Inter BEE 2024 幕張メッセ:11月13日(水)~15日(金)

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Special 2024.05.20 UP

【Inter BEE CURATION】さよならMIPTV 欧米大手に翻弄された見本市

稲木せつ子 GALAC

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※INTER BEE CURATIONは様々なメディアとの提携により、Inter BEEボードメンバーが注目すべき記事をセレクトして転載するものです。本記事は、放送批評懇談会発行の月刊誌「GALAC」2024年6月号からの転載です。

61年続いた国際テレビ番組見本市

国際テレビ番組見本市として世界で最も伝統(*1)があるMIPTVが、今年4月10日、華々しい歴史とともに幕を閉じた。仏カンヌの見本市との付き合いが長い人ほど自らの仕事人生と重ね合わせ、あっけない幕引きを惜しんでいる。

 その一人が韓国で日本コンテンツをいち早く広めたSBSメディアグループのクォン・ホジン氏だ。コンテンツビジネスに30年以上携わる同氏がカンヌ通いを始めた1990年代の前半はアジア発では日本のアニメが圧巻の存在だった。「日本のやり方を勉強しながら、独自の人脈をMIPTVなどで広げてゆき、Kコンテンツを世界に広めることができた」と目を細めながら語るクォン氏は、数多くの成功物語を生み出した同イベントの終了を心から残念がった。

 ただ、常連はMIPTVがコロナ禍前から集客力を失っていたことを肌で感じていた。ピークは2007年の1万3300人。以降18年まで1万人台を維持したが、コロナ明けのリアル開催となった23年には5600人に激減。今年は前年より展示スペースが3割ほど削減され、参加者も4割減の3537人にとどまった。これは、3月に北仏のリールで開催されたドラマフェスティバル(シリーズ・マニア)の見本市イベントの参加者数を下回る。歴史あるイベントの終焉で感じたのは、「1年前に撤退を決断すべきだったのでは」というアイロニーだ。

 秋の国際コンテンツ見本市(MIPCOM)の開催は継続されるなか、MIPTVだけ終了するのは、「テレビ時代の終わり」のような印象を与えるが、その背景には、放送局を含めたクリエイティブ業界の産業構造の変化があった。

 欧州では10年ほど前から米大手のSVODが急速に勢力を伸ばし、主要国でハイエンド番組の需要と受注競争が高まり、人材の囲い込みやコンテンツ制作業界の統合に繋がっている。

 同様の変化は放送局にもあり、英公共放送のBBCや英仏の最大手民放(ITVやTF1)は制作部門を分離してハリウッド式のスタジオ体制を作り、国内外の制作会社を吸収合併して強力なプレーヤーとなっている。影響力を強める制作会社や放送局のスタジオ部門の行動がMIPTVを終わらせる引き金となった。

 コロナ禍が続く21年2月に、ロンドンに拠点を持つ大手制作会社4社とITVスタジオが、共同でオンライン試写会(ロンドンTVスクリーニングス=LTS)を実施した。BBCスタジオが開く番組販売向け試写会の翌日から5日間日替わりで5社の新作を披露。MIPTVより2カ月早く、自社コンテンツをじっくりと紹介できるメリットは大きい。翌年には仏有料テレビ・カナルプリュス系のスタジオカナルら7社が合流。瞬く間に規模拡大し(*2)、大手制作会社らがこぞって参加したいイベントに成長した。今年は総勢29社で、バイヤーは世界各地から750人(MIPTVは1100人)が参加した。

 LTSで試写会をする社の多くはロンドンに拠点か支社があり、LTSで作品紹介するほうが経費節約できる可能性がある。それもあってか多くの会社がMIPTVへの出展を手控えるようになった。欧州メディア業界は、どこもウクライナ戦争による不況やインフレに苦しんでおり、2月に質の良いバイヤーが集まるLTSへの投資を優先させた格好だ。同じく、バイヤー側も時間と経費節約のために参加イベントを選択するようになっている。

苦肉の策、MIPロンドンの誕生

 主催者トップのルーシー・スミス氏は、「業界の統合と予算の削減が参加者数に影響を与え続けた」と述べ、MIPTVの終了を決定した事情を説明した。そのうえで同氏は、上半期に見本市を開く需要は強くあるとし、急成長しているLTSを補完するイベント(MIPロンドン)を立ち上げると宣言。LTSの試写会会場から徒歩10分圏内にある高級ホテルと隣接するイベント施設を会場用に確保して、MIPロンドンの参加企業が独自の試写会やネットワーキングイベントを開催できるようにした。また、バイヤーは無料招待するので、軽食やネット環境が整っているMIPロンドンの会場でくつろぎながら有料参加者とネットワーキングや商談をしてもらいたいとのことだ。

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MIPロンドンについて説明する主催者(RXフランス)のルーシー・スミス氏(MIPTV 2024で、最も聴衆が多かった)ⒸMEGRET / IMAGE&CO

 業界誌『ワールド・スクリーン』のダスワニ編集長は、「コンテンツビジネスの重心が北米から欧州、そしてロンドンに移るなか、MIPもそこに行かざるを得なかった」と分析する。

 MIPTVの代替えとして、現地でセールスや共同制作の商談をしたい会社は、欧米大手との共同開発パートナーとしてLTSに参加しないかぎり、有料でMIPロンドンのスペースを借りることになる。ただし、今年のLTS試写スケジュールを見ると、朝から夜9時頃まで予定が重複して埋まっている。ここに招かれているバイヤーが、追加の商談に応じる時間的な余裕があるのかは未知数だ。

 主催者は、データベースから独自にバイヤーをMIPロンドンに招くとしているが、新しい見本市の前提には、欧米大手制作会社のおこぼれにあずかるような状況がある―。

 来春、MIPTVを惜しむ声が高まりそうだ。

*1 マルシェ・インターナショナル・プログラム・テレビジョン(国際TV番組見本市)の略。1963年に仏リヨンで欧州19カ国の公共放送局と制作会社が始め、65年以降はカンヌで開催。
*2 昨年は仏TF1スタジオの配給会社や、ドイツ2大民放と繋がりのある制作会社2社、米NBCユニバーサルなどが加わった。今年は米ディズニーが加わり、欧米、イスラエルから29社が参加。

【ジャーナリストプロフィール】
いなき・せつこ 元日本テレビ、在ウィーンのジャーナリスト。退職後もニュース報道に携わりながら、欧州のテレビやメディア事情などについて発信している。

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【表紙/旬の顔】生見愛瑠
【THE PERSON】田淵俊彦

【特集】“共同制作”新時代
なぜ共同制作なのか、その理念について/天城靱彦
NHK国際共同制作、世界と向き合うために/安田 慎
WOWOW二人のキーパーソンに聞く/鷲尾賀代・太田慎也
フジテレビの米中共同事業/川上義則
放送と配信、理想的な共闘関係のために/前田健太郎
地域密着ドラマで多くの人を幸せに/神道俊浩
高知県の魅力を地元団結で発信/浜田恵秀
民放リレー形式で繋ぐ「ドキュメント九州」/鵜木 健
ケーブルの挑戦、コンテンツは自在/山岸慎治
Tokyo Docsの現在と今後の可能性/三谷実可
海外コンテンツ共同制作がフレネミーを生む/長谷川朋子

【連載】
今月のダラクシー賞/桧山珠美
イチオシ!配信コンテンツ/渡邊 悟
番組制作基礎講座/渡邊 悟
テレビ・ラジオ お助け法律相談所/梅田康宏
報道番組に喝! NEWS WATCHING/高瀬 毅
国際報道CLOSE-UP!/伊藤友治
海外メディア最新事情[ウィーン]/稲木せつ子
GALAC NEWS/砂川浩慶
TV/RADIO/CM BEST&WORST
BOOK REVIEW『トークの教室-「面白いトーク」はどのように生まれるのか-』『ディープ・オキナワ』

【ギャラクシー賞】
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報道活動部門
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