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Special 2022.09.28 UP

【IBC 2022】レポート#4 PTZカメラとNDI 5がライブプロダクションとリモートワークフローを変革する

デジタルメディアコンサルタント 江口 靖二 氏

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IBC2022で派手さはないが確実に進化していることが見て取れたのが、カメラを起点とする映像制作のワークフローに関する変化である。コンシューマー向けのカメラがあっという間にスマホに席巻されたように、今後は業務用カメラの世界でもToF搭載のPTZとNDIが、スタジオを中心にかなりの市場を奪っていくと思われる。

NDIに対応したPTZカメラが注目を浴びる

PTZカメラはこれまで監視カメラなどで広く使用されてきたが、最近では高品質なオンライン会議や配信用途から、映像制作でも使用する流れが着実に起きている。これはPTZ単体での使用はもちろん、複数台をNDIで接続して、リモートプロダクションやIPスイッチングを行う用途になりつつある。マルチカム的なライブプロダクションはもちろんだが、ボリュメトリックキャプチャーの利用や、自由視点映像も意識されるようになってきている。

もちろんデジタルシネマ制作のようなシーンでは、従来のような高品質のシネマカメラとシネマレンズの組み合わせが無くなることはない。しかしToF(Time of Flight)センサーによる奥行き情報を取得し、デジタル処理でボケやフォーカスを処理することが手軽になりつつある現在においては、確かにそれで十分なコンテンツは多数存在していることは事実だろう。これはスマホのカメラでも十分DSLRカメラと遜色のないレベルの映像を得ることができるようになっている。最終的な視聴スクリーンが小さなスマートフォンであれば、その差はもはや感じられない。

PTZOpticsは、コンテンツ制作、ビデオ会議、ライブストリーミング向けに設計されたDSLR品質を謳うビデオカメラ「Studio Pro」を発表した。Studio Proは最大1080p/60fpsのビデオに対応し、12倍光学ズーム、72.5°の視野角、USB、HDMI、NDI|HX、RTSP、RTMPによる同時出力を備えている。また、奥行きデータを提供するToF(Time of Flight)センサーによる高速なピント合わせや、高度なフォーカス設定により、背景を美しく見せるボケ味を実現することができる。さらにスイッチひとつで縦長と横長の映像出力を切り替えることが可能にしていることはスマホを強く意識しているからだ。Studio Proには、3000~6000Kの温度範囲を提供するUSB給電式ライトが付属。また、ノイズキャンセリングマイクアレイを内蔵し、高度なカメラ制御が可能なIRリモートや、外部マイクやその他のアクセサリー用のコールドシューを備えています。PoEにも対応し、USBまたは標準的な12V DC電源による給電も可能となっている。価格は699ドルで、発売は2022年Q4の予定だ。

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PTZOpticsはグラスバレーブースで「Studio Pro」を展示
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BirdDogの新製品である「P240」は、SONY Exmor Rセンサーを搭載し、光感度を高め、クラス最高レベルの画質と性能を実現している。NDI、SDI、HDMI の3つの出力オプションを有し、バランス XLR オーディオ接続が可能。IP出力オプションには、Full NDI、NDI HX2、HX3、SRT、H.264など複数のNDI出力がある。同時に発表されたBirdDog Cloud 3.0に対応しており、ローカルネットワークの外にコンテンツを拡大して、よりグローバルなリモートプロダクションを可能にする。また重要な機能としては、AR/VRワークフロー用のFreeD出力も可能だ。FreeDは、Unreal Engine、BRAINSTOR、VizrtのViz Virtual Studioなどを含むAR/VRシステムにPTZポジショニングデータを送信するためのプロトコルだ。なるほどなあと感じたのは、360度どの位置からでも視認できるモヒカンタリーと呼ばれるタリーは、カメラと被写体の位置関係が必ずしも正対しない場面では有効だろう。

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BirdDogの「P240」はFreeDに対応

ハイエンド側では、ソニーが映像制作用カメラ「Cinema Line」から、フルサイズセンサーを搭載し、レンズ交換もできるPTZカメラ「FR7」を展示した。この領域でPTZがどこまで受け入れられるかは未知数だと思うが、非常に多くの人が注目を集めていた。

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SONYのフルサイズPTZカメラ「FR7」

ここに来てやっと?NDIが大きく注目される

こうしたPTZが普及する背景にあるのはNDIである。 NDIの最新バージョン、NDI 5(現行では5.5)は多数の新機能が搭載された。NDI(Network Device Interface)は2015年のIBCで発表されたNewTech社が開発したローカル規格からスタートしたが、今では事実上のデファクトスタンダードとなっている。特徴としてまず挙げられるのがソフトウェアベースであるということであり、無償で使用できるロイヤリティーフリーのSDKが配付されている。ソフトウェアベースであるということは、特定のハードウェアを必要とせず汎用のEthernet機器が活用可能であるということである。

もっと現実的には、SDIのようなベースバンド系に比較して圧倒的に機器の接続がシンプルだということだろう。とりあえず何も考えずにルーターにケーブルを挿せば、あとは画面上のソフトウエアでさまざまなアプリケーションを動かすことができる。ベースバンドはワイヤリングの技術という側面があると思うが、NDIはそこから開放される恩恵は大きい。

ここでNDI5の特徴をいくつかあげておきたい。
NDI BridgeはすべてのNDI ネットワークをセキュアなブリッジで接続し、シンプルでセキュアなネットワーク設定を使用し、世界のどこにいてもリモートサイト間で NDIソースを安全に共有できる。NDI Remoteはリンクを共有するだけで、パブリックインターネットを介して任意のリモートユーザーと接続してビデオやオーディオを受信できる。スマートフォンを利用したライブ中継に圧倒的な威力を発揮している。NDI 5で新たに導入された新しい伝送プロトコルReliable UDP(RUDP)は、パケットのトラフィックやネットワーク輻輳の管理に優れ、パケットの損失やドロップフレームを回避します。ネットワーク機器や接続設定の経験がないユーザーでも、簡単にネットワー クをセットアップできるプラグアンドプレイ対応だ。

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NDI 5のツール群
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VizrtグループのNewTechはNDI 5パビリオンを形成して展示を行った

またNDI 5ではmacOS、 iOS、tvOS、iPadOSデバイスのネイティブサポートを実現した。これは放送だけではなく、直接的には関係のない映像制作のパフォーマンスとプロダクションワークフローを迅速化する。Final Cut Proではリアルタイムオーディオとビデオのフレームバッファを出力で、Adobe PremiereとAfter Effectsプラグインのサポートも強化された。Adobe Creative Cloudプラグインも刷新され、サウンドカードとNDIの両方にオーディオ出力できるので、ユーザーはNDIに出力されるオーディオと全く同じものを聞けるようになり、完全な編集ワークフローを実現可能になった。また、IPベースの同期をサポートするので、バーチャルセットやインカメラVFX環境で作業する場合には、NDIストリームをリファレンスとして使用することでネットワーク上のすべてのアプリケーションを同期できる。

NDI以外にもAdobeのFrame.ioによるC2C(Camera to Cloud)も重要な動きだ。Frame.ioはPremiere ProおよびAfter Effectsに統合され、Creative Cloudメンバーシップに含まれるようになったことで、超高速のファイル共有とリアルタイムのレビューと承認が可能になった。スマートフォンでもハイエンドのワークステーションでも、物理的な場所に関係なく、各ユーザーが必要とする場所でメディアを利用できるようになる。各フレームに忠実なコメントや注釈をビデオに直接残すことで、編集者と制作チームメンバーが緊密に連携しながらリモート環境でプロジェクトを形成することができる。Frame.ioとAdobe製品群があれば、カメラ撮影から最終的な納品まで、クラウドを離れることなくリアルタイムで共同作業を行うことが可能になる。現在は帯域がネックとなり、当面はプロキシファイルを使用することになるだろうが、近い将来に高解像度のオリジナルファイルが、撮影現場からポストプロダクションチームに瞬時に転送される時代が来ることは確実だ。

以上、ここまでICB2022に関して4本のレポートをお届けした。NDIのような技術は、将来のメタバースなどとの連携を強く意識したもので、DVB-NIPはこうした技術を背景にして設計された欧州における次世代放送の規格であり、そこで実現が期待される新たなコンテンツは、リニアな放送に加えて、ノンリニアなコンテンツの可能性に期待していることがIBC2022全体を通して貫かれている近未来へのビジョンであると感じた。

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