【Inter BEE CURATION】若者に本気で向き合わないと、テレビは本当にオワコンになる
メディアコンサルタント / 境 治 テレビとネットの横断業界誌MediaBorder
※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、InterBEEボードメンバーでもあるメディアコンサルタント・境治氏が運営するMediaBorderからの転載。このところ発表された最新のメディア接触データをもとに、若者とテレビの関係について論じています。
先月、5月20日に「衝撃的データ」というワードがTwitterでトレンド入りしてバズっていた。この記事がシェアされ沸騰していたのだ。
NHK放送文化研究所が発表した国民生活時間調査の中で、若い世代のテレビ離れをはっきり示す数値が出たからだ。1960年から5年ごとに行われてきたこの調査で、”テレビ視聴は、調査日にテレビを15分以上視聴した場合のみ「見た」として集計”したところ、10代20代は前回2015年の調査から20ポイント前後減少した。そのことを研究員が「衝撃的データ」とコメントしたのを見出しに掲げた記事だ。
この調査の中身は「NHK国民生活時間調査」で詳しく見ることができる。データのダウンロードもできるのでメディア研究をしたい方には便利だ。
一方、博報堂DYメディアパートナーズのメディア環境研究所が毎年発表する「メディア定点調査」の2021年版も発表された。こちらは毎年人びとのメディア接触を細かく調査したもので、連続性があるので毎年の変化をダイナミックに感じ取ることができる。
このリリースでは、以下の3つをポイントとして挙げている。
●メディア総接触時間は450.9分と大幅に伸長し、過去最高
●定額制動画配信サービスの利用は46.6%と半数に迫る。昨年から9.7ポイント上昇
●動画視聴をテレビ視聴と捉える生活者は2割超。「テレビを見る」という概念が拡張
コロナ禍によりメディア接触時間全体が伸びた中でもNetflixをはじめとするSVODサービスがとくに伸長し、「テレビを見る」意味が変わってきた。ということは、調査の中の「テレビ視聴」の中に動画配信の視聴も加わってきているのだろう。「テレビ」のポジションを私たちは大きく変更せねばならない。
筆者は2016年に「拡張するテレビ」という著作を出したが、その意味は「テレビコンテンツがネットに拡張する」というもので、放送業界にネット進出を期待して書いた。だが逆にネットの側のコンテンツがテレビ受像器に拡張してきた。電通・奥律哉氏が数年前から唱えていた「一周まわってテレビ論」が現実になった形だ。こちらも警鐘を鳴らす意味で発信していたのに、放送業界の変革は追いつかなかったのだ。
メディア環境研究所の「メディア定点調査」の連続性から、若者のテレビとの関係の「衝撃的」な変化を可視化してみようと、グラフを作成した。2011年、2016年、2021年と5年ごとに若者のメディア接触がどう変化したかの折れ線グラフだ。「衝撃的」な変化が確かに見えてくる。
赤い線がテレビ視聴、青い線が携帯スマホ。左の20代男性、右の20代女性それぞれで赤い線が5年ごとにダダ下がりする一方で、青い線が力強く上に向かって伸びているのが一目瞭然だ。水色のPCと緑色のタブレットも合わせると、20代はこの10年で完全にネット中心で生活するようになったと言える。テレビは「その次」の位置に後退した。
意外なことに、赤い線のテレビ視聴は減るどころか増えている。一方、20代に比べるとかなり小さいが携帯スマホの時間も強く上を向いているのが面白い。テレビ視聴を減らすことなく、ネットに費やす時間も増やしているのだ。テレビ以外の、新聞や雑誌が微妙に下がっていて、その時間をスマホが吸収したようだ。男性ではPCも増えていてスマホより多いのも面白い。最近は高齢男性もYouTubeをけっこう見ると聞くがPCはそれも含むのだろう。
若者と高齢者の間に当たる中年世代も知りたいと思い、40代男女でも同じグラフを作ってみた。
これがまた意外にも、テレビがさほど下がっていないことに驚いた。青い線のスマホが20代ほどではないが勢いよく伸びているのにテレビはそれに見合った分は減っていない。じわじわ下がっている、というところか。また男性でPCが2016年に下がって2021年に上がったのも興味深い。コロナ禍でステイホーム時間が増えたせいだろうか。
こうして見ると、各世代とも勢いに差はあるがとにかくスマホの時間が急速に伸びたのは明らかだ。一方でテレビは、ほぼ20代だけ急減していた。高齢層はむしろ伸びているし中年世代は大きくは減っていない。「テレビ離れ」がいかに若い世代特有の現象かがよくわかるだろう。
これに関連して、面白い記事を見つけた。現代ビジネスで放送作家・ラリー遠田氏が若者研究で知られる原田曜平氏との対談記事を掲載していたのだ。
テレビにおける「世代」についての議論で全体としても面白いのだが、筆者は4ページ目の原田氏のこの発言に注目した。
要は、今まで若者の動向を見ていなかったものだから、急にこういう時代になったことで、とりあえず若者を出しておけ、
という感じで第七世代が消費されすぎている感じがするんですね」
このところ「第七世代」と呼ばれる若い芸人たちが激しくと言っていいくらい各局の番組に出ている。朝から晩まで、霜降り明星とEXITと四千等身とハナコとミキとぺこぱと3時のヒロインとぽる塾と・・・もう少しいると思うがかなり限られた面々ばかり見るのだ。これまでも若手芸人が人気を得る時期はあったが、「第七世代」ほど塊で浮上したことはなかったと思う。
そしてそれが果たして、若者の視聴につながっているのか甚だ疑問に思っていたので、若者研究の第一人者である原田氏のこの発言は、自分のモヤモヤをスッキリさせてくれた。すっかり「テレビ離れ」してしまった私の子どもたちは霜降り明星が出ようが3時のヒロインが出ようが、テレビの前に座ったりしない。若者が出れば若者が見る、という段階は通り越している。
そもそも「テレビでお笑い番組を見る」文化は私たちの世代が80年代に経験したものの続きではないか。バブル時代とそれが弾けた時期までの時代のあだ花ではないかと個人的には思う。お笑い芸人出せば若者が見るだろう、同世代の第七世代を出せば見るだろう、というのはとんでもない思い込みではないか。若者がテレビ離れをしていたのではなく、テレビが若者から離れていたとよく言われるが、だとしたら「テレビでお笑い番組を見る」とはまったく違う新しいテレビ文化を創造するべきなのではないかと思う。
もうひとつ、気になったデータを紹介したい。テレビのメタデータを作成・提供するエム・データ社のブログ記事だ。
テレビの出演者に若い世代が増えたのではないか、という切り口で出演者の3年間の世代の変化を見たものだ。その結果は意外なものだった。
詳しくは上のリンクから記事を読んでもらいたいが、簡単に紹介すると、この3年で出演者の年齢はむしろ上がっていたという。これまた驚きだ。あれだけ「第七世代」が活躍しているのに。
どうやら、元々活躍していたタレントたちがそのまま年齢が上がっているので若い世代が登場しても打ち消せなかった、ということのようだ。たった3年だが同じタレントが出続けていれば平均年齢はそれに伴って上がるのだ。「第七世代」が登場し、恒例の司会者が交代したくらいでは追いつかない。
これをどう受けとめるかはいろいろあるが、新陳代謝のスピードを上げるにはもっと思い切った変化が必要ということではないだろうか。それは作り手つまりテレビ局社内にも言えると思う。
変化のスピードを上げる必要があるのだ。作る側も出る側も、すべてに渡って。スピードを上げないと、若い世代はテレビ離れしたままだ。そしてみるみるうちにそんな世代が社会の中枢を担うようになる。変化を加速しないと、テレビが見離される現象も加速するだけ。本当にテレビがオワコンになりかねない、そんな局面だと思う。
※本記事はの掲載元、有料マガジン「MediaBorder」ではテレビとネットの融合をテーマにした記事を多数掲載しています。興味ある方は下記関連URLからどうぞ。