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Special 2021.08.02 UP

【Inter BEE CURATION】若者に広がるコンテンツファンの発信活動研究(その3)~コンテンツを盛り上げる”ファンというメディア”~

正岡 友希 / VRダイジェスト+

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、ビデオリサーチ社の協力により「VRダイジェストプラス」から転載しています。若者の間で、コンテンツとファンの関係が急速に変化しています。「推し」の言葉に象徴されるように、気に入ったコンテンツを自分のものとして能動的に発信するいまのファンの姿をレポートした記事です。

「若者におけるコンテンツのファンの発信活動についての実態研究」についての第3回になります。

前回の記事では、ファンによる「発信」について実際の事例をもとに実態を深堀りしました。その結果、ファンの発信活動は"オリジナル"のコンテンツに貢献し、またファンにとってもさまざまなベネフィットがあることがわかりました。第3回(最終回)の今回は、コンテンツホルダーはファン活動をどのようにとらえて、何をすればいいのかを考えていきたいと思います。

ファンとは"メディア"である

コンテンツの視点から改めてファンの発信活動を考えてみると、「認知経路」「興味関心のきっかけ」「消費行動の起点」になり得るファンの発信は、コンテンツを広く世の中に広めてくれる"メディア"のような役割を持っていることがわかります。つまり、現代のコンテンツファンとは、ひとりひとりが、自主的にコンテンツの魅力を発信(宣伝)してくれる、"コンテンツ応援メディア"ともいえるでしょう。

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"コンテンツ応援メディア"であるファンの発信には、大きく2つのメリットがあります。一つ目は、リーチが広く獲得できるという点です。公式=コンテンツホルダーが発信するものに比べ、YouTubeやSNSにアップロードされるファン発信の創作物(動画、画像、写真、文章やファンアート・二次創作など)は種類も量も多いため、「たまたまコンテンツと出会う」といった確率が高くなります。加えて、コンテンツの楽しみ方をより深く知るきっかけがたくさんあることで、「ちょっと気になっている」レベルのライト層をコアなファンに成長させることもできるでしょう。

2つ目のメリットは、ファンのニーズにフィットしているという点です。ファンは好きだからこそのコンテンツの魅力や、どんなものがファンを喜ばせるのかを非常によく理解しています。その「ファン目線」だからこそ、そのコンテンツの魅力をより強くアピールすることができるのではないでしょうか。

このようにファンの発信は、ファンでない人たちやファン予備軍へのアプローチ力が強い"メディア"となります。コンテンツホルダーは、そんな"メディアでもあるファンたち"の発信活動を活性化させることで、コンテンツの魅力をより深く、より広く知ってもらうことができるのではないでしょうか。

ファンの発信活動の阻害要因

ファンの発信活動において、ファン活動は"自主的"に、"自然発生的"に行われることが重要だと考えられます。強制されて発信するのではなく、自分が好きなものを好きなように、自由に発信できるからこそ、ファンは発信することに楽しさを感じ、さらに第2回でも言及したさまざまなベネフィットを得ることで、発信活動が広がっていくのです。つまり重要なのは、ファン=コンテンツ発信メディアの自主性を阻害しないことだといえます。

ファンの視点に立つと、ファンの発信活動の阻害となる要因は、「コンテンツの権利問題」、「素材不足」、そして「承認・貢献欲求の否定」の大きく3つがあると考えられます。

まず、「コンテンツの権利問題」は、そもそものコンテンツの著作権・肖像権などの権利の問題です。コンテンツビジネスにおいてコンテンツは"守る"べきものであり、コンテンツホルダーにとっては、抱えるコンテンツを利用した画像や音声、動画などの発信は権利侵害とみなされます。ファンが良かれと思って発信しても、下手するとそれは"ビジネスを邪魔するもの"としてコンテンツの敵とされてしまいます。そうすると、ファンのあいだでは、発信したいけれど躊躇してしまうということも多く起こります。

二つ目の阻害要因の「素材不足」は、ファンが発信・創作活動を行う際の材料が足りないという問題です。そもそもネット上に画像や音声、動画などが少ないコンテンツもあり、たとえ上記の権利問題がクリアになったとしても、発信・創作活動をするための十分な素材が無いという場合もあります。

最後に、「承認・貢献欲求の否定」は、公式がファンの発信活動を認めないという問題です。「権利問題」でも触れたように、コンテンツホルダーにとっては、ファンの発信・創作活動は権利侵害にあたり、ファンの発信を公式に認めるわけにはいかない場合も多いでしょう。しかしながら、第2回で言及したように発信・創作活動は、ファンにとってコンテンツへの貢献欲求や誰かに評価されたいという承認欲求を満たすというベネフィットをもたらしています。つまり公式側がファンの発信活動を認めたうえでコメントや評価をすれば、これは承認・貢献欲求を持つファンにとって、非常にモチベーションとなるといえるでしょう。

以上の3つが発信・創作活動の阻害要因となっているといえます。 特に、一つ目の「権利問題」が根幹にある大きな問題であるといえます。この部分の課題が緩和されると、連動して他の2つの課題も解決の方向に向かうと考えられます。

ファンの発信活動を活性化するために

では、ファンの発信活動を活性化するために、コンテンツホルダー(公式)はどのようなことができるでしょうか。

前述したように、まずは根幹の課題である著作権や肖像権について対応し、それに伴って、素材や承認・貢献欲求を満たすような動きができると、ファンは喜び、ファンによる発信活動は活性化するのではないかと考えられます。

阻害要因の具体的な解決策は、例えば、それぞれ以下のようなものが考えられます。

① コンテンツの権利についてルールの明確化
現状、ファンの発信物は著作権や肖像権を侵すものとして、その全般がNGとされていますが、何もかもダメとするのではなく、ガイドラインを設定し、コンテンツの権利範囲と発信の際のルールを明確化することが重要だといえます。こうすることで、コンテンツホルダーはコンテンツを一定のルールで守ることができます。さらに、ファンにとってはルールにのっとって発信活動することで、自分たちの発信がグレーゾーンや違法状態から抜け出せ、大手を振ってコンテンツにまつわる発信活動を楽しむことができるでしょう。

② 素材の利用許諾や配布
前段のガイドラインにのっとって、素材の利用許諾や配布を行います。こうすることで、発信活動をするファンにとっては素材がさまざまにあることで創作活動の幅が広がりますし、さらには発信活動をしないファンにとっても、新たな画像、音声、映像は素材自体をコンテンツとして楽しむこともできます。

③ 公式からの反応・コミュニケーション
阻害要因のパートでも言及したように、公式やコンテンツ自体(例えばアイドル)からの反応や謝意の表明、コミュニケーションの実施が大事だと考えられます。発信活動をするファンにとっては、公式から何かしらの反応があることで自分が好きなコンテンツに貢献している、認めてもらえた、という大きな満足感が得られ、さらなる発信・創作活動意欲を盛り上げることとなるでしょう。また、今まで発信活動をしてこなかったファンも、「自分も好きなものに認められたい」という気持ちになり、新たな発信活動ファンが生み出されると考えられます。

上記のように、コンテンツホルダーはあくまでファンの自主性を損なわないレベルで、ファンというメディアを活性化させることがこれからの時代には大事だと考えられます。

おわりに コンテンツを中心としたコミュニティを活性化してwin-winに

昨今、コンテンツを盛り上げていくうえで、コンテンツを中心としたコミュニティの重要性が指摘されています。コンテンツを核としたコミュニティは、"ファンというメディア"による自主的な発信と、そこを起点としたコミュニケーションやつながりによって大きくなっていきます。

コンテンツホルダーは、"ファンというメディア"を活性化させて、コミュニティをより大きくしていくことによって、コンテンツを盛り上げていくことができるとわれわれ若者研究チームは考えています。これはファンにとっても、好きなコンテンツがさらに盛り上がることで、もっと多くの楽しい体験・うれしい体験をすることにもつながります。ここに、ファンとコンテンツホルダーのwin-winな関係が築けるわけです。

今回の研究成果を、コンテンツを盛り上げるためのヒントにしていただければ幸いです。

※「VRダイジェストプラス」での本記事は下の「関連URL」からお読みいただけます。シリーズ記事の1と2も併せてぜひお読みください。

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