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Industry Curation 2025.04.25 UP

【Hollywood Report】「メソッド・スタジオ」 ブランド消滅/閉鎖へ

鍋 潤太郎 / Inter BEEニュースセンター

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画像:このロゴが無くなってしまうのは、寂しい限りである。(筆者撮影)

〇はじめに

フレームストア傘下の大手VFXスタジオ、メソッド・スタジオ(Method Studios)が3月末にひっそりと閉鎖されていた事がわかった。

4月末日現在、メソッド・スタジオの公式サイトはまだ稼働しているが、スタジオ運営自体は既に終了している模様である。

今回の閉鎖の情報は、主にメソッド・スタジオに従事していたクルー達のSNSでの投稿によって業界内に伝わった。筆者の知る限り、親会社であるフレームストアからのオフィシャルな声明は出ていない。また、米メディアによる報道もなく、「ひっそりと」閉鎖されたという印象であった。

〇買収や統合に翻弄されたメソッド・スタジオの歴史

メソッド・スタジオ(以降、メソッド)の歴史は、サンタモニカ・ビーチにほど近い、リンカーンとアリゾナ通りが交差する交差点に位置する、ポスプロ施設から始まった。

ここは90年代、POP(パシフィック・オーシャン・ポスト) というビデオ・ポスト・プロダクションであった。POPは映画「ボルケーノ」(1997)の頃よりVFXに参入した経緯がある。

その後POPはアセント・メディア・グループ傘下のRIOTに買収され、建物の看板がPOPからRIOTへ変わった。更にその後、アセント・メディア・グループが独立系VFXスタジオだったメソッドを買収し、2008年に12月にRIOTとメソッドのブランドを統合した。このように、いかにもアメリカ企業らしく買収や統合による変革を遂げてきたVFXスタジオだった。

RIOTとメソッドを統合する際、「メソッド」の名前を残すか、それとも全く新しい社名にするかで社内公募が行われ、実際に新社名のアイデア等もいくつか出されたが、なかなか「メソッド」を超える逸案が登場せず、最終的にメソッドの社名を残す形に落ち着いたというエピソードが残されている。

その後、2010年秋に米デラックス・エンターテインメント・サービスグループ(以降、デラックス)に買収され、巨大企業デラックスの傘下となった。この頃、同じくデラックス傘下となったハリウッドの著名VFXスタジオ、CIS(コンポジット・イメージ・システムズ)とのブランド統合なども行われた。

「デラックス・ブランド」となった後はグローバル化に力を注ぎ、世界各地に拠点を持つVFXスタジオへと成長した。2018年8月には、カナダのケベック州が推し進めていたハリウッド映画産業向けの大規模な税制優遇制度を強く意識し、モントリオールにスタジオを構えていたアトミック・フィクション(本社:サンフランシスコ)を買収しメソッド・ブランドに吸収するなど、大胆な経営戦略も見られた。

その結果、最盛期にはロサンゼルス、アトランタ、トロント、バンクーバー、プネー(インド)、メルボルン、モントリオール(旧アトミック・フィクション)、サンフランシスコ(旧アトミック・フィクション)を合わせた8箇所に拠点を構えるなど、メソッドは大所帯のVFXスタジオとなった。

特に、前述のサンタモニカにあったスタジオでは、ピーク時には150人近いアーティストが勤務していた。ここではマーベル作品に代表されるハリウッド大作の映画VFX、そして大手クライアントによるコマーシャル作品のポストプロダクションが行われていた。

しかし親会社のデラックスは経営破綻し、2019年10月に米連邦破産法第11条に基づき破産及び経営再建の手続きに入った。デラックス傘下のメソッドと、カラーグレーディング分野で著名なカンパニー3は、デラックスから分離する形でプロダクション運営が行われていたが、2020年11月にフレームストア(本社:ロンドン)に買収された。

最終的に、メソッドとカンパニー3はウエスト・ロサンゼルスにあるスタジオ施設でプロダクション業務を行い、メソッドはカンパニー3に属する位置づけで運営が行われていた。

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画像:ウエスト・ロサンゼルスにある、カンパニー3およびメソッド・スタジオの本社 (2020年秋頃、筆者撮影)

〇規模縮小、そして閉鎖へ

2018年頃だっただろうか。メソッドがVFXベンダーの1社として参加した映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(2017)を完了した後、「メソッド・スタジオでは、新規のマーベル作品が思うように受注出来なくなってきており、それが社内で大きな課題となっている」という話を業界内で耳にした事がある。

前述のアトミック・フィクション買収も、ハリウッドの映画産業に対して高い税制優遇が得られるモントリオールに制作拠点を確保する事で、映画VFXの受注率をより高める狙いがあった事が伺える。

この時期以降から現在に至るまでは、メソッドの作業分野は徐々に映画VFXからコマーシャル作品へのシフトが進んでいった印象が強い。実際、時折オンラインで見かけた同社の求人広告は、コマーシャル作品の人材募集が中心であった。

その後のコロナによるパンデミックの打撃、また2年前のWGA(全米脚本家組合)とSAG-AFTRA(米映画俳優組合)のストライキの根強い余波など複合要因が重なり、今回の閉鎖に至ったという。

最終的に、メソッドの制作拠点は、最盛期の8箇所から、ロサンゼルスとニューヨークの2箇所のみになっていた。

SNSでの関係者による書き込み情報によると、メソッドのクルーの一部は、系列のカンパニー3やフレームストアで雇用されるか、フリーランス契約で継続する人材もいるものの、残りのクルーは失職する見込みだという。

〇おわりに

ここロサンゼルスにおいては、これ迄メソッドが地元アーティスト達の雇用に貢献してきた恩恵が大きかっただけに、それが無くなってしまう事は大変大きな損失と言える。

また、メソッドの長年に渡る歴史を知る筆者にとっては、1つの時代が終わった寂しさを感じる。

4月も後半になろうかという現在、2年前のストライキの余波によるハリウッドのポスプロ業界の苦境は、全世界レベルで依然として続いている。1日も早く事態が回復してくれるのを、願うばかりの今日この頃である。

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