(58%)と大きな差が出た。その反面、侵攻後にニュースに触れるのを時々または意図的に回避する人の増加もドイツがトップで、侵攻2カ月後では、年初の29%から35%にまで回避者が上がったという。同研究所は、戦争報道がもたらす不安や強い鬱感情を人々は避けているのだと分析している。
 ポーランドは、唯一侵攻後にニュース全般への関心度が47%まで急上昇した国だったが、回避率も47%に増えており、国民の戦争に対する感情の揺れがうかがえる。
 ドイツでも18~24歳でニュースを見ない割合が高くなっている。6月に開催された戦争報道に関する座談会で、ドイツ通信の幹部が「ニュース消費での二極化がドイツの若者層で進んでいる」と指摘。ニュース回避に加え、夜中に悪いニュースをネットで読み漁る「ドゥーム・スクローリング」が深刻化しているとのことだ。
 真実とフェイクが混在するネットの情報戦争もこの分断を加速させている。ニュース対応の分断が進むポーランドでは、主な情報源をインターネット(ニュースとSNS)とする割合(40%)がテレビ(39%)を上回っている。
 ドイツ全体では、インターネットを情報源とする人はテレビの半分だが、テレビ離れが進む若者層では主な情報源がネットに移っている。放送メディアは、利用者減と影響力低下の2側面から危機感を強めており、座談会では、戦争の問題を強調する報道を控えて、(1)取材活動の透明性を高め、(2)人々にニュース制作に参加してもらい、(3)解決志向のジャーナリズムを目指すことが提唱された。戦争が長期化するなか、日本でも検討に値するアイデアではないだろうか。

*1 2月のプレス発表に「ウクライナ軍、国家安全保障・防衛会議、ウクライナ大統領府などの政府機関も放送に参加」と記されており、#UAは設立当初から政府のメガホンだったという主張もある。
*2 英オックスフォード大に付属する研究所は、世界のニュース消費傾向を調べて、毎年「デジタルニュースリポート」を発刊している。この調査もその一部として実施された。

【プロフィール】
いなき・せつこ 元日本テレビ、在ウィーンのジャーナリスト。退職後もニュース報道に携わりながら、欧州のテレビやメディア事情などについて発信している。

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【表紙・旬の顔】松本穂香
【巻頭】房 満満

【特集】テレビのサウンドパワー

音の持つ「チカラ」について/岩宮眞一郎
NHK技研レポート 放送の音響技術はここまで来ている!
ハウフルス「音選び」の極意/編集部
“聴く”テレビ「音のソノリティ」制作秘話/宮本靖広
TBSアクト「音効さん」の仕事/石川眞士・田母神正顕
ドラマ制作者「音」のこだわり/佐野亜裕美

【短期集中連載】報道メディアの正念場[1]
安倍元首相銃撃事件と統一教会報道/高瀬 毅

【連載】
21世紀の断片~テレビドラマの世界/藤田真文
番組制作基礎講座/渡邊 悟
テレビ・ラジオ お助け法律相談所/梅田康宏
今月のダラクシー賞/桧山珠美
イチオシ!配信コンテンツ/岩根彰子
報道番組に喝! NEWS WATCHING/水島宏明
海外メディア最新事情[ウィーン]/稲木せつ子
GALAC NEWS/砂川浩慶
GALAXY CREATORS[水谷潤子]/茅原良平
TV/RADIO/CM BEST&WORST
BOOK REVIEW『サンマデモクラシー~復帰前の沖縄で オバーが起こしたビッグウェーブ~』『占領期ラジオ放送と「マイクの開放」~支配を生む声、人間を生む肉声~』

【ギャラクシー賞】
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