ディズニー、ILMシンガポールのスタジオ閉鎖を決定
鍋 潤太郎 / Inter BEEニュースセンター
ハリウッドの各メディアが報じたところによると、ディズニーは傘下のルーカスフィルム/ILMの海外拠点の1つであるILMシンガポールを閉鎖する事を発表した。このニュースは、まず最初にVariety誌が報道し、それに追従する形で各メディアが相次いで報じた。
このニュース自体は、既に日本でも報道されており、おそらくご存知の方も多い事だろう。ここでは、筆者独自の切り口から、今回の出来事をレポートしてみる事にしよう。
ILM(インダストリアル・ライト&マジック)はディズニー傘下のVFXスタジオであり、本社はサンフランシスコにある。サンフランシスコ以外にも海外に制作拠点を持ち、これまでにシンガポール(2006~2023)、バンクーバー(2012~)、ロンドン(2014~)、シドニー(2019~)、そしてインドのムンバイ(2022~)という世界6か所にスタジオを構えている。
今回閉鎖されるILMシンガポールは、元々はルーカスフィルム・アニメーション・シンガポールとして2005年の10月27日に設立され、2006年にスタジオをオープン。テレビシリーズ&劇場映画版の『The Clone Wars(クローン戦争)』等が制作されていた。その後、並行してILMシンガポールとして、ハリウッド映画のVFXが制作されるようになった経緯がある。
この当時、シンガポール政府はハリウッドのVFXスタジオやプロジェクト誘致に力を注いており、SIGGRAPHの機器展でも「シンガポール・ブース」を構えていた程であった。同スタジオはこれに乗る形でオープンし、ルーカスフィルムがアメリカ国外、そしてサンフランシスコ以外に開設した初めてのサテライト・スタジオでもあった。
ちなみに、2010年に筆者はVESサミット(VES主催)を取材していた。当時はVFXプロジェクトがアメリカ西海岸からロンドンへと流出している事態が深刻な懸念事項となっており、それに関連するパネル・ディスカッションが行われていた。その際、ILMが第2拠点となるサテライト・スタジオの場所としてシンガポールを選んだ理由について「住むのにアトラクティブな場所であり、コストが高くない所だからだ。決して『世界で一番安い場所』を探して選んだ訳ではない。」というコメントを述べていたのが印象に残っている。
シンガポールでは、実はILM以外にもDNEGが2009年にシンガポールにスタジオを構えていたが、2016年に撤退している。それに続く今回のILMの撤退を鑑みると、シンガポールでのVFXサテライト・スタジオの運営は、カナダなどの他の国や地域と比較すると、もはや税制優遇上のメリットが薄れてきているという事が容易に推察出来る。
ディズニーでは、昨年11月のボブ・アイガーCEOの就任以降、今年2月頃から全社レベルで大規模なレイオフや組織改編を推し進めており、今回の閉鎖もその一環である可能性が高い。米報道によれば、ILMシンガポールでは300人以上のクルーが勤務しているが、希望者にはILMの他の拠点への異動や、シンガポール国内での就職斡旋やサポートなどが実施される予定であるという。