Inter BEE 2025 幕張メッセ:11月19日(水)~21日(金)

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Event Report 2025.03.27 UP

【Inter BEE CURATION】アジアのクリエイティブ産業の勢い反映〜香港フィルマート2025現地取材レポート~

テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子

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香港貿易発展局が主催するアジアを代表するエンターテインメント・コンテンツのトレードショー「香港フィルマート」が3月17日から20日までの期間、香港コンベンション&エキシビションセンターで開催された。参加者数は昨年より上回り、出展した国数も増え、アジアのクリエイティブ産業の勢いを反映していた。会場では業界トレンドのAIソリューションの展示やコープロの話題が盛り上がり、今年はアジア発アニメが主役となる場面もあった。現地取材した「香港フィルマート2025」をレポートする。

参加者数7600人以上、ASEAN出展1.5倍に

今年で29回目の開催を迎えた映像コンテンツの国際トレードショー「香港フィルマート」の会場から今年もアジアの熱気が伝わってきた。3月17日から20日までの期間中、香港島湾仔区にある香港コンベンション&エキシビションセンターのホール1を会場に42か国・地域から7600人以上が参加し、34の国と地域から約760社・団体が出展した。参加国数は昨年より若干下回るも参加者数は増加し、なかでもASEAN諸国からの参加が大幅に増えた。ASEAN諸国の出展社数は昨年の1.5倍、バイヤー参加者率は15%アップした。

オーストラリア、カンボジア、フランス、インド、マレーシア、サウジアラビア、ベトナムが新たにナショナルパビリオンブースを展開し、30以上のナショナルパビリオンブースが会場に並ぶなか、最も存在感を示していたのはタイのブースだった。昨年に続き大型ブースを展開するだけでなく、香港と中国勢が並ぶ会場入り口正面に配置され、タイコンテンツの制作力の向上と需要の高さを象徴していた。

地元香港のブースはというと、歴代興収トップの記録を塗り替えた映画『ラストダンス』のエンペラー・フィルム・プロダクションなど映画スタジオをはじめ、香港演芸学院といった香港教育機関による華やかなブースが並んでいた。一方で昨年より出展規模を大幅に縮小した香港最大手の民放テレビ局TVBは今年も同様に自局のプロモーションブースは控えめに、「VIPラウンジブース」をスポンサードすることでマーケットを支えていた。

日本も状況は若干変わる。ユニジャパンがとりまとめたパビリオンに日本テレビなど10社が参加、民放連がとりまとめたパビリオンにはNHKエンタープライズ、フジテレビ、テレビ朝日など13社が参加し、これにTBSテレビや東宝、東映など単独ブースを展開した13社を加えて、日本の出展者数は計36社に上った。40社の出展参加があった昨年より縮小され、日本各地域のフィルムコミッション団体や民放ローカル局の出展参加が見送れたことが大きい。東名阪民放局以外の参加は北海道放送のみに留まった。

3900人参加の「AI Hub」、1300人参加の「プロデューサーズ・コネクト」

昨今のデジタル変革に対応することを目的に映画ポストプロダクション専門家協会と香港映画プロデューサー・配給者協会が共同で「AI Hub」を新設したことも今回の目玉の1つにあった。撮影からポストプロダクション、配信、プロモーションまでAIソリューションを展示した香港演芸学院(HKAPA)映画テレビ学部やソニー、レノボなど10社が展示ゾーンに出展。ソニーCineAltaシリーズのカメラなどを搭載した撮影ロボット「Daystar Bot」を展示したレノボの担当者は「映画製作スタジオから相談を受けて、爆破撮影シーンの現場での活用を見越し、開発した」と話していた。

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「AI Hub」にはAIソリューションの可能性をテーマに専門セッションを企画したカンファレンスコーナーも設けられ、3900人以上が参加したことがわかった。撮影現場担当者が続々と登壇し、生の声が届けられ、連日にわたり賑わっていた。

AIに関する話題はメインのセッションプログラム「エンターテインメント・パルス」でも取り上げられ、「Gearing up for the AI Opportunities」と題したセッションでは香港のアニメーションスタジオHong Li Animation StudiosのプロデューサーであるYu Zhixin氏らが登壇し、AIを活用したグローバルヒットの作り方を考察する議論が展開された。アメリカから参加したMalka MediaのAIストラテジストDavid Carpenter氏は「AIは映画製作を民主化するものになる」などと語っていた。

新設された「プロデューサーズ・コネクト」コーナーも人気を集めた。香港および世界各国のプロデューサー同士のネットワークを構築し、共同制作を促進することを目的に、香港の文化・スポーツ・観光局、クリエイティブ産業発展機構、香港映画発展局、香港貿易発展局が共同開催したもので、プラグラム参加者は1300人以上に上った。パネルディスカッション、トークイベント、ワークショップ、ビジネスマッチングなどが展開され、パネリストは地元香港の映画製作者に加え、海外のプロデューサーも多数参加した。

これまでになく本音トークも飛び出した。香港大手ディストリビューターMedialikグループCEOのLovinia Chiu氏は「香港映像業界の弱さはグローバルトレンドの配信の波に完全に乗り遅れたことが要因にある」と指摘しつつ、政府の支援強化の動きにチャンスがあることを強調していた。実際、香港ではアジア諸国との共同製作映画プロジェクトを助成対象に900万香港ドルの製作費支援が行われるなど国のサポート体制の充実化が進む。なお、このプロジェクトの選出者の1人に日本の松永大司監督が選ばれている。

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さらに、アニメにもフォーカスが当てられた。デジタルエンターテインメントサミットは「アジアのダイナミックなアニメーション市場と制作の機会を解き放つ」をテーマに、香港国際映画祭協会と香港デジタルエンターテインメント協会の共同開催で行われた。日本からはProduction I.G, Inc.のグローバルライセンシングチームリーダー、フランチェスコ・プラドニー氏とアーチ代表取締役の平澤直氏が登壇し、「アジアのアニメーション市場のトレンドと発展」と題し、各国キープレイヤーと議論が行われた。

 今年の「香港フィルマート」は全体を通じて映画、テレビ、配信コンテンツの国際取引を促進し、アジアのクリエティブ産業の強さを示すものになっていたのではないか。AIやアニメの話題も加わって、一歩先を見据えた企画開発や技術、人材育成にも目を向け、新たな活気を作り出そうともしていた。「香港国際映画祭」など全9つのイベントで構成される「エンターテインメント・エキスポ香港」(期間:3月16日から4月27日)の主要イベントの1つとして役割を果たしながら、今求められるアジア発コンテンツマーケットのあり方を確立していた。

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