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2024.06.27 UP
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鍋 潤太郎 / Inter BEEニュースセンター
昨年7月18日付の本欄で、「全米脚本家組合ストライキ、ハリウッドのVFX業界にも影響が」という記事を随筆させて頂いた。もう1年も前の出来事なので、多くの読者の方は、「現在は事態が完全に収束し、業界も安定を取り戻しているだろう」とお考えなのではないだろうか。
実際のところ、2024年6月現在のハリウッドのVFX業界は、依然としてストライキの影響を根強く受け続けており、極めて深刻な状況が続いている。
まず、昨年の状況を振り返ってみる事にしよう。これには2つのストライキが影響している。
1つ目は、2023年5月2日から始まったWGA(全米脚本家組合)のストライキだ。こちらは同年9月27日にひとまず収束したものの、5カ月間に及ぶストライキとなった。
2つ目は、少し遅れて2023年7月14日から始まったSAG-AFTRA(米映画俳優組合)によるストライキで、こちらが収束したのが同年11月9日。こちらも5カ月近い期間に及ぶストライキであった。
つまり、この2つのストライキを合わせると、計7カ月もの間、ストライキが継続されていた事になる。
昨年のハリウッドの映画業界は、これら2つのストライキによってダブルパンチをくらう形となった。映画やドラマ、バラエティー番組の撮影は中断もしくは延期となり、番組制作は停滞し、ポストプロダクション業界に従事する人々は軒並み影響を受ける形となった。
こういう時、ポストプロダクション業界は「ワンテンポ遅れて」影響を受ける場合が多い。ポスプロは撮影が終わった素材を受け取って、加工していくのがビジネスである。ストライキが始まった当初、多くのポスプロでは「その時点で既に撮影が終わっている作品」の作業を行っており、しばらくの間は収入を得る事が出来た。ただCMやミュージック・ビデオ等はそのスパンが短く、映画やドラマの場合は比較的長い。手元にあるプロジェクトが完了してしまえば、次の作品が入らない限り、収入が途絶えてしまう。
早い人だとストライキが始まった2023年5月頃から失業し、規模の大きな映画などに参加していた場合などは比較的最近の今年3月から5月に納品を終えた段階で失業するというケースもあった。業界で豊富な経験やスキルを持ち合わせていても、「もう1年以上、仕事が見つかっていない」という人も多い。生活が掛かっている為、やむを得ず映像業界以外の職種に転職してしまう人も出ている。このように極めて深刻な状況下にある。
多くのVFXスタジオやポストプロダクションでは、クルーに長期の無休休暇を取らせたり、一時的に週5日勤務から2日勤務体制にする事でペイカットを行い、人件費を抑えるスタジオなども多くみられる。また、契約書を更新せず、契約期間満了に伴い人材を放出することで自然減を図るスタジオも増えてきている。これらを鑑みると、現在ハリウッドのVFX業界で、仕事に恵まれている人は「非常に幸運」であると言えるだろう。
こうした中、先日の本欄でもお知らせした「Framestore バンクーバー・スタジオを閉鎖へ」のニュースは、まさにハリウッドを震撼させる出来事であった。直接の原因はSAG-AFTRA(米映画俳優組合)のストライキの影響とされており、大変残念な出来事である。
ここに、たまたま偶然ではあるが、他の要因が重なり、ストライキによる影響を更に悪化させている。
その大きな要因と1つとなっているのが、ディズニーの全社を挙げてのダウンサイズがある。既に報道されているように、2022年11月にボブ・アイガーがディズニー社CEOに就任し、ディズニーグループは全社的なダウンサイズを実施。またディズニー・プラスやマーベル映画の新規企画の見直しも始まり、これによって新品の本数が減少傾向にある。すると、これらの受注で恩恵を受けているVFXスタジオやポスプロは、必然的にその影響を受ける事になる。
こういう状況の時、通常であれば、「VFX業界がダメならアニメーション業界で仕事をしよう!」という選択肢も無くはないのだが、これまた偶然にも、前述のディズニーの全社的ダウンサイズにより、ピクサー・アニメーション・スタジオとディズニー・アニメーション・スタジオがその影響を受けている。更に運が悪い事に、ユニバーサル傘下のドリームワークス・アニメーションもダウンサイズを開始している。現在大手アニメーション・スタジオで元気が良いのは、ミニオンでお馴染みの、フランスのパリにスタジオを構えるイルミネーション・エンターテインメントだけではないだろうか。
「じゃあ、ゲーム業界へ行けば良いじゃないか!」と言う意見が出てくると思うが、ゲーム業界はゲーム業界で、コロナ渦の巣ごもり需要が終わり、レイオフやダウンサイズを行っているスタジオも少なくなく、全体的にあまり元気がないという。ゲーム・デベロッパーだけではなく、ゲームエンジン業界も昨年秋以降元気がなく、EPICやUnityなどがレイオフを実施しているのは、皆様も既にご存じの通りである。
こういう複数の要因が重なり、ハリウッドのVFX業界やその従事者を取り巻く環境は、近年稀に見る、非常に深刻な状況に陥っている。
筆者は今年前半、VFX業界がストライキの影響から抜け出すのは夏から秋頃だと予測していたが、現在の業界の状況を見る限りでは、正常に戻るのは2025年の年明け以降になる公算が高い。
唯一の救いは、これが期間限定の、一時的な問題である事だ。脚本も撮影も再開され、俳優達も撮影現場に戻っている。LAの街でもロケ隊を良く目にする。しかし、これらがポストプロダクションの現場に降りてくるまでには、まだもう少し時間が掛かる。あるVFXスタジオでは、「来年はものすごく忙しい」という説明が社内ミーティングで行われたとの事である。もうしばらくの辛抱であろうか。
筆者が正直、大変不満に思うのは、ストライキによって多大な影響を受けている、ハリウッドのVFX業界のクルーを救う為の法律や保証制度が、現時点では存在しない点である。脚本家や俳優の皆さんは主張や権利が守られてストライキが収束した訳だが、その影響によって我々は仕事が無くなるという現状は、如何なものだろうか。
いずれにしても、ハリウッドのVFX業界に早く平穏な日々が戻ることを願うばかりである。