【Inter BEE CURATION】SDGsにより変革する放送業界への視線と評価の環境~INTER BEE CONNECTED 企画セッションレポート
編集部 Screens
※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、InterBEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、Screensに2021年12月17日に掲載された「SDGsにより変革する放送業界への視線と評価の環境~INTER BEE CONNECTED 企画セッションレポート」記事です。お読みください。
SDGsにより変革する放送業界への視線と評価の環境~INTER BEE CONNECTED 企画セッションレポート
日本随一の音と映像と通信のプロフェッショナル展「Inter BEE 2021」(主催:一般社団法人電子情報技術産業協会=JEITA)が、11月17~19日、リアル会場となる幕張メッセ(千葉)とオンライン会場の両立てで開催された。
今回は、放送・ネット・ビジネスの“CONNECT”がテーマとなっているイベントの目玉企画のひとつ「INTER BEE CONNECRED」のセッションより、企画セッション「SDGsにより変革する放送業界への視線と評価の環境」の模様をレポートする。
SDGsやESG経営など、世界では企業体の運営に関わる考え方の変革が進んでいる。しかし日本の放送業界では、その理解にばらつきがあるのだという。果たして放送業界は、業界の外からどのように見られているのか、どのようにモードチェンジを図ればよいのか、といった課題をあぶり出し、未来を紐解いていくセッションとなった。
パネリストは、EY新日本有限責任監査法人 マネージャー,気候変動とサステナビリティサービスの木内志香氏、一般社団法人fair 代表理事の松岡宗嗣氏、株式会社ニューラル CEO の夫馬賢治氏。モデレーターは株式会社博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員の森永真弓氏が務めた。
『SDGs』がバズワード化。本当の意味が理解できていないのではないか
パネリストに放送業界の人間がひとりもいないという、「INTER BEE CONNECTEDとしては初めてとなる、非常に珍しいものになります。そして今回一番平均年齢が若いセッションでもあります。」とモデレーターの森永氏が口火を切り、今年のInter BEE最後の企画セッションは始まった。
「いま、SDGsという言葉が流行り言葉のようになってしまっているが、本当に理解できているのか。放送業界の方々には、SDGs対応をどうするのかではなく、SDGsの観点で事業を見直して企業体としてどうしていくのかを考え直さなければならないフェーズに直面しているという観点を持っていただきたい」と、まず森永氏が大枠の問題提起を行ったうえで、「SDGsと放送業界はどう見えていますか?」という質問をパネリストに投げかけた。
放送局とはコンサルティングとして、あるいは演者としても関わることがあるという夫馬氏は、「本当に課題が多いです。SDGsやESGといったサスティナブル分野で日本企業が遅れている原因のひとつにはメディアがあるという声もよく聞きます」と答えた。
若者枠として、またゲイであることを公表している松岡氏は、SDGsと放送業界について「特に若者やマイノリティはテレビ番組に自分自身を投影することができず、一方でスマホを開けば自分に近い情報がたくさん手に入るので、必然的に距離ができるようになったのではないか」と現状を語り、「2010年代からテレビでもLGBTQについてすごく取り上げられるようになりましたが、SDGsと同じようにメディアの側がしっかり理解できておらず、”流行り言葉”的に取り上げられ、何を伝えたいのかが曖昧になってしまっていることがある点は否めません」と語った。
海外在住経験があり、現在は日本のコンサルティングファームに勤務する木内氏は、「自分はほとんどテレビを見なくて、子供のためのテレビになっています」と語った上、「欲しい情報はSNSやネットで探し、YouTubeでBBCを流してニュースを見たりしています」とコメント。なぜ日本のテレビを見なくなったのかについては、「SDGsという問題に関しても、海外のメディアは一層深くて面白い」と感じるからだと言う。
この点についてさらに木内氏は、「日本ではSDGsがビッグワードになってしまっていると感じます。捉えようによってはどうにでも解釈できて、自分の都合の良いように解釈してしまって、その集合体がSDGsになっています。そこで思考が停止して、本来は2015年に国連で採択された、課題に対する危機感の高まりを、なぜそんな華やかにポジティブに語っているのか、何をしているのだろうと思います」と、日本の放送業界はSDGsの本来の意味を捉えきれていないのではないかと指摘した。
日本の放送業界は国内だけを見てきた。SDGs理解が遅れている責任もある
そして「危機感を伝えない日本のテレビ局の番組づくりのあり方」「企業体としてSDGsをCSRと同じように考えて報道しているのではないか」「上場している企業体として海外からの期待と圧力がますます強まる」といった観点で議論が交わされた後、それらの理由として、「日本の放送局は日本の免許事業者で、国内のことだけ考えていたから」ではないかという見方にたどり着いた。
森永氏は、「日本の放送会社は、国内のことを一生懸命に考えることが至上命題であるので、グローバルな視点を持つことや海外から情報を得ることは必要ないと弾き出してきた時代背景も関係する気がしますが、それはもう通用しないと考えた方が良いのですかね?」と木内氏に訊くと、「通用しないですし、将来が想像できないです。NetflixやHuluが入ってきて、テレビを見ない人が増えていることを考えれば、その選択肢自体が許されなくなるのでは?」と返した。
ここで夫馬氏が、この見方をSDGsに関してなぜ日本が遅れているのかの理由結びつける。「国内を向いて国内の話題を国内のみなさまに提供している中、外国はどんどん進んで行った時に、ふと見たら日本だけ同じところにいた」というのが遅れの要因ではないかと指摘する。
松岡氏は、「ジェンダーやセクシュアリティの観点から見ても、日本国内の情報が少ない一方で、議論の進んでいる海外の情報は多く入ってきます。日本では法律上、同性同士では結婚できないし、働き続けることも考えられないと言って、海外に出ていってしまう人もいるのです」と、海外に後れをとっていることが、人材の海外流出をも招いているという事例があることを示した。
テレビの可能性は大きい。しかし破るべき岩盤の層は厚い
セッションの終盤には、SDGsやLGBTQなどの理解や取り組み方に対してさまざまな課題を抱える日本の放送業界が、どうして行けば良いのかという提言を探る展開に。
夫馬氏は、「テレビには大きな可能性があります。YouTubeなどのいろいろなメディアもありますが、同じタイミングで同じ映像を見ている人の数で考えると、テレビの方が圧倒的に数は多い」と言い、多くの人に広く知ってもらうという意味では、「テレビのチャネルは今でも最強です」と強調した。
そして、自分で情報を取捨選択して取りに行ける人は良いとしても、そこから取り残された人に大事な情報を伝えるためにも「テレビが大事です」と続ける。SDGsなどの話題については、「この人たちは興味ないから伝えなくてもいい、ではなくて、これから必ず必要になってくるから、むしろ上手に、刺さるように伝えていく、啓蒙していくという方向に進んでもらいたい」と要望を語った。
松岡氏は、LGBTQについてテレビで取り上げられる機会が格段に増えているとし、「マスメディアの経営判断も確実に変化が見られ、変わってきているのは確か」と、少しではあるけれども進んでいるところはあると言う。森永氏は続けて、「テレビ局の中でも意思を持っている人がいて、少しずつ変わっている。そういう人たちが仲間を増やすためには何をすればいいのですか?」と質問した。
夫馬氏は、意志ある仲間だけで閉じてしまわずに、積極的に社内でもオープンにふるまい、特に若者を味方につけて、全社に向けて勉強会を開催するなど発信することで「一緒に話をしようという機運が高まる」のではないかとし、松岡氏はLGBTQの文脈で、「特に海外の企業ではEmployee Resource Group(従業員リソースグループ)を作るところも増えている」と紹介した。一方で木内氏は、年配の経営層の意識はなかなか変わらない現実があるとしながらも、経験則として「2年頑張れば、社内はひとつ変わる」と語った。
最後に森永氏が「(年配の経営層という)岩盤は強いけど、やめないで頑張ろう、続けることも大事ということですね」と議論を締めくくった。
なお、企画セッション「SDGsにより変革する放送業界への視線と評価の環境」は、12月17日(金)までアーカイブ配信されている。