Inter BEE 2024 幕張メッセ:11月13日(水)~15日(金)

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Special 2023.04.27 UP

【Inter BEE CURATION】サイバーエージェント・藤田晋社長に聞く、広告の今。「2022年 日本の広告費」特別対談

WEB電通報

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サイバーエージェント 藤田晋社長(左)、電通 奥律哉

※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、WEB電通報に4月11日に掲載されたサイバーエージェント 藤田晋社長と電通 奥律哉氏との対談で、2月に発表された「2022年 日本の広告費」を受けての議論をまとめたものです。

伸長を続けるインターネット広告だが、核となる広告モデルは?

奥:2022年日本の広告費は、7兆円を超えて過去最高となりました。コロナ禍による2020年と21年の落ち込みを克服して、再び成長軌道に乗っているといえます。この結果を藤田さんはどうご覧になりますか?

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藤田:ちょっと意外な気がしますね。2022年は、まだコロナ禍が落ち着いていなかったうえ、世界情勢が不安定だったり、アメリカの利上げがあったり、日本でも円安やエネルギー価格の高騰による物価上昇があって、景気があまりよくないと感じていました。

奥:日本の広告費を押し上げた大きな要因は、やはりインターネット広告費の伸長です。ここ数年を見ると、まず2019年にインターネット広告費がテレビメディアの広告費を上回りました。2021年は、インターネット広告費がマスコミ四媒体広告費の総計を上回りました。そして2022年はインターネット広告費が3兆円を超えて、広告費全体の43.5%を占めるまでになりました。

日本の広告費が7兆円を超えたのは2007年以来ですが、その内訳は大きく変わり、インターネット広告費の存在が際立っていることがわかります。

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藤田:この数年で一気に社会全体のDXが進んだ印象はあります。ただ、インターネット広告費が伸びているといっても、例えばテレビCMや新聞の一面広告のように、はっきりと効果が高い広告枠が確立されているわけではないんですよね。

インターネットは市場のポートフォリオがめまぐるしく変化していて、核となる広告モデルがないまま伸長し続けている印象です。もちろん、生活者のメディア接触時間を見ると、インターネットに触れている時間が大半になってきていると思うので、総体として伸びていく確信はあるのですが。

奥:インターネットでも、マスメディアに近い形式である予約型広告などは枠がはっきりしています。しかし、実際に伸びているのは運用型広告であり、検索連動型広告ですからね。そういう意味では、従来よりも直観的に実態の理解がしにくい中で、大きな伸長が続いているとはいえそうです。

今後を占ううえで、一つの指針となるのがティーンエイジャーのメディア接触です。コロナ禍の中でもメディア環境は大きく変動していました。若年層の視聴行動をどう捉えていますか?

藤田:やはり若年層はYouTubeやTikTokなどの動画サービスを一番見ている印象があります。これが先行指標かもしれなくて、例えば中高年の方は、子どもの頃にテレビをよく見ていて、いまでもテレビを見ていますよね。そう考えるとなんとなく30年後が見える感じがします。インターネットというものが文字から動画ベースに大きくシフトして、昔ならブロガーが一番影響力を持っていましたが、今はYouTuberが大きな力を持っていますからね。

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「コネクテッドTV」普及にインターネット広告の新たな可能性を見る

奥:メディア環境の大きな変化の一つとして、インターネット接続されたテレビ受像機、いわゆるコネクテッドTVの利用者が大幅に増えたことが挙げられます。藤田さんもご自宅で利用されていますか?

藤田:はい。うちは妻も子どももそれぞれスマホで好きなコンテンツを見ているんですが、食事中はスマホを見るのをやめて、みんなでテレビを見ようということになりました。「テレビはいいの?」と子どもに言われましたが、テレビはみんなで見て同じ時間を共有するのだから、いいかなと。

奥:昔からテレビはお茶の間にあって、夕食時などはみんなで同じコンテンツを見て楽しむ習慣がありました。それがいまはインターネットにつながって、ネットの動画コンテンツを55インチサイズの大画面で見られる時代になりましたね。コネクテッドTVの広告効果についてはどうお考えですか?

藤田:以前、ダイニングでテレビを見ていた時、うちのグループ会社のゲームのCMが流れていたことがあったんです。ああ、地上波に広告を出しているんだと思って見ていたんですが、よく見たらABEMAだったんです。

奥:たしかに、コネクテッドTVでは自分が「どっち」を見ているのか、すぐには分からないことがありますよね。

藤田:そのとき初めて、「地上波広告と近しい価値を作れる可能性が出てきたかな」と思いました。

奥:大きなテレビ画面をみんなで見る「共視聴」が作れると、ブランドリフト効果が大きいですよね。2022年にABEMAで配信された「THE MATCH 2022」(那須川天心選手 VS. 武尊選手)は、PPV大会を視聴するチケットの券売が50万を突破したのですが、ビデオリサーチの調査によるとコネクテッドTVから全国でおよそ100万人が視聴したという結果が出ました(※)。つまり、テレビの前に約2人いることになります。スマホのように1人1台ではないので、1台のテレビ画面を複数人で見ることは、インターネット広告としては非常にインプレッションが高いということになります。

※PPV(pay-per-view)=1番組単位で課金することで、スポーツのライブ配信などを見られるサービス。


藤田:PPVは有料なので、何人かで見た方がいいというのもあるかもしれませんね。

奥:そして動画コンテンツは大きな画面で見た方が良いという意味で、大きなスクリーンへの再評価があるのかなと思います。

藤田:ただ、ちょっと意外だと感じることもあります。FIFA ワールドカップ カタール 2022(以下、ワールドカップ)をABEMAで配信するにあたって、視聴者は大画面の美しい映像でプレーを見たいだろうと、映像のクオリティに非常にこだわりました。やっぱり大画面で見た方が楽しいし、スマホで見るよりも疲れないと思うんです。

しかし蓋を開けてみると、予想より多くの視聴者がスマホで見ていたんです。あんなに広いフィールドにいる選手は、テレビで見ても小さく見えることがあるのに、テレビよりはるかに小さなスマホの画面で見る人が多いことが意外でした。

奥:自分のテレビ受像機でネットの動画配信を見られるという感覚が、まだそんなに浸透していないのでしょうか?

藤田:そうかもしれませんが、昔のことをちょっと思い出しました。ガラケーの時代にiモードが登場した時、画質は悪いし、画面も小さいから、ショッピングサイトなんてそんなに使われないだろうと思ったんですよ。でも実際には、すごく商品が売れて事業が伸びました。小さな画面が好きな人というのは意外にマジョリティーなんだと、今回再認識させられました。

もう一つ、コネクテッドTVの普及の壁は、「面倒くささ」にあるかもしれません。Fire TV、Chromecast、Apple TVといったセットトップボックスがあれば、ネット接続されたテレビ受像機ですぐにいろんな動画配信サービスを楽しめるんですが、使わない人はそもそもあまり興味を持たない。でも、最初からテレビのリモコンに「ABEMAボタン」が付いていれば、見てくれるんです。これはリテラシーというより、「面倒」ということが大きいと思います。

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ABEMA×サッカーワールドカップで見えたライブ配信時代の未来

奥:2022年は、サッカーのワールドカップが、ABEMAで全64試合無料配信されたことも大きなニュースになりました。インターネットメディアの歴史に大きな足跡を刻みましたよね。藤田さんやABEMAスタッフの志に感服しました。

藤田:ワールドカップの配信は我々にとって非常に大きなチャレンジでした。この取り組みは、ABEMAがメディアとして確立するための大きな契機になったと実感しています。

奥:全試合生中継に加えて、見逃し配信でフルタイム視聴もできるし、ハイライトを見ることもできる。しかもコネクテッドTVなら、リモコンの十字キーで、見たいコンテンツを簡単に選択できます。ABEMAがワールドカップを配信したことが、「コネクテッドTVでインターネットのコンテンツを楽しむ習慣」をつくるきっかけにもなったと思います。

藤田:ありがとうございます。特にABEMAはマルチデバイスで見られるので、場所も時間を選ばないという点は、大変評価してもらいました。とはいえ、「ライブ配信」「見逃し配信」「ハイライト」「マルチアングル」といった機能は、今回のために準備したわけではなく、以前からしっかりと時間をかけて揃えていたものです。それらの機能を、ワールドカップをきっかけに、多くの視聴者に伝えられたことが大きな収穫でしたね。

奥:今回のワールドカップは、多くの試合が日本時間で深夜から明け方にかけて行われました。そこでいろいろなデータを見ると、ティーンエイジャーやM1(男性20歳~34歳)、M2(男性35歳~49歳)という、男性を中心とした若い人に非常に親しまれたと感じています。

藤田:はい、M1がいちばん伸びましたね。ABEMAの視聴者が増えた要因としては、テレビ朝日の協力体制と本田(圭佑)さんの解説も大きかった。地上波のワイドショーでも本田さんの解説を話題にしてくれたので、試合を重ねるごとに視聴者数が伸びていきました。本田さんご自身は、解説がこんなに受けるとは思っていなかったようですが(笑)。

奥:本田さんの解説を聞きたくてABEMAを選んだ方も多かったようです。解説に加えて、複数のカメラ映像から好きなアングルを選べるマルチアングル映像で、選手のプレーを見ることもできました。

藤田:ただ、その一方で、現時点での限界も見えました。一つは地上波放送よりも遅延してしまう問題です。これは視聴者それぞれのネット環境にも依存するので、完璧に解消することはできません。もう一つはABEMAへの「入場制限」です。ABEMAへのアクセスが集中して、視聴者全員に安定した配信をお届けできないと判断し、日本対クロアチア戦で実施したわけですが、もしも日本代表が勝ち上がってブラジル戦が実現していたら、さらなる入場制限が必要でした。

奥:一度配信から離れると、それまで見られていた場合でも入場制限がかかってしまう可能性もありましたね。

藤田:それがあまりにも多いと、体験としては良くないですよね。そしてこれはABEMA側でサーバーを増強すれば済む問題ではなくて、ISP(インターネットサービスプロパイダ)側の限界もあるので、我々がどうにかすることはできないんです。ここはまだ課題があります。

奥:なるほど。それでも、インターネットの変遷を長く見てきた私としては、インターネットメディアがここまで来たかというのは感慨深いものでした。

藤田:それはたしかにありますね。インターネットというものが、チャットや掲示板のような文字ベースのものだったところから、ブロードバンドができて、スマホが普及して、デバイスがスタイリッシュになって、いまに至ったわけですが、スマホでサッカーのライブ配信を見られるような状況ができたのは、実はかなり最近の話です。

奥:まさに、インターネットメディアの新しい時代を切り拓いていると感じます。

藤田:ワールドカップを配信したことで、ABEMAにいろいろなメジャーコンテンツが持ち込まれるようになりましたし、出演を希望する方も増えました。視聴者の信頼感や好感度もアップしましたし、さまざまな効果を感じています。

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広告モデルの確立には「受け身視聴」の実現が不可欠

奥:ワールドカップの配信では、リアルタイム視聴とオンデマンド視聴(※)の割合が、56対44だったそうですね。思ったよりもオンデマンドが多いのは、見逃し配信や、裏カードを見たい人が多かったのでしょうか?

※オンデマンド視聴=視聴者が見たいコンテンツを見たい時間に最初から見ることができる視聴スタイル。見逃し配信のほか、有料の動画配信サービスにおける映画やドラマなども該当する。


藤田:通常、スポーツや競技系のコンテンツはもっとリアルタイム視聴が多くなるんですが、半分近くがオンデマンドというのも意外でしたね。多分、ワールドカップについては、日本時間で深夜から早朝にかけての試合が多かったのもあるのではないでしょうか。

奥:放送時間帯のこともあり、テレビの視聴率はそこまで伸びなかったのですが、ABEMAではスペイン戦があった2022年12月2日の視聴者数が1700万人と、大きなギャップがありましたね。スマホ視聴が多かったという話と合わせると、寝床で見ていた人も多いのかなと思えます(笑)。

藤田:試合の展開次第ではすぐ寝ようと思って見ていたってことですよね(笑)。

奥:1700万人という数字はやはり驚きです。また、2023年3月8日に行われた、藤井聡太竜王と広瀬章人八段の将棋A級順位戦プレーオフの配信は、視聴者が400万人を超えたそうですね。

藤田:将棋を見るならABEMAという感じになってきていて、大きな対局があると多くの人が集まってくれます。サッカーと違い、将棋は画面の変化が少なくて、30分間で一手も指さないなんてことはよくありますね。その間にも、ああでもないこうでもないと解説をしているので、視聴のやめどきがないんですよ(笑)。

奥:ワールドカップで増えたユーザーがその他のコンテンツにも興味を持ったのか、ABEMA内の各コンテンツで視聴者が増えていると伺っています。

藤田:やはりM1層がたくさん残ってくれたのか、将棋や格闘技やアニメといったジャンルが伸びていますね。将棋がそうなんですが、「このジャンルといえばABEMA」というものがあれば、非常にメディアとしての価値が高くなります。

奥:他にも、ABEMAの代表的なコンテンツといえばニュースチャンネルです。時間に制限なく、記者会見は全部流すということを必ずやっていますね。

藤田:僕はメディアの「軸」はニュースだと考えているんです。日々新しいものに取り組めるのも、軸があってこそだなと。何か事件や大きな出来事が起こったら「ABEMAでやってるかな」と見に来る習慣をつくってもらうには、見に来てくれた人のために、ニュースチャンネルは常時、必ずやっていないといけないと考えています。

奥:一方で、ABEMAプレミアムという有料サービス向けの映画やドラマといったコンテンツも充実しています。ABEMAにおける無料モデルと有料モデルの考え方をお聞かせください。

藤田:ABEMAの基本はあくまでも無料配信で、広告で収益を上げるモデルです。ただ、テレビの歴史を振り返ると、ビデオが登場して予約録画で視聴するようになると広告がスキップされる課題を抱えるようになりました。そのことが頭にあったので、サブスクリプションモデルのABEMAプレミアムという有料サービスをつくっているんです。このほか、スポーツなどのPPVは有料でリアルタイム配信しています。

奥:ワールドカップ以降、メディアとしての価値が高まっている今、無料の広告モデルの展望はいかがでしょうか。

藤田:僕はABEMAを作ったときから、「受け身視聴」にすごくこだわってきました。見たいコンテンツを能動的に選んでオンデマンド視聴するスタイルでは、CMは見てもらえないんです。しかし、インターネットが基本的に能動的なものなので、「受け身」のポイントを作るのは思った以上に難しい。ABEMAにかぎらずインターネットメディアは、ユーザーに嫌われず広告を入れ込む理想の形はまだ模索中です。

奥:最初にお話されていた、「核」となる広告モデルですね。それでも、ABEMAについて感じることは、リアルタイムのライブ配信と、それをアーカイブしたオンデマンドを行き来する導線がすごくうまく作られているなということです。

藤田:そこは工夫しています。とはいえ利便性を向上させて、追っかけ再生やオンデマンド視聴がしやすくなるほどに、コンテンツをぼーっと見る時間、つまり「受け身」の時間が少なくなってくるジレンマがあるんですね。もっと受け身視聴される形を、引き続き模索していく必要があります。

奥:先ほどの、「コネクテッドTVでABEMAの動画広告を見ていたことに気づかなかった」というお話に、私も可能性を感じます。インターネットの世界で日々新しいことに挑戦されているABEMAに、これからも期待しています。本日はありがとうございました。

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