Inter BEE 2024 幕張メッセ:11月13日(水)~15日(金)

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Special 2024.11.25 UP

【INTER BEE CINEMA】クリエイターズインタビュー 三好大輔「生命そのものを映す8mmフィルムは地域の宝物。温故知新の価値を再評価し、豊かな未来へ」

林 永子

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Inter BEE開催60回目を記念して特設された【INTER BEE CINEMA】。エリア内では、実際に建て込んだスタジオセットにて撮影を行うライブショー、著名なゲストを招いたトークセッション、選りすぐりのシネマレンズの装着や解説を行う「レンズバー」といったユニークなコンテンツとともに、映像制作者の交流や若手育成を促進する場を3日間にわたって提供した。

この「クリエイターズインタビュー」では、今後も続く【INTER BEE CINEMA】の取り組みにつなぐべく、映像クリエイターのオリジナリティ溢れる活動歴とともに、多様な表現活動を行う「人」にフォーカスした記事を掲載していく。

今回は、2000年代にはデジタルクリエイティブ作品を多数手掛け、現在は地域に眠る8mmフィルムを発掘し、その土地の人々とともに映画制作と対話を行う「地域映画」プロジェクトを展開する三好大輔監督が登場。映画の「場」に「人」が集い、世代間のバトンをつないでいく、尊い交流の礎となるホームムービーが記録しているものは「生命そのもの」だった。

プロフィール

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三好大輔
Daisuke Miyoshi

映画監督 / 株式会社アルプスピクチャーズ 代表取締役

1972年岐阜生まれ。1995年日本大学芸術学部卒。音楽専門の制作会社セップ入社。スペースシャワーTVのブランディングに携わる。MVやライブ映像など幅広く演出。2000年PROMAX&BDA AWARDS受賞。広告会社を経て2005年独立。癌を患った友人の奥山貴宏を追った記録がNHKのETV特集「オレを覚えていてほしい」で評判となる。2008年より東京藝術大学デザイン科講師。市井の人々が記録した8mmフィルムによる「地域映画」づくりをはじめ、全国にその活動を広げる。東日本大震災後、安曇野に移住。2015年 株式会社アルプスピクチャーズ設立。2020年 松本の古民家に拠点を移す。ドキュメンタリー映画『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』共同監督。映画を中心に映像制作を行う一方、全国の大学等で映像の指導を行う。

official HP
ALPS PICTURES INC.

ホームムービーに吸い寄せられ、「地域映画」へ

――最先端のデジタル映像を手掛けていた三好監督が「地域映画」を手掛けるに至った経緯を教えてください。

友人の結婚式用ビデオの制作を頼まれて、生い立ちを振り返る映像を作るということで写真を預かったんです。その中に数本の8mmフィルムがあって、持ち帰って映写機にかけて見ていたら、お父さんがひたすら娘を撮っている映像に涙が止まらなくなってしまったんです。心の琴線に触れて、言葉にならない感情が呼び覚まされました。この映像を世に残したい。そう考えた時に、個人の記録やホームムービーを残す仕組みが世の中にないことに気付きました。調べてみると「ホームムービーの日/HMD」という上映イベントがある。足を運んだところ、それぞれのパーソナルな記録がとても面白く、ホームムービーの魅力に吸い寄せられていきました。

――個人の記録への興味から、いかにして地域活動へと広がっていったのでしょうか。

ホームムービーで何ができるかを考えていた時に、友人が墨田区で地域に関わる文化活動を助成するプログラムを紹介してくれたんです。そこで初めて地域の8mmフィルムを集めて映画を作るアイデアを企画書に書き、無事に採択。墨田に通いながら1年かけて完成したのが『8ミリの記憶』です。地元の牛嶋神社で上映会を開催して、50人ぐらい来てくれたかな。映像には先代の神主さんや来場者の家族が映っていて、動いている姿を見たみなさんは、心から喜んでくれたり、昔を思い返して涙したり。すごく強い想いを受け取ってくれたようでした。その様子を見て、地域の映像を集めて映画を作ることの意義深さを改めて再確認しました。

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『おもかげ』2021年

――以降は、活動場所も全国各地へと広がっていきました。

墨田区の事例が、隣の足立区につながり、それからは全国各地いろいろな地域で展開しています。震災後、復興庁関連の事業で大船渡市(『よみがえる大船渡』後に自主事業で『おもかげ』を制作)と福島県の浪江町(『よみがえる浪江町』)、あとは横須賀市の浦賀、小豆島、大分の竹田市、鹿児島のいちき串木野市、長野の安曇野市、北海道の斜里町では3本(『斜里ー昭和ノ映写室ー』シリーズ)を3年かけて制作しました。この10月末に松本市で上映した『まつもと日和2』でなんと19本目となります。全国の映画館でかけていきたいですが、準備はまだこれからですね。

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『斜里―昭和ノ映写室』2021-2023年 監督:三好大輔 音楽:寺尾紗穂 企画:石川直樹 製作:写真ゼロ番地 知床 https://shiretokophotofes.wordpress.com/
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『まつもと日和2』

――人や地域に特化していて、オリジナリティあふれるコンテンツですよね。

他に例がない活動です。はじめた頃は名前がなく、東京藝術大学に教員として在籍中、論文を書いている時に「地域映画」という名前を付けました。定義は「地域に眠っている8mmフィルムを掘り起こし、地域の人たちと一緒につくる映画」。一緒にやろう、やりたいという声は各地であがっています。制作過程がとても大事だし、大変なプロジェクトなのでなかなか真似してくれる人が現れないのですが(笑)。2020年から暮らしはじめた松本では、2年半前に「まつもとフィルムコモンズ」という市民団体を立ち上げ、信州アーツカウンシルの助成を3年継続して受けながらプロジェクトを進めています。助成で賄えない分は、さらにクラウドファンディングなどで支援を呼びかけています。

『まつもと日和2』2024年
監督:三好大輔 
音楽監修:3日満月(権頭真由/佐藤公哉) 
音楽協力:辻村豪文(キセル) 、アオイヤマダ、日乃出音楽堂 、アンサンブルルミネ、アルプス草笛会、信州大学ケルト音楽研究会S-Celts 、松本深志高校吹奏楽部 
製作:まつもとフィルムコモンズ 時間:81分 
支援: 信州アーツカウンシル(一般財団法人長野県文化振興事業団)、
令和6年度 文化庁 文化芸術創造拠点形成事業

「生命そのものを残したい」という思いが宿るホームムービー

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――先ほど『まつもと日和』の話題が出ましたが、松本に移住されていらっしゃいます。いつからお住まいですか?

東日本大震災の後、2011年6月に東京から長野県の安曇野に越したんです。移住したのちに地域映画も2本(『よみがえる安曇野』等)制作しています。2020年に松本に拠点を移しました。コロナ禍が終わりそうな2022年の春に『8mm映写室』という小さな上映会を月一ではじめました。全国各地で作った4、50分の地域映画を見て、その後に1時間くらいお喋りをする、上映と座談会で2時間ぐらいの会なのですが、子どもからお年寄りまでが集い、知らない土地の地域映画を見ながらそれぞれの思いを語り合う時間がとても豊かになっていったんです。続けていくうちに松本の地域映画も作ろうという話になり、上映会に通ってくる人たちと市民団体を立ち上げたという流れです。

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――地域映画はどのような過程でつくられていくのでしょうか

そうですね。大きく分けて3つの過程があります。『8mmフィルムを残す』目的でスタートしているので、まずそれが1つ。そして地域のみなさんと『一緒に映画を作る』活動が2つ目。最後に出来上がった『映画を見て対話する』。この3つがセットになって「地域映画」と僕は考えています。これからは、対話の先の次なる一歩として、地域の記録が未来の街づくりにつながっていくアクションも生まれてくると思います。映画の中には、60年前の街の近代化に関わった方の話や、今も形を変えながら継承されている祭りの様子などが、日常の記録の一つとして描かれています。御柱祭のシーンでは、勢いづいて崖から落ちてしまう様子が記録されています。今は安全のために柵が設置されて落ちることは無いそうです。そうやって昔はできていて、今できないことは何なんだろう、これからはどうしていけばいいんだろう、と考えるきっかけになりますよね。

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――まさしく温故知新ですね。個人の記録が、地域史や風土記としての役割も担っている。

ホームムービーという「個人的記録」が、50年という歳月を経ると、「社会的記録」へと変容してきています。この価値の変化を理解できている人は、まだまだ少ない。だからこそ、個人の記録がこのまま埋もれてしまう状況を、僕は見過ごすことができない。8mmフィルムは今、崖っぷちの状態に置かれています。持っている方の高齢化、フィルムの劣化、引越しによる散逸など、今の活動は5年後には同じようにはできなくなるという深刻な状況が始まっています。すぐに個人のご家庭からフィルムを救い出し、地域の財産として、宝物として生かしていく仕組みを作らねばならない。個人が撮った映像には、公の資料によくある歴代市長や立派な沿革ではなく、個々の視点がとらえたさまざまに瑞々しい空気感や街並みが映されている。つまり個人が、その人が、街を作っている。その証を後世に残していかないといけない。

――公的に整えた一方的な情報ではなく、集合知のような、透明なメディア性を想像します。

ホームムービーの多くは、純粋に、撮りたいから撮っていて、誰かに頼まれて撮っているものではありません。撮る時の動機が純粋でクリアなのかもしれませんね。撮る人のまなざしから溢れる思いが、見ている人にも乗り移ってきます。

今回、最新作の『まつもと日和2』の編集をしながら、「生命」というテーマが浮かび上がってきました。寝返りをうっている赤ちゃんが、小学校に入学して、運動会で走り、卒業し、結婚し、家族ができて、歳を重ねていずれ亡くなり葬儀で見送られる。膨大な日常の記録を紡いでいくと「命の循環」が見えてくる。そしてフィルムを見る当時の子どもが「おふくろ、こんな若い時あったんだ」と語り、孫は「おじいちゃん、動いてる!」と反応する。その一声に含まれる意味を考えたり、57年前の西穂高独標落雷遭難事故を振り返るシーンでは命の意味を問われたり。生命に対するメッセージのようなものを受け取りながら編集している時に、「そうか、ホームムービーは、生命そのものを残したいという思いで撮っているんだ」と気づかされました。

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――風景を撮る。生命を撮る。

子どもがヨチヨチ歩きしている姿は生命そのもの。転んでもまた立ち上がって走りはじめる。稲を育てて田植えをして脱穀する。その作業の先には美味しいご飯があり、子どもの成長があり、人の営みがある。五穀豊穣を祈るためにお祭りがあり、子孫繁栄のために年中行事が行われる。集落という共同体で祭りや米の収穫を作業で行うのはその土地を繋いでいくため。遡っていけばそのすべてが命につながっている。

市井の人々の営みを記録してきた8mmフィルムの通底しているのは「生命」なんだとようやく気づくことができたんです。18年前、友人の結婚式のため手にした8mmフィルムに心を動かされながら言葉にならなかった。その時の意味がようやくわかった気がします。

古いものの価値を再評価し、未来のために生かすテクノロジー

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――「地域映画」には学生から年配の方まで様々な人たちが関わっていいますね。

はい。地域のコミュニティの再生を目的に立ち上がった市民団体「まつもとフィルムコモンズ」が中心となり、地域映画づくりを行っています。今は高校生、大学生、社会人から構成され、10代から80代までが参加しています。去年メンバーだった高校生は放送部で、僕らの活動を取材した8分のドキュメンタリー番組を制作し、全国高等学校総合文化祭放送部門VM部門にて文部科学大臣賞を受賞しました。地元の信州大学では、授業を受け持っている人文学部で学生ボランティアを募り、有志でコモンズの活動に参加してもらっています。今回は大学生が主にインタビューを担当しました。地元の方から預かったフィルムをデジタル化し、それを元に、取材用の上映素材をまとめる仮編集を行います。取材時にはインタビューは学生が担当し、僕はその様子を撮ります。その後、インタビューの言葉選びやシーンのセレクトを学生が考え、映画の軸にしていきます。最終ジャッジは監督の僕がしますが、ブラッシュアップの段階で学生たちが尽力しています。

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――小学校でワークショップも実施されていますね。

松本の梓川小学校5年3組の子どもたちと、総合的な学習の時間を使った約1年のプログラムを実行しました。最初に「地域映画」をはじめるにあたり「自分たちが住んでいる土地のフィルムを探してきてください」といったら、お母さんと一緒に近隣の家にピンポンして探してまわり「3軒目で見つかりました!」(笑)。チラシやSNSを通じてフィルムを集めていた僕らの想像を軽く飛び越えた探し方をしてくれて嬉しかったです。そうやって自分の足で見つけた体験は、本人も大事にしていくし、地域の人たちとの関わりから、そこで生きている意味を感じ取っていくのだと思います。去年行った梓川の上映会では、見にきてくれたみなさんが感動して言葉を詰まらせて、中には嗚咽する方もいらっしゃいました。地域の人たちの心に入り込み、心をふるわせたという体験は子どもたちにとって大きな出来事であり、自信につながっていくんだと思います。

――「地域映画」は世代間交流と文化継承の場。<INTER BEE CINEMA>も映像制作者のコミュニケーションハブになることを目指しています。最後にご意見をお聞かせください。

技術的なところでいうと、映像機器や技術は右肩上がりにどんどん発展し、刷新されていきますが、今一度、古いものの価値を見直す必要を強く感じています。

8mmフィルムはもちろん、VHSやHi8、miniDVなど、かつてどこにでもあった再生機器はどれも現在生産されていません。時代と共に新しい技術、新しいフォーマットができていくのは自然の摂理でもあるのでそれはそれでいいのですが、生み出した技術を使い捨てにするのではなく、記録されたものを継承し続けていくための技術が必要だと感じます。
価値に見合った装置がない現状で、本当にいいのでしょうか。技術は、新しいものだけを開発できればいいのでしょうか。古いものはかつての最先端です。それを更新して消費し続けていくだけではなく、今こそ、古いものの価値を再評価し、未来を豊かにするために過去を生かすテクノロジーを再考するタイミングではないでしょうか。過去の記録を救い出し活かしていくのは、すでに待ったなしの状況です。

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