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Special 2022.09.22 UP

【IBC 2022】レポート#1 キーワードはノンリニア、ナラティブ、そしてサスティナブル

デジタルメディアコンサルタント 江口 靖二 氏

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欧州最大の放送関連イベントであるIBC2022(International Broadcasting Convention)が、9月9日から12日にかけて、オランダ アムステルダムのRAIアムステルダムコンベンションセンターにて、Covid-19以降3年ぶりにリアル開催された。来場者数は170カ国から3万7071人と発表され、前回のリアル開催だった2019年の5万6390人から3割ほど減少した。しかしながら、会場内は参加者が減ったとは思えないほど連日大盛況で、初日の開場時には200メートルを超えるほどの行列ができていた。そして何よりも、会場内はマスクを外したたくさんの業界関係者たちの笑顔で溢れていたのがとても印象的だった。

毎年年初のCESからNAB、IBC、そしてInterBEEを十数年にわたって定点観測してきた筆者が、IBC2022で感じたマクロ目線のキーワードは、「ノンリニア」、「ナラティブ」、そして「サスティナブル」である。

リニアからノンリニアへ

ノンリニアとはノンリニア編集のことではもちろんではない。ここでのノンリニアとは、従来の放送のことをリニアTVやリニアチャンネルと表現した上で、時間軸が固定されたリニアなコンテンツではない、ノンリニアなコンテンツが新たに重要になっていくという指摘である。リニアTVという表現は日本ではこれまでほとんど耳にしたことがないと思うが、新たにノンリニアなコンテンツが登場してくることへの対比として、リニアTVという概念を再定義したとものだと言える。そしてこれは決してリニアTVが無くなるということではなく、あくまでも新たなコンテンツの概念としてノンリニアが加わっていくだろうということだ。

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リニア放送の未来に関するセッション

もう少し詳しくノンリニアについて説明しよう。例えばタイムシフト視聴はリニアではあるが、一時停止や早送りやリピートが可能という点でノンリニアでもあるわけだ。しかしタイムシフトとは誰の時間をシフトさせているのかというと、テレビ局の放送時間をシフトさせているに過ぎないとも言える。視聴者は自由でわがままであって、映像コンテンツに視聴するために要する時間や、コンテキストすらも自由にしたいと考えるようになってしまったのだ。これはすでにゲームの世界では当たり前のことだ。後述するが、ノンリニアな映像コンテンツが、最新テクノロジーによって放送の世界でも実現できる日が確実にやってくる。

主体者は視聴者自身であるナラティブなコンテンツ

ナラティブ(Narrative)とは物語という意味で、ストーリーによく似た意味合いである。ストーリーとは物語の内容や筋書きを指し、主人公をはじめとして登場人物を中心にして起承転結が展開されるいわゆる完パケ映像のことだ。これに対してナラティブとは、視聴者自身が作っていく、紡いでいくものとでも言うべきものだ。主体者は制作者でも登場人物ではなく、視聴者自身なのだ。そしてナラティブな物語には決まった結論も終わりもない。すなわちこれはゲームに近い概念だ。

すでに若年層を中心に、短尺のコンテンツが広く支持されているのは周知の通りだ。若年層に限らず、今や我々は30分や1時間の動画を根気よく最後まで視聴することを苦痛と感じてしまうことも多い。TikTokでは一瞬で視聴の可否を判断されて、お気に召さない映像コンテンツは指先で軽く弾き飛ばしてしまう。これからの映像においては、これまでの受け身の完パケ映像だけではなく、ゲームに近い、結論も終わりもないものが求められる、という主張がIBC2022の複数のセッションで語られていた。

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ナラティブなコンテンツのためのさまざまな技術背景

こうした新しいコンテンツのあり方に関する議論が起きる背景には、バーチャルプロダクション、ボリュメトリックビデオ、メタバースなどの技術革新とその普及があるからだと考えられる。バーチャルプロダクションには仮想現実VRと拡張現実AR(ここではスタジオ拡張のこと)の両方があるが、どちらも大きな可能性を秘めている。こうした技術によって映像や音声が独立したオブジェクトとして別々に存在する、あるいは別々に切り出して扱えるようになってきている。例えば最近アップデートされたiOS 16ではワンタッチで画像の切り出しが可能になった。こうしたオブジェクトを、これまでは制作者が撮影、編集、MAで完パケとして組み立ててきたわけだが、これからはゲームのように端末側で、かつ視聴者の意思によって自由に構築することができるようになる、という指摘である。これはOBM(Object Based Media)と呼ばれるもので、OBMについては別途レポートをしたい。

サスティナブルという視点は少なくとも欧州では非常に支配的

IBC2022では、サスティナブルに関連したセッションが4本も開催された。そのタイトルは下記のとおりだ。
・Building a sustainable future in tech
・Technical papers: Energy-efficiency for a more sustainable future
・Panel: Environmental sustainability and the cloud’s contribution to tackling climate change
・Meet albert * - How TV is driving sustainable change
*albertは2011年に設立された世界の映画・テレビ業界が制作に伴う環境負荷を低減し、持続可能な未来へのビジョンをサポートするコンテンツを制作できるよう支援する団体

アメリカや日本では、放送におけるサスティナブルに関する議論をほとんど見かけることはない。InterBEE2021のセッションではほぼ無し、NAB2022では1本のセッションが実施された。日本だとラジオ局がグリーン電力で放送していますとアピールするくらいかもしれない。ところがIBC2022では環境負荷をできるだけ減らすという動きが、セッションだけではなく各社のブースでも多数訴求されていた。放送領域ではやはりE2Eでの各レイヤーでの使用電力の低減への取り組みがメインテーマとなっている。さらに制作時の大道具などはバーチャルセットへ、さまざまな移動はリモートプロダクションへ、ハードウエアはリサイクルへというように、何でもサスティナブル文脈に持っていこうとしている感も無くはないが、対応できる余白が多いことは間違いない。オンラインで配信を行う場合のサーバーの使用電力に関しても、欧州の次世代放送規格で策定が進んでいるDVB-NIPでは、衛星を活用するなどして巨大なCDNサーバーをできるだけ減すという目的もある。

また関連する興味深いものとしては、ジェンダーダイバーシティーを議論するセッションも開催された。「Strive to Rise」 はメディアテクノロジーセクターにおけるジェンダーダイバーシティを支援するグローバルな会員制組織であるRiseが新たに策定した認定プログラムだ。Strive to Riseの自己評価フォームに記入し、証拠となる資料を提出することでStrive to Riseプログラムに参加することができる。提出が完了すると提出書類に基づいたスコアが与えられ、該当するレベルのStrive to Riseマークが授与される。

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ジェンダーダイバーシティーに取り組むStrive to Riseのセッション

このようにIBC2022で感じた「ノンリニア」「ナラティブ」「サスティナブル」というトレンドは、今までの放送業界が進めてきた進化の歴史=要するに全ては高画質化を目指してきたものとは異なるものである。これは技術的にも制作的にも非常に重要なことなのではないだろうか。

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