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Event Report 2025.02.27 UP

【Hollywood Report】「第23回 VES アワード授賞式レポート」

鍋 潤太郎 / Inter BEEニュースセンター

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特別賞を受賞した真田広之氏と山崎 貴氏。極めて貴重な2ショットである。(筆者撮影)

ハリウッドは映画賞シーズンである。そんな中、ハリウッドの映画賞の1つである「VES アワード授賞式」が2月11日(火)に開催された。
今回は、第23回VESアワード受賞式のレポートを、現地から筆者独自の目線による特別レポートの形でお届けする。

◯映画賞シーズンのハリウッド

ハリウッドは1月〜3月にかけて、Awards Season(賞レース・シーズン)に突入する。

この時期には、米脚本家組合や米俳優組合等の各映画ギルドの受賞式が開催される。

これらの各映画賞の最後を締めくくるのが、オスカー像でお馴染みのアカデミー賞である。さまざまな映画ギルドの受賞式がこぞって開催された後、アカデミー賞が最後に開催されるように日程が調整されている。

◯そもそも:VESアワードとは何か

読者の皆様の中には、そもそもVESアワードについて、よくご存知でない方も多いのではないだろうか。

ハリウッドには、VFX(ビジュアル・エフェクト)業界に従事する人を対象とした協会がある。これがVisual Effects Society(米視覚効果協会)である。略してVESの3文字で記述される事が多い。たまに「ベス」と呼んでいる方をお見掛けする事があるが、VESはアルファベット3文字を「ヴィ・イー・エス」と呼ぶのが正式な呼び名である。

VESは、米監督組合、脚本家組合、俳優組合等と並ぶ、ハリウッドの映画ギルドの1つである。ただ、VESは労働組合ではなく、業界の啓蒙を目的とした協会という位置づけを保っている。設立は1997年で、会員はハリウッドを中心とする映画、テレビ、アニメーション、ゲーム等のVFX業界に従事する世界中のプロフェッショナル達で構成される。

VESによれば、米国および50ケ国に約5,000人近くの会員数を誇るという。もちろん、日本からでも加入が可能であり、文字通り「世界最大規模のVFX業界のギルド」である。会員になるには、「5年以上の現場経験を有する事」が条件とされ、現役会員2名からの推薦状が必要とされる。そして、年2回行われる理事会の承認を経て、晴れてメンバーになる事が出来る。

このようにVESは、「VFX業界の、プロの、プロによる、プロのための協会」と言える。

VES公式サイト

そして、映画ギルドとしてのVESが主催する賞が、このVESアワードである。VESアワードは、言ってみれば「VFX業界のアカデミー賞」のような位置づけである。

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VESアワード受賞式の様子 (筆者撮影)

その授賞式では、全世界から応募されたVFX作品の中から、映画、TV(ドラマ、コマーシャル)、アニメーション、ゲームなど、全25カテゴリーに及ぶ最優秀作品が、VESの会員投票によって選出される。

今年の第23回VESアワードにおけるノミネート作品は、世界16カ所での審査会を経て選出されるという途方もないプロセスを経て、最終的にVESメンバーによるオンライン投票によって、受賞作品が決定される。

そして授賞式では、各部門の受賞作品の発表及び表彰が行われる。受賞者には、VESアワード名物の「月顔トロフィー」が贈られる。

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VESアワード名物の「月顔トロフィー」(画像:筆者撮影)

VESアワード受賞式は、ビバリーヒルズのサンタモニカ&ウィルシャーの交差点に位置する有名なホテル、ビバリー・ヒルトンで開催されている。ここはゴールデングローブ賞授賞式の会場としても知られ、1,000人以上が出席する、大規模な授賞式である。

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開演前の場内。今年もチケットはあっという間に完売。(画像:筆者撮影)
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授賞式の前にはディナーが楽しめる。メインディッシュはチキン。(画像:筆者撮影)

VESアワード受賞式は、チケットさえ購入すれば、VES会員でなくても入場する事が出来る。チケット代はVES会員300ドル、一般500ドルと高めの設定だ。しかしながら、ディナーもついて、VFX業界の著名人やハリウッドのセレブを間近で拝める華やかな授賞式に出席出来るのだから、それだけの価値はあると言っても良い。チケットはノミネート発表後に間もなく売り切れになってしまう年も多く、今年もSOLD OUTだったそう。

〇今年のVESアワードの傾向

第23回VESアワード受賞式は2月11日(火)夜に開催された。ノミネートされたゲスト、VFX業界からの参加者、そして賞のプレゼンター達がドレスやタキシードに身を包んでビバリー・ヒルトンに集い、全25カテゴリーにも及ぶ各賞、そして特別賞の授賞式が開催された。

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ビバリー・ヒルトンの正面玄関に続々と到着するリムジン(画像:筆者撮影)

今年は映画『デューン 砂の惑星 PART2』が圧倒的に強く、4部門で月顔トロフィーを獲得。また、映画『猿の惑星/キングダム』が最優秀視覚効果賞[実写映画部門]を受賞。長編アニメーション映画『野生の島のロズ』は最優秀視覚効果賞[アニメーション映画部門]を始めとする4部門で受賞した。また、ドラマ関連部門では『SHOGUN 将軍』が最優秀視覚効果賞[ドラマ部門]など3部門で受賞、『THE PENGUIN-ザ・ペンギン』も3部門で受賞を果たした。コマーシャル関連部門では、昨年に引き続きコカ・コーラのCMシリーズの新作『コカ・コーラ: ザ ヒーローズ』が強く、最優秀視覚効果賞[コマーシャル部門]など2部門で受賞を果たした。

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映画『猿の惑星/キングダム』で最優秀視覚効果賞[実写映画部門]を受賞したWētā FXのチーム。(筆者撮影)

〇VES特別賞

今年のハイライトは何と言っても、真田広之氏と山崎 貴氏という日本人2人の特別賞受賞である。

VESアワードでは、VFX業界において長年貢献した人物に毎年特別賞を贈っているが、今年は真田広之氏にVES クリエイティブ・エクセレンス賞が、そして山崎 貴氏にVES ビジョナリー賞が贈られた。

VES特別賞を日本人が受賞するのは史上初であり、しかも2名同時に受賞したのは快挙であろう。

今回、真田広之氏に贈られたVES クリエイティブ・エクセレンス賞は、「VFX業界と映画エンターテインメントの芸術と科学に重要かつ永続的な貢献を果たした個人を表彰する」賞だ。

表彰に際しては、賞の紹介と、受賞者の紹介を行うプレゼンターが登壇する。この賞のプレゼンターとして、なんと、俳優キアヌ・リーヴスがステージに登場。ハリウッドの大スターを目の前にして、場内は大興奮に包まれた。

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深々とおじぎしながら、”日本式”の敬意を表し楯を手渡す、俳優キアヌ・リーヴス。(画像提供:VES)
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俳優キアヌ・リーヴスは、真田広之氏と映画「ジョン・ウィック:コンセクエンス」などで共演した間柄。壇上で硬い握手を交わしていた(画像提供:VES)
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VES クリエイティブ・エクセレンス賞の楯を手にする真田広之氏(筆者撮影)

VESクリエイティブ・エクセレンス賞の歴代受賞者には、映画監督のギレルモ・デル・トロ、クリエイター、エグゼクティブ・プロデューサー、脚本家、監督のデイヴィッド・ベニオフとD.B.ワイス、VFXスーパーバイザーのシーナ・ダガル、VFXスーパーバイザー兼撮影監督のロバート・レガート(ASC)、伝説の俳優ウィリアム・シャトナーなどがいる。

真田広之氏は、VFXを駆使したドラマ シリーズ「将軍」でプロデューサー兼主役として高い評価を受け、プライムタイム・エミー賞とゴールデングローブ賞を受賞した初の日本人俳優として歴史的な偉業を達成した。

これまで50年以上に渡り日本と香港のアクション映画およびドラマ映画、そして数々のハリウッド映画で優れた役を演じ、日本の文化大使として多大な影響を与えてきた功績を称え、VES 理事会が授与を決定したという。

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VES ビジョナリー賞を受賞した山崎 貴氏(筆者撮影)

山崎 貴氏に贈られたVES ビジョナリー賞は、「VFXの芸術と科学を独自に、そして一貫して活用し、芸術性、発明性、画期的な仕事を通じて想像力を育み、ビジョナリーな(先見の明を持つ)個人を表彰する」賞。VES理事会は、山崎氏の卓越した芸術性、幅広いストーリーテリング、そしてVFXを駆使して独自のビジョンを実現する卓越した能力を称え、VES 理事会が授与を決定したという。

VESビジョナリー賞の歴代受賞者には、映画監督のクリストファー・ノーラン、アン・リー、アルフォンソ・キュアロン、J.J.エイブラムスの各氏、そしてインダストリアル・デザイン&コンセプト・アートの巨匠シド・ミードや、ビクトリア・アロンソ、ジョナサン・ノーラン、ローランド・エメリッヒ監督など錚々たる顔ぶれが揃う。

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山崎 貴氏のゴジラシューズ(筆者撮影)

また、今年はジョルジュ・メリエス賞がバーチャル リアリティ/没入型テクノロジーの先駆者であるジャクリーン・フォード・モリエ博士に贈られた。賞のプレゼンターは、HDRIの生みの親であり、現在Eyeline Studios の最高研究責任者であるポール・デベビック氏が務めた。

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ジョルジュ・メリエス賞を受賞したジャクリーン・フォード・モリエ博士(画像提供:VES)

◯ハリウッドで活躍する日本人の受賞

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DreamWorks Animationの稲垣教範氏(筆者撮影)
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ステージ上で月顔トロフィーを受け取る、Dreamworks Animationのチーム(筆者撮影)

今年は、DreamWorks Animationの稲垣教範氏(キャラクター・テクニカルディレクター)が、長編アニメーション映画『野生の島のロズ』で最優秀キャラクター賞[アニメーション映画部門]にクルー4名の方と共に連名でノミネートされ、見事受賞を果たした。

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長編アニメーション映画『野生の島のロズ』で最優秀キャラクター賞[アニメーション映画部門]、DreamWorks Animationのチーム。 左から:ファビオ・リグニニ(スーパーバイジングアニメーター)、稲垣教範(リギングリード)、オーウェン・デマース(ルックデベロップメント)、ヒュン・ホ(モデリングスーパーバイザー)の各氏。(画像提供:VES)

〇ハリウッドで活躍する日本人のノミネート

今年は、ハリウッドで活躍する2名の日本人の方が、ノミネートを果たした。
惜しくも受賞には至らなかったものの、ノミネートの功績は偉大である。

まず、Blizzard Entertainmentの五十嵐敦史氏(エフェクトアーティスト)が、「ディアブロ4 憎悪の器 ネイレル」で、最優秀キャラクター賞[ドラマ部門/コマーシャル部門/リアルタイム部門]にクルー4名の方と共に連名でノミネートされた。

五十嵐敦史氏のVESアワードでのノミネートは、2015年に続いて2度目となる。今作では、エフェクトアーティストとしてキャラクターの腕が裂けるエフェクトを担当した事から、最優秀キャラクター賞のカテゴリーでノミネートされたという。

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左から、ヨン・ホ・リー(アニメーションスーパーバイザー)、ジェームス・マー(プリンシパルサーフェシングアーティスト)、五十嵐敦史(シニアエフェクトアーティスト)の各氏。(筆者撮影)

また、Pixomondo Torontoの高坂俊弘氏(キャラクター&クリーチャー・スーパーバイザー)が、「ザ・ボーイズ/The Boysシーズン4 第2話「堕ちた者たちの生き様」で、最優秀コンポジット&ライティング賞[ドラマ部門]にクルー4名の方と共に連名でノミネートされた。

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左から、マイク スタドニキ(コンポジット・スーパーバイザー)、トリスタン ゼラファ(VFXスーパーバイザー)、高坂俊弘(キャラクター&クリーチャー・スーパーバイザー)、ラジーヴ B.R.(CGスーパーバイザー)  (筆者撮影)

〇今年の受賞作品一覧

第23回VESアワード 全25カテゴリー  受賞作品一覧は下記のとおり
(受賞作品名およびタイトルは原題のまま)。


■最優秀視覚効果賞[実写映画部門]
OUTSTANDING VISUAL EFFECTS IN A PHOTOREAL FEATURE
Kingdom of the Planet of the Apes


■最優秀助演視覚効果賞[実写映画部門]
OUTSTANDING SUPPORTING VISUAL EFFECTS IN A PHOTOREAL FEATURE
Civil War

■最優秀視覚効果賞[アニメーション映画部門]
OUTSTANDING VISUAL EFFECTS IN AN ANIMATED FEATURE
The Wild Robot

■最優秀視覚効果賞[ドラマ部門]
OUTSTANDING VISUAL EFFECTS IN A PHOTOREAL EPISODE
Shōgun; Anjin

■最優秀助演視覚効果賞[ドラマ部門]
OUTSTANDING SUPPORTING VISUAL EFFECTS IN A PHOTOREAL EPISODE
The Penguin; Bliss

■最優秀視覚効果賞[リアルタイム部門]
OUTSTANDING VISUAL EFFECTS IN A REAL-TIME PROJECT
Star Wars Outlaws

■最優秀視覚効果賞[コマーシャル部門]
OUTSTANDING VISUAL EFFECTS IN A COMMERCIAL
Coca-Cola; The Heroes

■最優秀視覚効果賞[博展映像部門]
OUTSTANDING VISUAL EFFECTS IN A SPECIAL VENUE PROJECT
D23; Real-Time Rocket

■最優秀キャラクター賞[実写映画部門]
OUTSTANDING ANIMATED CHARACTER IN A PHOTOREAL FEATURE
Better Man; Robbie Williams

■最優秀キャラクター賞[アニメーション映画部門]
OUTSTANDING ANIMATED CHARACTER IN AN ANIMATED FEATURE
The Wild Robot; Roz

■最優秀キャラクター賞[ドラマ部門/コマーシャル部門/リアルタイム部門]
OUTSTANDING ANIMATED CHARACTER IN AN EPISODE, COMMERCIAL, GAME CINEMATIC OR REAL-TIME PROJECT
Ronja the Robber’s Daughter; Vildvittran the Queen Harpy

■最優秀背景賞[実写映画部門]
OUTSTANDING CREATED ENVIRONMENT IN A PHOTOREAL FEATURE
Dune: Part Two; The Arrakeen Basin

■最優秀背景賞[アニメーション映画部門]
OUTSTANDING CREATED ENVIRONMENT IN AN ANIMATED FEATURE
The Wild Robot; The Forest

■最優秀背景賞[ドラマ/コマーシャル/ゲーム・シネマティック/リアルタイム部門]
OUTSTANDING CREATED ENVIRONMENT IN AN EPISODE, COMMERCIAL, GAME CINEMATIC OR REAL-TIME PROJECT
Shōgun; Osaka

■最優秀デジタル撮影賞[全部門]
OUTSTANDING CG CINEMATOGRAPHY
Dune: Part Two; Arrakis

■最優秀モデリング賞[実写/アニメーション部門]
OUTSTANDING MODEL IN A PHOTOREAL OR ANIMATED PROJECT
Alien: Romulus; Renaissance Space Station

■最優秀エフェクト&シミュレーション賞[実写映画部門]
OUTSTANDING EFFECTS SIMULATIONS IN A PHOTOREAL FEATURE
Dune: Part Two; Atomic Explosions and Wormriding

■最優秀エフェクト&シミュレーション賞[アニメーション映画部門]
OUTSTANDING EFFECTS SIMULATIONS IN AN ANIMATED FEATURE
The Wild Robot

■最優秀エフェクト&シミュレーション賞[ドラマ/コマーシャル/ゲーム・シネマティック/リアルタイム部門]
OUTSTANDING EFFECTS SIMULATIONS IN AN EPISODE, COMMERCIAL, GAME CINEMATIC OR REAL-TIME PROJECT
Shōgun; Broken to the Fist; Landslide

■最優秀コンポジット&ライティング賞[実写映画部門]
OUTSTANDING COMPOSITING & LIGHTING IN A FEATURE
Dune: Part Two; Wormriding, Geidi Prime, and the Final Battle

■最優秀コンポジット&ライティング賞[ドラマ部門]
OUTSTANDING COMPOSITING & LIGHTING IN AN EPISODE
The Penguin; After Hours

■最優秀コンポジット&ライティング賞[実写コマーシャル部門]
OUTSTANDING COMPOSITING & LIGHTING IN A COMMERCIAL
Coca-Cola; The Heroes

■最優秀SFX部門[実写部門]
OUTSTANDING SPECIAL (PRACTICAL) EFFECTS IN A PHOTOREAL PROJEC
The Penguin; Safe Guns

■先端技術賞(2023年より新設)
EMERGING TECHNOLOGY AWARD
Here; Neural Performance Toolset

■最優秀視覚効果賞[学生作品部門]
OUTSTANDING VISUAL EFFECTS IN A STUDENT PROJECT (AWARD SPONSORED BY AUTODESK)
Pittura (entry from ARTFX – Schools of Digital Arts, France)

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